- 203 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:14:46 ID:jM951KXo0
- 「妹者、なに描いてるの?」
「お花畑!」
「そっか、いっぱいお花描いたんだな。
じゃあ、この女の子は誰?」
「いもじゃなのじゃ!」
「へー、かわいく描けてるな。
隣にいる、この人は?」
「あのねー、おとじゃおにいちゃん」
「ああ、俺かぁ。
……ん?」
「じゃあ、この人は?妹者の左にいる」
「これはねー、あにじゃ!」
「……あにじゃ?あにじゃって誰?」
「あにじゃは、あにじゃなのじゃ!」
- 204 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:16:12 ID:jM951KXo0
妹者は不思議な子だった。
「いーもじゃ!遊ぼ!」
本人すら認識していなかった、弟者の中に存在するもう1人
―――悪戯好きな男の子の存在を、最初に発見したのは
他の誰でも無く、当時たった4歳の妹者だった。
- 205 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:17:53 ID:jM951KXo0
- その理由の一つは、兄者が特別、妹者の前にだけ多く現れたから。
兄者は妹者以外の家族の前には滅多に姿を見せなかったのだ。
何故なら
妹者の母親らしい、この家の中でも一番強そうな女の人は
以前悪戯が見つかった時に怒られたので怖かったし
中学生の女の子は、同じ年頃の友達の家に遊びにいったり
宿題や勉強をするのにいつも忙しそうで自分とはちっとも遊んでくれない。
他にも誰かいるのかもしれなかったが、あまり興味は無かった。
そんなわけで、この家の中で兄者が一番大好きなのは、小さくて可愛い、無邪気な妹者だった。
いつも2人で絵を描いたり、人形や、弟者のおもちゃを使ってごっこ遊びをして遊んだ。
- 206 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:19:04 ID:jM951KXo0
「真ん中がいもじゃでー、こっちはあにじゃなのじゃ」
「じゃあこいつは?この、妹者の右にいるやつ」
「おとじゃおにいちゃん!」
「ふーん……」
いつものように、妹者の部屋でスケッチブックを広げ、思い思いに絵を描いていた兄者と妹者。
描いた絵について楽しそうに説明する妹者の話を聞いていた兄者は
色鉛筆の平らな缶のケースに貼られている「流石 弟者」と名前の書かれたシールを見ながら
前々から疑問に思っていたことを口に出した。
「なー妹者、“弟者”って誰?」
.
- 207 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:20:02 ID:jM951KXo0
- 「いもじゃのおにいちゃんなのじゃ!」
「お兄ちゃん?妹者のお兄ちゃんは俺だろ?」
「もう1人のおにいちゃんなのじゃ。あにじゃ、会ったことないの?」
「知らないなぁ。
……そいつ、この家にいるのか?いつも何してるんだ?」
「おとじゃおにいちゃん、あにじゃがいるときはいないのじゃ。
ねんねしてるのかな?」
「ふぅん。
でも、みんながさぁ、俺のこと兄者じゃなくて、弟者って呼ぶんだよ。
おかしいだろ?」
「きっと、あにじゃとおとじゃおにいちゃん、そっくりだからまちがえてるのじゃー」
「そうなの?そいつと俺、似てる?」
「うん。そっくり!」
- 208 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:21:06 ID:jM951KXo0
- 「へー、おもしろいな。じゃあみんな、俺のこと“弟者”だって思ってるんだ」
色鉛筆をくるくる回し、しばらく黙り込む。
やがて、新しい遊びを思いついた時のような顔をして、にぃっと笑った。
「よーし。
じゃあ俺は、見破られないようにそいつのフリしてみんなを騙そうかな」
「だますの?」
「騙すっていったって、悪いことするわけじゃないよ。
ほら、いつもごっこ遊びするだろ?あれと一緒」
「ごっこなのじゃ!」
「そ。誰にも俺のこと、弟者じゃなくて兄者だって、気づかれないかゲームしよう!」
- 209 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:22:48 ID:jM951KXo0
- 「いいか?俺が本当は兄者だっていうのは、俺と妹者だけの秘密なんだ。
俺はみんなの前で弟者のフリするから、妹者はそのこと言っちゃだめだよ」
「うん!きっとみんな分かんないのじゃ」
「ふっふっふ。気づかれないさ、誰にも」
それからは「弟者」と呼ばれると返事をし
家族の前に出る時も「弟者」として振舞うようになった。
悪戯が何より好きな兄者にとって
自分がみんなを騙しているスリルを味わうのと、その人達の反応を見るのは面白かったし
そもそも兄者には、呼ばれる名前が兄者だろうが弟者だろうがどうでも良かったのだ。
誰もが自分の事を、自分とは違う他人の名前で呼んだとしても
ただ1人妹者さえ、自分が兄者であると分かってくれていたなら、それで良かった。
- 210 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:23:38 ID:jM951KXo0
「妹者、今日は何して遊んだの?」
「あにじゃとかいじゅうごっこして遊んだのじゃ!」
「この絵、妹者が描いたのかい?上手だねぇ」
「ううん、あにじゃが描いたの!」
.「ねぇ妹者、”あにじゃ”ってどんな子なんだい?」
「男の子。おとじゃおにいちゃんとそっくりなの。
いもじゃといっぱい遊んでくれるの!」
.
- 211 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:25:33 ID:jM951KXo0
- その頃、“あにじゃ”の名前を頻繁に口に出すようになった妹者に対して
周囲はその存在を、小さい子供にはよくある”見えないお友達”だろうと解釈した。
通称『イマジナリーフレンド』と呼ばれるものだ。
空想の中だけに存在する、本人以外には見えないお友達。
人間関係という概念に未だ慣れていない、幼い子供に割と起こりやすい現象である。
何故妹者がそんなものを作り出したのか、
考えられる理由の一つに、まず、環境の変化によるストレスが疑われた。
妹者は今春幼稚園に入園したばかり。
特に通園を嫌がる素振りも無く、毎日楽しく通っているように見える妹者だったが
もしかしたら、不慣れな環境や初めての人間関係に少し疲れてしまったのかもしれない。
お迎えに行くと、仲の良い友達に元気よく手を振って
家までの道すがら、その日の昼食やお遊戯の事を楽しそうに報告するのに
家では部屋で空想上の友達と遊んでばかりいる。
そんな幼い娘のことを、母者も父者も心配した。
- 212 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:26:42 ID:jM951KXo0
- でも幼稚園では友達も沢山いるようだし、明るい性格の妹者は友達作りに積極的だ。
それに、なんといってもまだ幼い子供のこと。
大人達が難しく考える程、そんなに深刻な事態では無いのかもしれない。
『そういうことは妹者ちゃんくらいの歳の子には、割とよくある事なんですよ』
『妹者ちゃんは明るい子ですし、同世代の子の中でもコミュニケーション能力は高い方です。
そのうち現実の対人関係をきちんと学ぶことが出来るようになれば
成長するにつれて、その”見えないお友達”も自然と消えることでしょう』
相談を持ちかけた幼稚園の教員にもそう元気づけられて
母者と父者は安心し、しばらくは妹者が空想の友達と遊ぶのを静かに見守ることにした。
- 213 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:28:47 ID:jM951KXo0
- ―――だが、大人達の安心をよそに
その”見えないお友達”の行動は、時が経つにつれ次第に目立つようになってきた。
それは大抵の場合、ちょっとした些細なことだったが。
何故かいつも、主な被害を被ることになるのは、妹者の8つ年上の兄・弟者だった。
弟者が知らないうちに、自分のノートに落書きされている。
いつも整理整頓を心がけている弟者の部屋が、いつの間にか本やおもちゃで散かっている。
弟者の持ち物が、妹者の部屋や、本人が置いた記憶の無い場所で見つかる。
そういった出来事が、しょっちゅう起こった。
そんな時妹者に尋ねると、決まって「あにじゃがやった」というのだった。
これにはどう対応したら良いものか、流石の母者も頭を悩ませる事になる。
子供の躾には人一倍厳しい母者。
だが、妹者が実際にそういう事をしている所を目撃した事も、証拠も無い以上
いくら4歳の子供とはいえ、本人がしていないと言い張る事をしつこく言及する事は出来なかった。
それに実際、妹者がいない時や眠っている時にも度々そういう事が起こるので
それらのちょっとした現象はますます不可思議で、解決法も見つからなかった。
- 214 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:30:03 ID:jM951KXo0
- そして、弟者はというと。
その頃から時々急に意識を失い、気づくと時間だけが経っていて
その間の記憶は一切無く、どうやってそこへ来たのかも全く分からない場所に立っていたり
自分がやった覚えも無いことを友達や家族から聞かされる、というような事を度々経験していた。
もちろん、ずっとおかしいとは思っていたものの
いくら考えてもこの不可思議な現象の原因が思い当たらない。
更に、頭の中で誰かの声が聞こえる事も稀にあった。
その声は不明瞭で、自分に話しかけている風では無く、何を言っているのか聞き取れない。
ノイズのように唯耳障りなだけの雑音にも聞こえるが、かろうじて人の声である事だけは判断出来た。
この謎の声の正体がなんであるにせよ、意識を喪失し、無自覚で行動する事に加え
頭の中で誰かの声が聞こえるだなんて、明らかに異常だ。
―――自分は頭がおかしくなったのだろうか?
そういえば母者や友達から、最近よくぼぅっとしている所を見ると聞かされた。
意識を失っている間、自分がそんな状態で勝手に歩き回っているかと思うとぞっとする。
- 215 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:32:26 ID:jM951KXo0
- 薄々、自分の持ち物が知らぬ間に移動している時等は
妹者ではなく、自分が無意識中にやった事なのかもしれないと感じていた。
意識を失っている間の自身の行動について、弟者は
精々夢遊病患者のように、ふらふら徘徊する程度のイメージしか持っていなかった。
あまり信じたくはないが、本当にトランス状態になっているとするなら
無自覚に物を違う場所に置いたり、部屋を散らかす事くらいはするかもしれない。
―――だが、まさかその間、自分がまったく別の人間となって好き勝手動き回り
妹者と遊び、喋り、絵を描いているなんて夢にも思わなかったのだ。
誰かに相談する事も考えたが、こんな事が知れたら頭がおかしいと思われるかもしれない。
そうでなくても、何か、重い病気だったとしたら?
それを告げられるのが怖かった。
得体の知れない恐怖と不安がじわじわと募る。
でもせめて、人に変人扱いされる前に少しでも自分で原因を突き止めたかった。
- 216 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:33:47 ID:jM951KXo0
- どうしても意識を保てず、暗い穴にすっと落ちていく瞬間、咄嗟に時計を見る。
計った結果、喪失する時間は一日のうち長くても2〜3時間。
今のところ生活に然したる支障は出ていないし、頑張れば意識を手放さずにいる事が出来た。
意識を保とうとすればするほど、頭の中の雑音は一層喧しくなるが
しばらく気を集中して耐え続ければ、それは自然といなくなるのだった。
そうして弟者は、その不思議な現象の正体を突き止めることを胸に決め
努力の甲斐あって、意識喪失の回数も除々に減りつつあった。
今では自分を暗い穴へと引っ張る”なにか”の力を、数回に一度は抑えこむ事が出来る。
このまま、意識をずっと保ち続け、時間が失われるのを完璧に防ぐ事が出来れば。
この理解不能の現象に振り回される心配をしなくて良くなる日が来るかもしれない。
希望が垣間見え、弟者には事態が良い方向へと進んでいるように思われた。
とはいえ時々は、自分がやった覚えも無い事で
困った事態に陥る事もしばしば起こった。
.
- 217 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:35:21 ID:jM951KXo0
「弟者、何があったのかちゃんと言ってごらん」
「だから知らないってば!俺じゃないよ!」
一度、近所に住む小さい子供の親が、うちの子がお宅の長男に叩かれたと言って
母者に文句を言いに家まで怒鳴り込んできたことがあった。
だが弟者には全く身に覚えが無い。その時間は例の意識喪失を起こしていたからだ。
かと言って、常識的に考えて無意識中にそんな事が出来る筈も無かった。
「俺じゃないって言ってんのに!」
「そりゃあたしだって、あんたが理由も無しにそんな事する子だとは思ってないよ。
でも近所の奥さんも、あんたがその子のこと叩いてるの見たって言うんだから……。
弟者、あたしは何があったのか知りたいだけなんだよ」
そんな事を言われたって、まったく身に覚えが無いことを説明出来る筈も無い。
自分がやったのではないと何度言っても、どうしても信じてくれない母者に腹が立ち
「……知らない!!」
「弟者!」
我慢出来なくなって、部屋へと駆け込んだ。
- 218 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:37:22 ID:jM951KXo0
「弟者」
「………」
夜になって、弟者の部屋を訪れた母者が、その背中にそっと声をかける。
「妹者から聞いたよ。妹者の人形取り返してあげたんだってね」
部屋の中心、地べたに座りこちらに背を向けている弟者は
目の前に広げた自由帳にむかって、鉛筆でガリガリと何か描いているようだった。
「だからその子の事叩いたりしたんだろ?」
「……そうだよ。あいつ、妹者を泣かせたんだ」
まだ怒っているのか、手を休めず振り向きもしないまま投げやりに答える。
だが不思議と、その声音に棘は感じられなかった。ただ、事実を淡々と話している感じだ。
「妹者をいじめたんだもん。
妹者を泣かせたんだから、そいつも泣かしてやったんだよ」
「なるほどね。あんたがなんでそんな事したのか、これで分かったよ。
理由を最初から話してくれたら、あたしも頭ごなしに叱ったりしなかったのに」
「………」
- 220 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:39:26 ID:jM951KXo0
「でもいいかい、これからは何か腹が立つことがあっても
自分より小さい子に手をあげたりしちゃいけないよ。
いいね?弟者」
「………」
「弟者?」
「………」
「………?」
ようやくこちらの呼びかけに反応を示した弟者は、きょとんとした顔で振り返り
母者が部屋の入り口に立っているのを見ると、途端、むっとして顔をしかめた。
- 221 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:40:33 ID:jM951KXo0
- 「……母者?なに?……さっきのこと?
だから、俺は知らないって言ってるじゃないか。
ったく……」
ぶつぶつとそう言うと、またすぐプイと顔を前に戻す。
そして、自分の前に広げていた自由帳や鉛筆を怪訝そうに見下ろしたかと思うと
さっさと片付け、乱暴に引き出しにしまって、ついでに部屋の電気も消してしまった。
「俺、もう寝るからね。
……おやすみ」
顔も合わせないまま素っ気無くそう言って、闇の奥へと消えていく。
「……ああ、わかったよ。
おやすみ、弟者」
……まったく、この年頃の子ときたら扱いにくい事この上ない。
まあ、いい。とにかく、納得出来る理由を知ることが出来たのだから。
妹を思っての行動に免じて、今回の件はこれで終わりにする事にし
灯の消えた弟者の部屋を去った。
- 222 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:41:33 ID:jM951KXo0
―――たまに発生する、そういったトラブルに弟者が巻き込まれることは何度かあったが
それでも誰も、この家に弟者の他にもう1人、男の子がいることには気がつかなかった。
小さな妹者の他には誰も。
覚えの無い記憶や時間喪失に、弟者が1人悩んでいても
兄者にとってはその日常に何ら不都合な事は無く、弟者の存在自体知らないまま
学校でも家でも、好きな時に出てきて、好きなように遊んだ。
そうして毎日は、表面上は静かに、変わらず過ぎていった。
- 223 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:42:28 ID:jM951KXo0
―――弟者が5年生を終え、春から6年生になる新学期間近のある日。
その日の午後、クラスの友達と遊びに公園へ出かけたのは弟者だったが
その友達と日が暮れるまで思いきり遊んで、体中汚して帰ってきたのは兄者だった。
汚れた服に土のついた顔もそのまま、自分の部屋(実際は弟者の部屋だが)に戻る。
そうしてすぐ、勉強机の上に
目新しい綺麗な本や、新しいノートが整然と並べられているのを見つけた。
まだ一切手がつけられていない、6年生用のぴかぴかの教科書やノート。
「………」
それらを手にとって眺めているうちに、兄者はいい事を思いついた。
黒いフェルトペンを取り出して、キャップを外す。
前々から、自分の持ち物全部に他人の名前が書かれているのは
気に入らないと思っていたのだ。
- 224 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:43:09 ID:jM951KXo0
- その日の夕方、買い物から帰ってきた母者に真っ先に弟者が泣きついた。
弟者に手を引かれるまま部屋に入った母者が見たのは
新学期から6年生になるのに備え、買い換えた新品のノートや何冊もの新しい教科書が
勉強机の上に乱雑に散らかっている惨状。
それだけなら特に驚く事も無いのだが、その教科書やノートを見て母者はぎょっとした。
どの冊子の名前欄にも 黒い文字ではっきりと
「流石 兄者」 という文字が書かれていたからだ。
弟者はもちろん、自分が書いたのでは無いと言い張る。
自分が書いた筈が無かった。
- 226 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:44:52 ID:jM951KXo0
- あまり字が上手じゃない子供が書き殴ったような拙いその字は、一目見ても
小学生ながらにきっちりと均整の取れた弟者の筆跡とは違っていた。
かと言って弟者の他に、中学生の長女がそんな子供じみた悪戯をするわけが無いし
平仮名も満足に書けない4歳の妹者が漢字を書ける筈が無い。
その教科書やノートはずっと弟者の部屋に置かれていて
部屋の鍵を持っている弟者以外に誰も出入りはしていない筈だ。
一体誰がこの名前を書いたのか、母者にも弟者にも全く分からなかった。
……しかし、ノートに書かれた「兄者」の名前には、みんなが聞き覚えがあった。
まさかと思いつつも、母者が妹者に尋ねる。
すると彼女はやはり、いつものように無邪気にこう言うのだ。
「あにじゃがやった」
と。
流石に、この不可解な出来事には母者も得体の知れない不気味さを感じ
問題を解明しない訳にはいかなくなった。
- 227 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:46:26 ID:jM951KXo0
「あにじゃがいるんだもん。ほんとに、あにじゃがいるんだもん!」
妹者がいつも持ち歩いている、お気に入りのスケッチブックには
自分や弟者とともに、その”あにじゃ”を描いた絵が何枚もある。
その絵を指差しながら、妹者は必死に訴えた。
絵の中では、妹者と弟者、そして妹者の言う”あにじゃ”が手を繋いで笑っている。
温かな配色のクレヨンで塗りたくられた、普段ならば微笑ましく見える筈のその絵さえも
今この状況では何ともいえない不気味さを感じてしまう。
「いい加減にしな妹者、そんな子何処にもいないでしょ。
全部、妹者が作ったお話なんでしょ?」
「ちがうもん!」
母者に、今までに無いくらい怖い顔で問いただされても
空想の友達を信じて疑わない4歳の女の子は、居もしない子供の存在を断固として否定しなかった。
「いもじゃ、いつもあにじゃと遊んでるもん。
おとじゃおにいちゃんの本に、おなまえ書いたのだって―――」
- 228 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:48:22 ID:jM951KXo0
- 「妹者!嘘吐いちゃ駄目だよ、正直に言いなさい。
弟者の本にイタズラしたのも、妹者なのかい?」
「ちがうもん!あにじゃがやったの!」
「いい加減にしなさい妹者!!」
「……っ!いるんだもん、ほんとに、あにじゃがいるんだもん……っ!!」
とうとう泣き出した妹者を前に、母者も困り果ててしまった。
実際、今回の事件の犯人が妹者だとは母者だって思っていない。
4歳の小さい女の子にこんな事は出来ない。そんな事は深く考えなくても分かる。
―――じゃあ、一体誰が?
もしかして本当に、妹者の言う見えない誰かがこの家にいるというのだろうか?
まさか。
- 230 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:49:55 ID:jM951KXo0
- 「うああぁん、あにじゃぁ……っ!」
「………」
その様子を、妹者の部屋の前で恐る恐る覗いていた弟者は
不意に、意識が暗い、深い穴にすぅっと吸い込まれていくような、奇妙な浮遊感を感じた。
いつも時間を失う前に感じる、あの感覚だ。
今日はいつもより唐突に、強引ささえ感じた。
咄嗟に意識を保とうと試みる。だが、今日に限ってどうしても
自分を穴に引きずり落とそうとする“なにか”を退ける事が出来ない。
あ、落ちるな。
意識を手放す瞬間、頭の奥深くで
「妹者が泣いてる」
はっきりと、誰かの声を聞いた。
.
- 233 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:53:02 ID:jM951KXo0
「妹者、どーしたの?」
さっきまで、自分の新品の教科書やノートに落書きされた事でひどく動揺し、目に涙さえ浮かべていた弟者が
まるで何事もなかったかのように、平然とした様子で母者と妹者の前にふらふら歩いてきて
妹者と目線が合うように屈むと、涙に濡れたその顔を、不思議そうに覗き込んだ。
「どした?誰かに泣かされたのか?」
前々から弟者には、妙に気分が変わりやすいところがあるのを知っていた母者だったが
今回のこの変わりようには流石に唖然としてしまった。呆れ混じりの溜息をつく。
「……弟者、今は部屋に行っといで」
「なんで?妹者が泣いてるのに?
……おばさんが妹者を泣かしたのか?」
「……はぁ?」
「妹者をいじめるのは許さないぞ」
怒りを含んだ表情で、むっとして自分を見上げる弟者の顔を
母者は困惑しつつまじまじと見入った。
- 234 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:54:16 ID:jM951KXo0
- 「何言ってるんだい弟者、いじめたりするわけないだろ。
妹者が”兄者”がいるって嘘ばっかり言うから……」
「妹者は嘘つきなんかじゃない!
だって、俺はここにいるもん。な、妹者!」
「え?」
「ひぐっ……あにじゃぁ……っ」
「そーだ妹者、遊びにいこ!
今日、みんなで作った秘密基地教えてあげる。だから泣きやんで」
その男の子は片手を伸ばすと、にっと笑って妹者の頭を撫でた。
「……うん!」
「よーし決まり。行こう!」
- 235 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:55:35 ID:jM951KXo0
- 「ちょ、ちょっと待ちな弟者。弟者?」
「もう弟者ごっこはやめた。
今度は妹者と秘密基地で遊ぶんだ」
「……!?」
ぞっとして母者は弟者の顔を凝視した。なにかおかしい。
やけに子供っぽく、あっけらかんとした口調。
掴みどころの無い飄々とした表情、顔つき。
―――弟者と違う。
改めて見てみても、それは、生まれてから今日まで育ててきた自分の息子とは
声の調子も雰囲気も、笑い方さえ何もかもが別物であると、本能的にそう感じた。
今、妹者の手を引いて連れていこうとしているのは、自分のよく知る息子じゃない。
―――どこかよその、別の子だった。
.
- 236 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 18:57:05 ID:jM951KXo0
- 「あにじゃ、いこっ」
「おう!いいか妹者、秘密基地なんだから、場所は内緒だぞ。
他の誰にも―――」
ガッ!
「弟者!?……あんた、弟者……だよね?」
気がつくと母者は、咄嗟に弟者――だと思う――その子の肩を両手で掴んでいた。
思ったより大きな声が出て、心配と動揺のあまり肩を掴む手にも力が入ってしまった。
その剣幕に、今まで飄々としていた彼も、ひっと小さな悲鳴をあげる。
目を覚まさせるように、掴んだままの肩を軽く揺すった。
- 237 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 19:00:41 ID:jM951KXo0
- 「大丈夫かい弟者、しっかりしな!!」
「え、大丈夫だよ?俺は……」
母者の気迫に怯み、男の子の顔が引き攣る。
妹者が、不安そうにこちらを見上げている。
普段肝が据わりきっている母者も、この時ばかりは軽いパニックに陥っていた。
―――だが心の奥では、今自分の目の前にいるのが誰なのか、気づきつつあった。
.
- 238 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 19:01:36 ID:jM951KXo0
- 先程はつい大声をあげてしまったが、これ以上驚かせれば
どれだけ強く掴んでいても、この子は簡単にこの手をすり抜け逃げていってしまうだろう。
直感でそう感じた。
声のトーンに極力気をつけて、ゆっくり、慎重に言葉を選ぶ。
「………あんた、弟者だよね」
「………」
「………弟者じゃないの?」
「………」
- 239 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 19:03:10 ID:jM951KXo0
「…………”兄者”なのかい?」
思いきって、その名を口に出す。疑惑は既に確信に変わっていた。
一瞬、驚いた様子で目を見開き、何か言いかけてから―――咄嗟に口を噤む。
しかし、目の前の母者の真摯な表情を前に、ついに逃げられなくなったと悟ったのか
悪戯が見つかってしまった時のような、バツの悪い表情を浮かべて
「うん」
兄者は小さく頷いた。
- 240 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 19:05:06 ID:jM951KXo0
- + + + + + + + + + + + +
妹者は不思議な子供だ。
他の誰もが騙されてしまう、兄者お得意の「弟者のふり」も妹者だけには通用しない。
ただ一目見ただけで、自分の目の前にいる相手が誰なのか
例え姿は同じでも、妹者はいつだって見分ける事が出来る。
それは、弟者が兄者でも。ツンがデレだとしても同様に。
妹者の曇り無いまっすぐな瞳には、ありのままのその人の姿が映し出されるのだった。
だから、公園で遊んでいる時
妹者の目に映るデレは、17歳の女子高生の姿では無く
自分と同じ年頃の、無邪気で元気な幼い少女の姿なのだ。
.
- 241 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 19:06:34 ID:jM951KXo0
- + + + + + + + + + + + +
「弟者」
時間は、丁度ブーンと親子が学校の応接室にて話し合いをしていた頃に遡る。
名前を呼ばれた気がして、弟者はハッと顔をあげた。
勉強疲れのせいか少しぼぅっとしていたようだ。
咄嗟に妹者とデレの方に目を向けると、見知らぬ男が2人の前に立ち、何やら話しかけていた。
瞬間、心臓が跳ねる。
- 242 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 19:07:49 ID:jM951KXo0
- 何時の間に公園内に入ってきたのだろう。
遠目に見た感じ、爽やかな優男風。そして、人目を惹く金色の髪をした、若い男。
一見害はなさそうな人物に見えるが、開いていた文庫本を置いて慌ててベンチから立ち上がった。
(´<_`;)「―――あの、何か?」
l从・∀・ノ!リ人「あっ、ちっちゃい兄者!」
人好きしそうな笑顔がこちらに向けられる。それに伴って金髪がさらさらと波打った。
( ・∀・)「あれれ、もしかしてお嬢さん達の保護者の方かな?」
.
- 243 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 19:09:45 ID:jM951KXo0
- (´<_`;)「あ……はい、まぁ」
l从・∀・ノ!リ人「今ね、おにーさんに道教えてあげてたとこなのじゃ」
ζ(゚ー゚*ζ「おにーさん、シベリア駅に行きたいんだって」
無邪気に応える2人を前に、男は困ったような笑みを浮かべて頭を掻いた。
( ・∀・)「あはは、道が分からなくて困ってたんですよ。
この辺は人通りも少ないし、誰かに聞くことも出来なくて。
そしたら公園の方から楽しそうな声が聞こえてきたものだから、ついね」
( ・∀・)「慌てさせてしまったならごめんなさい。一応怪しい者じゃありませんよ」
(´<_` )「あ、ああ、いえ。……それで、道は……」
l从・∀・ノ!リ人「妹者が教えてあげたのじゃ!
だって妹者、シベリア駅で降りてここまで来たんだもん」
( ・∀・)「いやぁ、てっきり地元の子だと思ったんだけど。
お出かけ先の町のことまで詳しく知ってるなんて偉いなぁ。
おかげで駅までの道が分かったよ。本当助かりました」
l从*・∀・ノ!リ人「だってよく来るもんっ。ねー」
ζ(^ー^*ζ「ねー」
- 244 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 19:11:10 ID:jM951KXo0
- ( ・∀・)「ありがとう、お嬢さん達。これで電車の時間に間に合うよ」
l从・∀・ノ!リ人「おにーさん、電車に乗ってどこ行くのじゃ?」
( ・∀・)「VIP町だよ。ちょっとした用事があるんだ」
l从・∀・ノ!リ人「VIP町!?妹者達、そこに住んでるのじゃ!」
( ・∀・)「わぁ、本当かい?
だったら、僕もしばらくVIP町にいる予定だから、また会えるかもしれないね!」
ζ(^ー^*ζ「また会えるといいね!」
l从・∀・ノ!リ人「のじゃ!」
( ・∀・)「そうだね。
……おっと、じゃあそろそろ行くよ、親切なお嬢さん達。またね」
( ・∀・)「きっとまたすぐに会えるさ」
そう言って軽く手を振りながら、金髪の男は公園を出て行った。
- 245 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 19:12:28 ID:jM951KXo0
- l从・∀・ノ!リ人ノシ「「またねー!」」ζ(゚ー゚*ζノシ
(´<_`;) ホッ
(´<_`;)(変質者だったらどうしようかと思った……)
男の背を見送り、ほっと胸を撫で下ろす弟者。
そのシャツの裾を、妹者がくいくいと引っ張る。
l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃい兄者!妹者、ちゃんと道案内できてえらかった?」
(´<_` )「ん?あ、ああ。偉い偉い。お利口さんだったぞ妹者」
l从*・∀・ノ!リ人「えへへー」
(´<_` )「人に親切にするのは大事なことだからな。
でもいつも言ってるように、道を聞かれたからってその人について行ったりしちゃ駄目だぞ?
デレちゃんもな」
l从・∀・ノ!リ人「わかってるのじゃ!」
ζ(゚ー゚*ζ「わかった!」
- 246 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 19:14:18 ID:jM951KXo0
- (´<_` )「ならよし。
……さてと、どうする?2人とも。俺らもそろそろ帰るか?」
l从・∀・ノ!リ人「まだ遊びたいのじゃー」
ζ(゚ー゚*ζ「デレもまだ遊ぶ!」
(´<_` )「はいはい、分かったよ。じゃあもうちょっとだけな」
l从・∀・ノ!リ人「「はーい」」ζ(^ー^*ζ
- 247 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 19:18:57 ID:jM951KXo0
l从・∀・ノ!リ人「ふんふふーん♪」
∬´_ゝ`)「あら妹者、お絵かきしてるの?」
その日の夜。
リビングの机に向かって鼻歌を歌いながら、楽しそうに色鉛筆を走らせる妹者。
大学から遅く帰宅した姉者が、通りがかりついでに妹者の絵を覗き込んだ。
∬´_ゝ`)「何の絵描いてるのー?」
一応紹介しておくと、彼女は現在大学2回生の流石家長女、流石姉者。
弟者より3つ年上で、彼女が上にいたからこそ、弟者にはその名が与えられた。
- 248 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 19:20:03 ID:jM951KXo0
- l从・∀・ノ!リ人「今日、デレちゃんと一緒に公園で遊んだ絵なのじゃ!」
∬´_ゝ`)「へーどれどれ。私にも見せて」
l从・∀・ノ!リ人「どぞー」
色鮮やかな遊具や、青く生い茂る木々の描かれた公園の風景。
拙く、塗りが雑な部分も目立つが
何より楽しい気持ちが画用紙いっぱいに溢れている、無邪気でのびのびした子供らしい絵だ。
その中で、ブランコに乗っている満開の笑顔の女の子2人を指差して姉者が尋ねる。
∬´_ゝ`)「ふむふむ。これは妹者ね。で、こっちがデレちゃん?」
l从・∀・ノ!リ人「なのじゃ!」
∬´_ゝ`)「じゃあこっちで、ベンチに座ってるのは弟者かな?」
l从・∀・ノ!リ人「うん!」
∬´_ゝ`)「あはは、似てる似てる。
……あら?」
- 249 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 19:22:07 ID:jM951KXo0
- 順に紙上の人物を追っていた姉者は、4人目の人物を指差して首を傾げた。
画用紙の隅の方、他の誰でもない、大人の男の人が描かれている。
ただの背景の人物のようには見えない。
第一背景だとしたら、公園の絵なのだから子供が描かれているべきだろう。
∬´_ゝ`)「この男の人は?」
l从・∀・ノ!リ人「公園で会ったおにーさんなのじゃ!」
∬´_ゝ`)「誰それ?」
l从・∀・ノ!リ人「道が分からなくて困ってたのじゃ。だから妹者、教えてあげたのじゃ」
∬´_ゝ`)「へー、偉いじゃない妹者。
道案内したこと、母者にも教えてあげなくっちゃね。きっと褒めてくれるわよ」
l从・∀・ノ!リ人「えへん。困ってる人がいたら、助けてあげるのはとーぜんなのじゃ!」
∬´_ゝ`)「うふふ、その当然の事をするのがなかなか難しいのよ」
得意気に胸を張る小さな頭を撫でてやる。
その手の下で照れたようにはにかんだ幼い笑顔は、純粋な優しさで満ちていた。
- 250 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 19:23:39 ID:jM951KXo0
l从・∀・ノ!リ人「……あ、そうだ!
姉者にいいこと教えてあげる」
∬´_ゝ`)「?なあに?」
l从・∀・ノ!リ人「そのおにーさん、姉者好みのなかなかのイケメンだったのじゃよ」
∬´_ゝ`) ガタッ
.r ヾ
__|_| / ̄ ̄ ̄/_
\/ /
Σl从・∀・;ノ!リ人 ビクッ
- 251 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 19:24:34 ID:jM951KXo0
- ∬*´_ゝ`)「m j s k !!!
その人学生?年の頃は?どこに住んでるの?ジャニーズで言うと誰!?」
l从・∀・;!リ人「うわあ…」
必死杉乙。
そう言わざるを得ない姉の食いつき様に身を引きつつ、目を泳がせて逃げ道を探す。
l从・∀・;ノ!リ人「え、えーっとえーっと……」
l从・∀・;ノ!リ人「あ、そうだ!そのおにーさん、しばらくVIP町にいるって言ってたのじゃ。
また会えるかもしれないのじゃ!」
∬*´_ゝ`)「きゃあっ、流石妹者だわ!私の恋のキューピッド!
会ったら絶対紹介してよね。約束よ!」
l从・∀・ノ!リ人ゝ「らじゃ!のじゃ」
- 252 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/07/22(日) 19:27:34 ID:jM951KXo0
∬*´_ゝ`)「キャンパス内の男ほぼ壊滅状態だったからそろそろ諦めかけてたけど、
唐突で思いもかけない外での出会いってのも全然ありよねっ!
今年こそ、彼氏イナイ歴=年齢秘録に終止符を打つのよ!!」
姉者は男に求める理想像が高すぎるのじゃ…
呆れ混じりのその呟きは心の中にそっとしまい込んで、妹者は再び描きかけの絵に目を戻した。
l从・∀・ノ!リ人「おにーさんも、きっとまた会えるって言ってたのじゃ。
楽しみなのじゃー」
一人頬を染め興奮する姉を他所に、そう呟くと
画用紙の隅に描かれた、黒髪の人物を指でなぞり、嬉しそうに笑った。
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