('A`)と歯車の都のようです

2 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 20:53:51.89 ID:aRav3/Az0
雨季が終わり、都に活気が戻り始めた。
表通りの商店街は、いつもの喧騒に包まれる。
店主らが競い合うように呼び込みをかけるため、喧騒は次第に高まる。
観光客でごった返す表通りと同じように、裏通りの商店街も活気づいていた。

ただし、表で食料品などを取り扱っているのに対して、裏は銃器や麻薬を取り扱っている。
そう言った意味では、見事に役割が分担されているのだ。
決して相容れないながらも、共生しているのは双方の利害の一致が大きい。
白が黒を嫌うように、黒も白を嫌う。

互いに干渉しないことが暗黙の了解となっているのだが、その日はいつもと違った。
黒服を着こみ、黒いサングラスをかけた複数の男たちが、表通りでうろ付いている。
左の脇が膨らんでいるのも共通しているが、彼らの目的も共通していた。
彼らが言い渡されたのはある男の捜索だ。

(,,゚Д゚)

3 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 20:55:09.83 ID:aRav3/Az0
その中で、ギコは彼らを束ねるリーダーとして参加していた。
片耳にかけたインコムから時折聞こえてくる定期報告を聞き流し、ギコは焦りと怒りを隠せないでいる。
手で弄んでいた鬼グルミを強く握りしめ、握力だけでそれを破壊する。
くるみ割りでさえ歯が立たないそれを握りつぶすギコの握力は、その時だけは異常なほど高まっていた。

(,,゚Д゚)(に、してもおかしい…)

懐に入っている拳銃の安全装置は掛けてあるが、ギコは意識の安全装置までは掛けていない。
表通りで拳銃を持ち歩く際は、必ず安全装置を掛けなければならないため、ギコは今すぐにでも抜き放ちたい衝動を抑えている。
ギコの拳銃の早抜きは、都の中でも屈指の腕だ。
師匠であるペニサスの早抜きが稲妻だとすれば、ギコのそれはまさに銃弾だった。

それでも、ギコが感じ取っている違和感は銃把を握っていないと落ち着かないほどのものだ。
こうしている間にも自分に銃口が向けられているような錯覚は、ギコの集中力をわずかだが削っている。
命令さえなければ、ギコはさっさと帰りたいとさえ思っていた。
ふと、ギコの肩が叩かれた。

(,,゚Д゚)「んぁ?」

4 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 20:57:10.83 ID:aRav3/Az0
叩かれた方を見やった瞬間、ギコの腹部に激痛が走った。
本能的に体をひねっていなければ、ギコの肺はただではすまなかっただろう。
肺の代わりに引き裂かれた内臓の痛みは、気絶するほどのものだ。
しかし、ギコとて手練である以上、わずかながらもその痛みに耐えることぐらいはできた。

(*゚∀゚)「なんだよ、死なねぇのかよ」

そこに立っていたのは、髪を金髪に染めた男だった。
金色のアクセサリーで全身を装い、赤いシャツを着ている。
心底残念そうに呟き、男はため息をついた。
それを見咎め、ギコはようやく声を発した。

(;,,゚Д゚)「て、手前…」

ギコの腹部を刺した短剣を引き抜き、男は刃についた血を舐め取った。
格好はどう見ても出来そこないのチンピラだが、ギコを刺すなど正気の沙汰ではない。
この都において、裏社会の人間に手を出すことが死に直結することぐらい、子供でも知っている。
これまで多くの愚者が手を出してきたが、悉く屠られてきた。

5 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 20:59:37.88 ID:aRav3/Az0
だが、このチンピラは明らかにギコを狙ってきた。
正確には、裏社会の人間を狙ってきたのだ。
一般人と区別しやすくするための格好が仇となるなど、ギコは想像もできなかった。
手負いながらも、ギコは得意の早抜きで懐の拳銃を抜き放つ。

一瞬で安全装置を解除し、撃鉄を起こしたその動作は負傷しているとは思えないほどだ。
当然、チンピラはそれに対応することなどできないでいる。
理解してから行動するチンピラと違い、ギコは本能と経験で行動する。
チンピラの両膝に鉛玉を撃ち込み、男を行動不能にさせた。

(*゚∀゚)「いで、いでええええ?!」

倒れこんで狼狽するチンピラの手に、更にもう二発撃ちこむ。
これでチンピラがこれ以上ギコに危害を加えることはできない。
恨みを込めて、腰の付け根に一発。
後は時間が経てば、このチンピラは失血死するだろう。

(,,゚Д゚)「おいこら、手前! 手前が何したか解ってんのかゴルァ?!」

7 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 21:03:13.96 ID:aRav3/Az0
少なくとも、ギコは理性で自分の気持ちを抑えることぐらいはできる。
今すぐこのチンピラの脳漿をぶちまけたい衝動に駆られたが、このチンピラに聞くことがある以上それは後回しだ。
銃口をチンピラの頭に合わせ、いつでも衝動を解き放つ準備を整える。
弾倉には後4発、チンピラを殺すには十分だ。

わざとらしく撃鉄を起こし、倒れこんだチンピラの顔のそばに狙いを定める。
引き金を引く直前に手元をずらし、チンピラの鼻を吹き飛ばした。
チンピラの絶叫を聞き、ギコはほくそ笑んだ。
だが同時に、ギコの第六感がギコを揺り動かした。

第六感によってギコの命が救われたことは、直後に飛来したナイフが直前までギコの頭があった位置を通り過ぎたことが証明している。
もしギコが頭を下げていなければ、ギコの頭蓋を貫通したナイフがギコの脳髄を切り裂いていただろう。
だが、その動きによって傷口から血が余計に流れ、ギコの意識に霞を掛けた。
ギコが常人以上の身体能力を有していなければ、そのまま続けて飛来したナイフで喉元を切り裂かれていたはずだ。

飛来したナイフを、ギコが左腕を構えたことで防いだ。
しかし、左腕に深々と突き刺さったナイフは、ギコからさらに血を奪った。
視界に靄が掛かり、ギコは思わず膝を突きかけた。
咄嗟に銃を持っていない手で構えたことで、ギコは反撃の機を逃さずに済んだ。

8 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 21:05:31.70 ID:aRav3/Az0
弾倉の残りは、三発。
如何せん、ナイフを投擲した敵の正体はおろか、位置すらつかめない。
ここにきて、ようやく周囲が動揺し始めた。
原子爆弾が爆発した時のように、周囲の民衆があっという間に消え去る。

それはギコにとってはこの上ない僥倖だった。
おかげで、ギコを襲ったもう一人の敵の位置が分かったのだ。
逃げ惑う民衆の中で、一人だけ逃げ遅れた男の手に光るものを見咎めた時にはギコの右手は閃いている。
片手ながらも、ギコの射撃技術は一流である。

少なくとも、50メートルまでなら魚の目玉を撃ち抜ける程だ。
当然、ギコの手元から三発の銃声が響いてナイフを手にした男の脳漿を背後にぶちまける。
咄嗟に、男が投擲しようとした両手を撃ち抜き、更に投擲されようとした脅威を排除したのは流石だ。
しかし、男の脳漿をぶちまけたとことで弾倉の弾は無くなってしまった。

(,,゚Д゚)「くっ…そが!」

9 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 21:08:19.94 ID:aRav3/Az0
忌々しげに舌打ちをし、ギコを遂に倒れ伏した。
失血の量が思いのほかひどく、更に余計に動き回ったせいで失血の速度が速まっている。
脳内エンドルフィンをコントロールし、更にアドレナリンを過剰分泌させようと試みる。
だが、痛覚だけはどうにかできたが、霞む視界だけはどうにもならない。

ふと、視界の端に有り得ないものが映り込んだ。
脚を撃ち抜かれたチンピラが、短剣を片手にギコに迫って来ている。
あの程度のチンピラに、なぜあれだけのガッツがあるのだろうか。
霞む視界の中、ギコは震えながらも右手の拳銃をチンピラに向ける。

ギコの銃の弾倉に弾が入っていないことを知っているのか、チンピラは這いずりながらもギコに近づく。
しかし、ギコは構えた銃を下ろそうとはしない。
確かに弾倉には弾は入ってない。
だが、"銃本体"に装填されていた弾丸は確かに一発入っていることは、チンピラには分からなかった。

(,,゚Д゚)「くた…ばれ…」

10 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 21:11:46.13 ID:aRav3/Az0
乾いた銃声が辺りに響く。
しかし、ギコの撃ち放った銃弾はチンピラの頬を掠っただけで、必殺の一撃にはならなかった。
霞んだ視界では、まともに照準を合わせることすらままならない。
むしろ、頬に掠っただけでも驚愕である。

(*゚∀゚)「きひひ… 死ねよ」

気味の悪い笑みを浮かべ、チンピラは短剣をギコの心臓に向かって振り下ろす。
振り下ろされた短剣の刃が肉を貫き、骨を抉る。
ちょうど心臓の位置を貫かれたため、噴水のように血が噴き出た。
白目をむき、四肢を痙攣させる。

('、`*川「刃物は刺したら抉りなさい」

チンピラの手首をひねり、ギコに振り下ろされた短剣をチンピラの心臓に付き立てているのはペニサスだ。
いつの間に現れたのだろうか、何にせよギコの命を救ったのだけは確かだ。
ペニサスの姿を見た瞬間、ギコの目にかかっていた霞が消え去った。
圧倒的信頼を抱いているだけでなく、圧倒的に慕っているからこそだろう。

(,,゚Д゚)「ぺ、ペニ姐…」

11 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 21:14:12.50 ID:aRav3/Az0
ギコの呟きと同時に、ペニの手首が円を描いた。
肉と言わず、骨までも抉るその行為はチンピラの断末魔を容赦なく引き出した。
一回転するのかとも思うほど、チンピラの目が見開かれる。
断末魔が周囲に響き渡り、チンピラは大きく目を見開いたまま絶命した。

('、`*川「まったく… ギコ、まだ死んではだめよ」

そのペニサスの言葉を最後に、ギコの意識は薄れて消えた。

13 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 21:15:45.32 ID:aRav3/Az0
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( 'A`)と歯車の都のようです
第二部【都激震編】
第三話『眠り姫』

三話イメージ曲『MAGICAL WORLD』 鬼束ちひろ
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14 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 21:19:14.18 ID:aRav3/Az0
ζ(゚ー゚*ζ「……それは本当なの?」

くわえていたビーフジャーキーを小皿に置き、デレデレは目を細めた。
クールノー本部のデレデレの部屋にある光源は、晴れた日に小窓から差し込む光と、机に置かれた小さなスタンドだけだ。
暖色系の明かりに照らされ、デレデレの美貌が幻想的になる。
だが、その美貌に明らかな困惑の色が浮かんでいた。

困惑だけでなく憤りも含まれていることは、ペニサスですら辛うじて分かるほどのものだった。
クールノーの最古参でもあるペニサスは、デレデレの僅かな変化を見逃さなかった。
さり気なく語気を柔らかめにし、地雷を踏まないようにする。

('、`*川「幸い、ギコは無事です。
     たかだかナイフ如きでは死にはしませんよ」

自らが手塩に育てたギコが、ナイフで刺されたにも関わらずペニサスの言葉は自然で事務的だ。
だが、ペニサスが握り拳を震わせていることはペニサスの内心を反映している。
それでも決して顔に出さないのは、ペニサスが感情を抑える術を心得ているからだ。

ζ(゚ー゚*ζ「……そう。
       で、チンピラの正体は分かったの?」

16 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 21:22:01.09 ID:aRav3/Az0
ペニサスの事を理解しているデレデレは、さり気なく本題を切り出した。
今回最も重要な情報は、ギコの容態よりもチンピラの目的だった。
マフィアの人間を襲うチンピラは、この都にはまずいない。
いるとしたらそれは、金で雇われたか、何か目的がある者だけだ。

その為、まずはチンピラの正体から洗い出すことは当然だ。
正体さえ分かれば、目的も自然と分かる。
兎にも角にも、敵を知ることは正しい判断だった。

('、`*川「名前はツー。 チンピラの間では有名人だそうです」

ペニサスは手にした紙袋をデレデレに差し出す。
それを受け取り、デレデレは優雅に中の紙を取り出した。
そこに書かれているのは、ツーの情報だ。
一緒に添付されていた写真に写るツーの姿は、ギコを刺した者と相違なかった。

ζ(゚ー゚*ζ「……なるほど、確かに有名になるわけね。
       窃盗、強盗、強姦、詐欺その他もろもろ。
       殺人以外ほとんどやってるわね」

17 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 21:24:04.96 ID:aRav3/Az0
デレデレは紙を丸めて潰し、横に置かれていた屑籠に捨てた。
そして、机に置かれていたグラスを手に取る。
グラスを満たしていた液体を軽く呷り、一呼吸。
デレデレの愛飲するコワントロー独特の香りを吐き出し、デレデレの細めた目に妖しい光が宿る。

ζ(゚ー゚*ζ「ねぇ、ペニ?
       これは私の嫌いな戦いになりそうよ」

ひどく不機嫌そうに、デレデレはグラスの中身を回す。
妖艶なその仕草は、一歩間違えれば飲み込まれてしまいそうだ。
皮肉と憎しみと悪意を込め、デレデレは口元を釣り上げた。
その笑みの正体を知るペニサスは、思わず握り拳を解いていた。

ζ(゚ー゚*ζ「心理戦が始まるわよ。
       それも、ひどく大規模なのがね」

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18 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 21:26:11.82 ID:aRav3/Az0
ドクオはその日、珍しく表通りのレストランで昼食を食べていた。
ドクオが食べているのは、レストランの中で一番安いランチセットだ。
白米、味噌汁(お代わり自由)、漬物、焼き魚(イワシ)、そしてプリン。
これだけ付いていながら、値段は硬貨一枚でお釣りがくるほどだ。

('A`)「ほふ、はむ、あぐ」

箸で漬物を掴み、口に運ぶ。
二、三度咀嚼したところで白米を一口。
口の中で漬物と白米が絡み合い、ドクオの食欲をさらに促進する。
そこにすかさず味噌汁を流し込み、飲み干す。

喉を優しく愛撫して、味噌汁は白米と漬物を包みこんで食道を落ちて行く。
やがて、胃に落ちた味噌汁と白米の風味が、ドクオの鼻から通り抜けた。
間を開けずに、次は焼き魚の身を丁寧に箸でほぐす。
小骨を弾く手間すらもどかしく、内臓の苦みが少しついた身を口にする。

19 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 21:28:55.50 ID:aRav3/Az0
程よい苦みが心地よく、ドクオの箸が再度白米を一口分掴んだ。
魚と米を噛みしめ、味噌汁で包み込む。
今度はそのまま飲み込むのではなく、きちんと咀嚼する。
一気に飲み込み、今度は湯のみに入っている緑茶を一啜り。

ゆっくりとため息をつき、ドクオは箸をゆっくりと置いた。

('A`)「で、だ。 何でおれがお前達と飯を食ってるんだ?」

ため息をついたドクオの目の前には、大ジョッキに注がれたビールを飲むジョルジュと、
ワンショットグラスに注がれた酒を黙々と飲むオサムがいる。
ドクオの文句は尤もだった。
ドクオの格好は至極まともだが、ドクオの前に座る二人の格好が店内で非常に浮き立っている。

ジョルジュは相変わらず時代錯誤極まりない、西部劇に出てきそうな格好をしていた。
先のとがったブーツを履き、腰に巻いたベルトには弾が幾つも刺さっている。
恐らくは牛の皮で作られたジャケットを羽織り、頭にはテンガロンハットが被っている。
傍から見ればコスプレ中毒者の末期なのだが、右の腰に差した44口径のマグナム銃がそれを許さない。

20 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 21:35:01.24 ID:aRav3/Az0
猛獣でさえ一撃で仕留めるその拳銃は、決してイミテーションやモデルガンなどではない。
ひとたび撃鉄を起こして引き金を引けば、それを馬鹿にした者の脳漿はおろか、頭蓋骨や眼球も吹き飛ばす。
銀色に輝くそれは、ジョルジュが望めばいつでも火を吹ける状況にある。
その為か、ドクオたちの席の周りは誰も座っていない。

一方、オサムの風変わりな格好はジョルジュでさえ凌駕していた。
雨期明けの蒸し暑い中にも関わらず、黒い外套を着ているだけならまだましだった。
更に長鍔の帽子を深々とかぶり、その下に覗く顔は白い包帯でぐるぐる巻きにされて素顔が見えない。
目と口だけが出ているが、それだけでは人相はおろか、表情すら分からない。

なお最悪なことに、オサムはドクオが初めて会った時と同じようにデカイ棺桶をジョルジュとの間に置いている。
一体何が入っているのか、それを聞いたらきっと後悔するに違いない。
ドクオを除いた二人と食事するということは、自動的に変質者のレッテルを貼られるということである。
それはドクオにとって決して好ましいことではなく、むしろ迷惑極まりなかった。
  _
( ゚∀゚)「まぁ、そう言うなって。 昼間っから男同士、募る話もあるだろ?」

21 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 21:37:11.87 ID:aRav3/Az0
半分ほどになっていたジョッキの中身を一気に呷り、ジョルジュはジョッキを叩きつけるように机に置いた。
酒にはあまり強くないのだろう、まだ二杯目なのに既にジョルジュの息は酒臭い。
顔を真っ赤にし、呂律の回らない口調でドクオに喰ってかかった。
降りかかる唾に、露骨に顔をしかめるドクオだったが、それでジョルジュの言動が変わるはずもない。
  _
( ゚∀゚)「お前さぁ、おっぱいは好きかぁあああ?!」

( ;'3`)「ブ――――――――――――っ!?」

ジョルジュの言葉は不意打ちだった、緑茶を飲んで聞き流そうとしたドクオが、勢いよく緑茶を噴き出す。
緑色の液体を、まるで噴水のように吹き出し、ドクオは噎せ込んだ。
噴き出した緑茶は、当然目の前にいたジョルジュに降りかかる。
しかしながら、ジョルジュは煌煌と目を輝かせて身を乗り出したままだ。

(;'A`)「一体どういう話の流れでそういうこと話すんだよ?!」

22 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 21:38:39.65 ID:aRav3/Az0
語気を荒げながら、ドクオは口元をおしぼりで拭う。
冷静を装い、ドクオは再び緑茶を口にする。
口内に広がる緑茶の香りは決して気高くなく、安っぽい粉の風味がした。
緑茶の良し悪しが解るドクオといえど、それを我慢できるほどには人間ができていた。
  _
( ゚∀゚)「おっぱいだよ? おっぱい。 OPPAI。 お・っ・ぱ・い」
  _
( ゚∀゚)o彡゜「はい! π、ぱい、パイ、ぱあああああああああああああい!!」

相当酔いが回っているのだろう、突如として立ち上がったジョルジュは声高く叫ぶ。
更に手を振り、己の自己を主張する。
言っていることさえまともなら、それは尊敬に値することだった。
如何せん、ジョルジュの口からまともなことが紡がれるはずもなく、ドクオが答えるまで腕を振るのを止めないだろう。

(;'A`)「あぁ、好きだよ! 大好きだよ!
    だから黙って座ってくれ!」

ドクオの返答と懇願に、ジョルジュは満足げにうなずく。
だが、そこで終わるジョルジュではなかった。
ドクオは知らなかった、彼が都の中のおっぱい好きの中でも筆頭に挙げられる存在であることを。
人呼んで、"πの伝道師"。

23 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 21:40:05.38 ID:aRav3/Az0
ジョルジュの目にかかれば、いかに高性能な補正ブラジャーをしていようとその実体を見抜くことができる。
通りすがる女性の胸のサイズをミリ単位でいい当て、そのサイズを言い当てるなど朝飯前である。
その胸部への執着心は、人間の三大欲ですら軽く凌駕する。
おっぱいさえあれば、ジョルジュは一年以上睡眠も食事も摂らなくて生きていける。
  _
( ゚∀゚)o彡゜「では! オサムはどうだ?!」

それまで淡々と酒を飲んでいたオサムに唐突に話を振り、ジョルジュは叫んだ。
どう考えても無茶振りという奴だが、オサムは相変わらずの尻つぼみで言葉を紡いだ。

【+  】ゞ゚)「…小さくても、いい……」

全くの予想外だった。
そう言った話題には一切興味がないかと思えば、しっかりと自分の意見を持っている。
曖昧な答えのドクオと違い、オサムの答えはしっかりと自分の好みを口にしていた。
答えた後も、舐めるようにグラスの中身を飲んでいる辺りオサムの心の器の大きさが窺い知れる。

24 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 21:41:53.22 ID:aRav3/Az0
  _
( ゚∀゚)「貧乳、だと…」

それまで腕を振っていたジョルジュの動きが、止まった。
同時にジョルジュは静かに席に着き、隣のオサムを見やる。
残念ながら、オサムのおいた棺桶のせいで互いの顔が見えない。
だが、ジョルジュの顔には明らかな驚愕と狼狽の色が浮かんでいる。

それほどオサムの発言が意外だったのだろう、ジョルジュはあり得ないものを見るかのように棺桶の向こうにあるオサムの顔を凝視する。
指を鳴らして給仕を呼び、ジョルジュは無言のまま、給仕が運んできたビールジョッキを手にした。
それを静かに飲み干し、ジョルジュは目を大きく見開いた。
  _
( ゚∀゚)「あんたにゃ負けたよ…」
  _
( ゚∀゚)o彡゜「あのAカップはお前にくれてやる。
        だから、あのHカップは俺がもらう!」

手にしたジョッキを放り投げ、ジョルジュは声高らかに叫んだ。
まるで自分がこの世に生を受けたばかりの赤ん坊のように、純粋な叫びをあげる。
言っていることさえまともなら、ジョルジュは俳優にでもなれただろう。
如何せん、今のジョルジュにまともな言葉を期待するのは間違いであった。

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25 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 21:43:05.77 ID:aRav3/Az0
ツンはひたすらに酒を呷っていた。
歯車王の暗殺が失敗して以来、明らかにツンの酒量は増えている。
ひどい時には、一人で一升瓶を飲み干すほどだ。
理由は定かではないが、ツンの心に何か澱みがあるのだろう。

とはいえ、ツンは酒にはめっぽう強いため、その程度で酔えるはずもなかった。
仕事がない日はこうして過ごし、しだいにツンの眼は濁りはじめていた。
フランボワーズの入ったグラスを呷り、ツンはしゃっくりをした。
虚ろな目のまま、窓の外に視線を巡らせる。

クールノーでツンが与えられている部屋は、デレデレの次に立派なものだった。
デレデレの部屋と違い、ツンの部屋にはきちんと電燈が幾つも設置されているが、どれ一つとして点燈していない。
ソファーに背中を預け、ツンは目の前にある大きめの窓の外の景色を何んともなしに眺めた。
相変わらず都は薄暗く、微かに聞こえる売り子の呼び込みが鼓膜を震わせた。

いつか、雑誌の記者がこの都を御伽の都と呼んだことがあった。

26 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 21:44:24.75 ID:aRav3/Az0
 馬鹿馬鹿しい、この都のどこに、御伽があるのか。
 あるのは喧騒と暴力、そして支配だ。
 この都で御伽を探そうとする馬鹿がいるなら、それはゴミ捨て場で純金を探すようなものだ。
 だから私は酒を飲む。 少なくとも、御伽を探す馬鹿よりはよっぽど建設的だ。

空になったグラスにフランボワーズを乱暴に注ぎ、一気に飲み干す。
喉を通る液体は、サクランボの風味がした。
ツンの部屋の酒棚には、常時二十本以上のリキュールが置かれている。
その中でも、ツンが愛飲するのがこのフランボワーズだ。

サクランボのリキュールは、確かにツンの心を安らげる効果がある。
だが、それは一時的な安らぎで、酒の力が消えるとあっという間に胸の不快感が鎌首をもたげるのだ。
先日の暗殺任務の際も、決して酒なしでは遂行できなかっただろう。
その為、ツンは常に懐にフラスクをしまい込んでいた。

 あの男は、何故私を庇ったのだろう?

歯車王暗殺が失敗したその日、ツンと組んでいたブーンがツンを庇って死んだ。
あの日から何度か理由を考えたのだが、何も思い当たる節がない。
ブーンにはまだ聞きたいことがあった、それなのに先に死なれた。
それが胸の不快感の正体であることは、薄うす勘付いていた。

28 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 21:54:06.64 ID:aRav3/Az0
だが、それを認めてしまえば自分はブーンのために、こんなに弱くなってしまったということの証明になる。
それだけは認めたくないという、ツンの意地のせいでツンはひたすらに酒を飲んでいるのだ。

 バカな奴! 私を助けても何もお礼なんかでないのに!
 そうよ、だってあいつってば… あれ?

不意に、ツンの記憶が一瞬だけ甦った。
それは先日の、否、もっと古い記憶。
ツンがまだ幼い頃の映像だ。
だが、どうしても続きが思い出せない。

 なんで?
 なんで私は泣いてるの?
 私の頭を撫でる、あなたは誰?

まだ幼いツンと同じぐらいの身長の男の子が、涙ぐむツンの頭を撫でている。
何か面白い話でもしようと、あたふたと取り乱していた。
結局、ツンの記憶はそれ以上溯ることは無かった。
甘ったるい声と共に、ツンの部屋の扉が開け放たれたからだ。

29 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 21:56:25.52 ID:aRav3/Az0
ζ(^ー^*ζ「じゃーん! じゃーん! じゃーん!」

右手に酒瓶、左手にグラス、口からは甘い酒の匂い。
そして乱れた着衣のまま、クールノーファミリーのゴッドマザーにしてツンの母親であるデレデレが入ってきた。
入ってくるなり、ソファーに腰かけていたツンを背後から抱き締めた。
あまりにも唐突だったため、ツンは目を白黒させている。

ξ;゚听)ξ「お、おかあ…… デレデレ様、何ですか?!」

どうにか首だけをデレデレに向け、ツンは苦しそうに声を上げた。
ツンの言葉を聞くや否や、デレデレはツンの耳たぶを甘噛する。
背筋に寒気が走り、ツンが抵抗しようと試みる。
だが、デレデレはツンのうなじにそっと息を吹きかけてそれを抑え込んだ。

ξ;゚听)ξ「きゃう!?」

可愛らしい声を上げたツンに対して、デレデレは子供っぽく笑みを浮かべ、ツンに頬ずりする。
まるで飼い猫にじゃれる飼い主のようなその仕草は、普段決してデレデレはしないものだった。
娘の部屋ということもあるのだろう、デレデレは完全に緊張の糸が緩みきっている様子だ。
それでも、もし今襲撃者が来てもデレデレがその愚か者を瞬殺出来る事はツンはよく知っている。

30 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 21:58:38.82 ID:aRav3/Az0
ζ(^ー^*ζ「もぅ、ツン? お母さん、って呼んでよ〜?」

頬ずりを続けながら、デレデレは甘い息を吐く。
猫がマタタビを得たように、デレデレはツンにべったりだ。
言っている間に、デレデレはグラスにシェリーを注ぐ。
ツンの顔のすぐ横でそれを一口で飲み干し、デレデレは可愛らしい声を上げた。

ζ(^ー^*ζ「えへへ〜。 お酒を飲むならお母さんに一言言いなさいよ〜。
        一人酒はいいけど、ヤケ酒はだめよぉ?」

ξ;゚听)ξ「お母様! 私はヤケ酒なんて!」

ζ(゚ー゚*ζ「してるじゃないのよ〜」

反論したツンに対して、デレデレの答えはそれまでと違い、どこか真剣みを帯びている。
唐突すぎる母親の変化に、ツンは思わず息をのんだ。
こうして甘えたようなことをしているが、デレデレはツンの母親なのだ。
娘のことぐらい、手に取るように分かるものだ。

ξ;゚听)ξ「べ、別に…!」

ζ(゚ー゚*ζ「嘘はダメよ?」

ξ;゚听)ξ「ただ… 気に入らないことがあっただけです……」

31 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 22:00:19.43 ID:aRav3/Az0
観念したツンは、事の経緯について掻い摘んで説明した。
ブーンが自分を庇って死んだこと、それが気に入らなかったと。
それを聞き、デレデレはうっすらと微笑を浮かべた。
まるで聖母のようなその笑みは、ツンの中にあったアルコールを一瞬で吹き飛ばすほどだ。

ζ(゚ー゚*ζ「なるほどね。 あなたは知らないんだから当然よ」

ξ;゚听)ξ「え?」

全く予想外の答えに、ツンは思わず声を上げていた。

ζ(゚ー゚*ζ「まぁ、話してもいい頃合ね。 ちょっとお酒を飲みながら話しましょうか」

そう言って、デレデレはツンの横に腰かけた。
ソファーが微かに沈み、デレデレはツンの肩に手を回す。
そのままツンの頭を抱え、自らの膝に頭を置いた。
ツンにとって、母親の膝枕など幼いころに数回しかしてもらったことがない。

せっかくなので、ツンは母親の膝に甘えることにした。
どこか懐かしく、子供のころに戻ったような気持ちでデレデレの言葉を待つ。

32 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 22:02:42.39 ID:aRav3/Az0
ζ(゚ー゚*ζ「あれは、今から10年ぐらい前のことね……」

デレデレの口によって紡がれた言葉は、ツンをいざなう道として。
漂う甘い香りは、過去への扉。
デレデレの膝は、扉を開く鍵。
物語の時間が始まる。

そして、デレデレの優しい手のひらがツンの髪を梳き、物語が紡がれ始めた

――――――――――――――――――――

【過去編】――ツンの場合――

33 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 22:05:44.41 ID:aRav3/Az0
10年前、歯車の都では抗争が表立って起きていた。
当時の水平線会の会長は、荒巻スカルチノフ。
それに敵対するクールノーファミリーの首領は、クールノー・デレデレ、当時はまだ18歳の少女だった。
幼くしてマフィアを立ち上げ、デレデレにつき従う手練達を揃えたのはデレデレの人徳がなし得たことだ。

設立して5年が経つクールノーが敵に回したのは、よりにもよって裏社会のNo2である水平線会だった。
その当時、荒巻の率いる水平線会の面々は荒くれ者たちばかりだった。
軍隊上がり、元傭兵、元連続殺人鬼など、ガラの悪い者たちだけで構成された水平線会は裏社会の腫瘍でしかなかった。
ロマネスクもそれに手を焼いていたのだが、一番それに喰ってかかったのがデレデレだ。

定期的に行われていた会合で、デレデレは荒巻に臆することもなく平然と罵倒文句を並べていた。

ζ(゚ー゚*ζ『黙れよ、ビチグソ野郎。 手前からは加齢臭と汚物の匂いがするんだよ。
       それと、その口臭をどうにかしろ。 手前の主食は糞か? 分かったら消え失せろ』

それは回数を重ねるたびに過激になり、ついに荒巻の逆鱗に触れることになった。
それ以降、両者は時折抗争を繰り返しては死者を増やしていった。
クールノーの元に集まっているのは、デレデレを信仰しているような部下達だった。
それなりに場数を踏んでいる者がいたため、抗争で死ぬのは新参者たちばかりだった。

35 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 22:07:22.29 ID:aRav3/Az0
だが、デレデレにはそれが我慢ならなかった。
自分を慕ってくれた者たちが死んでいく、それはとても悲しいことだ。
首領という立場もあり、デレデレは決して人前では泣かなかった。
そんなある日、デレデレは小さな女の子の手を引いてクールノーに現れた。

ζ(゚ー゚*ζ「この子は私の子よ。 今日からここで暮らすわ」

あまりにも唐突な紹介ではあったが、母親譲りの金髪碧眼を見ては誰も文句は言えなかった。
文句と言っても、それは娘を気遣ってのものだ。
娘がいるとなれば、荒巻は必ず誘拐に踏み出す。
年端もいかない少女が外出もできないことを考えると、ここで紹介する事はリスクが高すぎた。

それを真っ先に口にしたのは、デレデレが最も信頼を置いているペニサスだ。
肩まで伸びた茶髪を振り乱しながら、ペニサスは我が身のように懇願した。
気のせいではなく、その目には涙さえ浮かんでいる。
周知の事実であるが、ペニサスはデレデレを崇拝しているとさえ言い換えても過言ではなかった。

('、`*川「それはいけません! あの下劣漢のことです、絶対にご子息に手を出してきます!
     今それをされると、我々が護り切れる保証はありません!」

だが、デレデレは優しくペニサスをなだめ、決意の宿った眼で全員を見た。
彼らの目に映るのは、母であり、そして偉大な姉であるデレデレの姿だ。
デレデレの直属の配下は、デレデレを決して超えられない姉も同然に感じている。
そうでないものは、最も安心して全てを預けられる母として感じていた。

36 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 22:09:44.96 ID:aRav3/Az0
ζ(゚ー゚*ζ「この子に、楯があれば大丈夫。 どんなことからもこの子を護る、楯があれば」

それでもなお、デレデレの口調は変わらなかった。
続いて、デレデレの後ろからおずおずと一人の男の子が姿を現した。
笑顔を浮かべているのは、この状況が理解できていないからだろう。
もし理解しても尚このような顔をしているのなら、相当な大物か馬鹿だ。

( ^ω^)「よろしくですお」

特徴的な語尾は、状況が違ったら周囲を和ませていただろう。
だが、今の状況ではその場の全員を不安にしていた。
こんな子供に何ができるのだろうか、それが正しい考えだ。
然り、この時の少年には何もできなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「ペニ、ギコ。 三日間で仕上げて頂戴」

('、`*川「なん」

(,,゚Д゚)「だすと?」

('、`*川「で、でしょうが馬鹿っ!」

37 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 22:11:04.72 ID:aRav3/Az0
姉弟の様な連携で、ペニサスの容赦ない突っ込みがギコの鳩尾に入った。
普通の者がそれを食らえば、床に這いずりまわるほどの一撃だったがギコは軽く呻いただけだ。
ペニサスによって殺人兵器にまで鍛え上げられたギコは、クールノーの中で屈指の手練になっている。
その二人にデレデレが要求したのは、年端もいかぬ少年の訓練だった。

ζ(゚ー゚*ζ「この子もよ」

ξ゚听)ξ

否、少年だけではなかった。
そう言って、デレデレは娘を少年の横に並ばせた。
つまり、ギコとペニサスはこの二人の子供を鍛え上げなければいけないのだ。
それも、たったの三日で。

('、`*川「……分かりました。 ただし、相当過酷なものです。
     本物の鉄火場の一つや二つ、連れ出しますがよろしいですか?」

不可能とさえ疑われたその意見を、ペニサスは若干戸惑いながらも受け入れた。
いつもと変わらない表情で頷き、デレデレは二人をペニサスに預けた。
真剣な表情で二人の手を引き、ギコとペニサスが部屋を出て行く。
その時のデレデレの顔は、表面上は平静を装っていたが、内面は相当乱れていた。

38 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 22:14:23.41 ID:aRav3/Az0
 まあ、私だって曲がりなりにも母親ですから。
 娘が死地に行くのにいい気がするわけないでしょ?
 とにかく、あんたたちはよくやったわよ。

 じゃあ、私がブーンに会ったことがあるような気がしてたのは……

 その時の記憶でしょうね。 ツンもブーンも、結構仲良かったのよ?
 だから…… いや、この話はまたの機会にしましょう。 面白味が欠けるからね。
 でね、ここからが本題なのよ。

幼いながらも、ペニサスとギコの訓練を耐え抜いたブーンは、兵卒程度の戦闘力を有するほどになっていた。
中でも、ブーンの護衛能力の高さは手練の誰もが感心するほど高く、ブーンは戦闘よりも護衛中心の仕事を任せられていた。
ツンも、母親譲りの狙撃の才能を発揮し、今ではスコープなしのドラグノフで500メートル先の敵の目を撃ち抜けるほどになっていた。
まだ幼いながらも、二人が一緒にいれば水平線会の襲撃も耐えられる程だ。

そんなある日、デレデレはブーンを自室に呼び寄せていた。
目的は一つ、ブーンに愛娘を任せるためだ。
それは苦渋の選択だったのかもしれない、だが、デレデレの意識は決して揺るがないだろう。
全ては愛娘のため、最高の楯を愛娘に与えるためなのだから。

39 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 22:19:04.21 ID:aRav3/Az0
ζ(゚ー゚*ζ「ブーン、あなたはこれからツンを護って頂戴。 何があろうと、あの子を悲しませてはだめよ?」

( ^ω^)「わかりました」

ζ(^ー^*ζ「よしよし、いい子いい子」

優しく頭をなで回し、デレデレは少し悲しそうな笑みを浮かべた。
その表情は、デレデレが初めてブーンに見せる表情だった。
美しいが、どこか儚い、そんな笑み。
直後、デレデレは心を鬼にしてブーンに命令を告げる。

ζ(゚ー゚*ζ「あなたは水平線会に行きなさい。
       これは命令です」

( ^ω^)「……わかりました」

訳も聞かず、ブーンはデレデレに一礼し、部屋を出て行った。
その背中を寂しげに見つめるデレデレの瞳に、ブーンが気付けたかどうか。
それから十年後、ブーンとツンは再会することになる。
歯車王暗殺のメンバーとして、十年ぶりに再開したツンは結局ブーンの事を思い出せなかった。

しかし、ブーンは気付いていた。
事前にでぃから話を聞いていたのだが、とてもおしとやかで気立てのいい娘になったと聞いた。
現実はそうではなく、立派なマフィアの一因になってしまっていたのだ。
だが、ブーンが想像していたよりも綺麗になっていたのは言うまでもない。

40 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 22:21:14.42 ID:aRav3/Az0
母親譲りの美貌。
透き通ったスカイブルーの瞳。
黄金の草原を幻視させる程美しい金髪。
決して揺るがない信念を持ったその眼差しに、ブーンは一目惚れをしてしまったのだから。

 でも、なんでわざわざ水平線会にブーンを?

 その時、でぃは副会長でね。 いろいろ画策してたから助っ人を出す必要があったのよ。
 無論、私だってブーンを手放すのは嫌だったわ。 でもね、これが必ず後々役に立つって解ってたからどうしようもなかったの。

 画策?

当時、でぃは荒巻の忠実な部下として働いていた。
だが、でぃはデレデレの為にその役を演じていたのだ。
それに荒巻が気付いたのは、でぃが水平線会の会長になった時だった。
全てはデレデレと交した約束を果たすために。

 ビチグソ野郎の失脚、それこそがでぃの目的だったの。
 あいつさえいなければ、もう抗争は起こさないで済むからね。

 っていうか、その頃からでぃさんと関係が?

41 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 22:23:40.93 ID:aRav3/Az0
 違うわよ。 でぃとは幼馴染でね、生まれた病院も一緒だったのよ。

 え?!

 あら、知らなかった? ロマネスクも年は違えど幼馴染なのよ。 びっくりでしょ?
 四人は結構仲が良くてね、いつも一緒に遊んでいたわ。

 なんか、意外…

 話を戻すけど、ブーンは正確にいえば歯車王暗殺には関わってないのよ。

 ええ?!

 ブーンがあの場にいたのは、運び屋として―――という役を演じた護衛よ。
 あなたにそれを気付かせてはいけない、それこそがブーンに与えられた仕事だったの。

 じゃあ、最初からブーンは私を護るために?

 そうそう。 そしてそれを頼んだのは、私。
 狙撃手ってのは基本は独りで行動するでしょ? やっぱり、危険な仕事なわけだから、どうしても護衛が欲しかったの。
 あなたってば、狙撃の腕はいいんだけど、近距離だと危ういところがあるからね。

42 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 22:28:53.43 ID:aRav3/Az0
母親譲りのドラグノフの扱いは一級だが、父親譲りのデザートイーグルの扱いはそれに及ばない。
その事を理解していたため、ツンはぐうの音も出ない。
そもそも、デザートイーグルの二丁拳銃など女がするようなものではないため、仕方ないと言えばその通りだった。
片手で打てば脱臼する者さえいる拳銃を両手に構えて撃てるだけ、ツンは相当な腕を持っている。

だがもし、ラウンジタワーに進入した時にブーンがいなければツンは自慢の二丁拳銃を揮うことなく死んでいたはずだ。
ブーンの援護能力のおかげで、ツンは今もこうしていここにいる。
あの日、ブーンから借り受けたスチェッキンが今も引き出しの中にあるのは、自らを戒めるためだった。
スチェッキンの銃把を握る度に、ツンはあの日の事を鮮明に思い出しては歯噛みしていた。

自ら買ったもう一丁のスチェッキンと同様、ツンはそれに独自の改造を施している。
装弾数をさらに増やすため、特殊なマガジンを用意した。 これで従来の二倍の弾が撃てる。
その弊害として、マガジンが異常に長くなったせいで、懐にしまい込むことは不可能になってしまったのだが。
それを両腰に下げることで、その問題は解決した。

よほどの鉄火場の時か、重要な時にしかその装備をしない事を密かに決めているのだが。
その時が来ないのが一番の問題だった。
スチェッキンは片手でフルオート射撃が可能であり、その特性を生かせば白兵戦の時に圧倒に有利になる。
ブーンの愛銃を持っている事を母に言おうかどうか、ツンは迷った。

ζ(゚ー゚*ζ「まぁ、この話はここまでにして、親子水入らず。
       お酒でも飲みましょう」

そのツンの迷いを察したのか、デレデレは明るい声でツンに話しかけた。
しかし、その声を最後に、ツンの記憶はそこで途切れてしまった。

43 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 22:31:08.55 ID:aRav3/Az0
ζ(゚ー゚*ζ「あらあら、寝ちゃった……」

ξ --)ξ「……」

可愛らしい寝息を立てながら、ツンはデレデレの膝枕を満喫している。
もし、この二人がマフィアでなければ、その光景は中の良い姉妹にしか見えない。
この時ばかりは、ツンは母親に甘えることに抵抗感を感じなかった。
幼い時は、甘える暇さえなかったため、こうして甘えられるのは今ぐらいしかないだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「あなたには言わなかったけどね、ブーンにはまだ頼んであった事があるの……」

愛娘の髪を優しく梳き、デレデレはグラスをそっと机に置いた。
そして、あやすように優しくツンの肩を撫で、どこか悲しげな笑みを浮かべた。

ζ(゚ー゚*ζ「この子の前で、決して死ぬ姿を見せないこと。
       そして、この子の……」

ζ(゚ー゚*ζ「許婚になってと、頼んだのよ……」

デレデレの言葉はもうツンには聞こえない。
そして、デレデレは子守唄を歌い始めた。
これまでツンに一度しか歌い聞かせられなかった、子守唄を。

45 名前:愛のVIP戦士@ローカルルール議論中 投稿日:2008/12/04(木) 22:35:24.39 ID:aRav3/Az0
―――挿入歌【守ってあげたい】鬼束ちひろ、原曲・松任谷由美


 初めて言葉を交わした日の、その瞳を忘れないで
 いいかげんだった、私のこと包むように、輝いてた

 遠い夏、息を殺しトンボを採った
 もう一度、あんな気持ちで夢をつかまえてね

 so you don't have to worry worry

 守ってあげたい
 あなたを苦しめる、全てのことから

 Cause I love you, Cause I love you


ツンの瞳から、一滴の涙がそっと零れ落ちた。

第二部【都激震編】
第三話 了


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