(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです
- 282 名前:名無しさん 投稿日:2016/07/22(金) 22:09:52 ID:jotWtS3k0
34 地を穿つ角
- 283 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:10:15 ID:jotWtS3k0
「おおおおおん!???」
僕の少し前を歩いていたブーンが突然視界から消えた。
声のした上方を見れば、足首に引っかかった蔦で逆さに吊るされていた。
(;´・ω・`) 「ブーン! すぐに降りてこい!」
尋常じゃないことを理解していたのか、
腰に結んでいた剣ですぐさま足のロープを切り、顔を下にして地面に落ちてきた。
( メωメ) 「もが……」
ブーンの姿があった場所を数本の矢が通り過ぎていく。
樹に突き刺さった矢尻から立ち昇る藍色の煙。
(#^ω^) 「なんなんだおこの森は!」
(´・ω・`) 「……どうやら僕たちは招かれざる客みたいだね」
森の中、重なり合う木々の向こう側に感じる気配は少なくない。
先程から何度も不意を突くように方向転換をしたり、茂みの中に飛び込んだりしてみたが、
人影を見つけることは出来なかった。
- 284 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:11:04 ID:jotWtS3k0
( ^ω^) 「森を出たら放っといてくれるのかお……」
(;´・ω・`) 「わからない。そもそも、彼らの集落が何処にあるのかも……なっ!?」
気づいた時には空を見上げていた。
腹部に感じた鈍痛はゆっくりと引いていき、近くでブーンもまた泥まみれになりながら起き上がる。
大樹の幹を利用した簡単な振り子式の罠。数十歩分も後ろに吹き飛ばされるほどの衝撃。
並みの人間であれば骨折ではすまなかっただろう。
周囲に気を取られすぎていて気づかなかった。
(メ´・ω・`) 「ってて……」
( ^ω^) 「身がもたないお」
(´・ω・`) 「かといって闇雲に攻めるわけにもいかない。僕らに敵対する意思はないことを伝えないと」
(; ^ω^) 「とは言っても……」
相手に対話をするつもりが無ければ、言い訳も説得も成り立たない。
とはいえ相手は恐らくこの森を住処にしている部族。地の利は明らかに向こうに傾いている。
このまま何もしなければ、追い込まれた獣のように狩られるだけだ。
- 285 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:12:29 ID:jotWtS3k0
荷物の中にある錬金術を用いれば多少は状況が好転するだろうが、あまり本意ではない。
相手の正確な位置がわからぬままに使うことで、ただの脅しではすまなくなってしまう可能性がある。
そうなれば今以上に相手は僕らに殺意を向けて来るだろう。
(´・ω・`) 「とりあえず、ここは罠だらけだ。出来るだけ早く森を出たいが、どうするべきだと思う?」
( ^ω^) 「ここからだと南に向かえば森を出るための最短ルートだお。
だけど、さっきまでの罠の様子からしてもこっち側に住処があってもおかしくないお」
(´・ω・`) 「……まさかこんな森の深いところで人間と出くわすとはね」
( ^ω^) 「先住民族かお?」
(´・ω・`) 「こんな森の中に……いや、森の奥だからか」
錬金術によって世界は狭くなったが、
ごく限られた地域の中で、コミュニティをつくり細々と生活している民族は確かに存在する。
部外者に対しての扱いは一族ごとによって異なるが、
運の悪いことにこの森に棲む一族は僕らを敵と見做したらしい。
- 286 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:13:05 ID:jotWtS3k0
周囲に気を配りながらも足を止める。
緑の闇に潜んだ人間の呼吸が聞こえてくるような気がして気味が悪い。
( ^ω^) 「おー視線を感じるお……」
(´・ω・`) 「気のせいだ、とは言えないな。こちらからは全く見えないのは一体どういうことだ?」
( ^ω^) 「錬金術……じゃないおね?」
未開地の一族が錬金術を使えるとは思えないが、
たとえ使っていたとしても不思議ではない。
それほどまでに世の中に錬金術という存在がありふれている。
(´・ω・`) 「百年で随分と変わったな……」
( ^ω^) 「お?」
(´・ω・`) 「……いや、独り言だ。これはたぶん錬金術が原因じゃないな。
ここまで違和感を感じるのは、生きた人間が直接絡んでいるからだろ」
( ^ω^) 「まぁ、どっちでも取る手段に大差はないお。
とにかくこの場所からうまく抜け出すにはどうするのがいいか教えてくれお」
- 287 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:13:37 ID:jotWtS3k0
(´・ω・`) 「落ち着いて考えよう。どうも今すぐ捕まえて焼こうとしているわけでもなさそうだ」
前に進んでいる間の敵意ある視線は、立ち止まっている間は僅かに和らいでいる。
人間の気配を隠しもしないということはつまり、彼らの目的は狩りではないということ。
それならば、考える時間は少なからずある。
(´・ω・`) 「最初に落ちてきたところからどのくらい歩いた?」
地図を広げ、指で経路をたどる。
とはいえ、森の中で何の目印もないため精度はかなり低い。
( ^ω^) 「三日半だお。僕の歩幅から考えると、大体この辺だおね」
方位磁針を地図の上に置くブーン。
僕らは東から西へと、ほぼ一直線に歩いてきた。
今も変わらず、正面はきっかり西を指している。
(´・ω・`) 「ここからもう少し南西に向かうと大きな沼がある。これを左回りに迂回しよう。
そこからなら本来僕らが通るべき予定だった海岸沿いの街道に出れるはずだ」
( ^ω^) 「沼地の淵なんか歩いて大丈夫かお?」
(´・ω・`) 「別に底なし沼ってわけでもないだろ。
きっちり地面を見て歩いていたら、人間一人がそんな簡単に沈むもんか」
- 288 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:14:21 ID:jotWtS3k0
( ^ω^) 「まぁ、確かにそうだおね」
(´・ω・`) 「それに沼の近くなら隠れる場所もそう多くはないし、罠を仕掛けるような場所もない」
( ^ω^) 「決まりだお」
僕らはゆっくりと立ち上がり、茂みを切り開きながら進路を南西に向けた。
くねくねと曲がってはいるが人間が歩けるだけの獣道がある。
運よく彼らの普段使っている道に出ることができたのだろう。
おかげで背の高い雑草を切り分けてきた今までよりも倍以上のペースで進めた。
森の中、時に牽制する様に前後左右に適当に石を投げてみるが、何の反応もない。
目に入るのは雑多な草木ばかりで、食用にもできないものだ。
群生している植物のうち、錬金術に使えそうな素材はほとんどなかった。
( ^ω^) 「ショボン」
(´・ω・`) 「なんだ」
(; ^ω^) 「あれは……」
- 289 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:15:58 ID:jotWtS3k0
前を行くブーンはほんの二、三歩ほど先にいる。見えている景色は僕とさほど変わりがないはずだ。
彼の視線の先にあったのはただの空き地。
確かに森林地帯では珍しいかもしれないが、特段騒ぎ立てるほどのものではない。
そう思いながらブーンの横に並んだ時に、その異常さに気が付いた。
広場の中心に突き刺さった白の十字。大人の腰くらいまでの高さしかないそれは、
雨に打たれて朽ち欠けながらもなお、その色を失わずにそこにあった。
まるで浸透するかのように、十字の足元に生えた草花も白く染まっている。
(;´・ω・`) 「なんだ……あれ……」
近寄りたくないと、はっきり思った。
その十字の意味も、素材も、性質も、何一つ理解できない。
神州で見たこの世界の常識を覆すような知識の存在とは異なる、
深層心理の底から湧き上がってくるような恐怖。
咄嗟に彼女の言葉を思い出せた僕はきっと運が良かったのだろう。
前に進もうとするブーンの腕を掴み、引き戻した。
あまりにもその力が強かったせいで、ブーンはバランスを崩して尻もちをついている。
それに対する抗議はなく、起き上がることもなく、ただただ眺めていた。
- 291 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:16:45 ID:jotWtS3k0
( ^ω^) 「……」
(´・ω・`) 「……行くよ。あまり見ていないほうがいい」
引きずるようにブーンを引っ張り起こし、そのまま少しだけ来た道を戻った。
広場の大きさは充分に観測できたし、それを避けることは簡単だ。
弧を描きながら先程までと同じように南西へと向かえばいい。
ついさっきまで感じていた複数の視線は、いつの間にかなくなっていた。
それに気づいたのは、広場もはるか後方になった頃。
握りしめていた拳をようやく解くことができた。
( ^ω^) 「あれは……なんだったんだお……?」
抜け殻の様に後ろを黙ってついてきていたブーンが口を開いたのは、
休憩の為に草を刈って束にしていた時。
適当に纏めた草の上に座って、僕は質問への答えを理解しやすい形へと整えていた。
(´・ω・`) 「信じてもらうしかないんだけど、僕が神州に行ってたのは知ってるよね」
( ^ω^) 「シュールに聞いたお。神州にいる古代錬金術師の番人が、リリの情報を持っているかもってことだったおね。
どういう結果だったのかは聞いてないけど、まぁそれは後でいいお」
- 292 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:17:48 ID:jotWtS3k0
(´・ω・`) 「まぁ色々あって、神州でとある場所を訪れることになった。黒煙峡の浮遊館。
その名前だけは神州の錬金術師で知らない者はいないほどの知名度があった」
( ^ω^) 「浮遊館って、そのままの意味かお……? だとしたらとんでもないお」
錬金術を用いても物体を浮かせ続けることは非常に難しい。
常に発生している落下し続ける力に抗うために、極端にエネルギーを消費するからだ。
それが館一つ分ともなれば、とんでもない規模の錬金術が必要になる。
(´・ω・`) 「あの場所はたぶん錬金術じゃなくて、地形的な現象なんだろうけどね。
その浮遊館に一人の女性がいた。彼女は僕らと同じ……いや、僕ら以上の不死者だ」
( ^ω^) 「僕ら以上の?」
(´・ω・`) 「うん。彼女は僕のことを半端者と言っていたけどね」
中途半端で、完成されていない不老不死。
主観的に見れば、とてもそうは思えないけれど。
( ^ω^) 「何者なんだお」
(´・ω・`) 「シュールと同じ……イヴィリーカの知識を得た人間だ」
- 293 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:19:43 ID:jotWtS3k0
(; ^ω^) 「っ!」
(´・ω・`) 「彼女が言うには、シュールよりも遥かに知識量があるらしいんだけどね。
浮遊館の中で少し話す機会があったんだ。
世界には人間には理解できないような場所や物があるということも教えてもらった」
( ^ω^) 「さっきのあの場所は……」
(´・ω・`) 「そのうちの一つだろうね。近寄らないに越したことはない」
木々の間を潜り抜けると、開けた場所に出た。
柔らかい地面に両足が沈む。
(´・ω・`) 「沼地まで出た……な……」
( ^ω^) 「意外と早かった……お……ね……?」
地図は正確だった。少なくとも、地形と場所を調べることにおいては。
自然環境というモノが常に変化し続けるということを、僕らは旅を始めてすぐに気付いていたはずだった。
本来通るはずになっていたはずの海岸沿いの道が、大規模な崩落によってその姿を変えていこたとで。
目の前のすべてが黒や灰色で染まった広大な沼地。
地図上ではそれは比較的異例な円形を描いているのだが、
僕らが立っているのは、沼地と森林地の境界線上で大きく沼地に突出した場所であった。
- 294 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:20:49 ID:jotWtS3k0
沼地の中には痩せ衰えた細い木々と、腐りかけのような背の低い草、
そして中心部の辺りに小さな町程度はある集落が見える。
泥沼の中に浮かぶように存在する家々だが、人の姿は見えない。
(´・ω・`) 「こんなところに人間が住んでるのか?」
( ^ω^) 「でも道も何も見えないお……?」
ブーンが沼地の中に一歩踏み出す。それを確認してから同様に僕も足を降ろした。
足の甲ぐらいまでが沈んだだけで、意外にもしっかりした地面。
( ^ω^) 「このくらいなら問題ないおね」
(´・ω・`) 「沼の方はいいとして、さっきまで襲ってきた連中が静かなのは気になる。
僕らはもう目と鼻の先まで来てるんだし、抵抗が激しくなってもおかしくない」
( ^ω^) 「町の中で待ち伏せしてるんじゃないかお。人の姿も見えないし」
(´・ω・`) 「別に寄るつもりはないんだけどね」
- 295 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:22:38 ID:jotWtS3k0
( ^ω^) 「とりあえず、このまま右奥まで斜めに沼地を横切って、それから南に向かうのがいいかお」
(´・ω・`) 「沼地が広がってるから、縁沿いを進むだけじゃだめかもしれないけどね。
その辺は別になんとでもなると思う。問題はむしろ道中だ。
これだけの湿地帯があるんだ。結構頻繁に雨が降るだろう。雨自体はむしろ有難い」
( ^ω^) 「水は結構飲んじゃったから補充できると助かるお。最悪泥からでも濾せるけど」
(´・ω・`) 「雨によって足場はなお悪くなるだろうし、恐らくかなり濃い霧が形成されるだろうね。
数日間くらいは立ち往生になるかもしれない」
( ^ω^) 「それなら急ぐに越したことはないおね」
躊躇わずに沼地の中へと進んでいくブーン。
置いて行かれない様に泥を跳ね飛ばしながら追いかけた。
ひんやりと冷たい感覚が足の先を包む。
思っていた以上にしっかりとした地面が僕の重さを受け止めた。
表面だけが沼地になっているんじゃないかと錯覚するほどに、固く踏みしめられた大地。
(´・ω・`) 「いったん森に引き返すのもありかなとは思ったんだけどね」
- 296 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:23:32 ID:jotWtS3k0
( ^ω^) 「そうしなくて正解だったおね」
思っていたよりもずっと深く、僕たちのいた場所は沼地に切り込んでいた。
途中から森の中が往きやすくなったのは、あの集落に住む人々が利用している道に入ったから。
周囲に気配を感じなくなったのも、森自体が細くなってきていたせいで隠れる場所がなかったせいだろう。
服の裾は跳ね返った泥だらけになり、ぬかるんだ地面に体力が奪われていく。
次第に口数は減っていき、ただただ無言で歩く。
澱んだ空気のせいで気持ちも重くなる。
(; ^ω^) 「休憩する場所くらい欲しいおね」
(;´・ω・`) 「あんまり考えてなかったけど、今日中くらいには向こう側に着くんじゃないか」
森林との境界まで行くことが出来れば、いくらでも休む場所なんてあるだろう。
少々疲れた所で、今この湿った大地に腰を下ろすつもりにはなれない。
錬金術を編み込んだマントは衝撃や斬撃に対して強い保護を受けているが、
それ以上に長い旅路を乗り越えることができるだけの工夫が仕込んである。
汗や泥などの汚れに強く、叩くだけでほとんどの汚れは落ちるだろう。
重さを感じない程に薄く滑らかな手触りで、折り畳めば枕としても役に立つ。
- 297 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:24:02 ID:jotWtS3k0
もしこの旅が終わった後に、旅人用の錬金術店を開くようなことがあれば、
きっと僕の知識と経験を最大限に生かせる。
誰もが安全に国家間を行き来できるようになるための旅具を。
それはリリと過ごす一つの選択肢として十分に魅力的なものだ。
( ^ω^) 「そういえば、ちょっと話を戻すんだけど」
(´・ω・`) 「なんだ」
( ^ω^) 「結局、リリはどこにいるんだお?」
(´・ω・`) 「正確な場所はわからない。ロマンが渡り鳥に対して命令を下したルート上のどこかの国と言う事しか。
それでもいくつかヒントは合った。ブーンも見たと思う。あの氷の洞窟を。
ロマンの見せてくれたものには雪像も写っていた」
( ^ω^) 「雪像……?」
(´・ω・`) 「化け物のような雪像だった。ロマンが言うには北方の国々で語られている神話に出て来るらしい。
リリの閉じ込められている氷はかなりの大きさがあったし、動かすことは簡単じゃないだろう」
- 298 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:24:40 ID:jotWtS3k0
( ^ω^) 「その氷を割った可能性は」
(´・ω・`) 「見せてもらったものに写っていたのは粗かったから断定はできないけど、
そう簡単に砕けるものじゃないと思う。
壊してしまえば彼女も抵抗するだろうしね」
ホムンクルスを捕縛しておくことの難しさはブーンもよく知っているだろう。
全身を雁字搦めにして指先一本動けないような状況にしなければならない。
それには氷漬けというのは最善の条件だ。
(´・ω・`) 「もし簡単に壊れる様なものなら、そもそも村人が壊していてもおかしくないしね。
恐らく、近くの海辺に流れ着いたのを運んだんじゃないかな。
なんとなく神聖な感じがして、飾ってたんだろうね」
( ^ω^) 「それにシュールの悪意……なんか呼びにくいおね。悪意が気づいて回収したってことかお」
(´・ω・`) 「そうじゃないかと思ってる。それなりの重量もあるだろうしそんなに遠くまでは移動できないはずだ」
( ^ω^) 「じゃあ、テンヴェイラを捕獲した後はそのルートを辿るのかお?」
(´・ω・`) 「いや……その辺がまだ決まってないんだ」
出来るならば全てを投げ捨てて今にでも北の国々を手当たり次第に探し回りたい。
わざわざシュールの悪意に対抗できるだけの準備なんて必要ないと。
ブーンとシュールの話を聞くまではそう思っていた。
- 299 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:25:00 ID:jotWtS3k0
リリが見つかったタイミングと合わせたかのように、再び活発になったアルギュール教会。
それとほぼ同時に行方をくらました錬金術師の隠れ里。
もし仮に、二つの動きが何者かによって統制されているとするならば、
それは自分自身から分かたれた悪意以外にはありえないと、本来の持ち主が言う。
リリの命までもがその手中に落ちているのであれば、考えなしの行動はすべてを失わせてしまう。
(;´・ω・`) 「あそこの岩場で少し休んでいくか」
沼地も半分ほどまで進み、集落の一角がすぐ目と鼻の先に迫っている。
その中に入って適当な場所を探して休んでもよかったのだが、
先程まで襲ってきていた人間が住んでいる場所であるかもしれないと思うと躊躇われた。
結局、地面から生えたかのような大岩を二、三段登って荷物を降ろした。
ブーンも同様に僕の少し横で滑らかな岩を背に息を整えている。
(´・ω・`) 「随分と暖かいな……」
( ^ω^) 「だおね……」
- 300 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:25:43 ID:jotWtS3k0
じっとしていても汗が噴き出る様な夏はとっくの昔に終わって、もうすぐ冬が来る。
それなのにどうしてこうも暖かいのか。荒天鷲の住処であった山脈も同じような感じだった。
僕らが座っている岩はまるで湯にでもつかっているのかと思うほどに、じんわりと熱が染み出て来る。
濡れた靴を乾かすのにはちょうどいいが、どうにも不気味だ。
( ^ω^) 「おー。山脈の一部か何かじゃないのかお」
鞄から乾燥させた食料を取り出して頬張るブーン。
食べながら喋ったせいで口の端からぽろぽろと食べかすが零れ落ちていく。
(´・ω・`) 「あそこだって表面は普通の場所と変わらないはずだ。たぶん地中深くに熱源があるんだろうね。
まぁ、この岩だってその可能性はあるけど、沼地自体は冷たかっただろ」
( ^ω^) 「山脈と同じ理屈なら沼地自体も暖かくなるはずだってことかお?」
(´・ω・`) 「そうだ。まぁ、別に……今揺れたか?」
ほんの少し、きっと立っていたら見逃してしまうほどの小さなもの。
( ^ω^) 「揺れたおね」
(´・ω・`) 「この辺でも起きるのか」
- 301 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:26:05 ID:jotWtS3k0
この大陸の東側では割と頻繁に起こる大地の揺れ。
都市を二つに割いてしまうほどの巨大な地震が、過去に数度かあったと歴史の文献には書かれている。
その予兆として小刻みに揺れる、といったどこかで聞いた話が咄嗟に頭の中に浮かび上がった。
身体を支えるために近くの岩石を掴む。
掌に感じたのは温もりと、振動。
(;´・ω・`) 「なっ!???」
(; ^ω^) 「おっ!???」
瞬間、世界がひっくり返った。
激しい隆起によって僕らは岩場から投げ出され、泥沼の中を受け身もとれずに転がった。
身体中が泥まみれになりながら、何とか起き上がる。
目の間にあった背丈より大きな岩塊だったものは、さらにその二倍の大きさに膨れ上がっていた。
(;´・ω・`) 「嘘だろ……」
黄色い水晶のような楕円形の二つの瞳と、そこらの樹よりも太い四本の足。
人間程度であれば丸ごとの見込めそうな口に並ぶ、食物をすり潰すための荒くて平らな歯牙。
額に当たる部分に生えた、太くて立派な角。
(; ^ω^) 「角礫犀……なんでこんなところに……」
- 302 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:26:38 ID:jotWtS3k0
雄叫びによって空気が目に見えるほど震えた。
咄嗟に構えた剣も、目の前の巨躯に抗うにはあまりにも心細い。
(;´・ω・`) 「っち……荷物が……」
立ち上がった角礫犀の背に残された荷物袋。それは背中に生えた岩石群に引っかかったせいで落ちてこない。
どうやら僕らは運が悪いらしく、ブーンの荷物も同様の状態になっていた。
テンヴェイラ捕獲用のために錬金術で創り出した道具が入っており、捨て置くことは出来ない。
(´・ω・`) 「どのみち……逃げられないだろうけどね」
その巨体に似合わず、角礫犀の動きは速い。
足場が悪い泥沼の中ではすぐに追いつかれてしまうだろう。
(´-ω-`) 「ったくなんでこんなタイミングが悪い時に目を覚ますんだ」
角礫犀はその背に岩石群を背負っているせいか、眠っていることが多い。
一週間程度であれば、少々のことでは起きないと読んだこともある。
それが間違った情報だったのか、それとも何か別の原因があったのか。
目を覚ましてしまったからには、背中の荷物を何とかして取り返すしかない。
- 303 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:27:05 ID:jotWtS3k0
(´-ω・`) 「ん……?」
角礫犀はその巨大な口で地面の泥を掬い上げ、呑み込んだ。
それは食事と呼ばれる動作。
だがこんな泥水の中に、いくら雑食とは言え角礫犀の食料になるものはないだろう。
考えるまでもなく、思い当たる節があった。
(;´・ω・`) 「ブーン……」
(; ^ω^) 「おー……荷物もって逃げられるよりはいいと……前向きに見るのは駄目かお」
ブーンの零した食べ滓に反応したのだ。
まともな食料が殆どないこの湿地帯に、埋もれる様にして眠っていた角礫犀。
ほんの僅かだとは言え、錬金術で創った栄養価の高い乾燥食料につられたのだとしても不思議はない。
当然食べ滓程度の量では満足できなかったのか、その双眸は僕らを捉える。
残念ながら残りの食料をやって難を逃れようにも、その背中にまで取りに行かなければならない。
角礫犀がそのことに気付いてじっとしていてくれるわけもなく、
途轍もない速度で正面から突進してきた。
- 304 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:27:46 ID:jotWtS3k0
ブーンが左に、僕が右に飛んで避ける。
冷たい泥水を被りながら、通り過ぎていった角礫犀を視界に収める。
集落の端に会った二つの建物を容易く破壊し、大きく弧を描いて再びこちらに向かってきた。
(´・ω・`) 「町に被害が出る! 誘き寄せるぞ!」
( ^ω^) 「了解だお!」
御主人様の形見である白き剣を抜き、その鞘も腰から外す。
その二つを打ち付け、角礫犀の注意を引き付ける。
頭の片隅にある過去の情報を呼び起こしながら。
(#^ω^) 「ショボン!」
(;´・ω・`) 「っ!」
すんでのところで角礫犀の一撃を躱す。
目的を通り過ごしてもすぐに止まることのできないほどの強烈な突進。
集落を背にしない様に常に角度に気を配りながら相対する。
その間にブーンは、近くにあった比較的太い木の上の方まで登っていた。
- 305 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:28:09 ID:jotWtS3k0
その意味するところは聞くまでもない。
ブーンの直下へと角礫犀を誘導しろと言うことだ。
飛び降りてその背中にある荷物をとるつもりだろう。
華国にいる間に再び錬金術を用いて鍛え直した剣。
かつて御主人様と同じような白狼銀による表面コーティングだが、それとは異なる錬金術。
(´・ω・`) 「ふっ!」
中空に描いた三日月のような曲線は、その場に明確な残像を残す。
振り抜いた剣の後にあるのは幅の広い光。
御主人様の錬金術とは違い、剣先ではなく刀身そのものを創り出す残光。
厚みのできた刃は以前よりも何倍も固い……はずだった。
(;´・ω・`) 「嘘だろ!?」
一撃を重くした結果、複数の残像を同時に生み出すことは出来なくなっていた。
それだけ強力な白狼銀の粒子は、角礫犀の突き上げとぶつかって粉々に砕けた。
光の散らばる中に存在を示す太く頑丈な角には、傷一つ入っていない。
- 306 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:28:36 ID:jotWtS3k0
(; ^ω^) 「まじかお……」
(´・ω・`) 「っと……流石に傷つくね。まさかこれほどとはね」
無傷の角礫犀は一歩一歩近寄ってくる。
それを迎え撃つには、手元の細い剣だけではあまりにも頼りない。
(´・ω・`) 「もう少し待ってろブーン」
一度両掌の汗を拭い、正眼に構える。
遠距離攻撃が意味を為さないのであれば、直接刺し貫くだけだ。
剣それ自体が持つ刀身の硬さも鋭さも、残像の刃とは比ぶべくもない。
これ程大きい相手と正面きって戦うのは久しぶりだ。
荒天鷲からは逃げてきただけで、剣を交えてすらいない。
睨み合ったときに受ける押し潰されるようなプレッシャーは、野生動物に特有のもの。
震えで両手足が動かなくなるようなことはないが、いつも通りと言うわけにはいかないだろう。
- 307 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:29:34 ID:jotWtS3k0
おまけに足場は悪く、唯一の利点である小回りの良さが生かしきれない。
もっとも、相手の攻撃手段は少なく、動きが読みやすい。
気を付けていれば一撃で戦闘不能になるようなことはないだろう。
勝利条件は殺すことではない。
巧くブーンの足元にまで誘導しなければ。
(´・ω・`) 「さて……」
角礫犀の知能がどれほどあるのかはわからないが、向こうも相応に警戒しているらしい。
泥を跳ね飛ばしながら、その前足に向けて剣を振り下ろした。
鈍い衝撃。
分厚い肉と脂肪に阻まれて、表面だけを切り裂くに留まった。
(´・ω・`) 「っと」
左から圧迫感を感じて数歩後ろに下がる。
先程までたっていた場所を角礫犀の頭が通り過ぎた。
風圧で沼の表面が波立つほどの勢い。
- 308 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:31:17 ID:jotWtS3k0
巨体だからと言って動きが鈍いわけではない。
横一直線に残光を生み出し、それで牽制しながら再び懐に潜り込む。
狙いはあくまで右前足。
一撃目と同じ場所を十字に切り裂いた。
溢れてくる血液が沼地に滴り落ちる。
(´・ω・`) 「自分よりずっと小さな相手に翻弄れ続けるのも、腹が立ってきただろう?」
正面から飛び込む。
堅い角を掴み、頭に飛び乗る。僕を振り落とそうと暴れる角礫犀。
前後左右上下に激しく揺さぶられながら、ただひたすら耐えた。
身体大きければ消費する体力の量が違う。
暴れ続けることなんてできるわけがないと、そう思っていった。
(;´・ω・`) 「はぁ……っ……って」
目が回る。
吐き気が込み上げて来ては収まっていく感覚が三度ほどあり、ようやく立ち上がれた。
剣を支えにしている僕に覆いかぶさるような巨大な影。
(´ ω・`) 「……くそっ」
- 309 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:32:10 ID:jotWtS3k0
回避出来なかった。自分自身の未来が見えた僕にできたのは、ただ悪態をつくことだけ。
一瞬で視界が弾け、世界が千切れた。
内臓が全身から零れ出るような衝撃と、それに相応する痛みが何度も意識を奪う。
(´ ω `) 「ぶ……ブーン!!!」
ただ叫んだ。
予め決めていた言葉だけを。
残った力のすべてを込めて。
(#^ω^) 「おおおおおおッッ!」
錐もみ上に空中を吹き飛んでいた僕の視界の端に映ったのは、木から飛び降りるブーン。
その体が角礫犀の背に落ちる寸前に、弾かれたように飛んで行って消えた。
(;´・ω・`) 「……なにが」
受け身もとらずに地面を跳ねながらブーンを探す。
角礫犀を挟んで対角線上に飛んで行ったはずだが、その姿何処にも見えない。
(;´・ω・`) 「僕らよりもよっぽど化け物だな……」
- 310 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:33:11 ID:jotWtS3k0
すぐ背中側には先程倒壊した家屋。
どうやら集落の際まで弾き飛ばされてしまったらしい。
前足の傷は決して浅くはないはずだ。
流れ出ている血は止まっていないし、歩き方にも若干庇っているような動きがある。
それでいてこの強さ。
(´・ω・`) 「どうしてこんなところにいるんだか……」
( ^ω^) 「ショボン!」
(´・ω・`) 「ブーン、どこにいた!」
足の先から頭まで全身を泥で汚したブーンが、遠くで足元を挿すような動作を繰り返していた。
その動きの意味を考えながら、立ち上がって走る。
今の場所に突進してこさせるわけにはいかない。
角礫犀の歩みは遅い。
足が痛むのか、疲れ始めているのか、それともほかに理由があるのか判別はつかないが、
その隙に可能な限り集落から離れる。
角礫犀が再び走り始めたのと、僕とブーンが合流したのは同時だった。
- 311 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:33:48 ID:jotWtS3k0
( ^ω^) 「ショボン! もう少し北に誘導するお!」
(´・ω・`) 「わかった」
( ^ω^) 「荷物は取れなかったけど……」
先程角礫犀の背に近づいたブーンの手に握られていたのは金属製の試験管。
衝撃で壊れない様に創り出した特別製のものは、
ブーンの荷物の横ポケットにも溢れんばかりに入っていた。
そのうちの一つを接触の瞬間に取り出したのだろう。
( ^ω^) 「これでも喰らえお」
その蓋を開け、ブーンは角礫犀に投げつけた。
放物線を描きながら近づいてくるその角にぶつかり、雲のような泡を発生し続ける。
粘性が高く、突進の勢いで零れることなく角礫犀の頭を覆いつくした。
( ^ω^) 「ショボン今だお!」
視界を塞がれたことに驚いた敵は、走ることをやめてその場で闇雲に暴れ出す。
僕はその隙をぬって、さらに二回、右前脚を深く切り裂いた。
- 312 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:34:28 ID:jotWtS3k0
悲鳴のようなくぐもった声が漏れ、激しく暴れる角礫犀。
泡はすぐに風圧で弾けて消えた。
ほんの少しだけ僕を姿を隠しただけで十分。
傷つき怒り狂った角礫犀は、もう何度目かわからない突進を行う。
その瞳は僕の姿しか捉えていない。
自分自身がとこにいるのかを、何処に向かって走っているのかを知らない。
走り込んでくる巨体の犀は、一直線に僕を目指す。
僕はただ立っていた。
逃げる必要も避ける必要もない。
剣を降ろして、飛び込んでくる角礫犀を待つ。
その巨躯は僕に突き刺さる直前で、突如バランスを崩し地面に埋まって動きを止めた。
泥水が雨のように降り注ぐ。
何が起きたのかも理解できていないはずの角礫犀の背に飛び乗った僕は、二人分の荷物を掴んだ。
( ^ω^) 「ナイスだお、ショボン」
(´・ω・`) 「よく気付いたな」
- 313 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:35:17 ID:jotWtS3k0
( ^ω^) 「木から降りて弾かれたとき、丁度その穴に落ちたんだお」
(´・ω・`) 「ああ、だから全身泥だらけなわけか」
自らが埋まっていた亀裂へと頭を突っ込み、もがく鉱山の犀。
短い脚と重たい背中のせいで、バランスを崩してしまえばそう簡単には抜け出せない。
( ^ω^) 「殺すのかお?」
(´・ω・`) 「ここから抜け出せば、また暴れだす。そうなれば次は止められないかもしれない」
( ^ω^) 「・……」
頸の後ろ。全身を鉱物で覆われた角礫犀の急所ではあるが、なまくらであっては傷一つ付けられないほどに堅い。
一撃で絶命させることはこの剣でもできないだろう。
柄を逆手に持ち、その背に立つ。
全体重をかけて振り下ろした。
白狼銀が残光を形成し、傷口をより深く抉る。
刀身が半分ほど埋まったところで刃が止まった。
頸椎によって阻まれた剣を引き抜き、血だまりの中へと再び振り下ろそうとしたとき、
バランスを崩して地面に落ちた。
- 314 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:37:20 ID:jotWtS3k0
(; ^ω^) 「ショボン……やべぇお……」
飛び跳ねる様にして亀裂の中から脱出した角礫犀の背が鈍く輝く。
立ち上がったまま動かない。暴れるでもなく、辺りを見回している。
(;´・ω・`) 「……何が起きたんだ」
( ^ω^) 「ショボンが刺して大人しくなったと思ったら、急に亀裂から飛び出したんだお」
(´・ω・`) 「そんな力が残ってたとは思えないんだが」
( ^ω^) 「正直実際に見るまでは疑ってたんだけど……角礫犀に備わってる性質だお。
傷ついた成体は背の鉱石が発光、身体能力値が大きく底上げされるって……。
背中の色でいくつか種類があるみたいだけど、それはまだわかってないお……」
(´・ω・`) 「で、対処法は?」
( ^ω^) 「ん?」
(´・ω・`) 「それだけ詳しい本だったんだろ? 対処法くらい書いてなかったのか」
- 315 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:37:59 ID:jotWtS3k0
( ´ω`) 「あー……その本の最後を締めくくるように書かれてた言葉は、私以外を除いて皆死んだ。
あの状態になったら、力尽きるまで誰にも手が出せない、だお」
ブーンの言葉が終わった直後に、赤く染まった瞳がこちらを認識した。
長々と空を裂く咆哮が止み、ついさっきまで晴れていたはずの空から雨が降り始めた。
さらに悪化した足場に影響を受けることもなく、その速度を増した突撃。
咄嗟に左右に飛んで避けた僕らをを追うように、直前で急激な方向転換。
右側に逃げたはずのブーンが小さな悲鳴と共に姿を消した。
(#^ω^) 「おおおおお……!!」
片腕をくわえられて地面を引きずり回されるブーン。
そのまま沼地に突き刺さっていた数少ない岩石に叩き付けられた。
引きちぎれた腕を再生しながら、ブーンは岩を盾にするように立ち回る。
( ω ) 「ごふっ……」
(´・ω・`) 「ブーン!! そのまま少しの間引き付けてくれ!」
(メ ω^) 「ぜ、善処するお!!」
- 316 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:38:39 ID:jotWtS3k0
助走も無く振り下ろされた額の角によって、岩石が木っ端みじんに吹き飛んだ。
細かく砕けた欠片と共に空を舞うブーン。
相手をしてもらっている間に、出来るだけ冷静に状況を分析するように努める。
身体能力は軒並み底上げされているが、特に筋力の上昇値が大きいようだ。
傷ついているとは思えないほどに。
今の状態の角礫犀であれば、この剣で傷を与えることは出来ても致命傷には程遠い。
行動不能にするにはどうすればいいか。
今持っている全ての道具を頭の中に思い浮かべ、計算する。
さほど時間もかけずに単純な答えが出てきた。
結局、角礫犀は残りの命を燃やして極端に運動性能を上げているだけである。
その場限りでしかないし、永くも持たない。
放っておく以外の方法をとらないといけないとするならば、命を削る様な攻撃をすること。
身体の外はどれほど堅くても、内部が柔らかいのは生物としての常識。
ならば、そこに対する攻撃方法を考えるだけだ。
荷物の中に入っている二種類の粘土。一握りでも人間を吹き飛ばせるほどの火力を持つ。
そのまま持ち歩くのが危険なため、二つを混ぜ合わせることでその効果を発揮するようにしている。
それを混ぜ合わせ、拳大の塊を作る。
- 317 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:39:03 ID:jotWtS3k0
(´・ω・`) 「ブーン!!」
( ω ) 「…………!!!」
何を叫んでいるのかは聞き取れなかったが、まだ生きているようだ。
降りしきる雨の中、真っ赤な光が沼地を縦横無尽にかけていた。
その中心で、人の形をしたものが何度も何度も宙へと投げ出されている。
漸くこちらに気付いたのか、ほとんど反応のない玩具を放り出して一直線に向かってきた。
その速度は予想よりも遥かに速かったが、僕はただその開いた口の中に右手を突き出す。
肩の根元まで飲み込まれた直後、角礫犀はその動きを止めた。
(´メω・`) 「ぐ……!」
熱と衝撃で消滅した手首よりも先はすぐに再生した。
大量の煙を吐き出しながら、なおも大きく口を開く獣。
その無防備な口腔内に向けて全力で剣を突き刺した。
- 318 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:39:43 ID:jotWtS3k0
角礫犀の眼が光を失う直前に、だらしなく開ききっていた口が閉じられた。
重厚な金属音と左手を痺れさせた衝撃。
瀕死の一撃は白剣の側面に当たり、その刀身を残光ごと噛み砕いた。
(;´・ω・`) 「嘘だろ……」
(; ^ω^) 「ショボン! 大丈夫かお!」
(;´・ω・`) 「あ、ああ……」
身体には何の異常もない。
左腕がまだ痺れているが、じきに回復する。
(; ^ω^) 「剣が……」
(´-ω-`) 「まぁいいよ。これも随分長いこと使ってたからね。
寿命だったのかもしれない」
( ^ω^) 「欠片を回収すればまた鍛え直せるかもしれないお」
- 319 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:40:16 ID:jotWtS3k0
固く閉じられた角礫犀の顎。
これを再び開くにはかなりの手間がかかることは明らかだった。
御主人様の形見を失ってしまうのは惜しいが、この雨のせいで沼地は一層歩きにくくなってきている。
このままでは陽が落ちるまでに湿地帯を抜けられるかも怪しい。
(´・ω・`) 「っと……」
立ちくらみがして膝をついた。
傷はすべて回復しても、体力も同じようにというわけにはいかない。
ブーンの表情にもかなりの疲労が見えた。
( ^ω^) 「少し、休んでいくお」
(´・ω・`) 「あぁ、そうさせてもらおう」
倒壊した家屋の内、辛うじて雨風を凌げそうな方に腰を下ろした。
五分と経たずに隣で横になっていたブーンは寝息を立てている。
見張りをしていようかとも思ったが、人の気配のない集落でそこまで気を使う必要もないと気が緩んでいた。
意識はゆっくりと闇の中に溶けていく。僅かに残った危機感と緊張感に両手を伸ばす。
何度も掴みなおそうとしたが、伸ばした手から離れていった。
- 320 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:41:09 ID:jotWtS3k0
・ ・ ・ ・ ・ ・
(;´・ω・`) 「……っ!!」
目を覚ました時、僕らは槍を持った男達に囲まれていた。
雨は全く緩む様子を見せず、壁や屋根に叩き付ける様に降り注いでいた。
(´・ω・`) 「起きろ……ブーン……」
( -ω-) 「おー……」
出来るだけ小さな動きで隣に寝ていたブーンを揺らす。
寝言を数回呟いて、ようやく目を覚ます。
状況を理解するのにさらに数秒かかったらしい。
( ^ω^) 「おー、ああ」
訳の分からないことを呟きながら、目を泳がせている。
「目を覚ましたか。ついてこい」
- 321 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:42:03 ID:jotWtS3k0
両頬に赤い線を三本入れている褐色肌の大男が、手招きをする。
槍の穂先は空に向けられているが、周りを囲む男達の警戒感が肌を刺す。
大粒の雨の中、案内された先は集落の中にある大きな広場。
そこでは、土砂降りの雨の中少しも揺らぐことのない強い炎がいくつも上がっていた。
鼻腔をくすぐったのは焦げた肉の匂い。
脂が弾ける音が耳に届き、涎が口内に染み出してくる。
「肉だ。喰え」
大男に差し出されたのは串に刺された一塊の肉。
焼きたてなのか、白い煙を挙げている。
それを受け取った僕らは、雨で冷めてしまう前に頬張った。
毒物であったとしても気にしないということもあったが、何よりも腹が減っていた。
持ち運びの容易く、日持ちのする携帯食料では栄養が足りても腹は満たされない。
中途半端な空腹感を抱えてきた僕らにとって、その匂いは暴力的すぎた。
口の中に溢れる肉汁と蕩ける脂は咀嚼するたびに混じり合い、舌の上で弾ける。
溶けてなくなってしまったのではないかと勘違いする程に柔らかく、
それでいてお腹の中に落ちていく満足感。
- 322 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:42:26 ID:jotWtS3k0
次々差し出されるその肉を、何の肉かもわからないまま僕らは食べ続けた。
周りにいた男達も、気づけば肉を頬張っている。
広場にいたのは、ざっと数えても女子供含めて二百人以上。
遠目に見た集落の大きさからすれば少なすぎるくらいだ。
それぞれが炎で肉を焼き、雨に濡れることを気にもせずに酒らしきものを飲んでいる。
僕らは焼き物のグラスを手渡され、それを一気に飲み干した。
喉を刺激する不思議な味は、口の中に残った脂をすっきりと流し込んでいく。
程よい清涼感と満腹感に包まれ、僕らはようやく飲食の手を止めた。
それに気づいた大男も給仕の真似事をやめ、僕らの前に腰を下ろした。
「さて、腹も膨れたようだからいろいろ話をしておきたい」
(´・ω・`) 「ええ、そうですね」
「まず最初に、俺は君たちに敵対の意思はないとみているが、
他の人間が警戒する。その剣を預からせてもらってもいいだろうか」
( ^ω^) 「構いませんお」
(´・ω・`) 「僕らとしても、これが対話の邪魔をするのであれば従います」
- 323 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:43:04 ID:jotWtS3k0
僕の折れた剣と、ブーンの剣を大男に渡す。
男はそれを自らの脇に置いて話始めた。
「まずは謝るべきだったな。すまない」
深々と頭を下げた男。
たっぷり十秒間以上かけて、ようやく男は頭をあげた。
(´・ω・`) 「それは、森の中の事ですか」
「そうだ。君たち二人が俺たちの村に対して何かを行うのではないかと恐れていた。
今まで外から人が訪ねてきたことなどなかったからな」
( ^ω^) 「あの罠も?」
「元は獣用の罠だ。君たちが出来るだけ引っかかるように誘導させてもらったが。
しかし君たちは本当に丈夫だな。先程の戦いも見せてもらったが、
俺たちとは体のつくりが違うのか?」
(´・ω・`) 「まぁそう思ってくれて問題ないです」
- 324 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:43:59 ID:jotWtS3k0
「ふむ、まぁ俺は頭が悪いから説明されてもどうせわからん。長なら知っているのかもしれないが、
もうかなりの老体。この雨の中外に出てこられるのはつらいだろうからな」
(´・ω・`) 「ここは一体」
「俺たちの村だ。もうずいぶんと長いことここに住んでいるらしい。
長のおじいのそのおじいの、もひとつおじいの……うん、ずっと前からだ」
( ^ω^) 「雨の中でも消えない炎、あれはどういう仕組みだお」
「仕組み……? それはわからない。ただ昔からそうやって火を使ってきた。
ここは雨が多いからな」
恐らくは錬金術の類だと予想はつく。
それと知らずに昔からの知恵として使っている人々も少なくない。
特に人通りの無い集落では尚更だ。
雨の多いこの土地で、彼ら一族に伝わってきたのだろう。
(´・ω・`) 「なぜこんなに歓迎されているのか教えてもらっても?」
「勿論、村を救ってもらったからだ。みぞゆ……みぞおう……の危機から」
( ^ω^) 「角礫犀のことかお?」
- 325 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:44:37 ID:jotWtS3k0
「そう言う名前だったのか。あれは数年前にこの湿地に現れて、この辺で暴れまわっていたんだ。
大人の男達で討伐に向かったが歯が立たず、何人もの命が犠牲になった。
集落そのものが襲われなかったのは運が良かったとしか言えない」
(´・ω・`) 「それで……村の規模と人数が合わなかったのですね」
( ^ω^) 「お?」
「気づいていたのか」
(´・ω・`) 「ある程度予想は出来ましたよ。ここまで喜んでいるところ辺りからね」
「誰も手を出せなかったあれを討伐してくれたのが君たちだった。
この村の恩人だ」
( ^ω^) 「ということはさっきの肉って」
「腹を裂いてみたら、内側は存外柔らかくてな。
試しに焼いて食べてみたらうまかった。あれ一頭で村人全員が数日食べるには困らない量がある」
(´・ω・`) 「よく食べる気になりましたね……」
- 326 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:45:06 ID:jotWtS3k0
「俺たちは何でも食べる。食べなければ生きていけないからな」
( ^ω^) 「その通りだお!」
(´・ω・`) 「角礫犀は……なんでここに?」
本来いるべき場所を離れ、湿地帯にわざわざやってきた理由。
それを知って対策を打たなければ、再び別の個体が訪れてきてもおかしくない。
そうなれば今度こそこの集落は全滅を免れないだろう。
「わからない。突然傷だらけになってこの沼地に現れた」
(´・ω・`) 「傷だらけ……?」
「あれの死骸を見てもらえばわかると思うが、背中の鉱石に不自然にかけている部分がいくつもある。
身体中に浅くない傷も負っていた。そんな瀕死の状態ですら俺たちは手が出なかったんだが」
( ^ω^) 「何かから逃げてきた……?」
(´・ω・`) 「でも何から。一体どれほどの怪物がいれば角礫犀をそこまで追い詰められる」
( ^ω^) 「荒天鷲……ならあり得るお」
- 327 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:45:35 ID:jotWtS3k0
(´・ω・`) 「不可能ではないってだけだ。荒天鷲は賢い。仕留めるのに手間のかかる相手をわざわざ選ぶことはないさ」
( ^ω^) 「その必要があるほどに追い詰められていたとしたら」
(´・ω・`) 「決定的に違う理由がある。角礫犀の住処は鉱山の中だ。
どうやったってたどり着けないし、そんな狭い場所で戦えば如何に荒天鷲と言えども勝ち目はない」
( ^ω^) 「まぁそれはそうだけど……」
「……一つ思い出したことがある。あれはたぶん刀傷かなんかだ。動物の爪や牙のようではなかった」
もしそうだとすれば、人間の手によるものの可能性が高い。
一体誰が、どんな理由で角礫犀に手を出したのか。
(´・ω・`) 「どんな理由であれ、並みの人間じゃないね」
( ^ω^) 「僕らには多分関係ないことだと思うお」
「考えているところ悪いが、宴もそろそろ終わりだ。寝る場所がないのなら、俺の家に来てくれればいい」
(´・ω・`) 「いえ、僕らはあの場所で十分です」
- 328 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:46:04 ID:jotWtS3k0
「村の英雄にそんな扱いをしたと知れたら、俺は村を追い出されてしまうだろうな。
なに、男の一人暮らしだが部屋は広いし、わりときれいにしている」
( ^ω^) 「傾いた床で寝るのは嫌だお……」
横になってものの数秒のうちに眠りについた男がよく言う。
これ以上断ることも憚られ、その大男の家に泊めてもらうことにした。
予想よりも整頓された部屋の中で、僕らはゆっくりと休んでいた。
少し眠っていたおかげであまり眠気は無い。
男の作業を見ながら時間を潰しているうちに、一つ聞きたいことがあったのを思い出した。
(´・ω・`) 「ちょっと聞きたいんですが」
「なんだ? 俺にわかることは少ないぞ」
(´・ω・`) 「森の中にあった白い十字架が立っている場所には何かあるのですか?」
「……あれか。あれはこの土地の神様が眠っているとされる場所だ。
それ以上でもそれ以下でもない。俺たちは近寄らないからな」
- 329 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:46:24 ID:jotWtS3k0
(´・ω・`) 「なぜ?」
神をまつる土地は多いが、神を蔑ろにする人々は少ない。
住民全員がとなれば、それは異常だろう。
「理由は知らない。じいちゃんのじいちゃんの……くらいからずっとそう言われてるらしい。
あの土地は百年以上もそのまままなんだと」
( ^ω^) 「そのままってどういうことだお?」
「姿が全く変わってないんだ。不思議な力が働いているのか、時間が止まっているのか。
石を投げ込んでも、一週間後には消えてなくなる。
一度ふざけて大量の果物を投げ込んだ奴がいたが、同じだった」
(´・ω・`) 「どういうことだ……」
( ^ω^) 「空間を元通りにする何かがあるのかお」
「まぁそんなわけで、俺たちは近寄らないんだ。役に立たなくて済まないな」
(´・ω・`) 「いえ、別に大丈夫です。ありがとうございました」
- 330 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:47:04 ID:jotWtS3k0
旅に必要な情報ではない。ただ気になっただけのことで、原因が分かったところで何も得る物は無い。
そういった場所があると覚えておくだけだ。
もし今後時間があるのなら調べてみたいとは思うが。
「明日はどれくらいに出発するんだ?」
(´・ω・`) 「朝早く。日も昇らないうちに出るつもりです」
「……それは難しいと思うぞ」
(´・ω・`) 「どういうことです?」
( ^ω^) 「霧だおね」
(´・ω・`) 「あぁ、そういえばそうだったか」
「これだけ雨が降ったんだ。足場も悪いし、霧も深くなるだろう。
明日は村から出ること自体が難しいと思うがな」
(´・ω・`) 「……それは明日決めることにします」
「そうすればいいさ。まだ夜は長い、ゆっくり休むといい」
( ^ω^) 「そうさせてもらうお」
- 331 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:47:27 ID:jotWtS3k0
男は随分と遅くまで作業をこなし、ようやく自分の寝床に横になった。
それによって残った明かりが消され、暗闇が訪れる。
相変わらずの強い雨は雷鳴を伴って沼地に降り注ぐ。
それが気になって眠れないうちに朝が来た。
次第に弱くなってきた雨足。
東の空が明ける頃には、問題なく出歩けそうなほどの小雨になっていた。
「本当にもう行くのか」
(´・ω・`) 「お世話になりました。急ぎの用があるので」
( ^ω^) 「機会があったらまた遊びに来るおー」
「そうだな。お礼もし足りないし、また来てくれ」
男の後ろを歩いて村の中を移動する。
村の歴史や風習についての話を聞いているうちに、いつのまにか僕らは村の外れまで来ていた。
村の最南端、泥沼との境界線上に立つ僕らが見たものは、一面の白。
壁のように立ちはだかる霧の壁は、ギリギリのところで村の敷地を越えない。
手で触れそうなほどの濃い雲のように、重量すら感じる。
- 332 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:48:10 ID:jotWtS3k0
( ^ω^) 「どうなってんだお」
(´・ω・`) 「僕の知っている霧とは違うんだけど……」
「これが霧だ。もう二、三日大人しくしていれば薄くなるとは思うが」
(´・ω・`) 「いや、そういう訳にはいかない……」
「別に突き抜けられないことはないと思うが、二人がはぐれてしまうかもしれない」
( ^ω^) 「その辺は何とかするお」
ブーンは鞄から取り出したのは短いロープ。
それを自分の腕に結び、もう一端をこちらに渡してきた。
受取って左手首に結ぶ。
男とロープでつながっているのはなかなかに気持ちの悪い行為だが、
これで離ればなれになることは無い。
(´・ω・`) 「それでは」
「あぁ、待ってくれ。みんながお礼をしたいと言ってるんだ」
- 333 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:48:32 ID:jotWtS3k0
男の声で呼ばれたかのようにぞろぞろと姿を現す村人たち。
昨日晩の祭りで見た顔も多くあった。
ほぼ全員が集まったのではないかと思えるほどの見送りに、少々気後れしながら空を見上げる。
どんよりとした雲がまだ残っているが、雨は止んでいた。
降り注いだ水滴を全てその身に受けた沼地は、体重でずっぷりと足が沈む。
「地図に付け足した道の通りに歩いてくれ。そうすればすぐに足場がしっかりする。
幾つかの目印があるから間違えないようにな」
(´・ω・`) 「ありがとうございます」
( ^ω^) 「水までもらって大丈夫なのかお」
「この村で水に困ることはないからな。空を見ればわかる。午後からまた強い雨が降るだろう」
(´・ω・`) 「急いだほうがよさそうですね」
「あぁ、森の中に入ってしまえば雨を気にする必要はない。
最短ルートを辿って行けば、正午になる前には森にたどり着けるさ」
(´・ω・`) 「それでは」
「もし、機会があればまた寄ってくれ」
( ^ω^) 「ありがとうだお」
軽く手を振り、前を向いて泥沼の中を歩く。足を持ち上げる度に泥も一緒にくっついてくる。
そのせいで重量は二倍三倍にもなり、体力を容易く奪っていく。
目の前に広がる霧を出来るだけ早く抜けられるように願いながら。
- 334 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:49:32 ID:jotWtS3k0
- 1]
34 地を穿つ角 End
- 336 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/07/22(金) 22:50:34 ID:jotWtS3k0
- │
│
26 朽ちぬ魂の欲望 <上>
27 朽ちぬ魂の欲望 <下>
│
│
16 ホムンクルスは試すようです
│
│
28 宴の夢
29 古の錬金術師
30 災厄の巫女
31 少女への手掛かり
│
32 血の遺志 最終編
33 空を舞う翼
34 地を穿つ角
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