- 82 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 16:49:48 ID:aqO0ZAYsO
-
○登場人物と能力の説明
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
从'ー'从 【手のひら還し《イレギュラー・バウンド》】
→『因果』を『反転』させる《拒絶能力》。
( ´ー`) 【???】
→『拒絶』と関わりの深い男。
.
- 83 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 16:50:18 ID:aqO0ZAYsO
-
○前回までのアクション
/ ,' 3
从'ー'从
→戦闘中
从 ゚∀从
→気絶
( <●><●>)
→戦闘不能
( ´ー`)
→散策中
.
- 84 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 16:51:47 ID:aqO0ZAYsO
-
第十二話「vs【手のひら還し】W」
怒号と同時にアラマキは飛び出した。
同時にワタナベは後方へ十メートルほど跳んだ。
その着地と同時に、アラマキは既にワタナベに肉薄していた。
ワタナベはアラマキの動きを『反転』させ、アラマキは動きを巻き戻された。
だがアラマキも退かず、後ろへ向かおうとしているその慣性を『解除』した。
それにより何の力による干渉のない状態に戻ったアラマキは、
地についていた右足をバネのように伸ばして飛びかかった。
右拳の射程圏に、ワタナベの前身が入った。
彼女は、アラマキのその動きも『反転』させたが、それと同時に
『反転』による動きが『解除』され、結果アラマキが一瞬止まっただけになった。
拳が右頬を掠めるように飛んできたので、ワタナベは背中を反らせてそれをかわした。
拳の軌道が真空を生み、ちいさな爆発音のような音がワタナベの耳元で鳴った。
アラマキは右腕しか残しておらず、それを左方向へ使い分けてしまった。
結果彼の右半身は無防備となり、またワタナベに
そちらに回り込まれては、相手に背を向けるのと同義になる。
攻められてばかりのワタナベではない。
むろん手は抜いているつもりだったのだが、
気がつけば回避に関しては♀に本気を出していた。
それが屈辱的だったため、無防備となったアラマキの
右半身を見てワタナベもすぐさま攻撃に転じた。
アラマキの死角、右側に回り込み、少し腰を落とした。
アラマキの裏拳がやってくるまで、コンマひとつ跳んで三秒である。
それまでの瞬間に、ワタナベは掌底をアラマキに向けた。
向けたといっても、ただ機械的に右脇腹に打ち込むのではない。
.
- 85 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 16:53:10 ID:aqO0ZAYsO
-
両手を個別に使って¥カ底を放った。
右の掌はアラマキの躯よりやや右寄りに。
左の掌で、アラマキの肋骨を真横から狙った。
その掌底の軌道のちょうど中間くらいで、アラマキの裏拳がやってきた。
が、それはワタナベの頭部を捉えることはなかった。
凄まじい爆音と同時に、アラマキの裏拳と
ワタナベの右の掌が打ち合わさったのだ。
爆音の結果、両者の拳に異常はなかった=B
同時に、アラマキの右脇腹をワタナベの左の掌が捉えたのだが、
これも爆音を残しただけでどちらにも支障は来されなかった。
攻撃と同時に、アラマキはそれによって生じる力を『解除』した。
しかし、その『解除』と『入力』を、ワタナベが『反転』させた。
そのため、力は従来通りに両者に均等に向かうはずだった。
だが、自身にやってくる力のベクトルをワタナベは『反転』させ
擬似的にアラマキに負荷を全部押し返した。
拳の感覚から、自身の『解除』が『反転』されたのを察したアラマキは
咄嗟に、自身にやってくる力を『解除』した。
結果、最初の打ち合った時に生じた音だけを残して
今回の一瞬における攻防は終わったのだった。
この少し前に、アラマキは右足を上げていた。
踵を外側に向け、地面と平行になるように。
それを、裏拳より一瞬後に横に凪ぎ払った。
水平蹴りとも呼べようその蹴りが、掌底で裏拳を
受けたワタナベの脇より少し下辺りを襲った。
ワタナベは、この攻撃は予測していなかった。
アラマキはこの蹴りによる力を一時的に『解除』した。
そして数瞬後に『入力』し、力の因果関係を断ち切った上でダメージを与えた。
だが、ワタナベは少し苦悶の表情を見せただけだった。
今の彼は、特に踏み込んだわけでもなく、支えるものが左足だけだ。
まして右腕は攻撃に用いたためバランスをとれておらず、
結果この水平蹴りは日頃のアラマキの「破壊」に比べれば大した威力ではなかったのだ。
.
- 86 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 16:54:59 ID:aqO0ZAYsO
-
せめてその部位が砕けはしないかかと思ったが、いくらアラマキらに劣るとは言え
常人を逸している肉体を持つ『拒絶』にはそんな甘い考えは通じなかった。
肋骨を一本、折っただけにすぎなかった。
ワタナベは右の腿を外側にずらしてから、一瞬のうちにそれを持ち上げた。
自身の右肘に打ち付けるような動きで、アラマキの右足をそれで挟んだ。
挟むといっても、彼女の場合はそれはギロチン級の鋭さとなる。
それを、足の爪先の動きで瞬間的に察知したアラマキは
そのギロチンで上下から伝わってくる力の向きを全部『解除』してワタナベに押し返した。
ワタナベは仰天した表情を見せて、カウンターされたダメージを被った。
挟んだ右肘と右膝をひき、ワタナベは後方に跳んだ。
負荷における因果関係を『反転』できないと確認したからだ。
今のダメージは、アラマキが与えたものではない。
力の発生源は自分である以上、自分で自分に負荷を与えたようなものなのだ。
言い換えれば、被害者は自分で、同時に加害者も自分である。
それを『反転』させても、結局はなにも変わらないのだ。
アラマキの『解除』を用いたカウンター技には、自分の
【手のひら還し《イレギュラー・バウンド》】が効かない
ということがわかった以上、迂闊に攻め寄れない。
そのため、一旦距離を空けておきたかった。
从'ー'从「結構イイねえソレェ!」
だが、一旦空けた距離もすぐに詰め寄られた。
ワタナベは少し驚いたが、アラマキにとってはそれが最善の行動だった。
フェイントを交えて攻めればいつかはダメージを与えられる。
ならば、とにかく殴打の嵐を浴びせればいいのだ。
そう考え、ノーガードで、ひたすら攻めようと考えていた。
.
- 87 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 16:57:21 ID:aqO0ZAYsO
-
从'ー'从「けど甘ェ!」
アラマキが拳を放った直後、彼は違和感を覚えた。
急に自分を縛っていた紐から解き放たれたような感覚に見舞われたのだ。
その正体は、上空に向けて飛ばされる自分の躯を見てわかった。
重力の『反転』だ。
いつしか、何度か。
自分も行ったことのある、宇宙を武器にする¢ヲ死級の大技だ。
それの危険性は知っていて、且つそれの有効性も知っている。
だから本来は慌てふためくはずなのだが、アラマキは落ち着いていた。
/ ,' 3「『解除』ッッ!」
从'ー'从「ッ!」
重力は、対象物を自身へ引きつける万有引力と、遠心力との合力だ。
それを『反転』させるというということは、重力を「対象物を
自分から突き放すように恒久的に発生する力」にしたということになる。
だが、結局は『力』なのだ。
『力』を操るアラマキが、それを拒めないはずがない。
咄嗟に、自身にかかる「重力」を『解除』して「重力」を重力に戻した。
この曲芸じみた行動には、ワタナベも驚かされた。
かなり拡大解釈された『反転』をするワタナベが言えることではないが、
この『解除』の適応範囲が、非常識にも広いのだから。
重力をも『反転』させたワタナベだが、それで
アラマキがピンチに陥ったわけではなかった。
むしろ、アラマキにとっては好都合だった。
自分の大好きな「慣性」と「重力」の両方を、味方にできるのだから。
.
- 88 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 16:59:02 ID:aqO0ZAYsO
-
躯にかかる加速を拳に移し、対応しきれないでいるワタナベの脳天に放った。
ワタナベは頭を防ぐより先に、再び「重力」を『反転』させ、元の重力に戻した。
アラマキは今、重力を『解除』しているのだ。
重力が元に戻った今、アラマキは再び宙に飛ばされた。
否、飛ばされかけた=B
そう来るであろうことを、アラマキは予め察していた。
だから、躯にかかる力に違和感を感じたと同時に、重力を『入力』した。
結果、アラマキは宙で一瞬停止した。
ワタナベが次の行動にでる前に、右足を思い切り前方に向けて蹴り出した。
半月を描くように放たれたその蹴りは、ワタナベの顎を捉えた。
『反転』させた直後の、光のような速さの蹴りだったため
ワタナベはそれを『反転』させ防ぐことはできなかった。
何度も言うように、これは零距離では言わば反射神経を用いた戦いなのだ。
反応しきれなかったワタナベが競り負けるのは、今回では当然だった。
/ ,' 3「『入力』ッ!」
从'ー'从「ブッ」
蹴りの力の『入力』と同時に、ワタナベの顔は上向きになった。
顎が壊されそうな威力で、予想していなかった声を発した。
咄嗟に後退し、追撃を受けないように立ち回った。
その直後、ワタナベの残像の頭部をアラマキの踵が砕いているのが見えた気がした。
从'ー'从「ジジイ速ぇ〜」
/ ,' 3「ッ…。はずしたか」
从'ー'从「それはおあいにくさ―――」
.
- 89 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:00:15 ID:aqO0ZAYsO
-
从'ー'从「まッ!」
ワタナベは両膝を少し畳んで腰を下ろした。
同時に突きだした手は、アラマキの真下にある
直径二十センチほどの石に向けられていた。
直後、その石及びそれを取り囲む石の全てが、真上に飛び上がった。
ワタナベは、そこら一帯にある石や砂にかかる重力を『反転』させたのだ。
ただ『反転』させただけではない。
空気抵抗をも『反転』させ、通常の倍近い速度を生み出させていた。
/ ,゚ 3「うぉッ――」
アラマキが『解除』できるのは、基本的には一度の使用につきひとつのみだ。
一瞬一瞬のたびに能力を発動することで、擬似的には
同時に複数個もの対象物の力を『解除』できるのだが、
さすがに一個や二個では済まされない量の小石が飛んできては、
たとえアラマキと言えども抗うことはできなかった。
槍と化した石や小石が、次々アラマキの皮膚にめり込んでいった。
じょうろのようになった肌から血が吹き出してくる。
二十センチほどの石からは力を『解除』させたものの、
これではダメージを負ったことには何ら変わりがない。
全身の筋肉を強ばらせ、膨張させた。
傷をそれで圧迫させて、血をせき止めた。
同時に、圧迫され力の行き場がなくなった小石は、
外に押し返されるように、弾き飛ばされた。
それを見てか、ワタナベは重力が『解除』された石の
重力を再度『解除』させ、アラマキのもとに向かわせた。
そのときには既にアラマキは行動ができる体勢になっていた。
.
- 90 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:02:16 ID:aqO0ZAYsO
-
飛んできた石を、「破壊」を体現する拳で打ち砕いた。
そして飛び散る力を『解除』させ、ぽろぽろと地に落とした。
ワタナベはそれを見て半ば感心したが、同時に嘲笑もした。
今の、石を殴る瞬間、そのベクトルの向きを『反転』させて
アラマキ自身の拳を砕くことさえできたのだ。
それを警戒しないで行動する辺り、まだ自分には勝機がある。
ワタナベは、そう思うと、ふッと顔の筋肉がほぐれた。
从'ー'从「すごいよジジイ〜!
今の攻撃、名付けてストーンエッジを
防げるのはせいぜいきみくらいだよ〜!」
/ ,' 3「戯け」
从'ー'从「本気の五十三万分の一しか使ってないボクに対して
もうそんな様子じゃ、せいぜい保って五分だよきみ〜」
実際、彼女はまだ本気を出していなかった。
彼女が本気を出すということは、能力を惜しみなく使うことである。
アラマキの『生死の概念』を『反転』させるだけで、言わば即死なのだ。
そう考えると、アラマキがどう足掻こうと彼の敗北は決まっているようなものだ。
だが、ワタナベがそうすることは、自分が負けそうにないうちは、ない。
なぜなら、そうしてしまうと自分が満たされなくなるからだ。
.
- 91 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:03:57 ID:aqO0ZAYsO
-
せっかく、こうも自分と――対等かは置いておき――闘いあえる人材が見つかったのだ。
それまでは、ただ遣える能力を持っているだけの弱者か、
自己陶酔しか能のない雑魚くらいとしか彼女が出会うことはなかった。
そんななか、彼女はゼウスと出会った。
互いに名乗ることもない、まさに抜き打ちの試合。
ゼウスは身体能力も戦闘力も抜きん出ていた。
まして、不意打ちや騙し討ちの精度は世界一だ。
だから、ワタナベは少しは楽しめていた。
次なる攻撃はなにか、を読むだけで満たされていた。
だが、足りなかった。
彼の場合、有する《特殊能力》は、自身の攻撃の成功が前提となるもの。
攻撃そのものが成立しないため、能力を発動することもなくワタナベに敗北した。
ワタナベの視点で言えば、彼は一度も能力を使わずに倒れてしまった。
だから、ワタナベは、物足りなく感じていた。
ワタナベは、ハインリッヒとのじゃれ合い≠熄ュしは楽しく思えた。
全てのものから『優先』されるその能力は、いくらワタナベといえど脅威に値した。
だから優先的にそれを『反転』させ、封じた。
するとどうだ。
ハインリッヒは瞬く間に敗北したではないか。
所詮能力に頼っているだけの二流だ、ワタナベはそう思った。
所詮、『英雄』はこの程度か、とも見切っていた。
.
- 92 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:05:35 ID:aqO0ZAYsO
-
しかし、アラマキは違った。
風格もあり、経験もあり、実力もあり、能力も遣える。
はじめて自分に「受け入れざるを得ない」負荷を与えたのだ。
ワタナベにとって、これ以上のない充足感だった。
たとえ自分のほうが有する能力面では圧勝していても、
もう少しこの戦いを続けて、もっと満たされたかった。
从'ー'从「だからさ」
/ ,' 3「――ッ」
肉薄して、顔を一センチの距離になるまで近づけた。
不意の動きに、アラマキは対処ができなかった。
が、ワタナベは攻撃しようとはしなかった。
狂気に満ちた笑みをみせ、耳元でちいさく呟くだけだった。
从'ー'从「もっと足掻け。『自分が負ける』という『因果』を拒絶しろ。
ボクをもっと悦ばせろ。イキそうなほど、失禁しそうなほどの快楽を与えろ」
/ ,' 3「……ッ」
アラマキは、ひそかに冷や汗を垂らした。
.
- 93 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:07:03 ID:aqO0ZAYsO
-
◆
内藤は、屋敷の陰で震えていた。
震えていた理由は、二つあった。
ひとつは、言うまでもなくワタナベが原因だ。
彼女の恐ろしさに、未だに慣れていないのだ。
彼女と対峙して彼女に睨まれては、失禁しかねない。
それなのに、ああして戦闘できているアラマキが凄いとしか思えなかった。
黙っていれば美少女なのに、有する《拒絶能力》が恐ろしい。
【ご都合主義】とは違い、【手のひら還し】は
『現実』を最悪なかたちにねじ曲げるようなことこそしないが、
与えられた『現実』を好き勝手に崩壊させているようなものなのだ。
それでは、やっていることはショボンとなんら変わらない。
むしろ、『生死の概念』を『反転』させることで実質不死となっている以上
純粋な恐ろしさでいえば、ワタナベの方が圧倒的に勝っていた。
それが、一つ目である。
二つ目は、ワタナベもショボンもアラマキも関係なかった。
ただ、脳内で、ある人物の声が文字となって現れていたのだ。
.
- 94 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:08:46 ID:aqO0ZAYsO
-
『知らねえよ。』
『おめえの攻撃も、頭脳も、能力も、』
『んなもん、ぜんぶ知らねえよ。』
――『拒絶』を体現する男。
有する《拒絶能力》は、内藤が知る限り――つまりこの世界において――
右に並ぶものはおろか、足下に及ぶ者すらいないであろう程の理不尽さを持つ。
なにもかもが効かない≠フだ。
そしてなにもかもを打ち消す≠フだ。
ショボンやワタナベのように、世界の規律を乱すような大袈裟な曲芸はしない。
だが、だから弱いという話は、いっさい通じない。
内藤は、「どうしてこんな能力を編み出してしまった」と後悔していた。
「勝つ道理が存在しない」能力なのだ、これは。
ワタナベなんかより何十倍も、恐ろしさは勝っていた。
『拒絶』が存在する以上、「奴」は絶対に存在している。
「奴」は好戦的な性格ではないだけまだましなのだが、
それでも戦う時は戦う。
そして少しでも怒らせ《拒絶能力》を発動させれば、最期。
決して誰も抗えない。
ワタナベでも『反転』できないし
ショボンでも『絵空事』にできない。
そんな男なのだ。
内藤が怯えるには、充分すぎる内容だった。
.
- 95 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:10:25 ID:aqO0ZAYsO
-
( ; ω )「(あいつは……あいつだけは、絶対に相手にしちゃだめだお)」
( ; ω )「(その前に逃げて、一生を隠れて過ごすのが一番だお)」
たとえ銃弾を撃っても
零距離で大砲をぶっ放しても
頸動脈を噛みちぎっても
寿命が急に零にさせられても
内藤が危惧する男は、死なない。
死ぬはずがない。
『死』なんか、既に『拒絶』しているだろうからだ。
勝つ方法が、冗談抜きでひとつも浮かばなかった。
『作者』であり、この世の全てを知り尽くしていても
おかしくないこの男、内藤でさえ、わからなかった。
今のうちから対抗策を練る必要性もなかった。
――否、「今のうちから」など関係なく、対抗策を
練る必要性などなかった、といった方が正しい。
対抗策など存在しないのだ。
『ダンプカーに突っ込まれても死なない鋼の肉体だって?』
『そりゃーすげえ。で?』
『鋼だろうがダイヤモンドだろうが、壊れるもんは壊れる≠だよ。』
『甘受しな。』
.
- 96 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:12:26 ID:aqO0ZAYsO
-
未だに、声の存在しない声が聞こえてくる。
内藤はそのたびにかぶりを振っては、その声を遠ざけようとした。
だが、思うようにいかない。
意識すればするほど、「奴」の存在がより鮮明に浮かび上がってくる。
しかし、幸か不幸か、顔はわからなかった。
設定する必要がないし、イメージしたこともないからだ。
だが、顔がわからなかろうが、「奴」が誰なのか
会って空気を味わえばすぐにわかる=B
肌が急に悲鳴をあげ、避難するよう警笛を鳴らすのだ。
動物的に、それは顕著に、表れる。
決して受け入れてはならない『拒絶』が、そこにあるのだから。
( ; ω )「どうしたもんか……」
漸く落ち着けてきたと思うと、内藤はやっとこさ震えがおさまった。
「奴」に関する思考に、免疫ができた。
通常の恐怖よりも、それは何倍も時間がかかった。
立ち上がって、服に付いた砂埃を払う。
乾いた砂が、近くをふわりと舞った。
それを見届けることなく、さっと後ろを見た。
後ろ、すなわち「戦場」である。
打撃による負荷を、『解除』してから『入力』するという
タイムラグを用いた攻撃法をその場で編み出したアラマキのことだ、
内藤が震え考察していた間でも、ある程度は押してダメージを与えているだろう。
――その考えは、白昼夢にすぎなかった。
夢見がちと言われても反論できない、『絵空事』だった。
実際は、アラマキが圧倒的に押されていたのだから。
.
- 97 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:13:50 ID:aqO0ZAYsO
-
( ;゚ω゚)「―――ッ!?」
ワタナベの動きは、視認不可だった。
目で捉えることができない速さで立ち回っていた。
得意の、掌底を用いた打撃が頻繁に行われている。
踏み込んでから放たれる、骨を砕きかねない掌底。
飛んでくる攻撃を、躯を捻ってかわした直後に繰り出す、回し蹴り。
跳躍した際に狙うことの多い、空中踵落とし。
非力な美少女≠ナも殺傷力を持つことのできる攻撃を
中心に、一連の攻撃パターンの流れが組まれていた。
そのためか、無駄がなく、着々とダメージを与えることができている。
だが、内藤が、その程度のことで仰天するはずがない。
問題は、その向かいにいるアラマキだった。
血らしき赤黒い色で全身が滲んでいて、
既に肩で息をするほど、追い込まれている。
攻撃も、内藤が視認できるほど遅くなっていた。
プロ野球のピッチャーが投げるボールでさえ視認できない
内藤でさえ、アラマキのその攻撃は充分視認することができた。
これは『異常』なのだ。
対象物を「破壊」するには、少なからずや速度が必要とされる。
そして、「破壊」の化身である以上、当然その速さも身につけている。
そんなアラマキの打撃が、それもスローモーションのように一手一手が頗る遅いのだ。
.
- 98 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:15:05 ID:aqO0ZAYsO
-
これでは、見ている限りではどう考えてもアラマキの劣勢としかいえなかった。
認めたくない『因果』だが、これは認めざるを得なかった。
皮肉にも、『拒絶』を甘受するしかなかった。
なおも戦闘という名の一方的な攻撃は続いている。
アラマキなら、ワタナベの放つ掌底を最低限の動きで
去なせるはずが、今ではかわすことすらできず頬を掠めたりしていた。
/;,' 3「―――ッ」
从'ー'从「ほらァ!」
アラマキが避けれるようにわざと加減させた掌底を、ワタナベが放つ。
間一髪で避けるアラマキを見て、彼女は芯から快感で震えるのだ。
この、焦燥に満ちた顔。
この、絶望のなか必死でもがき苦しむ姿。
この、拒絶しようにできない『拒絶』。
そのどれもが、彼女を満たす。
あの、自分に多大なる負荷を与えたアラマキが、
こうも一瞬で手のひら返され、追い詰められてしまうのだ。
生に、勝利に固執するアラマキは、実に滑稽なものだった。
そんな姿に、ワタナベが惹かれるのもおかしくはない。
滑稽でありながら、その姿は実に美しかったのだから。
醜く、愚かで、汚らわしい、だからこそ美しい。
.
- 99 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:16:38 ID:aqO0ZAYsO
-
从'ー'从「もっとォォ!」
/;,゙ 3「――」
徐々に、掌底の速度を速めていく。
体力の消耗で動きが衰えてくるのに反比例して、
やがて回避ができなくなるであろう速度で攻撃する。
そうすると、相手の動きは更に滑稽になるのだ。
的外れな行動に出ては、裏目に出て負荷を負う。
その負荷が連鎖して、やがては『拒絶』に辿り着く。
从'ー'从「らららぁぁッ!」
/; ゙ 3「――――」
アラマキの動きは、やはり衰えてきた。
体力の消耗だけでなく、精神的な疲労、
また負わされたダメージもが関連していた。
ワタナベは、そんな彼を見て、彼が堕ちるのもそう遠くはないな、とほくそ笑んだ。
徐々に『拒絶』に呑み込まれてゆくのが、見てとれる。
呑み込まれた終着点が、自分がもっとも欲する快楽なのだ。
ワタナベは徐々に興奮してきて、躯が熱くなってきた。
从'ー'从「あれれ〜?」
/;。゙ 3「が――」
隙を衝いて、アラマキの腹に掌底をねじ込んだ。
疲労の溜まったアラマキが、即座に反応して
その攻撃に対し能力を発動させることはできなかった。
从'ー'从「動きが遅くなってるよ〜?」
/;。゙ 3「カ……ハ…………ッ」
内臓に確かな負荷を与えて、アラマキを突き飛ばした。
地面に背を打ち、数回バウンドして、横たわる。
うずくまっては、まともに呼吸もできなさそうな様態になった。
.
- 100 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:18:06 ID:aqO0ZAYsO
-
从'ー'从「さっきまでの威勢はどーしたのさ!」
/; ' 3「………ぬ……」
アラマキは、上体を起こしてなんとか立ち上がった。
もう足も覚束なく、相当な負荷がかかっていることが
一目見ただけですぐにわかった。
ワタナベは、そんな彼の様子がおかしかったようで、
急に攻撃をやめ、おかしな振る舞いをとった。
从'ー'从「やってみなくちゃわかんねえだろ!
諦めるな! おコメ食べろ!」
从'ー'从「なーんて」
/; ゚ 3「………カ…ッ」
狂ったかのような演技をして、直後に不意打ちにでた。
両手を横に広げておどけてみせた直後だったため、
アラマキもその攻撃を防ぐことはできなかった。
右足で地を蹴り、様々な要素を『反転』させて
コンマ一秒足らずでアラマキのもとへ突進し、
突き出した左肘でアラマキの腹を捉えた。
アラマキは腹から空気を吐いて、よろめいた。
掌底による負荷が、思いのほか重くのしかかっていた。
ニーバットの負荷に耐えようとする足腰が悲鳴をあげる。
アラマキ自身も、思わず苦悶の声を漏らした。
それを聞いてワタナベは躯が更に熱くなった。
もっと聞きたい。
もっと痛がってほしい。
もっと満たして。
そんな願望が、彼女の脳裏を駆けめぐっていた。
先ほどまでよりも、更に顕著に表れていた。
.
- 101 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:18:58 ID:aqO0ZAYsO
-
从'ー'从「手のひら返して不意打ちは常套手段だぜぇ〜? 理不尽だろぅ〜?」
/; ' 3「ふ、はハ……」
从'ー'从「? なにがおかしいんだぜぇ〜?」
口調や声色を変えたワタナベに、アラマキはそう笑った。
相当な負荷を与えられた上で笑ったのだから、ワタナベも不思議に思った。
引き続きおどけた様子で、アラマキの様子を窺う。
よろめいたままのアラマキは、虚勢を張らんがばかりの笑顔で満ちていた。
/; ' 3「そん程度で不意打ちを語るか……」
从'ー'从「?」
/; ' 3「儂の宿敵にの、おぬしなんかの数百倍は不意打ちのうまいきゃつがいてのぅ」
/;,' 3「そのフリがフェイクであること自体、むしろお約束なんじゃよ」
从'ー'从「……」
从'ー'从「………」
.
- 102 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:20:04 ID:aqO0ZAYsO
-
ワタナベは押し黙った。
いや、思考に耽った。
なぜ急に、ここにきてこいつは無駄話をするようになったのか。
なぜ、反撃に出たりしないのだろうか。
そんなことを疑問に思ったのだ。
不意打ちの可能性も考慮した。
だが、アラマキの胸中からそれをにおわせる言葉は届いてこない。
不意打ち、騙し討ちをする場合、どうしても強く意識してしまうため、
その心のどよめきを隠すことは不可能に近いのだ。
心の声を『反転』させて探って、その声が聞こえてこない以上は、不意打ちの可能性はない。
ならば、いきなり見せたこいつの余裕な態度はなんだ。
今度は、彼女はそう思った。
先ほど心を読んだ際、奇妙なことがわかった。
心の底から、余裕で満たされているのだ。
それも、虚勢や上辺のそれではない。
「こいつには勝てる」や「勝ったも同然だ」。
そんなニュアンスの感情が、彼の胸中を取り巻いていたのだ。
だが、そこから更に詳しいことは探れない。
アラマキはうまいこと、その感情より先の心情を
押し殺して、悟らせないようにしているのだ。
様々な面においてキャリアが桁違いである以上、心の声に
鍵をかけることは、不完全ながらもできるのだろう。
彼の放つ威圧といい、年季が彼に与えた功は、
ワタナベにとって厄介以外のなにものでもなかった。
.
- 103 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:20:57 ID:aqO0ZAYsO
-
从'ー'从「歯ァ食いしばれ」
/ ,' 3「また手のひら返したの。
最近の若いのは落ち着きを知らんて」
ワタナベのなかの厄介が不安に変わり、
それが更に懸念、はたまた危惧にまで変貌を遂げた。
だから、早急にこいつとの戦闘を終わらせようと思った。
自分が満たされる至高の結末。
「抗いようのない立場からの、一方的ななぶり殺し」を経て。
一方のアラマキは、ワタナベに悟られない領域で心の声を囁いていた。
それを思うたびに、冷や汗が頬を伝うのだ。
不安、疑心、懸念、そしてそのどれよりも大きな、期待の入り混じった。
/ ,' 3「(もっと時間を稼がねば≠ネらんかのぅ……)」
今のところ、その言葉の意味を知っているのはアラマキしかいない。
内藤でも、ワタナベの倒し方はわからないのだから。
.
- 104 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:22:07 ID:aqO0ZAYsO
-
◆
路地裏では、カラスがごみ箱を漁っては食えそうなものを選んで貪っている。
仲間であろう二、三匹とともに、だが相手のことは考えず
自己の利益のみを求めて我先にと餌を食っていく。
むせるような臭いと、吐き気を催す光景。
肉片が散らばり、嘔吐や精液が飛び散っているのは
路地裏ではむしろ当然の有り様であると言えるのだ。
この王国の治安が悪い理由は、幾つかある。
一つが、王国は治安よりも裏社会との対決に全力を注いでおり、
治安に回す余力などこれっぽっちも残ってないからだ。
結果はぐれ者やアウトローが蔓延し、裏通りに集っては
治安隊などが近づけそうにもなくなるほどの悪事を働く。
ほかの理由だが、どういうことかこの王国には『能力者』が多いのだ。
多いといっても、個体数が、ではない。
ほかの国と比べて、の話だ。
本来ならば千人に一人いるかいないかの割合でしか生まれないのに、
この国では明らかにそれを凌駕するほどの人数がいる。
そんな国に、海外から遙々やってくる『能力者』もあとが絶たない。
そんな『能力者』に、決して善人がいないとは言わない。
だが、出逢う大方の人数が悪人なのだ。
自分の《特殊能力》に酔いしれ、高みを目指す。
王様になったような心地で、悪事という名の正義を果たし、成り上がっていく。
結果、国が廃れそうなほど、治安が悪化してきたのだ。
.
- 105 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:23:20 ID:aqO0ZAYsO
-
このカラスは、ある意味で言えば善人だろう。
ただ生きるためだけに、惰性的に食事をとるだけなのだから。
周りに人間がいないのを本能で確認して、ひたすら貪っていく。
腹が満たされなければ、生きている心地がしないのだ。
それは、動物としては致し方のない、当然の行動である。
すると、誰もいなかった路地裏に
( ・∀・)
一人の男が、いきなり現れた。
気配や跫音など一切発さずに現れたため、
カラスは驚いてくわえていたリンゴも吐き捨て、
無我夢中で大空へと飛び立ち、逃げていった。
男はきょろきょろして、溜息を吐く。
存在が『嘘』のような男、モララー=ラビッシュが。
( ・∀・)
右肩に左手をあて、首を左右に揺らす。
関節の鳴る音が二、三回断続的に聞こえた。
そして両手を脇腹に当て、再度溜息を吐いた。
辺りを見渡しながら、ゆっくりと歩き始めた。
独り言など漏らすことはない。
ただ、路地裏の酷い有り様を、他人事のように眺めては歩くだけだ。
『拒絶』という、「我」と《拒絶能力》以外なにもない存在にとって、
「生きる」ということは「満たされること」に尽きる。
満たされない時は、ただ惰性で世界を漂っているのみだ。
.
- 106 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:24:26 ID:aqO0ZAYsO
-
破れたポスターに壁の落書き、遠くから聞こえるカラスの不調和な合唱。
どれもどうでもよくて、どれも無価値な存在だ。
それが『拒絶』のような気がするから、モララーは路地裏が好きなのだ。
低俗な自分と同類の存在を見ると、「自分だけではない」という
共同体を持つことができ、責任を分け与えることができる気になれる。
責任の対象が自分だけなら、惰性で暮らしていこうとすら思えないだろう。
( ・∀・)
そんなことを考えながら、奥の方へと進んでいく。
いよいよ思考すべきこともなくなっていく。
空を見上げると、トタンの屋根が視界を遮った。
「これでいい」と思って、視線を前に戻した。
するとどうだ。
急に、背後から銃声が鳴り響いた。
( ・∀・)「ん?」
カラスたちが奏でる静寂を引き裂いて
この黒いキャンパスに飛び込んできた銃声は、モララーの真横を掠めた。
静かだった路地裏に、破裂音が反響する。
銃如きに屈するモララーではないため驚きはしなかったが、
なにもなかったところで人為的な音を聞いたため、
モララーでも気になるといえば気になるものだ。
.
- 107 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:26:00 ID:aqO0ZAYsO
-
モララーはさっと振り向いた。
すると、一人の男が、銃を持って立っていた。
手にしているデザート・イーグルからは、硝煙があがっている。
( ・∀・)「おまえか?」
( ^Д^)「……は?」
金髪で、収束させた毛先を尖らさせている男は不満そうに言った。
銃を手放さないところから、モララーに敵意を持っているように窺える。
だから、モララーもそれに応えるように、威圧的に訊いた。
( ・∀・)「この俺に銃弾をぶっ放したのは、おまえか?」
( ^Д^)「……」
男は銃を向けたまま、下ろそうとはしなかった。
モララーの僅かばかりの譲歩にも答えず。
だから、モララーは『嘘』を複数個『混ぜ』た。
黙っていれば気づかれることのない『嘘』。
彼がほかの『拒絶』から煙たがられる原因は、
いつ『嘘』を『混ぜ』ているのかわからず、面倒だからだ。
モララーがあとどれくらい『嘘』を『混ぜ』ようか悩んでいると、金髪の男が先に口を開いた。
相変わらず銃は手にしたままだ。
( ^Д^)「カネと着てる服を寄越しな」
( ・∀・)「なんで?」
( ^Д^)「寄越さないとだめだからだ」
( ・∀・)「へえ」
モララーは、最初はこの男が『能力者』か疑った。
路地裏でこのような行動に出るのは、だいたい『能力者』だからだ。
『能力者』以外がこのような真似をしては、即座に何らかの組織に存在を消されてしまう。
.
- 108 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:27:13 ID:aqO0ZAYsO
-
だが、ここで何もしない『能力者』などいるのだろうか。
モララーはふとそう思った。
能力があれば、それを使ってすぐに身包みを剥げばいいものを、と。
本来なら、モララーの仮想敵は『能力者』だ。
『拒絶』に共通して言える相手で、それこそが彼らが生きる意義である。
だが。
『能力者』でないにしても、この自分に銃を向ける男だ。
満たされるかどうかは置いておき、とりあえずこの男を始末しよう、と考えた。
( ^Д^)「出さねえか」
( ・∀・)「断る、といったら?」
直後、モララーの脳天ぎりぎりを銃弾が掠めた。
髪が数本、はらはらと地面に落ちた。
一瞬の出来事であったため、モララーは反応が遅れた。
男のそれは、モララーの返答がそうであるとわかっていたかのような動きだった。
予め、トリガーをぎりぎりまで引いて、モララーの返答と同時に撃ったのだろう。
モララーは動揺こそせずとも、少し不愉快に感じた。
にやにやと笑みを浮かべる男は、モララーの
顔つきが豹変(かわ)ったのを見て、口を開いた。
( ^Д^)「次は額を狙う、ってとこだな」
( ・∀・)「随分といいチャカ持ってんじゃねーか」
( ^Д^)「もう一度訊く。カネ、出すか?」
( ・∀・)「断る」
.
- 109 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:29:06 ID:aqO0ZAYsO
-
デザート・イーグルの銃口が光った。
即座にモララーは、『嘘』を『混ぜ』た。
『この銃弾に額を撃ち抜かれる』という『嘘』を。
そんなことも知らず、銃弾は予告通り額を貫いた。
血が、脳漿が飛び散って、空いた穴から向こう側が見えた。
モララーは力なくその場に倒れてしまった。
銃創から、路地裏によく似合う液体がこぽこぽと溢れ出してきた。
それを見て、五秒待った男は銃を持った右手を垂らして、
地面に伏せるモララーのもとに歩んでいった。
モララーに手荷物はない。
だが、ポケットのなかに財布くらいはあるだろう。
もしくは、キャッシュカードでもいい。
そう考えつつ、男はモララーの横で屈み込んだ。
顔から笑みが消えない。
今日の最初の収穫はどうかと思い、
期待で胸を膨らませて手を伸ばした。
直後。
( ・∀・)「騙されてやんの」
( ^Д^)「!」
男の背後に、なんの前触れもなくモララーは現れた。
男の目の前にいたはずのモララーは、既にいなかった。
流れ出たはずの液体もなくなっており、男は当惑した。
男は地面を転がって、モララーと距離を離した。
不気味な男だ、という印象を持ったとともに。
モララーは、男が『能力者』かどうかを見極めてから
殺したいと思い、そこで男を始末するのはよした。
モララーなら、『本当は男は距離を離していない』という『嘘』を吐いて
男と零距離になり即座に心臓を貫くことはできるのだが、そうはしなかった。
.
- 110 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:30:40 ID:aqO0ZAYsO
-
( ^Д^)「てめえ……『能力者』か?」
( ・∀・)「違うよ」
これに関しては、『嘘』は吐いていない。
モララーは『能力者』ではないのだ。
尤も、この男がそれを知る由はないのだが。
( ^Д^)「『嘘』だろ。じゃあどうして生き返った」
( ・∀・)「生き返ってない。
そもそも死んですらない≠だから」
( ^Д^)「……ほう」
男はにやりと笑った。
そして銃を構えた。
狙いは、モララーの心臓。
命を貫く弾丸の、発射準備はできた。
男は既に、落ち着きを取り戻していた。
( ^Д^)「『能力者』じゃねえなら――」
( ^Д^)「こいつ≠ヘ避けれねえよな?」
( ・∀・)「ん?」
含みがありそうな言葉を残して、
モララーから聞き返される前に男はトリガーを引いた。
モララーの心臓めがけて弾丸が飛び出し、瞬きよりも速い速度で心臓を貫いた。
モララーは「かはっ」と弱い声を漏らして、後方に倒れた。
心臓から血がどくどくと溢れ出てくる。
肋骨をすり抜けてうまく心臓に命中させるのは、この男にとっては朝飯前だった。
モララーは一瞬にして死体になった。
男は「今度こそ」と思い、モララーに歩み寄った。
だが、先ほどと違った点は、
男は含み笑いをしていたということだ。
.
- 111 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:32:17 ID:aqO0ZAYsO
-
( ^Д^)「……よし」
( ・∀・)「なにが『よし』なん―――」
男が屈もうとした直後。
『この銃弾に心臓を撃ち抜かれる』という『嘘』を
『混ぜ』ていたモララーが、男の背後に現れ手刀を繰り出した。
その手刀は男の首筋を抉り、骨を折って
神経という神経をずたずたに引き裂かんとするものだった。
だが、これ≠ノ関しては、モララーはなにも予想ができていなかった。
真上から鋭利な刃物が落ちてきて、モララーの首筋を貫いた≠フだ。
( ∀・)
( ^Д^)「………」
首が胴体から切断され、モララーの胴体はその場で倒れて、
頭は男の上を弧を描いて飛んでいった。
数メートル先に飛んでいっては、切断面から液体が流れ出る。
胴体のほうからも、それは同じだった。
モララーはなにも予想していなかった。
『落ちてくる刃物に首を切り落とされる』という『嘘』は吐いていない。
これは紛れもない『現実』なのだ。
だから、この攻撃に対しモララーはなにもできなかった。
それを見届けた男は、五秒待った。
また生き返ってくるのかと思ったからだ。
だが、五秒どころか十五秒経っても変化は訪れない。
男は漸く安堵の息を吐くことができた。
余裕を再び取り戻し、元のように笑みが浮かんだ。
.
- 112 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:33:15 ID:aqO0ZAYsO
-
( ^Д^)「『突然刃物が落ちてきて首が切られる』っつーな『事故』」
( ^Д^)「……避けれなかったっつーことは、大した『能力者』じゃなかったんだな」
男はそう呟いては、モララーのポケットに手を突っ込んだ。
財布はなかったが、紙幣が数枚入っていた。
マネークリップで止められており、男はなんの迷いもなくそれを取り上げた。
その額は、決して多くはない。
居酒屋やバーで呑めば、すぐになくなる程度の額だ。
だが、これを生業としている男は、その額に文句を言うことはない。
その紙幣を挟んでいたマネークリップを血だまりのなかに捨て、
踵を返して、男は再び路地裏の闇の中へ消えようとした。
路地裏に、隠れ家と呼ばれているバーがあると聞いたのだ。
その名は「バーボンハウス」。
静かな、ひっそりとした雰囲気が人気らしい。
どんな酒を呑もうか考えると、唾液が染み出してきた。
あと数人から金を奪い取って、今夜はそこで呑もうと思っていた。
.
- 113 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:34:08 ID:aqO0ZAYsO
-
( ^Д^)「最近稼ぎ悪ぃわ、ったくよ……」
「じゃあサラリーマンにでもなれば?」
( ^Д^)
男は、一瞬固まった。
背後から、中身のない上辺だけのような声が聞こえたからだ。
言うなれば「虚構」。
『嘘』のような存在が、背後にいる。
そして、その『嘘』のような声は、
先ほどまで聞いていた声と全く同じだった。
(;^Д^)「(ば……ばかな! なんで……なんでなんだよ!)」
(;^Д^)「(『嘘』だ! なんで生きてんだ、こいつは!)」
先ほどまでは全く焦らなかった男だが、
急に焦燥に駆られるようになった。
予想だにしなかった展開で、且つ声に籠められていた
殺気が尋常なく凄まじかったので、思わずたじろいだのだ。
背後にいる男は、続ける。
.
- 114 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:34:58 ID:aqO0ZAYsO
-
「あれ? まさか、『ずっとしゃべってた男は俺だ』って思ってた?」
「ギャッハハハハハ!! んな『嘘』に騙されてんじゃねーよ!」
「『真実』はいつだって外見と中身が違うんだよ! ギャッハハハ!」
( ; Д )「………ッ」
男は、その聞くだけで身の毛もよだつ気分にさせられた。
沸き上がってくる恐怖――拒絶――を、全身で感じた。
すぐさま、がばっと背後に振り返る。
生きていることそのものが『嘘』のような男、
( ・∀・)
モララーが、男をじっと見つめていた。
.
- 115 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:35:59 ID:aqO0ZAYsO
-
(;^Д^)「わ、ああああああああッ!」
( ・∀・)「まあ待てよ」
(;^Д^)「(違う! さっきまでとオーラが全然違うぞ!)」
男が逃げ出そうとすると、モララーは男の肩を掴んだ。
軽く触れただけなのに、『嘘』のような剛力で、
少し力を籠めれば簡単に肩の骨が砕けそうだった。
男は、モララーの秘めたる殺気にすっかり怯えた。
手にあったはずの紙幣が『嘘』だったかのように消えたことにも気づかないで。
( ・∀・)「結構痛かったぜ、さっきの」
( ・∀・)「おまえ、なんつー『能力者』なんだ?」
(;^Д^)「……」
男は押し黙った。
すると、モララーの肩を握る力は強まった。
みしみし、と音がするので、男は言わざるを得なかった。
(;^Д^)「あ………んと」
( ・∀・)「ん?」
.
- 116 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:37:10 ID:aqO0ZAYsO
-
(;^Д^)「【無私の報せ《アクシデント》】……つってんだろ」
( ・∀・)「アクシデントぉ?」
(;^Д^)「『本来起きなかった事故を引き起こす』能力……だ」
( ・∀・)「よく言えましたー。で、どういう意味?」
(;^Д^)「だから…………」
( ^Д^)「こういう能力なんだよッ!!」
( ・∀・)「!」
モララーが問うと、男は跳躍して後退した。
直後、男は銃を持ってないはずなのに、銃弾がモララーの額と右腕を襲った。
それに銃声は伴わなかったし、近くに男とモララー以外の人はいない。
どこから飛んできたのかが、わからなかった。
すると、モララーの足下でなにかが爆発した。
地面から吹き出す爆風、すなわち「地雷」。
「殺すこと」を目的とせず、「負荷を負わせること」を目的とされた軍事兵器。
その爆音が鳴り止まないうちに、モララーの右隣の壁からダンプカーが顔を出した。
『本来は起きてなかった』衝突事故が『引き起こされた』のだろう。
そして、『本来爆発しなかったはずのダンプカーが、爆発した』。
爆風はモララーを丸ごと呑み込み、一瞬で黒こげにした。
一方で、『本来は守られなかったはずの男が、守られていた』。
.
- 117 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:38:30 ID:aqO0ZAYsO
-
結果、モララーは下半身が地雷で削ぎ落とされてしまい、
額からは脳漿が、右腕からは血液が溢れ出てきて、
ダンプカーの衝突事故によって全身複雑骨折を負い、
挙げ句引き起こされた爆発事故で全身が黒こげになってしまい、
それによって、モララーのあらゆる神経や細胞が悉く潰されてしまった。
それを見ていた男は、若干不安は残るも、得意げな声で言った。
(;^Д^)「……は、はは」
( ^Д^)「……出会い頭に撃って外した弾丸が、『実は当たってしまっていた』という『事故』」
( ^Д^)「かつてここら辺であった戦争時に置かれ、『爆発することなく
コンクリートに埋まった地雷が爆発した』という『事故』」
( ^Д^)「数年前、通りからやってきた居眠り運転が、危機一髪で
衝突事故を避けた、その事故が『実は起こっていた』という『事故』」
( ^Д^)「そして『燃料タンクに生じるはずのなかった
異変が生じ、爆発した』という『事故』」
( ^Д^)「俺が引き起こすのは【無私の報せ】だ」
( ^Д^)「いざ体験したらわかっただろ? 感謝しな」
( ^Д^)「……」
.
- 118 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:39:53 ID:aqO0ZAYsO
-
モララーの、惨状を絵にしたような屍を前に、男はそう言い終えた。
そして、心の中にもやもやが残るも、そのまま今度こそ去ろうとした。
もう、モララーから金を奪おうとは思わなかった。
むしろ、何かの間違いで再び彼が蘇らないうちに、逃げようと思っていた。
だが、そううまく行かせないからこその『拒絶』なのだ。
男が踵を返した直後、そこにあったモララーの屍は消え、
健全体のモララーが、物音を立てずに男の背後に立った。
いや、立っていた=B
耳元で、ちいさく呟く。
( ・∀・)「すまんな」
(;^Д^)「―――ッッ!?」
( ・∀・)「『俺がここにいる』ってのも」
( ・∀・)「『俺は死んだ』ってのも」
( ・∀・)「『俺はおまえを攻撃してない』ってのも」
( ・∀・)「ぜーんぶ、『嘘』なんだ」
.
- 119 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:41:21 ID:aqO0ZAYsO
-
( ; Д )「!!」
モララーがそう言うと、男の腹には大きな穴が空いた。
いや、これも空いていた≠ニいうべきなのだ。
すぐに男はくずおれ、腹に手を当てる。
指の間と背中から、溢れんばかりの血が流れてくる。
口からも、まるで嘔吐でもしたかのように血が溢れてきた。
モララーは最初の段階で男の腹を手刀で貫いたのだが、
『手刀でこいつの腹を貫いてない』という『嘘』を『混ぜ』た。
その『嘘』を暴いて、『嘘』を『真実』にした。
結果、男はこのような致命傷を負っていたことになったのだ。
どれも、『常識』を介さぬ『異常』な技。
男は、絶命する寸前に、こう言った。
( ; Д )「こ、の……ッ……」
( ; Д )「…常……識…破…………り……めガ………ッ」
男がそうとだけ言い残して倒れると、
モララーはにんまりと笑った。
このとき、既に『俺はここにいる』という『嘘』も、暴いていた。
.
- 120 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2012/12/12(水) 17:43:17 ID:aqO0ZAYsO
-
( ・∀・)「ああ、そうだな。そうだよ」
( ・∀・)「おまえの言うとおり、俺は――」
フェイク・シェイク
( ・∀・)「【 常識破り 】だ」
.
戻る 次へ