- 223 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 00:55:02 ID:VlUe/HtcO
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第七話 「語るも友、黙るも友」
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(´・ω・`)「村田領を出たら、すぐ二茶根瑠領だ。二茶根瑠領に入れば根十城は近いぞ」
( ^ω^)「もうそんなに進んだんですかお」
(´・ω・`)「ああ。しかし二茶根瑠領に入る前に寄っておきたい場所があるのだが、行っても構わぬか?」
( ^ω^)「?構いませんお」
須貝付を出て、海沿いを歩いている二人。
大平洋から吹いてくる潮風を浴びながら、ブーンと渚本介は二茶根瑠領に向かってひたすら進んでいた。
- 224 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 00:56:33 ID:VlUe/HtcO
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しかし、渚本介が珍しく寄り道の提案をしてきた。
用件を聞くと「昔の馴染みの家に行く」そうだ。
やがて二人は海沿いから逸れ、山道へと入っていった。
( ^ω^)「それにしても、地図もないのによく場所がわかりますおね」
(´・ω・`)「一度来た場所に地図は要らないだろう」
(;^ω^)「あそっか…」
山道をずっと歩くと、今度は小さな川に着いた。
潮風でベタついた体を少し洗い流し、水分をとったところで、二人は川沿いに歩き出した。
渚本介曰わく、目的の家はこの川の上流あたりにあるらしい。
- 225 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 00:58:41 ID:VlUe/HtcO
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川沿いを上流に向かって歩きながら、ブーンが尋ねる。
( ^ω^)「てゆうか渚本介さん、一体何の用でその人の家に行くんですかお?」
(´・ω・`)「ああ…そいつは名を渋沢といって、腕の良い鍛冶職人として有名なのだ」
( ^ω^)「鍛冶屋ですかお」
(´・ω・`)「ああ。この虎恍丸も渋沢の作だ。あいつの造る武器は本当に質がいい」
( ^ω^)「じゃあ、渚本介さんは渋沢さんに虎恍丸を見せに行くんですかお?」
(´・ω・`)「まあそんなとこだな」
鍛冶屋、鍛冶職人などといった言葉はよく聞くが、ブーンは実際の鍛冶屋というものがあまりイメージできていなかった。
それにこれから会えるというのだから、自然に足取りも軽くなる。
歩くこと一時間。二人は小さな建物の前に着いた。
- 226 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 01:00:04 ID:VlUe/HtcO
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(´・ω・`)「ここだ」
(;^ω^)「…え?これ鍛冶屋?」
(´・ω・`)「なんだ不満か?」
(;^ω^)「いえ、そういうわけじゃ…」
不満というより、拍子抜けだった。
プレハブ小屋をそのまま木造にしたかのような外装。ブーンのイメージと重なっていたのは、屋根に煙突があることくらいか。
工場のようなものを想像してたブーンにとっては、かなり意外な外観だった。
(´・ω・`)「行くぞブーン」
( ^ω^)「あ、はいですお」
渚本介は小屋の前に立つと、大きく扉を叩いた。
直後、「うっせえぞ!」というドスの効いた大きな返事が返ってきた。
それを聞いて、遠慮なく扉を開けて中に入る渚本介。ブーンも速やかにその後に続いた。
- 227 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 01:01:58 ID:VlUe/HtcO
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( ,_ノ`)「なんだぁこんな昼間に……って渚本介じゃねえか!」
中に居たのは、椅子に座っている初老の男性のみだった。
ボロボロの扇子をたたみ、二人に豪快な笑顔を向ける。
(´・ω・`)「久しいな渋沢」
_、_
( ,_ノ`)「ヒヒ、おめぇが刀を血錆だらけにしてきた以来だな!ところで、その南蛮人は何なんだ?」
( ^ω^)「ブーンといいますお、よろしくですお」
_、_
( ,_ノ`)「南蛮人なのに言葉が通じるのか!ヒッヒッヒ!こりゃいいや!」
癖のある笑い声でまたも豪快に笑い飛ばすと、渋沢は二人に座るよう促した。
よく笑い、よく喋る、とても明朗な人間だとブーンは思った。
バイト先や親戚にもよくいる普通のオッサンだ。こんなオッサンが鍛冶職人だなんて、あまり想像がつかなかった。
- 228 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 01:04:22 ID:VlUe/HtcO
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( ,_ノ`)「そんでェ渚本介!今日は何の用だい」
(´・ω・`)「虎恍丸を見てほしい」
鞘から虎恍丸を抜き、渋沢に差し出す渚本介。
それを受け取った直後、渋沢は明らかに難しい顔になった。
その表情を見れば、虎恍丸の状態が良くないということがハッキリと伝わってくる。
虎恍丸をじっくりと見ながら、渋沢は独り言のように呟き始めた。
_、_
( ,_ノ`)「…おめぇにしちゃ、血錆は少ねえ方だ。こいつぁ問題ねェ」
_、_
( ,_ノ`)「問題は刃こぼれだな。鋭い鉄板でも斬ろうとしたのかぃ?それとも──」
- 229 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 01:05:07 ID:VlUe/HtcO
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渋沢がゆっくりと顔を上げ、渚本介に目を合わせた。
険しい視線が渚本介と重なる。
_、_
( ,_ノ`)「斬馬刀…天野擬古成と合わせたのか」
(´・ω・`)「……」
何も言わず、じっと渋沢を見つめる渚本介。
その態度が渋沢の問いに対する肯定か否定かなど、聞き直すまでもなかった。
視線を虎恍丸に戻し、刃を優しく撫でながら、渋沢が溜め息混じりに口を開いた。
_、_
( ,_ノ`)「…刀ってェのは、人斬りの道具だ。その理由が護身や復讐でも、人さえ斬ってりゃ刀は生きる」
- 230 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 01:06:41 ID:VlUe/HtcO
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( ,_ノ`)「でもよ、人の魂までは絶対に斬れねえ。絶対にだ」
(´・ω・`)「……」
_、_
( ,_ノ`)「考え直せ渚本介。おめぇが擬古成を斬ろうと、擬古成の天下統一の精神までは斬れねえ。刀っつーのは、所詮刀なんだ」
_、_
( ,_ノ`)「おめぇか擬古成のどっちかが犬死にするだけさ。考え直すんだ」
渋沢が話し終えると、その場に重い沈黙が生まれた。
誰も何も言わないまま、ただ時間だけが流れていく。
やがて、渚本介が口を開いた。
(´・ω・`)「……虎恍丸を鍛え直してくれ」
- 231 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 01:07:43 ID:VlUe/HtcO
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( ^ω^)「!」
_、_
( ,_ノ`)「……」
渋沢の「考え直せ」という台詞を無視するかのように、虎恍丸の鍛え直しを依頼した渚本介。
半ば諦めたように、渋沢も頷いた。
_、_
( ,_ノ`)「ま、俺ぁこういうのが仕事だからよ!依頼がねえと飯も食えねえや!ヒッヒッヒ!」
(´・ω・`)「…すまない」
_、_
( ,_ノ`)「とにかく、状態が悪ぃから時間はかかるぜ。表の川で釣りでもしてな!」
(´・ω・`)「それでは頼む」
_、_
( ,_ノ`)「あいよ!」
虎恍丸を預け、小屋を出た二人。
刀が無いと落ち着かないな、と渚本介が笑う。
- 232 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 01:08:50 ID:VlUe/HtcO
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表にかけてあったいくつかの釣り具を勝手に取り、二人は川辺に立った。
(´・ω・`)「ブーン、川釣りの経験はあるか」
( ^ω^)「一応ありますお」
(´・ω・`)「ようし、勝負をしようではないか」
(;^ω^)「…はい?」
(´・ω・`)「俺は幼子の頃から釣りが好きでな。昼間は複数人で釣りをするのがいいってものだ」
その気持ちはわからなくもない。
しかし、渚本介が釣り好きとはまったくの予想外だった。
ブーンの顔に、笑みが浮かぶ。
( ^ω^)「受けて立ちますお」
(´・ω・`)「ははは、上等じゃないか」
- 233 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 01:10:09 ID:VlUe/HtcO
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木の枝をそのまま削ったような竿に糸を通し、その先に針と餌をつけ、川に垂らす。
ブーンと渚本介は、少し距離を取って釣りに臨んだ。
暫くも待たないうちに、ブーンの竿に何やら手応えが来た。
(*^ω^)「おっ…?」
(´・ω・`)「む、もう来たのか」
ブーンの糸の先に、何やら大きな影が見える。
渚本介が横で見つめるなか、ブーンは竿を上げ始めた。
(*^ω^)「でかい!幸先いいですお!」
(;^ω^)「ってあれ?上がんね…うおっ…」
- 234 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 01:10:26 ID:VlUe/HtcO
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途端、ブーンの手応えは一気に軽くなった。
尻餅をつきそうになりながらも、どうにか持ちこたえる。
水面から跳ね上がった糸の先は、針が虚しく揺れていた。
( ´ω`)「逃げられちゃったお…」
(´・ω・`)「ははは、まだまだだなブーン…おっ」
( ^ω^)「お、今度は渚本介さんに!」
今度は渚本介の竿がしなりだした。
自分の針に餌を付けるのも忘れ、渚本介の様子を見守るブーン。
直後、ブーンの時と同じような大きさの獲物を、渚本介はいとも簡単に釣り上げた。
- 235 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 01:11:40 ID:VlUe/HtcO
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釣り上げた魚を、水の貯まった桶に放り込む。
(´・ω・`)「川魚にしては大きいほうだな」
(;^ω^)(……すげえ…)
(´・ω・`)「さ、勝負はまだ始まったばかりだぞ」
(;^ω^)「おっお。わかってますお」
流石は、自称釣り好き。
今の一手だけで、ブーンはまったく勝てる気がなくなった。
しかし、それでも諦めまいと糸を垂らし続ける。
穏やかな時間が、二人を包んでいった。
──
- 236 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 01:13:26 ID:VlUe/HtcO
- ──
結局、釣り勝負は夕暮れまで続いた。
結果は、ブーンが2匹、渚本介が11匹。
渚本介の圧勝で、勝負は決まった。
゙(ii´ω`)'「惨敗ですおー…」
(;´・ω・`)「いや落ち込みすぎだろ…夕飯は焼き魚だな」
( ^ω^)「お、了解ですお」
夕飯に備え、慣れた手つきで火を起こす渚本介。
少しばかりの沈黙が、その場に流れる。
- 237 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 01:14:35 ID:VlUe/HtcO
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(´・ω・`)「ブーン…」
ブーンの向かいで火を起こしながら、渚本介が不意に話しかけた。
返事をする間もなく、続きの言葉がこぼれてくる。
(´・ω・`)「…俺をうつけ者だと思うか」
火種を探す渚本介の顔は、薄暗くてよく見えない。
しかし、先ほどまで釣りを楽しんでいた者とは思えないような重い口調が、今の渚本介の表情を容易に想像させた。
( ^ω^)「え…」
(´・ω・`)「本当はわかってるのだ。俺の復讐なんて、極まりなく無駄なものなのだと」
- 238 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 01:15:32 ID:VlUe/HtcO
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(´・ω・`)「それでも、擬古成が来るであろう根十城への足は止まらぬ。擬古成を討たんが為の、虎恍丸を振るう腕は止まらぬ」
(´・ω・`)「幼子の我が儘さ。こんな俺を、うつけ者だと思うか」
( ^ω^)「渚本介さん……」
言葉が出てこなかった。
昼間の渋沢の短い説得に、多少なりとも心を揺らされたのだろう。
煙の上がってきた枯れ枝を見つめながら、渚本介が続ける。
(´・ω・`)「釣りで重要な事は、魚との駆け引きだ。駆け引き次第で容易く釣り上げることができる」
( ^ω^)「……」
- 239 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 01:16:49 ID:VlUe/HtcO
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(´・ω・`)「俺は復讐に身を走らせたいが為に、虎恍丸を鍛え直しに来た。あまつさえ、古き友の渋沢をも駆け引きの相手にしてしまったのだ」
(´・ω・`)「誰も俺を許さないだろうな…俺はただのうつけ者だ」
( ^ω^)「……」
(´・ω・`)「…悪かったなブーン。さ、魚を焼くぞ。渋沢を呼んできてくれ」
( ^ω^)「…はいですお」
渚本介に背を向け、小屋へと向かうブーン。
先ほどの渚本介の台詞を反芻させながら、ゆっくりと歩き進む。
あんなにも落ち込んだ渚本介を、ブーンは見たことがなかった。
恐らく、後悔しているのであろう。
そして自分を責めているのだ。
復讐を止めようとしてくれた友に、復讐を手伝わせてしまっている事に。
- 240 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 01:18:14 ID:VlUe/HtcO
-
小屋の扉を小さく叩き、中に入る。
そこには、真っ赤になった虎恍丸をさらに火に入れる渋沢の姿があった。
_、_
( ,_ノ`)「おうブーン!扉を開ける前に合図くらいしろや!」
(;^ω^)「え、あれ…しましたお」
( ^ω^)「……あっ」
途端、ブーンは気付いた。
渋沢は少し耳が遠いのだ。
此処を訪れたときの渚本介の大きなノックは、それを気遣ってのものだったのだろう。
二人の友情が垣間見えた気がして、ブーンは少し嬉しくなった。
( ^ω^)「渋沢さん、外で夕飯を用意してますお」
_、_
( ,_ノ`)「おうそうか!客に飯を用意させるたァ、俺も偉くなったもんだぜ!ヒッヒッヒ!」
_、_
( ,_ノ`)「おうし待ってろ!こいつをもう一回り叩いたら飯だ!」
- 241 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 01:19:32 ID:VlUe/HtcO
-
そういうと、渋沢は分厚い鎚を手に取った。
これから始まる刀の鍛え直しに、急に興味が湧いてくる。
(*^ω^)「渋沢さん、ちょっと見ててもいいですかお?」
_、_
( ,_ノ`)「なんでェ、鍛冶屋が珍しいのかい?ヒッヒ、そういや南蛮人は飛び道具しか使わねえって話だな!」
_、_
( ,_ノ`)「よーしそこに座ってろい!火花が飛ぶと危ねェからな!」
(*^ω^)「ありがとうございますお!」
渋沢はもう一度此方を向いてニヤリとすると、火の中から刀を戻した。
左手に持った大きなペンチのようなもので取っ手を押さえ、右手の鎚を赤い刃に振り下ろす。
直後、金属的な乾いた音と共に、綺麗な火花が辺りに散った。
- 242 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 01:21:05 ID:VlUe/HtcO
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(*^ω^)「おお…」
カン、カン、と音は響き続ける。
その度に火花が散り、薄暗い小屋を明るく照らす。
暫くその作業に見入ってると、渋沢が手を休めぬまま話しかけてきた。
_、_
( ,_ノ`)「なァ、渚本介の野郎、何か言ってたか?」
( ^ω^)「え?」
_、_
( ,_ノ`)「いや、まさかと思ってんだがよ!まさかあいつ、俺に虎恍丸を鍛え直させてるのを後悔してんじゃねェのか?」
(;^ω^)「ど、どうしてわかったんですかお?」
隠したつもりはないが、まさかバレているとは思わなかった。
渋沢の横顔を見ると、作業に歯を食いしばりながら、少しだけニヤリとしていた。
- 243 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 01:23:01 ID:VlUe/HtcO
- _、_
( ,_ノ`)「ヒッヒ、やっぱりそうか!あいつは昔からそういう奴さ!何かある度に自分を責めやがる!」
_、_
( ,_ノ`)「いつもに何かに後悔しながら、復讐の旅をしてんだぜ…お笑い草さ!んな人生なら捨てちまえって話なんだよ!」
ふと手を止め、腰を逸らす渋沢。
横にあった布で顔を拭くと、そのまま布で刀を煽り、ゆっくりとかぶせた。
_、_
( ,_ノ`)「あいつはやっぱり、復讐を続ける気なのか?」
( ^ω^)「…そうですお」
_、_
( ,_ノ`)「死なねェとわかんねえらしいなあの阿呆は。復讐なんて誰かが死ぬだけだってのによ」
さあ飯だ。と先に小屋を出る渋沢。
すれ違う瞬間、ブーンは見た。
渋沢の顔が、悲しみに染まっていたのを。
──
- 244 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 01:24:20 ID:VlUe/HtcO
- ──
空はすっかりと暮れ、魚を焼くための火が辺りを強く照らしている。
その火を、既に渚本介と渋沢が囲んでいた。
(´・ω・`)「ん?ブーンはどうした」
_、_
( ,_ノ`)「あぁん?あんやろ、まだ中にいんのか」
少し気になって、小屋の方へと目を向ける二人。
その視線の先で、ちょうどいいタイミングで扉が開いた。
そこには、少し張り詰めた顔のブーンが立っていた。
その肩にはギターが掛かっている。
(´・ω・`)「…ブーン?」
_、_
( ,_ノ`)「んだァありゃ?南蛮の武器か?」
- 245 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 01:25:42 ID:VlUe/HtcO
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火を囲う形でどっしりと座り込むブーン。
少し混乱したような二人に、ブーンが口を開く。
( ^ω^)「渚本介さん、心配はご無用ですお。渋沢さんは確かに渚本介さんを心配してるけど、それでも背中を押してくれる友なんですお」
(´・ω・`)「……」
( ^ω^)「渋沢さん、渚本介さんは強いんですお。簡単には死にはしませんお。それに…」
_、_
( ,_ノ`)「……」
二人の顔をもう一度見て、表情を崩すブーン。
( ^ω^)「渚本介さんは、なにも復讐しか見えてないような人間じゃないですお」
- 246 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 01:27:01 ID:VlUe/HtcO
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少し恥ずかしそうに、一瞬だけ、渚本介と渋沢は目を合わせた。
途端、二人は目を逸らしながら苦笑いを浮かべた。
( ^ω^)「…それが友情ってやつですお」
柔らかな雰囲気のなか、ブーンはギターを構え、ゆっくりと演奏を始めた。
曲はKiroroの「best friend」のソロギター。
人を思う気持ちが、朗らかな旋律に乗って、その場に流れていく。
(´・ω・`)「……」
_、_
( ,_ノ`)「……」
友を気遣うこと。心配すること。引き留めることも、背中を押すことも。
すべてが友情であり、友の証なのだ。
物静かな渚本介も、口うるさい渋沢も、ブーンの演奏に静かに聴き入っていた。
ひどく心地の良い、暖かい夜だった。
そう思えたのは、果たしてこの三人の囲う小さな火のおかげなのか。
──
- 247 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 01:28:02 ID:VlUe/HtcO
- ──
翌朝。
陽の光が眩しい川辺で、渚本介は渋沢から新しくなった虎恍丸を受け取った。
_、_
( ,_ノ`)「おめぇの刃を合わせる戦い方を考えて、耐久性を考えて鍛えた。少し重くなってるが問題ねェか?」
(´・ω・`)「ああ」
渚本介は近くの木を軽く蹴り、落ちてきた葉に居合いを合わせた。
数秒遅れて、葉は二つに分かれた。
(´・ω・`)「相変わらず質の良い上がりだ」
_、_
( ,_ノ`)「ヒッヒ!そりゃどーも!」
- 248 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 01:29:16 ID:VlUe/HtcO
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虎恍丸を鞘にしまい、懐から小銭入れを取り出した渚本介を、渋沢は慌てて制した。
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( ,_ノ`)「ああ代はいらねェよ!こっちも暇つぶしに刀叩いたようなもんだ!」
(´・ω・`)「しかし…」
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( ,_ノ`)「代はいらねェけどよ、一つ約束してくれよ」
小さく首をかしげる渚本介。
後ろで荷物を用意していたブーンが、少し笑った。
_、_
( ,_ノ`)「絶対に死ぬんじゃねェぞ!擬古成を斬ったあとは、またうちに寄ってくれや!そん時は酒出してやらァ!」
(´・ω・`)「ははは、わかった、約束しよう」
- 249 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/19(土) 01:30:13 ID:VlUe/HtcO
- _、_
( ,_ノ`)「おめぇもだブーン!またそのぎたーとやらを弾いてみせろよな!」
( ^ω^)「了解ですお!」
荷物を持ち、ブーンと渚本介は渋沢を背に歩き出した。
何度も振り向いて手を振るブーン。その横で、渚本介は前を向いたまま歩き続ける。
しかし、渚本介の顔はこれまでに無いほど明るいものだった。
渋沢の癖のある笑い声が、二人のずっと後ろから聞こえてきた。
第七話 終
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