( 'A`)と歯車の都のようです

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:05:31.01 ID:79veDE1r0
黄昏の帳が降り、都全体に夜の賑やかさが広がった。
ネオンの明かり、街灯の明かり、建物から溢れる明かり。
それらの明かりという部分だけを見れば、表社会も裏社会も同じだ。

だが、どんなに表が明るくても路地裏まで届く光はあまりない。
例えば、裏社会の社交場"バーボンハウス"の路地裏は全く光が届かない。
まるで星の光も、月の光もそこを避けているように―――

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:07:11.35 ID:79veDE1r0
その路地裏に、缶が転がる音と、猫の鳴き声が響いた。
湿り気のある音が響いたのはその直後だ。
胸の悪くなる音と共に、内臓を吐き出したかのような猫の鳴き声が聞こえた。

近くを通った車のヘッドライトが、一瞬だけ路地裏を照らし出す。
そこには猫の姿は無く、代わりにグロテスクな肉塊が転がっている。

その肉塊の奥、深淵の闇の中、2人の人間が立っていた。
両者の間に漂う雰囲気は、慣れない者が触れれば一瞬で気を失うほどだ。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:08:15.46 ID:79veDE1r0
闇の中、黒のスーツを着こなしている女が口を開いた。

(*゚-゚)「……様、"ジャンキー"を……させるなど、私は賛成しかねます」

女に話し掛けられたの者は、闇の中に溶け込んでいるかのように姿がよく見えない。

(*゚‐゚)「"ジャンキー"またんき、あいつを近くに寄らせるだけで心臓が止まりかねません」

それでも女は目の前の闇に向かって態度を一切変えず、心配そうな声を上げた。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:09:46.89 ID:79veDE1r0
(  )「まぁそう言うな。
    あまり心配ばかりしていると、せっかく美貌が台無しだ」

それに答えた声は、機械を通して変えられているのだろう、老若男女、喜怒哀楽全てが入り混じったものだった。
女はその声からどんな感情を察したのか、心配そうな声色は変わらない。

(*゚‐゚)「だからといって……」

(*゚‐゚)「わざと"ジャンキー"に自分を襲わせるなど、あまりに危険です」

(  )「そうする事で周囲が、私に疑念を抱きにくくなるのなら安いものだ」

(*゚‐゚)「しかし、それでも……」

(  )「なぁ、しぃよ。
    私はお前を残して死にはしないし、"ジャンキー"になど、殺されないさ」

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:10:58.59 ID:79veDE1r0
しぃと呼ばれた女は、決してそれを受け入れたくないのだろう。
不服そうに目を伏せ、少し潤んだ瞳で闇を見やった。

(*゚‐゚)「…分かりました、今後の指示は?」

(  )「それはな―――」

(*゚‐゚)「分かりました、それが………」

(*゚ー゚)「歯車王様の意志ならば」

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:12:08.55 ID:79veDE1r0
それを告げると、しぃは路地裏を歩き出した。
その歩みには悲壮な決意が込められている。
途中、肉塊を踏み潰したのを気にもせずに歩き続けるしぃを見つめる視線に、しぃが気づいたのだろうか。
路地裏の出口で振り返り、泣きそうな笑顔と共に恭しく頭を下げ、蜃気楼の様に消えた。

(  )「……すまない」

直後、路地裏の闇がゆらりと揺れた。

|::━◎┥

一瞬、金属質の仮面を被った身長2メートル程の、"それ"が見えたかと思うと、"それ"は一瞬で闇に溶け消えた。

"それ"こそが、歯車の都を統べる王、ドクオ達の標的、絶対にして唯一の歯車の王―――

――――歯車王だった――――

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:13:01.02 ID:79veDE1r0
( 'A`)と歯車の都のようです

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:14:23.80 ID:79veDE1r0
煌びやかな商店街の一角に、ひっそりと佇んでいる『バーボンハウス』は、隠れた名店として名を馳せていた。
各界の有名人がお忍びで訪れ、高い評価が得られたのが始まりだ。
店主の人柄もさることながら、店内の雰囲気も非常に良く、置いてある酒の質も高い評価を得ている。

バーボンハウスは時折、貸し切りになる事がある。
その様な時、必ずと言っていいほど店の前には黒塗りの黒が数台停まり、商店街には似つかわしくない"得物"を手にした男達が店外を埋め尽くしていた。
裏社会の社交場としても名を馳せているのには、理由がある。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:16:02.20 ID:79veDE1r0
バーボンハウスの店主、『シャキン』はかつてロマネスク一家のNo2として活躍し、事故で足を負傷するまでは"最高の跡継ぎ"と呼ばれていた。
シャキンの人を引きつけるカリスマ性は、他の組も一目置いているほどだ。

その日、バーボンハウスの前には黒塗りの車が一台も停まっていないにも関わらず、貸し切りの札が入り口に垂れ下がっていた。
代わりに、黒塗りのバイクが一台だけ停まっている。
そのバイクは、スピードを追求する者達の間では高嶺の花である車種だった。
しかも、一目みてそれが徹底的に改造されていると分かる外見をしている。
ガソリンは一切使わず、ニトロを使用して文字通り"爆発的"な速さを実現させた世界初のそれは、戦闘機一機とほぼ同じ金額だ。

そんな高級品に乗って来た者は、バーボンハウスで策謀を巡らせていた。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:17:09.72 ID:79veDE1r0
( ´_ゝ`)「むぅ、やはり当日の天候を考慮して配置は…」

『流石兄者』、流石カルテルの幹部にして、"歯車王暗殺"の参謀役だ。
この日、兄者は暗殺の最終的な打ち合わせの為にバーボンハウスを貸し切った。
普通なら酒やグラスが置かれる小さめの円卓の上には、大きな一枚の地図が広げられている。
それは"ラウンジホテル"を中心とした周囲20キロの詳細な地図だった。

( ´_ゝ`)「狙撃はここ、この地図の端の建物の屋上から行う」

指揮棒のような物で地図の一点を指した兄者に、ツンは複雑そうな表情で口を開いた。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:18:07.47 ID:79veDE1r0
  _,
ξ ゚听)ξ「狙撃に自信はあるのだけれどね、そんな超超超遠距離狙撃が可能な銃はあるのかしら?」

ツンの質問に答えたのは、兄者と共に地図を睨んでいたモララーだった。

( ・∀・)「普通の銃なら無理だ、普通のなら、な」

そう言ってモララーは、ブーンが背負っている棺桶程の箱を机の上に置くよう目で促した。
机が軋む音と共に、机に置かれた箱に一同は注目した。

( ´_ゝ`)「こいつはまだ世界に一丁しかない銃…
     "レールガン"だ」

言い終わる前に兄者は蓋に手をかけ、一気に開いた。
そこには無骨な鉄の棒が幾つも入っている。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:19:02.69 ID:79veDE1r0
"レールガン"、磁力と電力を使用して弾丸を発射する次世代の武器だ(兄者談)。
火薬で発射された弾丸は、内蔵された機構により加速され、更に銃身にも内蔵された同様の機構で加速し、60mm弾を最大で20キロ先の標的に当てる事が可能だ(同者談)。
ただし、余りにも巨大な為に運搬が困難な上、一丁作るのに費用がバカ高いのが欠点だった為、量産は見送られた(同者談)。
  _,
ξ ゚听)ξ「あんた、脳みそに何か沸いてるんじゃない?
       レールガン?
       冗談なんてやってる場合?」

ツンが怒るのも無理はない、リニアモーターですら開発途中なのに、それを銃に装着したと言っているのだ。
出来の悪い冗談としか思えない。
しかし、兄者は真面目な顔であっさりと答えた。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:20:07.99 ID:79veDE1r0
( ´_ゝ`)「ところがぎっちょん!
     現実です!」
  _,
ξ#゚听)ξ「……#」

(;´_ゝ`)「ちょっ…!、やめっ…!
      こら、髪を引っ張るな!
      おいおいおい! 待て待て待て! ビンは危なギャー!」

ツンに空ビンで頭を叩かれ、涙目で抗議する兄者を救ったのは意外な人物だった。
それまで沈黙を守っていたクーの手が、ツンの手を掴んだ。

川 ゚ -゚)「まぁ待て、せめて物を確認してからにしろ」

(;´_ゝ`)「流石っ! クー様っ! ブラボー!」

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:21:13.17 ID:79veDE1r0
兄者はツンから逃げるように、箱から鉄の棒を急いで机の上に取り出す。
それを慣れた手つきで組み合わせ始めた時には、兄者の顔に涙は無かった。
代わりに禍禍しい笑顔を浮かべ、不気味な光を帯びた目が焦点を失ったように忙しく動く。
そして、急に組み合わせていた手が止まった。

( ´_ゝ`)「これが……
      レェェェィルガァァァァァァァァァァンンンンっ!」

叫びながら、兄者は机の上にある"それ"を指差した。
"それ"は形状的には対戦車ライフルに近いのだが、大きさが圧倒的に違う。
銃身の長さは約3メートル、太さは大人の男の二の腕ほどある。
全体的には大人3人を横にしたほどの長さで、台尻を肩に当てるのではなく"乗せる"形にしている。
でないと、反動で肩が外れるからだ。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:22:28.65 ID:79veDE1r0
  _,
ξ ゚听)ξ「あのねぇ…」

それでもツンはしかめた眉を元に戻そうとはしなかった。
逆に、ツンの機嫌は先ほどよりも悪化している。
握りしめた拳が怒りで震え、今なら音の壁を越えたパンチが繰り出せるだろう。
それを知ってか知らずか、兄者は悪戯っぽい笑みを浮かべた。

(*´_ゝ`)「ふふふふふふふふふ。
      余りにも完璧で美しいこのフォルムに惚れるのは分かる。
      なんせこの俺がこれをオカズにナニーができたぐらいだからな」

兄者がかわいらしく舌を出した瞬間、ツンの拳が兄者の顔にめり込んでいた。
誰の同情も得られず、床に突っ伏した兄者を尻目にブーンが口を開いた。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:23:39.54 ID:79veDE1r0
( ^ω^)「一体何が問題なんだお?
      正直、超超超遠距離射撃が可能な銃はこれぐらいしかないお」

ブーンの言っていることは正論だった、しかし、ツンが怒っているのは別の理由だった。

ξ#゚听)ξ「こんな! 重そうな! 銃を! 誰が! 運ぶの!」

それもそうだ、なにせこの銃、兄者が組み立て終わった瞬間に下の机を破壊したのだ。
兄者の絶叫のせいで破壊音は聞こえなかったが、相当な負荷が掛かって破壊した音なのは間違いない。
それを女であるツンが狙撃地点まで運ぶなど、不可能である。
可能なことは可能だろうが、歯車王を殺す前にツンの背骨が折れるだろう。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:25:03.22 ID:79veDE1r0
それに答えたのは、無様に床に突っ伏していた兄者だった。
何故か誇らしそうに胸を張っている。
鼻血を出しながら。

( ´_ゝ`)「今回の作戦、ツーマンセル(二人一組)で行う」

その発言に一番驚いていたのは意外にもブーンだった。
明らか―――、否、露骨と言ってもいいほどの動揺を見せたブーンは、兄者に掴みかかる勢いでまくし立てた。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:26:02.35 ID:79veDE1r0
(;゚ω゚)「じじじ、冗談じゃないお!
     この銃を運ぶ人間と狙撃担当のツンが組むことは必至!
     そしてこの銃を運ぶのは…!」

( ´_ゝ`)「当然、お前だな」

ここまでこの銃を運んで来たのは、運び屋担当であるブーンだ。
つまり、ブーンの言うとおり狙撃担当とブーンが行動を共にするのは至極当然の事だった。

(;゚ω゚)「ブーンは狙撃地点に銃を置いて撤退する手筈じゃなかったのかお!?
    話が違うお!」

( ´_ゝ`)「そうは言うがな…」

わざとらしくため息をつき、レールガンをペチペチと叩く兄者を、ブーンは動揺を隠すことを忘れたように攻め立てる。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:27:03.75 ID:79veDE1r0
(;゚ω゚)「冗談じゃないお!
    これ以上―――あ…」

(;^ω^)「やっぱり問題ないお、いやーツーマンセルなんて久しぶりだお」

急に態度が変わり、滝のような冷や汗を流し始めたブーンは、そのままカウンターに移動していった。
その様子を見届け、兄者は何事の無かったかのように話を始めた。

( ´_ゝ`)「さて、本作戦の割り当てを発表する」

軽く咳をして、兄者は隅の席でフラスクを呷っているヒートを指さし、言った。

( ´_ゝ`)「ヒートとドクオは強襲を担当してもらう。
      無論ヒートがメインで、ドクオはサポートに回ってもらう」

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:28:21.61 ID:79veDE1r0
黙ってフラスクを呷り続けるヒートは、それが無言の同意と言わんばかりに更にフラスクの中身を呷った。
内心では相当びっくりしていたドクオは、顔にそれが出ないように努力し、ヒートの元に歩み寄る。

( 'A`)「…よろしくな」

ノハ ゚听)「よろしく」

無愛想な返事をし、ヒートはドクオなど眼中にないかのように呷り続ける。
その度にジン独特の香りがドクオの鼻に届いた。

( ´_ゝ`)「ブーンとツンの組み合わせはさっきも言ったように、狙撃担当だ。
      異論がなければ友好の証に握手なり、ハグなりキスなりしてくれ。
      おおっと、エッチシーンは今はお預けにしてくれよ?
      それをやられると作品の趣旨が…アウチ!!!」

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:30:02.58 ID:79veDE1r0
カウンター席から飛来したカラ瓶と、ツンの拳が息ぴったりに兄者の顔に命中した。
その内顔面が変形しかねない勢いで責められる兄者は、体が機械か金属でできているのだろうか、何事もなかったかのように立ち上がる。

(*)´_ゝ`)「さて、最後はモララーとクー姉様の強襲だ。
      これは結構重要な役だからよーく聞くように」

( ´_ゝ`)「この役は狙撃と息を合わせる必要がある。
      重火器で攻撃する瞬間と、狙撃の瞬間がピッタリでないと音の関係上失敗する可能性が出てきてしまう。
      そういった点では、襲撃は最重要な役割をしている。

      狙撃と強襲が終わった瞬間、室内に突入、中で動くもの全てを殺してもらう。
      それに必要な武器は全てモララーが用意しているので問題ない」

淡々と、しかしどこか楽しげに作戦を語る兄者に、クーが視線を送っていたことに気づいた者はいなかった。

( ´_ゝ`)「これから作戦の詳細を 俺が! 説明するのでよーく聞け」

周囲が文句や罵倒の言葉を兄者に投げかける中、兄者はアナウンサー並の活舌で話を始めた。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:31:05.28 ID:79veDE1r0
作戦決行は明日の深夜、歯車王が街の重役達との会合のために『ホテル・ニューソク』に来るのを狙う。
『ホテル・ニューソク』は街の中で一番の高級ホテルだ。
各界の要人、著名人が訪れることでも有名だが、そのセキュリティの高さも有名だ。
入口に設けられた金属探知器、及び四人の調査官と警察犬。

死角がないように設置された監視カメラ、更に警備員は全て"機械化"されている。
ちなみに"機械化"とは、人体の一部、またはほとんどを機械化することだ。
室内のガラスは防弾ガラスを二重にしており、普通の銃では傷一つつけられない。
その他様々なセキュリティがあるのだが、不確定要素やまだあるであろうセキュリティの存在のため、説明は省かせてもらう。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:32:04.33 ID:79veDE1r0
その為、内部に潜入するのは二人(ヒートとドクオ)だけで、根本的な殺傷手段は外部からの攻撃だ。
これをしくじると相当まずい、内部のセキュリティを兄者が無効化できるのはせいぜい三分が限界。
それ以上時間がかかるとヒートとドクオに危険が及ぶ。

そして、ツンが20キロの地点から狙撃するのには理由がある。
ニューソクから20キロ地点にある狙撃地点、街で最も高いビル『ラウンジタワー』の屋上からの狙撃は、ニューソク周囲の建物に原因があった。
ニューソク周囲にはビルが乱立していて、隣接する高層ビルからの狙撃は不可能だし、正面に位置する建物は逆に低すぎる。
理想的な狙撃地点がラウンジタワーしかなく、ツンの狙撃の腕が成功の成否を分ける。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:33:14.44 ID:79veDE1r0
( ´_ゝ`)「―――と、これが作戦の全部だ。
      何か質問等は?」

いつの間にかカウンターで酒を飲んでいたツンが、訝しげに兄者を睨み、口を開いた。

ξ ゚听)ξ「話を聞いている限り、私がキーマンなのよね?」

( ´_ゝ`)「ユーアーキーウーマン」

ξ#゚听)ξ「別にいいんだけど、本当にその銃使えるの?」

( ´_ゝ`)「無論、オムロン」

ξ#゚听)ξ「試しにあんたを撃ってもいいかしら?」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:34:20.57 ID:79veDE1r0
( ´_ゝ`)「ヒュー、冗談きついぜガール。
      そんなのをここで撃ってみろ、後ろのビル二つは軽く貫通するぜ?
      …っておいおい、俺にウォッカなんか浴びせて一体…
      へいへいへい、そのジッポライターをどうするつも…

      冗談や洒落の類じゃ済まないって、なぁ、話し合おうって!」

今にも兄者を焼き殺そうとしているツンの手を掴んだのは、それまでシャキンと話していたブーンだった。
掴んだ手とは逆の手で、ウィスキーを舐めるように飲むその仕草は、そのままでいれば絵になるぐらいだ。

( ^ω^)「とりあえず落ち着くお。
      今兄者を殺したら後始末が面倒だお」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:35:11.49 ID:79veDE1r0
(`・ω・´)「私としても店を破壊されるのは勘弁していただきたい。
      どうです? こちらは"アブサン"です、もう手に入らない逸品です」

シャキンの言葉に魅力を感じたのか、ツンは兄者を無視してシャキンから一本のボトルを受け取った。
"アブサン"はヨモギを原料としたリキュールなのだが、依存性があるために製造が禁止された酒だ。
この酒は今では飲むは不可能だ、誰かが隠し持っていない限り。
何億円と積んでも惜しくない逸品を、惜し気もなくツンに差し出すあたり、シャキンの人の良さが分かる。

ξ ゚听)ξ「あら、流石に美味しいわね。
       緑色ってのがまた…」

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:36:08.39 ID:79veDE1r0
そのボトルを横から手に取り、自らのグラスに注いだブーンはツンに向けて挑発的な笑みを浮かべた。
それを受け、ツンも不敵な笑みを浮かべる。

( ^ω^)「このアブサンのアルコールは70度、ショットガンができるのは勇気のある者だけだお」

そういってブーンは手にした小さいグラス―――、ワンショットグラスをクイッと掲げ、ツンの前に差し出した。
そして、ツンも同じ大きさのグラスを同じように掲げる。
そのままグラスを合わせ、一気に口元に運んで、飲み干した。
これがショットガン、ワンショットグラスの中に入れたアルコール度数
が高いものを一気に飲み、先に倒れた方が負け、というものだ。

(`;ω;´)「あああ、アブサンをそんな風に飲まないでくれ!
      最後の一本なんだ、お願いだ!」

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:37:05.39 ID:79veDE1r0
シャキンは泣きながらボトルをひったくり、別の酒を代わりに置いた。
"レモンハート"、爽やかな名前とは裏腹に、相当高いアルコール度数を有する酒だ。
それでも二人はショットガンを止めない、酒の種類など問題ではないのだ、用は度数が高ければ何でもいい。

その様子をぼーっと眺めていたドクオは、ロマネスクの言葉を思い出したいた。

( ФωФ)『お前ら七人のうちの誰かが歯車王の可能性があるんだよ』

この言葉を皆が気にしないようにしているのは、ドクオでも分かることだった。
普通ならこんな会議どころではなく、いぶり出しをするところなのだが、そんなことはモララーがとっくにしていた。
その事を知ったのはあの会合の翌日、つまり今日だ。
先にバーボンハウスに来ていたクー、そしてブーンとドクオだけがこの事を聞いている。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:38:03.98 ID:79veDE1r0
( 'A`)(しかし、いぶり出しの結果―――)

(;'A`)(兄者が最有力候補だとは…)

そう、モララーの出した結論。
それは兄者が歯車王の最有力候補だということだ。

( ・∀・)『あいつ、流石カルテルにいるって言ってたろ?
      ところが、あいつは流石カルテルの幹部でも何でもない。
      それどころか、戸籍情報すらない』

川 ゚ -゚)『戸籍情報が無い? そんなことあるのものか、この街に足を一歩でも踏み入れると否応なしにDNA情報を登録させられる。
     そんなことあるはずが…』

(;^ω^)『歯車王なら、自分の戸籍情報の一つや二つ、簡単に消せるはずだお』

脳内で再生されたその言葉が、後でドクオたちを苦しめるのは、また後の話。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:39:03.34 ID:79veDE1r0


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二話「襲撃と謀略」
 二話イメージ曲「世界を撃て」The Back Horn

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42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:40:03.99 ID:79veDE1r0
翌朝、ドクオとヒートはニューソクの一室で夜の準備をしていた。
歯車王が会合する部屋の真下にその部屋は位置している。
入口から堂々と入り、武器は向い側のビルから特殊な機材で運びいれる算段だ。
ステルス迷彩を装着した箱を部屋に飛ばし入れるだけなのだが、その為の機材(投擲機)はモララーが調達した。

そもそもステルス迷彩は物質を透過させるのではなく、周囲の風景を写し出す薄い布だ。
風景だけでなく、人の顔までも正確に映し出せるため、変装にも使用できるのが最大の特徴ともいえる。
そうこうしているうちに、ドクオの携帯電話が短く二回、振動した。
それは武器の発射準備ができたという合図だ。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:41:10.30 ID:79veDE1r0
すぐさま窓を開け放ち、搬入の準備を整える。
落下予想地点にベッドを移動させ、向かいのビルに向かって手を振る。
何かが風を切る音と共に、ベッドの上に何かが落ちてきた。
親指を上げ、物を受け取ったことを伝えると、ヒートが素早く窓とカーテンを閉める。

( 'A`)「よし、中身を確認しよう」

背後にやってきたヒートに聞こえるように呟き、目の前の空間―――、否、ステルス迷彩に手を掛け、一気にはぎ取った。
そこにあったのは銀色のアタッシュケースだ。
子ども一人が簡単に入りそうなそれを素早く開け、中身を確認した。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:42:03.07 ID:79veDE1r0
ノハ ゚听)「P90(マシンガン)が三丁、山刀が二本、クレイモア(対人地雷)が二つ、手榴弾が五つ、グレネードランチャーが一丁。
      ベレッタが四丁、M63(マシンガン)が一丁。
      これだけあれば戦争ができそうなもんだな」

中身を一目見ただけで全ての武器を言い当てる辺り、ヒートの技量が垣間見える。
ドクオが感嘆の声を上げる中、ヒートは黙々と銃器を手に取り、弾の状態や銃の状態、山刀の刃先を確認し、それらを装備していく。
気がつけばドクオに残されたのはP90一丁とベレッタが二丁、そして手榴弾が一つだけだった。
口が開いたまま固まったドクオに、ヒートが短く告げた。

ノハ ゚听)「お前にはそれでも十分すぎるんだ、文句を言うな!」

まるで軍隊のようなその喝は、ドクオを黙らせるには十分だった。
内心で文句を言いつつも、ドクオも銃を装備し始めた。

――――――――――――――――――――

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:43:28.14 ID:79veDE1r0
正直、ツンはブーンが気に入っていなかった。
初対面の時、いきなり睨みつけてきたり、馬鹿にしてくる人が好ましいと思うような性格はしていなかった。
何よりどこかで会ったかもしれないというモヤモヤが余計気に入らなかった。
それでも仕事の為、ツンはいつも組織内でしているように心を無にするように心掛けることにした。

街一番の高層ビルの屋上まで、エレベーターを使って行くのだが、やはり街一番の高さは伊達ではない。
地上9000メートルの塔の最上階までは200階もある。
しかも、外の景色を堪能してもらうためか、上昇速度が非常に遅い。
屋上までブーンと一緒の密室に二人きりでいるということは、ツンの不快指数を着実に高めていた。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:45:05.47 ID:79veDE1r0
エレベーターに乗ってもう一時間が過ぎようとしているのに、今だに107階というのは遅いにもほどがある。
従業員に怪しまれないように、カップルを装ってエレベーターに乗ったのが失敗だったということに気づいたのはつい五分ほど前のことだ。
変に気を回され、恋人同士ごゆるりと、ということだろう。
ツンが歯を食いしばって落ち着こうとしているのをよそに、ブーンは遠い目で下に広がる街を眺めている。

ξ#゚听)ξ(このデブ、何なのよ?! 格好つけやがって、ファッキン!)

心を無にすることを諦め、ブーンに対する怒りの言葉だけがツンの心を支配していた。
そのことに気づいていないブーンは、街を見下ろし続ける。
蟻のように蠢く人影、ジオラマのように小さくなっていく街並み。
それらはブーンの瞳にどのように映っているのだろうか、ただただ時間だけが過ぎていく。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:47:41.09 ID:79veDE1r0
ツンの堪忍袋の緒が切れそうになったその瞬間、エレベーターが停止し、ドアが開いた。

( ^ω^)「着いたお…って、何怖い顔してるんだお?」

言われて、ツンはガラスに映る自分の顔を見てぎょっとした。
般若のように恐ろしい顔をして、後は角だけというところまで来ている。
ガラスにパンチをし、気を落ち着かせ、振り返った時にはいつもの表情に戻っていた。

ξ ゚听)ξ「さっさと準備しましょ、ぐずぐずしてたら目を抉るわよ」

(;^ω^)「さらりと怖いこと言わないでくれお」

――――――――――――――――――――

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:49:05.06 ID:79veDE1r0
無事ドクオに物を届けたモララーは、懐の懐中時計を手に取り、開いた。
そこには精巧な作りの文字盤と、その周りを短針、長針、そして秒針が回っている。
しばらくすると、そこに別の物が現れた。
懐中時計の内部機構の歯車が透けて見え、やがて一枚の写真が浮かび上がってきた。

そこには笑顔を浮かべる一組の男女が腕を組んでいる。
一人はモララー、そしてもう一人は…

川 ゚ -゚)「おいこら、武器の貯蔵は十分か?」

突然クーに話しかけられ、あわてて懐中時計を閉じたモララーの額には珠のような汗が浮かび上がっている。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:50:15.36 ID:79veDE1r0
(;・∀・)「あ、あぁ…
      そこに箱があるだろ、その中にRPG(対戦車ロケット砲)が二丁と、40mmバルカン砲が一丁入ってる」

川 ゚ -゚)「ところで、兄者はどうしてる?
     歯車王最有力候補のあいつを、一人きりにするのは感心できんな」

( ・∀・)「その辺は抜かりない」

そう言ってモララーはポケットから錠剤を取り出し、それをガリガリと噛み砕きはじめた。

川 ゚ -゚)「薬か。 種類は何だ?」

( ・∀・)「鎮静剤さ。 昔、戦場でちょっとあってな」

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:52:33.60 ID:79veDE1r0
( ・∀・)「兄者の服に少し細工をしておいた」

焦点の合っていない目で、クーを見やり、モララーはそのまま眠りはじめた。

川 ゚ -゚)「…」

その様子をただ眺めていたクーは、モララーから数メートル離れた場所で眠ることにした。
ごろんと寝転がり、空を眺める。
そこには青空の代わりに灰色の空が広がっている。
生まれてから青空を知らずに育った大人が珍しくない時代、都。

クーは生まれてから一度も青空というものを見たことが無かったし、見たいとも思わなかった。
ある事件をきっかけに、全ての楽しみと感情を失ったクーは、たった一つの目的のために生きていた。
それが分かるのはだいぶ後の話。

――――――――――――――――――――

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:53:45.37 ID:79veDE1r0
兄者はニューソク前に停めた黒塗りの車の中、パソコンを黙々と動かしていた。
スモークガラスなので外からは中の様子が分からない。
さらに、車全体にステルス迷彩を施しているため、外部からは一切確認できない。
今は巨大なコンテナに化けているため、人がぶつかっても何の問題もない。

兄者が耳に付けているのは、イヤフォンとマイクがセットになったものだ。
作戦決行時には全員がこれを付け、互いに連絡を取り合う手はずになっている。
ちょっとやそっとの妨害電波ではビクともしない設計がされ、あらゆる種類の作戦で使用が可能だ。

( ´_ゝ`)「もう少し、あともう少しで…」

今はインカムの電源を入れていないため、その声が他人に聞かれる心配はない。
兄者はパソコンを閉じ、目の前の建物を見上げた。
あと十二時間後、全てが始まるのだ。
歯車王の暗殺と、ある者の謀略が―――

――――――――――――――――――――

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:55:08.47 ID:79veDE1r0
深夜、吹き荒ぶ風の音でツンは目を覚ました。
仮眠を取るつもりが、熟睡してしまったらしい。
辺りを見回すツンの横に、望遠鏡を覗き込むブーンの姿があった。
50キロ先の魚の鱗の枚数を数えられる程高性能なそれは、今回の作戦でどうしても必要なものだった。

レールガンに付けられたスコープでは10キロが限界なのだが、ブーンの望遠鏡にその映像が重ねて表示される。
その映像を元にブーンが指示し、細かい照準を合わせる。
二人三脚で呼吸よく行動しなければ、照準はいつまでたっても合わない。
問題があるとすればまさにそれだ。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:56:25.75 ID:79veDE1r0
ξ#゚听)ξ(この豚! 乙女の寝顔を! つーか起こせよ、ファッキン!)

ツンがブーンに合わせる事をどうしてもよく思っておらず、二人三脚どころか、足をひもで結ぶ段階にすら来ていない。
それでもブーンは望遠鏡から目を離そうとはしない。
ふと、ツンが起きたのに気づいたのか、ブーンがツンを見やった。

( ^ω^)「起きたかお? 後十分後に状況を開始するお」

何事もなかったかのように話を続けるブーンは、目でレールガンを差し、準備するように促した。
その時、ツンは初めて自分にかかっていた毛布の存在に気づいた。
自分で掛けた記憶はない、つまりこれを掛けたのは一人しかいない。
その事を思い、ツンは自分の顔が真っ赤になったのに気づいた。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:58:02.65 ID:79veDE1r0
ξ#゚听)ξ(よりにもよってこの豚に! 情けを! ファッキン!)

無言で怒りながら、レールガンの元にうつぶせに寝転がる。
そして台尻を肩に乗せ、グリップを握る。
そのままの体勢でスコープを覗き込み、ニューソクのあるであろう方向に銃口を合わせた。

( ^ω^)「三時の方向に10、二時の方向に3調整」

その指示に従うのは不満だったが、これも仕事と割り切ることにした。
言われたとおりに調整し、指示を待つ。

( ^ω^)「三時の方向に1、十二時の方向に1調整」

再び動かし、待機する。

( ^ω^)「そのままの位置で待機だお。
      後は時間待ちだお」

ξ#゚听)ξ(ダムダムファック!)

状況開始まで、後七分―――

――――――――――――――――――――

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 21:59:21.89 ID:79veDE1r0
ドクオは目の前の光景に言葉を失っていた。
目の前に転がっているのは無残な姿の肉片だ。
かつて、それが生きていた頃の姿を想像しただけで―――

(;'A`)「なぁ、お願いだからもっときれいに食べてくれないか?
    仮にも女が、肉を食い散らかすなんて…」

カート一つ分の夕食をもの凄い勢いで食い散らかすヒートに、ドクオは感嘆の声と、落胆のため息をついた。
ドクオの脳内では、ヒートには実は女の子らしい部分が一片ぐらいあるものとなっていたのだが、現実は甘くなかった。

ノハ ゚听)「くふぇるときにくっふぉけ、ふぉれが…!」

喋るたびに口から肉片を撒き散らすヒートに、ドクオは正直嫌気がさしていた。
腕っ節はいいのかもしれないが、礼儀作法があまりにも無残だ。
生きていた頃はもふもふしていた羊も、今では汚い肉片に成り下がってしまっている。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 22:00:38.07 ID:79veDE1r0
ノハ ゚听)「モヴァヴァノガウママママウヴォア!
     フレッシュミートォォォォォォォ!」

(;'A`)「き、きたねぇ! 俺の顔に肉を撒き散らすな!」

状況開始まで、後三分―――

――――――――――――――――――――

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 22:02:07.51 ID:79veDE1r0
モララーとクーは伏せた体制のまま、目の前の建物を赤外線スコープで覗き見ていた。
二人の間に会話は無く、目線も合わせない。
どこか虚ろな目は、目の前の仕事にだけ向けられたいた。

二人の仕事、それは強襲だ。
ツンの狙撃と同時にRPGを撃ち込み、40mmバルカン砲で斉射。
兄者の提案したこの作戦は、全てがタイミングで繋がっている。

車がニューソク前に停車した音が、二人の思考回路を切り替えた。
車から人影が出てきた瞬間、全員のインカムに兄者の声が届いた。

( ´_ゝ`)『現刻より状況を開始する。
      繰り返す、現刻より状況を開始する。
      歯車王のお出ましだ、紳士淑女諸君、度胸は十分か?』

状況、開始―――

――――――――――――――――――――

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 22:04:13.62 ID:79veDE1r0
ツンは不覚にも、兄者の言葉を聞いた瞬間に汗が吹き出した。
手には汗をかき、額からは止めどなく汗が流れてくる。
別に暑い訳ではない、むしろ肌寒いくらいだ。
冷や汗にしては異常なまでのその汗を止めたのは、ツンが毛嫌いしている者の声だった。

( ^ω^)「汗かくのは別にいいけど、ベソかくのは勘弁だお」

ξ#゚听)ξ(ベ、ベソォゥ!? このマザーファッカーは! ファッキン)

気が付くと、ツンの汗は止まり、緊張も解けていた。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 22:05:43.52 ID:79veDE1r0
ξ ゚听)ξ「この仕事が終わったら、あんたに言うことがあるわ」

そう言って、落ち着きながら再びグリップを握りしめ、引き金に指を掛けた。
後は、引き金を引くだけだ。

( ^ω^)「標的を目視、警護は二名、一名は男、後は女。
      クー、確認を」

緊張した空気の中、風の音の中でもはっきりと響き渡る声でブーンは邂逅を告げた。
それに同調してクーの声がインカムから響く。

川 ゚ -゚)『肯定。
     標的が窓際に接近…、座った』

クーに続いたのは、ギリギリまで声を抑えたヒートの声だ。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 22:06:42.15 ID:79veDE1r0
ノハ ゚听)『襲撃班、位置についた』

そして、兄者の声が続いた。

( ´_ゝ`)『ここまでは予定通りだ。
      盗聴している限り、奴らはこっちの気配どころか、計画すら気づいていないようだ』

( ^ω^)「その音声、ライブで流せるかお?」

( ´_ゝ`)『おーけー』

兄者の声が途中で途切れたかと思うと、別の声がノイズ交じりに聞こえてきた。
あまり大きな音ではないが、はっきりと聞き取れる。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 22:09:09.59 ID:79veDE1r0
【…ははは、相変わらずだな】

【恐縮でごわす】

【クックル、あなた馬鹿にされたのに気づいてないの?】

【え? そうなんでごわすか!?】

【そうだ、それがお前のいいところだ】

どうやら会合の前に、護衛の者と雑談に花を咲かせているようだ。
ブーンの望遠鏡からも、その様子が見て取れる。
護衛の二人は歯車王の向かいのソファーに腰を掛け、油断しきっている。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 22:11:02.05 ID:79veDE1r0
( ´_ゝ`)『さて、執行の時間だ』

その言葉を聞き、ツンはブーンの言葉を待った。
今ここで撃ったら元も子もない。
正確に歯車王の頭を吹き飛ばさなければ、全てが水泡になる。
ブーンの修正の言葉を待ち、ツンは唾を飲み込んだ。

( ^ω^)「こういう時こそ軽口を叩くものだお。
     その綺麗な顔をふっ飛ばしてやる! とかがベストだお」

思いがけない言葉に、ツンは思わず微笑した。
自分でもびっくりするぐらいの自信と共に、グリップを握る手に最高の力を込める。

ξ ゚听)ξ「そんなこと分かってるわよ、このファッキン野郎」

( ^ω^)「修正の必要はないお。
      さぁ、やってやるお!」

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 22:12:27.58 ID:79veDE1r0
ブーンの言葉を聞き終わった瞬間、ツンは引き金を引いた。
ガラスの一枚ぐらい簡単に割れそうな発砲音を上げ、撃鉄が銃弾の火薬を叩き、弾丸が発射される。
その弾丸が最高速に達した瞬間、内部機構の電磁加速装置が弾丸に音の世界の壁を突破させる。
最後に、銃身の電磁加速装置が弾丸に音異常の速度を与えた。

夜の空気を引き裂き、弾丸は電気の尾を引きながら進む。
おそらく、今この瞬間以上の速度で動くものなどその場には存在しなかった。
音を置き去りにし、瞬く間に弾丸は二重の防弾ガラスにめり込み、護衛の一人の口が一言を紡ぐより早く、弾丸は歯車王の後頭部の後ろの防弾ガラスを打ち破っている。
ここまでの時間、約二秒。

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 22:13:51.55 ID:79veDE1r0
そして、モララーとクーの両者から発射されたRPGの弾頭は、弾丸が歯車王に命中したのとほぼ同時に、弾丸が貫通したガラスを一発が吹き飛ばした。
もう一発は、上半身が消し飛んだ歯車王の上に着弾した。
間を置かずに放たれた40mmバルカン砲の弾丸は、室内のもの全てを蜂の巣のように穴だらけにした。
その斉射が止み、部屋の外で待機していたヒートとドクオが仕上げにかかれば全てが終わる。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 22:15:26.48 ID:79veDE1r0



そう、終わるはずだった―――




75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 22:16:54.39 ID:79veDE1r0
ノハ;゚听)『まずい、ドクオ壁から離れ…!』

ヒートの絶叫が聞こえたかと思った瞬間、全員のインカムからは爆音と共にノイズが聞こえてきた。
思わずツンがインカムを投げ捨てようとした瞬間、ツンはブーンに抱きかかえられた。
そのまま二メートル程横に飛んだ瞬間、ツンはブーンの背中越しに見てしまった。
先ほどまで自分がいた場所に、"それら"が立っていたことに。

( ∵)∵)∵)^o^)∵)∵)∵)

一人を除いて全員が同じ顔―――、否、同じ"仮面"を付けている。
不気味なその姿が一瞬ぶれたかと思うと、ブーンのすぐ背後にその内の一人が立っていた。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 22:18:12.80 ID:79veDE1r0
\(^o^)/

広げた両手に、持っているのが何か確認するより前に。
ブーンの背中に奇妙なものが生えていた。

( ゚ω゚)「あがあぁぁぁぁぁぁ!」

ブーンの絶叫でツンはそれが、生えているのではなく―――
刺さっているのに気づいた、そして、それが戦斧であることにも。

(;゚ω゚)「ぬ、ぬるいお…
     こんな攻撃! ぬるいおぉぉぉぉぉ!」

ツンを抱える形でもなお、ブーンは疾走を始めた。
そのままビルの淵に足を掛け―――、飛んだ。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県) 投稿日:2008/09/16(火) 22:19:27.49 ID:79veDE1r0
(;゚ω゚)「ううううううううおOOOOOOHHHHHHHHHHHHHHHAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」

ξ;゚听)ξ「うえええええええええええええええええええええええええええええええええぃ!!!!」

そのまま二人は、夜の闇に消え去った―――


二話 了


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