( ^ω^)戦国を歩くギタリストのようです

257 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:30:02 ID:VuIUXoJAO
***
第八話 「如何なる音も、闇を照らす」

***

 
 二茶根瑠領、根十城。

 領土自体はさほど大きくはないが、どの国にも引けを取らない武力を誇る国だ。
 その軍隊の中心指揮地であり、二茶根瑠一族の居城が、この根十城なのだ。

 小高い丘の上に位置する根十城からは、二茶根瑠領をある程度見渡すことができる。
 その景色の美しさは、ブーンのいた五百年後には観光名所や絶景スポットとして知られるほどだ。

258 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:30:40 ID:VuIUXoJAO
 
(*^ω^)「すげえお…」


 その景色に見とれながら、ブーンは渚本介に付いて丘を登っていた。

 疲れが吹き飛ぶほどの景観だ。
 緑が茂る山に、遠くに浮かぶ水平線。
 そして、二人が歩く先にそびえる大きな城。

 夕暮れの近い時刻ということもあって、そこはとても心地良い場所だった。
 涼しい風が、二人の体を撫でていく。

 
(*^ω^)「すごく良いところですお…こんなところに城を建てるなんて、二茶根瑠家も贅沢なもんですお」

(´・ω・`)「ははは、そうだな」

259 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:31:29 ID:VuIUXoJAO
 
 その心地良さに半ば酔っていたブーン。
 しかし、根十城のすぐ手前まで来ると、その軽々しい気分は一気に重く落ちた。

 かつて訪れたことのある二子堂城とは比べものにならないほど、根十城の威圧感はとてつもなかったのた。
 その巨大さだけじゃない。何か重苦しい空気のようなものを、ブーンは感じていた。

 
(´・ω・`)「…どうした?」

(;^ω^)「あ、いえ、何でもないですお」

 
 門の辺りまで来ると門番が詰め寄ってきたが、前回のように渚本介が軽くあしらい、二人は根十城の中へと入っていった。

 

──

260 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:32:45 ID:VuIUXoJAO
──

 
( ゚д゚ )「……真か?」

(ー_ー)「はい、まごうことなく太田渚本介本人でございます。それに、妙な南蛮人を引き連れておりました」

( ゚д゚ )「用は?」

(ー_ー)「それが、二人はそれぞれ別の目的があるようで。太田渚本介は“来る天野勢に対する戦力になりたい”と。南蛮人の方は、“二茶根瑠家近習の尾付出麗に会いたい”とのことです」

( ゚д゚ )「ふむ…」

 
 二茶根瑠領領主、二茶根瑠巳留那(みるな)。

 その鋭い目を近習頭の尾付比岐(ひき)に合わせ、空気が張るほどの重く低い声を向ける。
 立派な椅子に腰を下ろし、体を大きく広げるその姿は、流石は一国一城の主だと思ってしまうほどのものだ。
 齢は既に初老と呼べるもだが、その風貌からみえる威圧感からは、年齢以上のものを感じさせられる。

 
 巳留那は、渚本介とブーンが自ら居城する根十城を訪れたことを、比岐から告げられていた。
 とりあえず二人に此方まで来るように指示し、小さな椅子に座る。

261 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:33:51 ID:VuIUXoJAO
 
 待つこと数分。
 巳留那の前に現れたのは、確かに“戦魔”と唱われた太田渚本介と、妙な衣を着て妙な道具を持った南蛮人、ブーンだった。
 渚本介は巳留那の目の前で礼儀正しく座り、ブーンはその横でぎこちなく座りこんだ。

 
(;^ω^)(すっげえ威圧感だお…)

( ゚д゚ )「珍しい顔が来たものよ…戦魔、太田渚本介よ。お前の用はなんだ」

(´・ω・`)「はっ。某(それがし)、彼の天野擬古成が、近いうちに根十城に攻めるとの話を耳にしております」

(´・ω・`)「擬古成には私怨が存ずる故、某が貴勢に加わり、擬古成を討たんと考えております」

( ゚д゚ )「フ…正直な口よの」

262 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:34:50 ID:VuIUXoJAO
 
 太田渚本介の話は聞いたことがあった。
 天野擬古成に強い復讐心を抱き、その首を取る為に旅を続ける武者。

 この話が本当なら、今回の渚本介の依頼も合点がいく。
 巳留那は暫く黙り込んだ後、小さく頷いた。
 

( ゚д゚ )「余は戦功や武勲など欲さぬ。特にこの戦、天野勢に城を落とされさえなければ、それで良いと思っておる」

(´・ω・`)「……」

( ゚д゚ )「擬古成のことは好きにしろ。但し我軍を惑わすようなことは決して許さぬ」

(´・ω・`)「はっ。有り難うございます」

( ゚д゚ )「…して、そこの南蛮人」

263 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:36:02 ID:VuIUXoJAO
 
(;^ω^)「え、はお、は、はいお」

 
 巳留那と渚本介のやりとりを生唾を飲んで見ていたブーンは、急に呼ばれたことに大きく驚いた。
 そんなブーンの様子を気にかけることなく、巳留那が続ける。
 

( ゚д゚ )「余の近習、尾付家の者に会いたいとな?」

(;^ω^)「は、はっ、そうでごぜえます」

(;´・ω・`)(ごぜえますってお前…)

( ゚д゚ )「ふむ、理由は何だ」

(;^ω^)「は、えと、こないだ尾付出麗さんの、こ、琴爪を拾ったんですお。そそそれを渡そうと思って」

( ゚д゚ )「琴爪か…」

264 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:37:32 ID:VuIUXoJAO
 
 ブーンの言っていることに嘘は無い。
 拾った琴爪を出麗に渡し、元の時代へ帰るヒントが欲しい、というのがブーンの本音だった。

 たかが近習を務める娘に会うだけだ。簡単に許可は下るはず。
 しかし、巳留那の発した言葉は、ブーンにも渚本介にも予想外なものだった。

 
( ゚д゚ )「……比岐よ」

(ー_ー)「はっ」

( ゚д゚ )「この南蛮人を捕らえよ」

(ー_ー)「御意」

(;´・ω・`)「!!」
 

 巳留那の命で、比岐が屈強な男二人を呼んだ。
 その二人がブーンの後ろに回り、腕を胴ごと縛り始める。

 
(;^ω^)「えっ?え?」

(;´・ω・`)「なっ、待たれよ巳留那殿!何故に!」

265 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:38:40 ID:VuIUXoJAO
 
 室外に連れていかれそうになるブーンを見て、思わず立ち上がって声を張り上げる渚本介。
 それを見ながら、巳留那が落ち着いた様子で口を開く。

 
( ゚д゚ )「我が二茶根瑠家近習、尾付の者は滅多に城外に出ぬ。ましてやその娘の出麗は琴を嗜む女子故、全く外に出ぬのだ」

( ゚д゚ )「その娘の琴爪を持っているなど、盗人でもない限り考えられぬ」

(;´・ω・`)「なれば盗人が立ち入ることも出来ぬはず!どうかお考え直しを!」

( ゚д゚ )「ふん、もうよい。行け」

(ー_ー)「はっ」

(;´・ω・`)「巳留那殿…!!」

(;^ω^)「えっ、嘘、嫌だお、死にたくないお!!渚本介さん!」

266 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:39:58 ID:VuIUXoJAO
 
 二人の男に腕を抱えられ、引きずられるように遠ざかるブーン。
 助けてくれ、という強い思いだけを込めて、渚本介の名を何度も呼び続ける。
 

(;´・ω・`)「ブーン!……ッ!」

 しかし、ブーンにあまり構っていると、自分も疑われかねない。

 ブーンの姿が見えなくなるのを、渚本介は黙って見ている他なかった。
 

(;´・ω・`)「……」

( ゚д゚ )「本当はお前も疑い、引っ立てるべきだ。しかし戦が近い。そのような暇があれば、兵どもの士気を上げるよう努めよう」

 
 吐き捨てるように言うと、巳留那はおもむろに立ち上がって客間を出た。

 全くの予想外の出来事に、途方に暮れる渚本介。
 外界は夜を迎えようとしていた。
 


──

267 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:41:26 ID:VuIUXoJAO
──

 
( ;ω;)「し、死にたくな、ないお、渚本介さん…」

 
 根十城地下牢。
 窓も灯りもなく、布団の代わりだとでも言わんばかりに積み重なる藁があるだけの部屋。
 人生で一度も入ることはないだろうと思っていた牢屋に、ブーンは放り込まれていた。


 ギターなどの荷物を没収されたブーンは、その暗い部屋で恐怖のあまりに涙を流してした。
 盗みの罪が疑われているのだ。下手をすれば死んでしまう。

 それだけは何が何でも嫌だった。
 この時代に飛ばされて何日何ヶ月が経ったのかは知らないが、必ず生きて元の時代に戻ることを夢見ていたのだ。
 それが今、ブーンは元の時代に戻るどころか、この時代で死刑を受けそうになっている。

 涙も、全身の震えも、一向に止まろうとしなかった。
 現状を考える度に、気が変になりそうだった。

268 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:42:23 ID:VuIUXoJAO
 
 不安なのは、それだけじゃなかった。

 この時代に飛ばされてから、いつも側に居てくれた男が、そこにいない。

 
( ;ω;)「ヒック…お腹、空いたお…」

( ;ω;)「しょ、渚本介さん……」

 
 お腹が空いたと漏らす度に、笑って飯の時間だと言ってくれた渚本介。

 まさかこんな別れ方をするとは思っていなかった。
 ブーンを相棒と呼んでくれた彼の男は、もう、仲間ではないのだ。

 盗人と兵が、共存していいはずがないのだから。

 

──

269 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:44:15 ID:VuIUXoJAO
──
 

 根十城内部に小さく設けられた兵士宿舎。
 大勢の兵が火を囲んで談笑する広間で、渚本介は一人、寝転びながら夜空を眺めていた。

 
(´・ω・`)「……」

 
 眠れるものなら今すぐにでも眠ってしまいたいが、目を閉じる度に色々な考えが脳裏をよぎる。

 再びまみえることになる天野擬古成のこと。この戦が終わってから、その後のこと。
 そして、幽閉されているブーンのこと。

 
(´・ω・`)(戦が終わるまで、死刑を執行するはずが無いか…)

 ブーンを助けるのは、戦が終わってからでも大丈夫だろう。
 巳留那とうまく掛け合えば、釈放も充分有り得るはずだ。

270 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:45:16 ID:VuIUXoJAO
 
 気がかりなのは、この戦だ。
 天野勢は必ず近いうちに城を攻めてくる。
 下手をすれば今すぐにでもだ。

 擬古成はそういった夜襲、奇襲を好む。
 スムーズに戦を運び、時間をかけることなく勝利を収める男である。

 もっと警戒するべきだ。
 しかし、兵士達はすっかり日常の気分に入っている。今から士気を上げようなんて無理な話だ。

 
(´・ω・`)「……」

 
 よく考えてみると、やっぱり今日はそこまで警戒する必要は無いのかもしれない。
 昼間に根十城を訪れたとき、一軍がやってくる気配はまるで無かったからだ。

 今晩くらいは、重い警戒はしなくていいのかもしれない。
 渚本介は一つ深呼吸すると、再び夜空を眺め始めた。

 

──

271 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:46:19 ID:VuIUXoJAO
──
 

 夜もすっかり更けた頃。
 時間の感覚を感じられない地下牢では、ブーンが一人、藁の上に横たわっていた。
 

( ´ω`)「…マジでお腹空いてきたお……」

 
 どちらかと言えばよく食べる方だったブーン。
 昼から何も食べていないことを思い出し、腹の虫が鳴くのを聞きながら、ブーンはただ横たわっていた。


 暫くそのまま横になっていると、地下牢の奥から、何やら話し声が聞こえてきた。
 一組の男女が言い争っているようだ。

 急に好奇心が湧いてきたブーン。
 牢屋の入り口に近づき、耳を傾ける。

272 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:47:40 ID:VuIUXoJAO
 
「出麗様!ああ、もはや何と申し上げれば良いのやら…」

「いいじゃないの顔見るくらい!ほら通しなさい!」

( ^ω^)(出麗様…?)

 
 かなり聞き覚えのある名前が、ブーンの耳に飛び込んできた。
 そう、ブーンが何故か琴爪を持ち、探していた女性、尾付出麗。
 どうやら、その出麗が看守の男と揉めているようだ。それも、恐らくブーンに会う為に。

 
(*^ω^)(こりゃラッキーだお!)

 元の時代に戻るヒントを得る為の、願ってもないチャンスだ。
 どうにかして此処まで来れないか。ブーンは心の中で祈りながら、再びその押し問答に耳を傾けた。

273 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:48:56 ID:VuIUXoJAO
 
「いいから通しなさいよ!」

「なりません!ほら、もうお戻りになってください!比岐様に察されたら、何を言われるやら」

「…仕方ないわね」

(;^ω^)(おいおいおいもっと頑張ってくれお!)

「ふう…さ、私も付いて行きますから。もう戻りましょう」

「そうね……」
 

 ブーンの祈りも虚しく、二人の声は遠ざかっていく。
 ブーンは思わず格子にしがみついた。

 
(;^ω^)(おーい!行くなお!おーい!!)

「…って行くわけねーだろハゲ!!」

「うごっ!?」

(;^ω^)「えっ」


 途端、何やら布を思いきり蹴り上げるような音が、ブーンの耳に聞こえてきた。
 恐らく、いや間違いなく蹴り上げたのだろう。看守の声はもはや聞こえない。ご愁傷様です。

274 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:49:55 ID:VuIUXoJAO
 
(;^ω^)(うんまあ…結果オーライだお)

 
 心の中で手を合わせ、ブーンは格子から手を離した。
 その直後、ブーンの目の前に、先ほどの声の主──出麗が現れた。

 
ζ(゚ー゚*ζ

 それはまるで人形のような、綺麗な少女だった。
 背は低いが体の線が細く、何より肌の色が透き通るように白い。

 出麗はブーンを見て、その整った目を丸めると、吐き出すように呟いた。

 
ζ(゚ー゚*ζ「ブスね」


( ^ω^)

275 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:50:53 ID:VuIUXoJAO
 
ζ(゚ー゚*ζ「何?南蛮の男は皆たくましいって聞いたわよ?何お前そのブッサイクな面」

( ^ω^)

ζ(゚ー゚*ζ「なんか力無さそうだし頭悪そう、マヌケ面」

ζ(゚ー゚*ζ「てゆうかお前何の武器も持ってなかったらしいじゃない。男失格ねこのクズ」

ζ(゚ー゚*ζ「せめて筋肉くらい…」
( ^ω^)「すみませんもうやめてください。僕泣きそうなんで。割とマジで」

ζ(゚ー゚*ζ「あっそ」

 
 久しぶりに浴びた女子の罵声。
 心の弱いブーンは何もかもが嫌になった。何故かお母さんに会いたくなった。


ζ(゚ー゚*ζ「それで、アンタが私の琴爪を拾ったんだって?」

(;^ω^)「あ…そうですお、決して盗んではないですお!」

276 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:51:59 ID:VuIUXoJAO
 
 盗人の疑いがかけられていたことを、急に思い出したブーン。
 慌てふためくブーンに、出麗が見下した目を向ける。

 
ζ(゚ー゚*ζ「うるさいわよ。アンタが盗んでないことくらいわかってる。アンタみたいなブス見たことないし」

(;^ω^)「あ、良かった…」
 

 どうやら死刑は免れたようだ。
 無意識に胸を撫で下ろし、安堵のため息をついた。

 
ζ(゚ー゚*ζ「そんなことより、アンタ琴爪をどこで拾ったの?」

(;^ω^)「へ?あ、えと…す、須貝付の町で商人が落としたのを拾ったんですお」

277 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:54:20 ID:VuIUXoJAO
 
 嘘をつくのが苦手なブーン。
 出麗が疑うように見てきたが「ま、いいわ」と流してくれた。
 

ζ(゚ー゚*ζ「あ、そうだ。今ちょっと鍵を開けるわね」

(;^ω^)「え?なんでですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「勘違いしないでよね。アンタに渡したいものがあるだけなんだから」

( ^ω^)「渡したいもの?」

ζ(゚ー゚*ζ「私もね、琴を嗜む身だからわかるの」

 
 呟くように話しながら、鍵を開ける出麗。
 開いた扉の中に躊躇いなく入りこみ、ブーンに大きな荷袋を渡した。
 中には、ブーンのギターが綺麗に収まっていた。

 
(*^ω^)「ギターだお!」

ζ(゚ー゚*ζ「ふーん、ぎたーっていうんだそれ」

(*^ω^)「はいですお、ありがとうございますお!」

278 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:55:13 ID:VuIUXoJAO
 
ζ(゚ー゚*ζ「見たことない形だけど、楽器だというのはわかった。それに、随分とそれを愛しているのもね」

(*^ω^)「そうですかお…」

 
 ギターが戻ってきた喜びに、嬉しさを隠せないブーン。
 よく見ると、きちんとピックも挟まっている。

 何度も感謝の言葉を伝えながら小さくはしゃぐブーンに、出麗が微笑みながら口を開いた。

 
ζ(゚ー゚*ζ「ねえ、そのぎたー、弾いてみてよ」

(;^ω^)「…え?」

ζ(゚ー゚*ζ「だーかーらっ、弾いてみなさいって言ってるの、それ」
 

 まるで最初に渚本介と会ったときのような状況に、少し戸惑ったブーン。
 しかし、すぐに冷静になってギターを構えた。

279 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:56:12 ID:VuIUXoJAO
 
( ^ω^)「行きますお」

ζ(゚ー゚*ζ「……」

 
 ブーンの前に立ったまま、黙って頷く出麗。
 暗く静かな空間に、ギターの音色が響き始めた。

 曲はリーチェの「ogiyodiora」のソロギター。
 不安を煽る暗い空間に、優しく光る旋律が響いていく。

 
ζ(゚ー゚*ζ「……」

 
 先程とは打って変わって、何も声を出さない出麗。
 ブーンの演奏を、ただ静かに聴き続ける。

 やがて、ブーンの演奏が、ゆっくりと終わっていった。

280 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:57:20 ID:VuIUXoJAO
 
( ^ω^)「……終わりですお」

 
 ギターから手を離し、出麗の方に目を向ける。
 そこには、ぽかんと口を開いたままの出麗の顔があった。

 
ζ(゚ー゚;ζ「…ちょっとアンタ」

(;^ω^)「何ですかお」

ζ(゚ー゚;ζ「アンタ凄いじゃない…他人の演奏にこんなに聴き入ったのは初めてよ」

(;^ω^)「あ、はい…恐縮ですお」

 
 出麗はブーンの演奏を聴いて、感動のような驚きのようなものを受けたらしかった。
 また何やら感想を言おうと口を開く。

 しかし、その声はすぐに掻き消された。
 城内に大きく鳴り響く、鐘の音によって。

281 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:58:47 ID:VuIUXoJAO
 
 カン、カン、と音は大きく鳴り続ける。
 暫くもしない内に、城内がやけに騒がしくなった。

 
ζ(゚ー゚;ζ「え!?何これ!?」

(;^ω^)「ヤバいですお出麗さん!早く逃げなきゃ!」

 この音には覚えがあった。
 そう、かつて二子堂城が落とされた時。
 夜襲を知らせる合図として、城内を鐘の音が鳴り響いたのだ。

 今もこの根十城に鐘が鳴り響いている。
 そこから導き出せる答えは一つ。

 
(;^ω^)「夜襲ですお!!天野勢が攻めてきたんですお!」

ζ(゚ー゚;ζ「そんな…!」

(;^ω^)「いいから早く逃げますお!」

 
 ギターを背負い、出麗の手首を掴んで牢屋を飛び出したブーン。
 城内は鐘以上に大勢の怒号が響き渡っていた。

 

──

282 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 01:59:49 ID:VuIUXoJAO
──

 
(;´・ω・`)「やはり夜襲か…擬古成め」

 
 最悪の事態が起きた。
 根十城に集まった約五千の二茶根瑠勢は、全くと言っていいほど戦の心準備ができていなかったのだ。
 混乱状態の中、なんとか城内上部に弓隊が、城外にまずは一番槍隊が着いた。

 城内合戦に備え、城内で待機する渚本介と兵達。
 やがて、城の向こうから、大勢が地面を踏み走ってくる音が聞こえてきた。

 
(;´・ω・`)(大軍か…)

 
 地鳴りのようなその音に、二茶根瑠勢の兵達は身を固める。

283 名前: ◆vVv3HGufzo:2011/03/23(水) 02:01:40 ID:VuIUXoJAO
 
 月明かりに照らされる、小高い丘の下。
 弓隊と一番槍隊の視界に、大軍の天野勢が映ってきた。

 大軍が来たぞ、と誰かが叫ぶ。
 兵達の身が、緊張で更に引き締まる。

 
 根十城に、約五千の兵を持つ二茶根瑠勢。
 それを攻めるは、天野勢、全隊にして約一万五千。

 後の歴史を揺るがす城攻めの戦が、今、始まろうとしていた。

 

第八話 終

戻る 次へ inserted by FC2 system