( ・∀・)モララーは隠居暮らしのようです。

3 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/07(土) 19:17:53.59 ID:d4U1tJus0
ζ(゚ー゚*ζ「あら、おかえりなさい。」

VIP街の居住区。
家々が橙色に染まり、歩けばどこからか夕食の香りがする時刻
ツン=デ=ジェレイトは帰宅した。

キッチンから母のレイ=デ=ジェレイト、通称『デレ』の声が帰宅した娘を迎える。
目元や巻き髪がツンそっくりの優しげな女性だ。
大人にしたツン、という感じだが決定的に違うのは表情と身体。
常に眉間に皺を寄せたようなむつかしい顔をしているツンに対し、デレはいつも微笑みを浮かべたような表情である。
体躯もデレの方が若干大きいが…何よりその腹と首の間に実るたわわなメロンが最大の違いであった。

ξ゚听)ξ「ただいま。」

それだけ言うとツンは部屋に戻っていった。
いつもは、お腹空いただとか今日の出来事を二の句に言ってくるはずなのに…

ζ(゚ー゚*ζ「?」

( ゚д゚ )「どうした、デレ?」

キッチンに居る母の反応を見てやってきたのは、ツンの父ミラン=デ=ジェレイト
みんなから『ミルナ』と呼ばれている、やけに眼光の厳しいおじさんであった。
190cm近くもある身長、広い肩幅厚い胸板。『白騎士』の称号を持つに相応しい身体をしている。

ζ(゚ー゚*ζ「お父さん、なんだかツンが変よ?」

6 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/07(土) 19:19:28.65 ID:d4U1tJus0
( ゚д゚ )「そうか? 私はいつも通りだと思ったが…」

ζ(゚ー゚*ζ「そう? ならそうかもね。」

( ゚д゚ )「だろう。ははははは!!!」

抜けているのは母のデレだけではない。
父のミルナも…眼力に似つかわしくない鈍重さを持っていたのだった。

ξ゚听)ξ「……はぁ…。」

ベッドにボスリと身を投げた。
ぬいぐるみや花などで飾られた可愛らしい部屋が彼女の私室だ。
丸っこいくまのぬいぐるみを抱きしめながらツンはため息をつく。

今日の出来事がどうしても納得いかないこと
そして、モララーに修行をつけてもらえないことの落胆からであった。

ξ゚听)ξ(何で…モララーさんは断るんだろう…。)

素質はあると言っていた。
けど、欲があったりするのはダメと言う。

何故?
誰にも負けない魔術師になることはそんなにいけないことなのだろうか?
みんなに差をつけて少しでも自分を誇りに思えるようになりたいと願うのは、そんなにいけないことなのだろうか?

7 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/07(土) 19:20:41.70 ID:d4U1tJus0
問えど問えど、答えは出ない。
いつの間にか眠ってしまったツンは、母の食事の呼びかけすらも聞き入れることはなかった。


( ^ω^)「こんにちはですお。野菜の様子はどうですかお?」

( ・∀・)「おや?」

次の日。ニ連休の初日であるガイアの日のお昼頃
ブーンはモララーの家を訪ねた。
格好は動きやすそうな服装とマント。
背にはやはり食料を負っていた。

そんな姿を見て、モララーは少しだけ目を尖らせた。

( ・∀・)「…ツンちゃんは?」

( ^ω^)「……。」

( ^ω^)「知らないですお、あんな奴。」

プイッとそっぽを向き、頬を膨らませてブーンは答えた。

やはり、今日は一人らしい。
服装や荷物で一目瞭然だ。彼は、胸に下げた瑠璃で作られたペンダントを使用していない。
歩いてきたのだ。

8 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/07(土) 19:22:28.93 ID:d4U1tJus0
( ・∀・)「ブーン君。」

( ^ω^)「なんですお?」

( ・∀・)「前に言ったよね。来るときは二人一緒で、って。」

(; ^ω^)「……。」

( ・∀・)「野菜の心配をしに来てくれたのはとても嬉しいよ。
      でも、やっぱりココへ来る条件は『ツンちゃんと一緒に』なんだ。」

( ^ω^)「でも…あんなのと一緒に来るのは、ぼく…イヤですお。」

( ・∀・)「そうかな? キミは心からそう思ってる?
      ホントのホントにツンちゃんを嫌ってるの?」

(; ^ω^)「ぅ……。」

ため息をつくモララー。
やっぱりあの条件を制定しといてよかった。
こういう所で役に立ってくれるんだからね。

( ・∀・)「ツンちゃんにも言ったけど…どうやら、ブーン君も欠けているらしいね。」

モララーは立ち上がり、扉の前に居るブーンに向かって指を突きつけた。

( ・∀・)「何度来ようと、キミが一人で来るのならば僕は必ず追い返す。
      それを忘れないようにね。」

10 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/07(土) 19:25:20.18 ID:d4U1tJus0
(; ^ω^)「ちょっ、モララーさ」

言いかけた所で、ブーンは蒼い光球へ変化してしまった。
モララーの放った空間転移魔法の行き先はホライゾネル家。
ちゃんと意味を込めてそこへ送り返したのだ。

( ・∀・)(ブーン君にも、ツンちゃんにも、立派なご両親が居るんだ。
      そこに早く気づいておくれ。)

モララーは立ち上がり、外へ出てから畑の方へ鍬を担ぎ歩いていった。



目を開けると、そこは自宅の門前だった。

(; ^ω^)「……はぁ。」

肩を落とし、門を開ける。
なんとなく、予想はしてたが…やはりダメだった。
家には誰も居ないから、いつもより早く帰って来たことは問われはしない。

だが…今までは山の上で過ごしていた膨大な時間を、退屈な無人の屋内で過ごすことは耐えられなかった。
じゃあ誰かと遊ぼうか? と思うがすぐにその思考は停止する。
イジメの件もあり、ブーンは極限られた人間としか交流を持っていなかった。

交流とは、ショボン一味と…幼馴染のツンだけ。
こんな時、社交的な人ならきっと暇を持て余すことはないんだろうなぁ…

11 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/07(土) 19:27:33.52 ID:d4U1tJus0
ブーンは自問する。

結局、誰が悪いのだ?

言わなかった自分か? 勝手に魔法を使用したツンの方か?

違う。
モララーさんはそんなことを聞いていたわけじゃないんだ。

さっきほど言ってた。

『欠けている』

一体、何が?

ξ゚听)ξ(考えても考えてもさっぱりだわ…。)

転がりながら、ツンも同じ事を考えていた。
モララーはもう過ぎたことの善悪を訊ねてはいない。

じゃあ、何が問題なんだ?

ξ゚听)ξ(……。)

12 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/07(土) 19:29:58.44 ID:d4U1tJus0
人一人の考えなんてたかが知れている。
今まで生きてきた経験、培った知識。
それは有限で、微小なものでしかない。
偶に、それを無限に広げて可能性を開花させる人も居るが…それは極稀だ。

じゃあ、極稀に含まれない大多数の人間はどうするのか?

小さい頃から知っていることを行えばいいのだ。
一人だから考えが一辺倒になる。
一人だから答えが見つからない。
つまり
一人でなければ、その可能性は無限に広がっていくのだ。

ツンはそれを実行した。
ガイアの日は、基本的に暇である母親レイ=デ=ジェレイドに聞いてみたのだ。

ξ゚听)ξ「ねぇ、お母さん。」

ζ(゚ー゚*ζ「ん?」

リビングでソファーに座って魔術書を読んでいた母へ声をかける。
大理石で出来たリビングテーブルの上に置かれた紅茶が、まるで香水のように匂いを部屋全体に放っている。
シルムの紅茶らしく、独特の柑橘系の匂いだった。

ξ゚听)ξ「ちょっと…相談事? があるんだけど…」

14 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/07(土) 19:32:52.69 ID:d4U1tJus0
ζ(゚ー゚*ζ「あら、なぁに?」

パタンと本を閉じて、彼女はソファーの傍に置かれている本棚へ魔術書をしまった。
もちろん、歩いたわけではなく浮遊魔法を使ってだ。

ξ;゚听)ξ「ん〜〜…と…ちょっと説明が難しいんだけどね。
       先生と私と友達の問題なの。」

ζ(゚ー゚*ζ「うん。」

モララーのことを話すことは約束で禁じられている。
実名を出すわけにもいかないが、あまり抽象的すぎると伝わらない。
だから、ツンは彼を学校の先生という表現にすり替えておいた。

ξ゚听)ξ「私がね、友達と先生の…野菜園のお手伝いをすることになったの。」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、偉いじゃない。」

野菜園ならばどこにでもある。
学校にだって、それを専門としている教諭も居るくらいだからここは別に隠す必要はなかった。

ξ゚听)ξ「それで、偶々先生が居なくなった時に…私がね、雑草抜きに魔法を使ったのよ。」

ζ(゚ー゚*ζ「ふむふむ。」

ξ゚听)ξ「魔法なら、人手も時間もかからないから楽じゃない?
      そう思って私は使ったんだけど…」

15 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/07(土) 19:35:02.08 ID:d4U1tJus0
ξ゚听)ξ「実は、その先生…絶対に魔法は使用しないでその野菜を育てたかったらしいの。」

ζ(゚ー゚*ζ「このご時勢に立派な意志をお持ちね。」

ξ゚听)ξ「けど、そのことを私は知らなくて……一緒に居た友達が魔法を使った後に言ったの。
      でもね、なんとその友達は最初から先生の考えを知っていたのに私に教えてくれなかったのよ。」

ζ(゚ー゚*ζ「うんうん。それで?」

ξ゚听)ξ「それでね、その友達と言い争いになっちゃって…先生が止めに入ったの。
      話自体はそこでおしまいね。
      私はこの件はどっちが悪いのかってことだと思ったんだけど……
      先生は、そこが問題じゃないって言ってたのよね。お母さんはどう思う?」

ζ(゚ー゚*ζ「ん〜〜…。」

デレは人差し指で顎を押さえながら考える。
年のわりにはやけに若く見える女性は、頭を左右に揺らしながら今しがた娘の言ったことの整理をしていた。

ζ(゚ー゚*ζ「先に聞いていい?」

ξ゚听)ξ「なに?」

まずはしっかり、状況を洗いざらい聞くこと。
中途半端に聞きかじった第一人称視点の話だけでは全体像はつかめない。
それを心得ていた白魔術師のデレは、話の掘り下げを図った。

17 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/07(土) 19:38:28.14 ID:d4U1tJus0
ζ(゚ー゚*ζ「その先生は、ツンちゃんが魔法を使ったことには怒ったの?」

ξ゚听)ξ「うぅん。そんなに強い魔法じゃないから、野菜に影響は出なかったみたい。
      だから先生は別にいいよって言って許してくれたわ。」

ζ(゚ー゚*ζ「でも、先生はあなたを怒ったのよね? 原因が何であれ。」

ξ゚听)ξ「う……ん。多分、あの口ぶりは私を怒っていたんだと思う。」

ζ(゚ー゚*ζ「そっかぁ…。」

デレは再考する。
娘を怒った本当の理由は何だ?
キーポイントは魔法を使ったことだ。
だが、直接的ではない。

じゃあ…間接的に関わってきたこと。
それが、本当の理由じゃないか?

デレの頭に電撃がはしった。

ζ(゚ー゚*ζ「ツンちゃん。」

ξ゚听)ξ「ん?」

18 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/07(土) 19:42:11.34 ID:d4U1tJus0
ζ(゚ー゚*ζ「ツンちゃんは、先生に謝った?
       お友達に謝った?」

ξ;゚听)ξ「え? ………と……。」

ビンゴ。
やっぱりココだったか。
デレは予想が的中したことに喜びつつも、先生の指導力に感激した。

ζ(゚ー゚*ζ「先生はね、きっとツンちゃんに謝って欲しいのよ。」

ξ;゚听)ξ「で、でも! 私は悪いことしたつもりはないわよ!?
       だってその友達が私に言えば、魔法は使わなかったんだもん!
       言い方を変えればこれは事故なのよ!?」

強情な子だ。そして自己中心的でもある。
昔の自分そっくりで、デレは少しだけおかしく思った。

ζ(゚ー゚*ζ「先生も言ってるじゃないの。どっちが悪いとかは問題じゃない、って。」

ξ;゚听)ξ「じゃあ、これは何が問題なの!?」

ζ(゚ー゚*ζ「まだわからないの?」

デレは少しだけ目を尖らせた。
このままじゃずっと話がループし続けてしまう。
それを避けるため、そして娘を教育するために少し厳しく言った。

22 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/07(土) 19:45:47.07 ID:d4U1tJus0
ζ(゚ー゚*ζ「さっきも言ったとおり。
       ツンちゃんが謝ろうとしないのが問題なのよ。」

ξ;゚听)ξ「な、何で悪いことしてない私が謝らないとダメなの!?」

ζ(゚ー゚*ζ「だって悪いことしてるじゃない。」

ξ;゚听)ξ「はぁ? 私がいつしたのよ!?」

ζ(゚ー゚*ζ「ツンちゃんは魔法禁止を教えてくれなかった友達を非難したのよね? きっと。」

ξ;゚听)ξ「……うん。だって、その子が言ってくれれば私は魔法使わなかったんだもん。」

ζ(゚ー゚*ζ「視点を変えて考えてみて?
       ツンちゃんが、その友達でその友達がツンちゃんだとする。」

ξ゚听)ξ「…うん。」

ζ(゚ー゚*ζ「『手伝う』と決まったからには、ツンちゃんはその上でのルールは二人とも当然知っているものだと思ってるわよね?」

ξ゚听)ξ「そりゃそうよ。二人とも何度か先生の所へ行っていたからね。知ってるのが普通のはずよね。」

ζ(゚ー゚*ζ「でも、その友達は偶々その規則を知らずに魔法を使ってしまった…。
       ツンちゃんならどうする?」

ξ゚听)ξ「規則を破ったんだもの、私なら怒るわ。」

23 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/07(土) 19:48:19.30 ID:d4U1tJus0
ζ(゚ー゚*ζ「でしょ? つまり、その友達も一緒のことをしたのよ。
       その友達に悪い点は見られる?」

ξ;゚听)ξ「……み…られないわ。」

ツンが少しだけわかりかけてきたようだ。
頭の中で理解しかけたそれをツンの変わりにデレが言ってあげた。

ζ(゚ー゚*ζ「要するに、友達があなたに規則を教えなかったのも事故。
       規則を知らなかったあなたがそれを破ったのも事故なのよ。」

ξ;゚听)ξ「……。」

ζ(゚ー゚*ζ「両方が事故を起こしてしまった場合、悪いのがどっち? なんて問題じゃないわよね。
       どっちも最善を尽くそうとしていたんだもの。故意的じゃないなら、善悪は不問だわ。」

ξ; )ξ「……。」

ζ(゚ー゚*ζ「けれども先生は怒ったの。
       言い争いをして一方的に相手を悪いと決め付けている、ツンちゃんの心を叱ったのよ。」

ξ;゚听)ξ「……私……。」

ζ(゚ー゚*ζ「先生はきっと、気づいて欲しかったの。
       相手の視点に立って、相手の心を汲み取る。そのことをね。」

25 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/07(土) 19:51:40.74 ID:d4U1tJus0
ツンは黙って俯いていた。
相手の視点に立つことを理解してくれた今ならわかるだろう。
その友達が今、どんな心境なのかを。

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、ここで問題です。
       ツンちゃんが、今からしないといけないことは何でしょう?」

ξ;゚听)ξ「……私は…」

思い起こす。
ブーンはわざと教えてくれなかったわけじゃないのに
急いで私を止めて、被害を小さくしようとしてくれたのに

なんで…私は一方的にブーンが悪いって言っちゃったのよ?

ξ;゚听)ξ「私! 謝ってくる!!」

ζ(^ー^*ζ「正解! よくできました〜。」

尖らせた目を弓なりにし、デレは小さく拍手を送った。
少しだけ成長してくれた娘への賛美の拍手だ。

立ち上がった娘は走って玄関へ向かった。
今はまだ昼時だが…
和解したら、きっとそのまま遊びに行くだろう。

27 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/07(土) 19:54:58.97 ID:d4U1tJus0
ζ(゚ー゚*ζ「夕飯までには帰ってきなさいね。」

ξ゚听)ξ「…うん!」

扉に手をかけた所でそれだけ言いつけて、デレは娘を見送った。

静かになった家の中。
夫のミルナは武術指南役として訓練場で勤務中だ。
その後はちょっとお酒を引っ掛けて夜遅くに帰ってくる。いつもそうだ。

きっと今日もお酒臭い口でロマネスクさんの愚痴を言ってくるんだろうなぁ。
いつもライバル視してるが、仲が悪いわけではない。
影では認めているけど、口では永遠のライバル宣言。そんな不器用な所は娘に受け継がれたようだ。

再びデレは椅子に座り、本棚から先ほどの魔術書を取り出して読み始めた。

ζ(゚ー゚*ζ(相手の視点に立って物事を考える…か。)

今でもそんなことを教えようとしてくれる先生なんて居るんだなぁ。
偏見かもしれないが、最近の教育はとても前衛的な気がする。

戦争は終わったばかりなのに、もう次の戦争のための訓練をしている。
相手を倒すために非情に成りきり、便利という理由だけで魔法を使い続ける。
それを教えているのが今の学校。そんな気がしていた。

29 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/07(土) 19:57:21.37 ID:d4U1tJus0
でも…娘に心を教えようとした良い先生もいる。

…そう、まるで…モララー君のような人なのね。
誰よりも非情で、誰よりも魔法が得意。
だけど……いつだってあなたは、殺す相手のことを考えていた。

積み上げた死体の数だけ悩み、涙をして苦しむ姿を自分は何度か見かけたことがある。
それでも、あなたは戦争を終わらせるために…耐え切った。
まだ子供なのに凄いと思ったわ。

今頃どこで何をしているのかしらね。

そんなことを思いつつ、デレは紅茶を啜りながら魔術書を読みふけった。


―――――。

ξ;゚听)ξ「…ハァ…ハァ…。」

数分後。
ツンはホライゾネル家の正門前に来ていた。
家が近く、年齢も一緒ということで昔はよく遊んでいた。
入学後からはそんな機会もあまりなかったが…期間はそんなに空いていない。
いつもどおりに入って、いつもどおりにブーンの部屋へ行けばいい。

33 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/07(土) 20:00:32.23 ID:d4U1tJus0
そうやって自分の頭へ何度も言い聞かせている。
なのに…手が動かない。
正門傍には小さな魔方陣がある。
そこに触れれば、家内で客人を知らせる音楽が鳴るのだ。

ツンはその魔方陣を何度も触ろうとしては、引っ込めてを繰り返していた。

母に諭されて勢いで出てきたのはいい。
だが走っているうちに段々冷静になってしまった。

さっきまでなら、今すぐにでも謝れると思った。
しかし今は全然違う。

ξ; )ξ(な、なんて言えばいいのかしら…。)

【ξ;゚听)ξ「私が悪かったわ! 許して、ブーン!!」】

いや、これはなんかプライドが許さない。

【ξ#゚听)ξ「私が悪いわけじゃないけど、仕方ないから謝っておいてやるわよ! 感謝なさい!!」】

自分でもムカツクわねこれは。

ξ; )ξ(あ〜!! どうしようどうしよう!!??)

34 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/07(土) 20:03:55.38 ID:d4U1tJus0
道を歩く人の目すら気にならない。
ただただツンは自問していた。

すると

( ^ω^)「お? ツン?」

急に玄関扉が開き、ブーンが出てきたのだ。
門の前でそわそわしているツンを見て、ブーンは小さく声を出した。

ξ;゚听)ξ(ぎゃー! なんで心の準備ができてないのに、しかもあんたの方から来るのよ!?)

( ^ω^)「……。」

小太りの少年はTシャツにズボンというラフな格好をしたまま正門の方へ歩いていく。
そして、内側から鉄柵を開けるとツンと向き合った。

ξ;゚听)ξ「え、えと! その、ね。なんで私がここに居るかって言うと!
       別に何か届けにきたとか、ロマネスクおじさんに用があってとかじゃなくってね
       あ、勿論お母さんの伝言をつたえに来たってわけでもないんだけど!
       つまりはその…あの……ね!!」

ξ;><)ξ「「ごめんなさい(お)!」」(^ω^ ;)

38 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/07(土) 20:06:41.52 ID:d4U1tJus0
ξ;゚听)ξ「……え?」

(; ^ω^)「お?」

二人して一緒に頭を下げていた。
そして同じタイミングで顔をあげる。
二人とも鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして向き合っていた。

ξ;゚听)ξ「な、何であんたが謝るのよ?」

(; ^ω^)「それはぼくの台詞だお! ツンが謝るなんて絶対にないと思ってたお!」

ξ#゚听)ξ「な、何よ!? 私だって謝るときは謝るわよ!!
       あんたこそ、何なのよ急に!?」

( ^ω^)「…ぼくは……母ちゃんにツンとのこと話したら怒られちゃったんだお。」

ξ゚听)ξ「え?」

ブーンは先ほどまで繰り広げられた母との相談を思い出しながら話した。


川 ゚ -゚)「魔法を使ったのがツンちゃんにせよ、あらかじめ確認しておかなかったブーンも悪いんだよ?」

椅子に座り、細い足と華奢な腕を組んでいるのはブーンの母、クーレ=ホライゾネル。父や友人は『クー』という愛称で呼んでいる。
長い髪と細いボディラインがチャームポイントの綺麗な女性だ。
ちなみに民間人で、ロマネスクとは幼馴染。
20代半ばの時『戦争が終わっても生き残っていたら結婚しよう』という死亡フラグをバキバキに折ってめでたく結ばれたらしい。

40 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/07(土) 20:10:40.40 ID:d4U1tJus0
川 ゚ -゚)「強情なのもいいけど、もう少し相手のことを考えなさい。」

(; ^ω^)「…わかったお…。」

母の前で固い床に正座という体育会系のお説教を受けて、ブーンもツンに謝ることを決心したのだ。
それで、ちょうど出てきた所に居たツンと鉢合わせになり同時に謝った。

( ^ω^)「というわけだお。」

ξ゚听)ξ「そっか…。」

二人は街道を歩いていた。
ブーンの胸には、モララーから貰った瑠璃のペンダントが下げられている。

ξ゚听)ξ「しかし、謝るってのも悪くはないわね。
      こう…モヤモヤしたのがスカーっと飛んでいく気分だわ。」

( ^ω^)「そうだお。普段からツンは謝らなさすぎなんだお!」

ξ#゚听)ξ「なんですって!?」

(; ^ω^)「ご、ごめんお。」

42 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/07(土) 20:13:17.26 ID:d4U1tJus0
ξ゚听)ξ=3「…あんたは、普段から謝りすぎよ。
        そんな身体のわりにナヨナヨしてるから、あんなバカショボンに目をつけられるのよ!」

(; ^ω^)「面目ないお…。」

ξ゚ー゚)ξ「ま、そういうところが放っておけないんだけどね。」

( ^ω^)「お? なんか言ったかお?」

ξ゚听)ξ「なんでもないわ。さ、早くモララーさんの所へ行きましょ!」

ツンはブーンの手を握って走った。

こうしていると、まるで昔のようだ。
怖いもの知らずなツンが前を走り、臆病なブーンがそれについていく。

これからもこの関係が続くかどうかなんて予想はできない。
学校が終わればそれぞれ離れ離れになるかもしれないし
また戦争が起これば徴兵されるかもしれない。

今を生きる彼らには、先のことなんてまだまだわからないことだらけだ。

43 名前: ◆hCHNY2GnWQ 投稿日:2009/03/07(土) 20:15:36.75 ID:d4U1tJus0
( ^ω^)「そうだおね!」

でも、昔よりも少しだけ。

彼らの距離は縮まっているように見えた。







つづく


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