塔と民話のサーガのようです

195 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/12(金) 06:30:01 ID:7A6.zx8IO
むかしむかし、好奇心旺盛な人しかいない国がありました。
彼らはみんな、お互い知り尽くしていたので、知らないことはなに一つありませんでした。
彼らは基本的にはお人好しで、誰かが困った時にはすぐに駆け付けて、その人の悩みを解決していました。

ある時、国に初めて旅人がやってきました。
みんな旅人さんにたくさんの質問をしました。
旅人さんはニコニコと質問に答えてくれました。
けれども、旅人さんの国がどんなところなのかは答えてくれませんでした。

ある日、誰かが旅人さんの鞄を拝借して、中身を見てしまいました。
彼の国のことが分かると思ったからです。
ところが、鞄の中にはなにもありませんでした。

「何をしているんだい?」

旅人さんは見たこともないような形相で言いました。

「お前ら全員消え失せてしまえ」

……こうして、好奇心旺盛な国からヒトは消えてしまいました。

きっとあの旅人さんは神様だったのでしょう。
でなければ、こんな寂しい国にはならなかったはずなのです。

――第九階層「透明な国」

196 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/12(金) 06:32:32 ID:7A6.zx8IO
ζ(´ー`*ζ「……ん」

緩やかに、瞼を開ける。
視界に入ってきたのは、木製の天井。

ζ(゚ー゚*ζ「ここ……」

起き上がろうと、体を動かした時だった。

ζ(゚ー゚;ζ「いたっ」

じん、とお腹と背中が熱くなる。

ζ(゚ー゚;ζ(っ……そうだ、ドクオは?くるうとオサムさんは?)

どうにか頭を動かして、あたりを見回す。
年季の入ったチェスト。
首の長い水瓶。
私の鞄。
日が差し込む木枠の窓。

ζ(゚ー゚*ζ「…………」

ζ(;ー;*ζ(いなくなっちゃったの?)

ジワリと涙が滲む。
どうしようもないくらい不安で、心細かった。

ζ(;ー;*ζ「…………」

扉が、開く音がした。

ζ(;ー;*ζ「……だれ?」

か細い声で、問い掛ける。

('A`)「……デレ?」

ζ(;ー;*ζ「……ドクオ?いるの?」

197 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/12(金) 06:36:35 ID:7A6.zx8IO
呼び掛けた瞬間、ドタドタと足音がした。

(;∀;)「よかった!やっと起きた!」

その顔は涙でぐしゃぐしゃで、だけど笑っていて。

ζ(゚ー゚;ζ「あ、あの……大丈夫?」

(ρA;)「お前こそ平気なのか?」

目元をこすりながら、ドクオが言う。

ζ(゚ー゚;ζ「起きようとしたら、痛かった」

('A`)「そうか……」
鼻をすすって、彼は言った。

('A`)「ごめんな、俺のせいで……」

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオのせいじゃないよ、大丈夫」

ζ(゚ー゚*ζ「だって、助けてくれようとしたんでしょ?」

(*'A`)「…………」

なぜか、ドクオは黙ってしまって、目をそらした。

ζ(゚ー゚*ζ「ところでここは?くるうとオサムさんは?」

('A`)「あの二人は、住人探しだ。まだ誰にも会っていないんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「そうなんだ」

('A`)「仕方ないから、適当に空き家を使ってるんだが……」

198 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/12(金) 06:39:46 ID:7A6.zx8IO
ζ(゚ー゚*ζ「それにしては綺麗すぎじゃない?」

率直な感想を述べる。
だって、今寝ているベッドはふかふかで気持ちがいいし、家の中にはほこり一つ落ちていなかった。

('A`)「そうなんだよ。しかもおかしなことに、知らない間に食事が用意されたり、風呂が沸かされていたりするんだ」

ζ(゚ー゚;ζ「……それ、ちょっと怖くない?」

(;'A`)「だから絶対、ここには誰かいるはずなんだけどなぁ……」

ζ(゚、゚*ζ「そうだねぇ……」

('A`)「まぁいいや。飯食えるか?」

ζ(゚ー゚*ζ「うん。というかお腹すいた」

きゅるる、と間の抜けた音が響く。

ζ(゚ー゚;ζ(わざわざ鳴らなくてもいいのに……!)

('-`)「……缶詰温めてくるわ」

明らかに笑いを堪えながら、ドクオは言った。

ζ(゚ー゚;ζ(最悪だー……)

そう思いながら、うなずいた。

199 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/12(金) 06:41:55 ID:7A6.zx8IO
ドクオと一緒にご飯を食べて、しばらくしてからくるうとオサムさんが帰ってきた。

川 ゚ 々゚)「……うん、だいじょーぶだね」

傷を見ていたくるうが言った。
何故だか、お腹がポカポカする。
背中もだった。

ζ(゚ー゚*ζ「そう?」

川 ゚ 々゚)「まぁ、四日間寝込んでたしね。それから、回復魔法かけ直したから、あと三日くらい寝てればくっつくよ」

その言葉を聞いて納得する。
回復魔法というのは、結構地味な魔法で、傷の治りを早くするために血の巡りをよくする魔法なのだそうだ。

ζ(´ー`*ζ(あったかくて気持ちいい)

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとうね」

川 ^々^)「いーえ」

にこっと笑って、くるうは結んでいた髪をほどいた。

ζ(゚ー゚*ζ「……真っ赤になっちゃったね」

川 ゚ 々゚)「ん、結構最近魔法使ったからね。魔力尽きかけてるかも」

ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫なの?」

川 ゚ 々゚)「ちょっと休めば元通りー」

ζ(゚ー゚*ζ「そっか」

それにしてもすごい色だ。
燃え盛る炎のような、鮮やかな赤。
これはこれでしっくりくるけど……。
でも、普段から見慣れている黒髪のほうが私は好きだった。

200 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/12(金) 06:43:49 ID:7A6.zx8IO
とその時、扉がノックされた。

【+  】ゞ゚)「くるう、入ってもいいか?」

その声は、オサムさんのものだった。

川 ゚ 々゚)「どうぞー」

入ってきたオサムさんは、少し気まずそうに私を見た。

【+  】ゞ゚)「……怪我させてすまなかった」

ばつが悪そうにオサムさんは言った。

ζ(゚ー゚*ζ「いえ、あれは仕方ない……と思います」

さっきドクオから聞いた事情を思い浮かべながら、私は返す。

それにしても、オサムさんにあんな過去があるとは、私はまったく知らなかった。

【+  】ゞ゚)「……もっと早くに話すことができたら、よかったんだがな」

それはなかなか、難しい話だろう。
師匠を殺めてしまった、なんて。

ζ(゚ー゚*ζ「でも、私は大丈夫ですから」

【+  】ゞ゚)「…………」

ζ(^ー^*ζ「もうこの話はおわりにしましょう、ね?」

オサムさんに笑いかけてみる。

【+  】ゞ゚)「…………」

だけど、彼はまだ硬い表情をしていた。

川 ゚ 々゚)「オサム、」

くるうが呼び掛ける。

【+  】ゞ゚)「……わかった、すまない」

そう言って、オサムさんは部屋を出ていった。

201 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/12(金) 06:45:31 ID:7A6.zx8IO
ζ(゚ー゚*ζ「……そういえば、住人は見つかったの?」

私の質問に、くるうは首を振る。

川 ゚ 々゚)「いないの、誰も」

ζ(゚ー゚*ζ「…………」

川 ゚ 々゚)「森の中にあった町なんだけどね、だぁれもいない。だけど朽ちてはいないし、料理がこっそり用意されてたりするから誰かいるはずなんだけどね……」

ζ(゚、゚*ζ「……それじゃあ、話も蒐集できないね」

川 ゚ 々゚)「そーだねー」

ぐーっ、と伸びをしながら、くるうは言った。

ζ(゚ー゚*ζ(変な町)

だけど、なぜか居心地がよくて。

ζ(゚ー゚*ζ(不思議だなぁ)

そう思いながら、天井を見つめた。

202 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/12(金) 06:47:41 ID:7A6.zx8IO
二日目になると、起き上がれるようになっていた。

ζ(゚ー゚*ζ(おお……)

なんとなく感動。
朝ご飯を運んできてくれたドクオによると、くるうとオサムさんはまた住人探しの旅に出たらしい。

ζ(゚〜゚*ζ「仲良しだねぇ」

スクランブルエッグを食べながら、思わず呟く。
ちなみにこれは、今朝起きたらキッチンに置いてあったそうだ。
なかなかおいしい。

('A`)「そうだな」

ζ(゚〜゚*ζ「まぁ、たしかにくるうはオサムさんに懐いてるけどねぇ」

('A`)「……懐いてるっていうより、恋人同士っぽいよね」

ζ(゚ー゚*ζ「あー…かなぁ?」

恋をしたことがないからなんともいえないが。

('A`)「……デレは、好きな人とかいないのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「うん。興味ない」

(´'A`)「…………」

あれ、なんでちょっと悲しそうなんだろう?

ζ(゚ー゚;ζ「そもそも恋とか愛とかよくわからないよ。私はひたすら先祖様が蒐集した話を覚えることしかしてこなかったからさ」

('A`)「あーたしかに。小さい頃は全然遊ばなかったよな」

ζ(゚ー゚*ζ「怪我したら困るからって言われてさー」

203 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/12(金) 06:49:47 ID:7A6.zx8IO
('A`)「それがどうやったら、フレイルを振り回すような子に……」

ζ(゚ー゚*ζ「ちょっとした反抗心かな。私だって逞しいんだぞーみたいな」

('∀`)「なんだそりゃ」

思わずドクオがふき出した。

ζ(゚ー゚*ζ「だってあのまま育てられてたら、確実にもやしだよ。旅する体力なんかないって」

('A`)「まぁ、そうだな」

トーストされた食パンを食べ終えて、私はドクオにお皿を渡した。

('A`)「ちょっと洗ってくるわ」

ζ(゚ー゚*ζ「うん、ごちそうさまでした」

('A`)「おそまつさまー」

久々の食事はおいしかった。

ζ(゚、゚*ζ「…………」

でもこのまま寝るのは、ちょっとどうかと思った。
食べてすぐ寝たら牛になるらしいし……。
チェストの上の、鞄に手を伸ばす。
これは昨日、くるうが移動させてくれたものだ。

鞄からペンと紙を出す。
そして、はくちのくにと名無しの国での出来事を簡潔に認めた。

ζ(゚ー゚*ζ(……ツン、元気かな)

204 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/12(金) 06:53:30 ID:7A6.zx8IO
本当は、ツンもバタフライエフェクトを使うことは出来る。
だけどバタフライエフェクトを使っていいのはお勤めに行った人だけという掟があった。
もし、受け取り手からこちらにバタフライエフェクトが届いてしまったら。
きっと国が恋しくなって、旅ができなくなるだろう。
話がしたくなって、たくさんバタフライエフェクトを使うだろう。
余計なことを考えて、隙を作ってしまうかもしれない。
だから、受け取り手はバタフライエフェクトを使ってはいけない。
使ってしまえば、お勤めに行った者を、命の危機に晒してしまうかもしれないから。

……書きながら、ふと思い出す。

205 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/12(金) 06:55:23 ID:7A6.zx8IO
ζ(゚ー゚*ζ(そういえば昔、父が言ってたなぁ)

( ´_ゝ`)『……片割れの死は手にとるように分かるんだ』

ζ(゚、゚*ζ『わかるの?』

( ´_ゝ`)『ああ。バタフライエフェクトが使えなくなるんだ』

ζ(゚ー゚*ζ『使えなくなる……?』

( ´_ゝ`)『……一度だけ、掟を破ったことがあるんだ』

( ´_ゝ`)『何ヵ月も、いや何年も蝶が来なくなって……。心配になって、蝶を送ろうとしたんだ』

(  _ゝ )『紙は、蝶にならなかった』

(  _ゝ )『その時、悟ってしまったんだ。片割れが、死んでしまったんだって』

その時に、私は自分の持っている能力がツンなしでは発現できないことを知った。
あれは、二人で一つの能力なのだ、と。

ζ(゚ー゚*ζ「…………」

どうして、父は私に手紙を託したのだろう。
弟者さんが死んでいるとわかっているのに。

ζ(゚ー゚*ζ(諦めきれないのかな)

そう考えていた時、チェストの中から、カタン、という音がした

ζ(゚ー゚*ζ「……?」

206 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/12(金) 06:57:30 ID:7A6.zx8IO
少しずつ体を動かす。
そして、チェストの中を開けてみた。

ζ(゚ー゚*ζ「……絵本?」

タイトルは「透明な国」。
ページをめくる。

「むかしむかし、好奇心旺盛な人しかいない国がありました。」

ζ(゚―゚*ζ「…………」

絵本を読み進める。
描かれている住人たちは、みな幸せそうに笑っていた。
しかし、旅人さんは、笑顔なのにどこか怖い感じがした。
……というかどこかで見たことがあるような気もする。


「でなければ、こんな寂しい国にはならなかったはずなのです。 おしまい」


ζ( ― *ζ「…………」

寂しくて悲しい気持ちになった。
ここにいた住人は、この旅人に消されてしまったのだ。

ζ(゚ー゚*ζ(……でも、それじゃおかしい)

消されたのなら、なぜご飯やお風呂の準備がされるのだろう?

ζ(゚ー゚*ζ(……まさかね、)

部屋に、誰かがいるような気がした。

ζ(゚ー゚*ζ(……気のせい気のせい)

紙の余白に、絵本の内容を書いた。
国名は……、

ζ(゚ー゚*ζ(透明な国)

絵本のタイトルにしよう。
不思議とそう思った。

紙を折って、息を吹き掛ける。
ひらひらと、蝶は飛ぶ。

ζ(゚ー゚*ζ「…………」

それを見送って、絵本を元通りチェストの中にしまった。

207 名前: ◆R6iwzrfs6k 投稿日:2012/10/12(金) 07:03:28 ID:7A6.zx8IO
三日目になると歩けるようにまでなった。

ζ(゚ー゚*ζ「もう大丈夫だと思う」

川 ゚ 々゚)「うん。でもしばらく無茶は禁物だからね?」

さっそく出発することに決定。
オサムさんとくるうは、いつものように少し前を歩き、ドクオがそれを追いかける。
……私は、歩みを止めて、振り返った。

ζ(゚ー゚*ζ「七日間、お世話になりました。ありがとうございました」

ゆっくりと、お辞儀をする。
顔をあげた時、ちょうど風がふいてきた。

ζ(>ー<*ζ「っ……」

砂が入らないように目をつぶろうとして。

ζ(゚ー゚*ζ「あ……!」

私は見た。

(*゚∀゚)ノシ

満面の笑みを浮かべながら、手を振る女の子の姿を。
声は、聞こえなかった。
だけどたしかに、その子はこう言っていたんだ。
「またね」、って。

ζ(゚ー゚*ζ「…………」

('A`)「おーい!置いてかれるぞー!」

ζ(゚ー゚*ζ「待って、今行くから!」

ζ(゚ー゚*ζ(消えたんじゃない)

彼らは、透明になっただけなんだ。

ζ(゚ー゚*ζ「…………」

('A`)「なんか嬉しそうだな」

ζ(^ー^*ζ「ううん、別に」

ドクオに笑いかけながら、私は扉に向かった。


第九階層「透明な国」 了


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