- 275 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:33:30 ID:gUL88xw20
シャーロック・ドクオの憂鬱のようです
- 276 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:33:50 ID:gUL88xw20
蒸し蒸しと暑かった、今年の夏も終わろうとしていたある日の夕刻。
日本列島には、西側から大型の台風が接近していた。
今朝からテレビの中で、キャスターが淡々と警告を繰り返していた嵐の激しさは、
それが近づいて初めて、実感できるものとなってきた。
昼時まで、空の彼方に浮かんでいた薄黒く巨大な積乱雲は、
今や東京の上空で傘のように広がり、人々や、道路、果ては大きなビルの群れさえも、
軽々と包み込み、その陰鬱な影を落とし続けていた。
- 277 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:35:39 ID:gUL88xw20
('A`)「はぁ」
(><)「ふぅ」
いつもと違って冴えない天気に、毒田探偵事務所の二人は、
ため息をつきながら、置かれたテレビから流れるニュースを見ていた。
- 278 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:35:58 ID:gUL88xw20
突き詰めるところ、人間の力などこの大自然の大いなる力に比べれば、
まるで象の大群の中に迷い込んだ、一匹の蟻の如く無力である。
テレビに映し出される、暴風に飛ばされていく家の屋根や木片の数々、
テトラポットへ打ち付けられ、飛沫となり港町に吹き上がる大波、
堤防を越え、畑へと流れ込む川の氾濫の映像を見ていると、嫌でもそう感じられる。
人為の限りが尽くされた、この世界有数の大都市東京でさえ、
こうして牙をむいた自然の圧倒的な力には、歯が立ちもしないのだから。
- 279 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:36:21 ID:gUL88xw20
('A`)「憂鬱だなー」
(><)「たしかになんですー」
時刻は現在五時半。定時を過ぎ、ワカンナイデスはもう家に帰っているべき時間である。
彼が今こうして事務所に残っているには、訳があった。
- 280 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:36:38 ID:gUL88xw20
三十分前。
その頃彼は、事務所のインターネット広告掲載の仕事を終えていたところだった。
事務所に掛けられた、古臭い振り子時計の時刻を確認し、帰る準備を始めたとき。
(;><)「あちゃー。傘忘れたんです!」
外には薄暗い雲の下、ふりだした雨が見えた。
(><)「これ以上激しくならないうちに帰るんです!」
('A`)「あ、ワカンナイデス。ニュース見た?」
立ち去ろうとする彼の背中に向けてドクオは言う。
- 281 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:37:07 ID:gUL88xw20
(;><)「え、なんのニュース!?」
('A`)「台風で首都圏の鉄道全面運転見合わせだって」
(;><)「ええええええええええ!なんでもっと早く教えてくれないんです!」
('A`)「悪い悪い。今見つけたんだよ。ヤホー!ニュースで」
(;;><)「帰れないんですーー!!」
('A`)「おk、おk。今夜はこの事務所で泊まってこうぜ。一応布団も置いてあるしさ」
(;><)「野郎とお泊りなんて、これっぽっちも楽しくないんです……」
- 282 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:37:30 ID:gUL88xw20
という訳で今の状況に至ったのである。
延々と続くニュースと天気予報にも飽きてきたワカンナイデスが、ドクオに話しかけた。
(><)「なんかこの気分を吹き飛ばしてくれるような、楽しいことないか、なんです!」
('A`)「またオセロでもやる?」
(;><)「ドクオさん強すぎだから嫌なんです!」
('A`)「ふふふ、俺は考えてるからな」
- 283 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:37:50 ID:gUL88xw20
(><)「ドクオさんは、どうしてそんなに頭が良いんです?
最近だって、難解な事件をいとも簡単に解決しちゃって……」
('A`)「大したことなんてしてないよ。結果的にそう見えているだけさ。
全ての複雑に見える事象は、信じられないほど単純な要素の集合体だ」
(><)「ワケワカンナイデス」
眉間に皺を寄せる彼の顔を見て、ドクオが楽しそうに語る。
('∀`)「いいか、ワカンナイデス。探偵の優劣は情報の『取捨選択』の力によって決まる」
(><)「曖昧過ぎて分かんないです!」
- 284 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:38:10 ID:gUL88xw20
('∀`)「じゃ、例え話をしようか。農園に一本のリンゴの木がある。高さは三メートルほど。
葉っぱは鮮やかな緑。幹は太く、枝が空へと広がるにつれ、細くなっている。
そのリンゴの実は、鮮やかな赤だが、底の方はまだ青さが否めないようだ」
(><)「……へ?」
('∀`)「この木は、一匹の猿のお気に入り。時たま傍の日陰に涼みに来る。
鳥たちにとっても、形の良いこの木は、羽を休めるのに丁度良い。
彼らは翼を動かすのに疲れると、休息のためにとまりにきていた」
(><)「何が言いたいんです……?」
彼の言わんとしていることが掴めないワカンナイデスは、目をぱちくりさせた。
- 285 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:38:33 ID:gUL88xw20
('A`)「……そんなある日……」
ワカンナイデスを無視し、揚々と語っていたドクオは、
急にどよんと暗い顔をして、声のトーンをがっくりと落とした。
('A`)「実っていたその木のリンゴが全て盗まれたぁぁぁ……」
稲川●●顔負けのホラー語り口の恐ろしい声で、不気味に呟く。
(><)「どうしてこうなあああったああああ!!!!????」
('A`)「事件に気付いた農園の人によれば、その日は風の強い日だったそうだ。
そして、この農園は山の傾斜に位置している」
(><)「ふむふむ」
- 286 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:38:59 ID:gUL88xw20
('∀`)「さぁ、どうしてリンゴは無くなったと思う?」
(><)「……猿が盗んだか、風が揺り落としたんです!」
('∀`)「そうさ!この状況で犯人になり得るのは、日陰の猿か、止まりに来る鳥か、吹いていた風だ!
『取捨選択』すべき情報は間違っても、リンゴの赤さや、葉っぱの色、木の高さじゃない!」
(><)「おおおおおお、なんです!」
ドクオの発言の意味を完璧に理解したのか、目をキラキラさせるワカンナイデス。
- 287 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:39:15 ID:gUL88xw20
('∀`)「ただのリンゴの木だって、情報なんて今のように、星の数ほどある。
現場でだって同じさ。目を凝らせば、飛び込んでくる情報は山ほどある。
でもその掻き集めた情報の選択肢、つまり数ある探究の糸口の内、
どれを選ぶかの『取捨選択』の力が重要なんだ!」
(><)「すげえええええええええええええええ!」
('∀`)「そうだろ!」
(><)「そう言われると僕にも出来そうなんです!」
('A`)「ああ、きっとお前にも出来るよ。でも経験が必要だ。
例えば十五年前の七月の、VIP市連続女性誘拐事件知ってるか?」
(><)「知らないんです!」
- 288 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:39:43 ID:gUL88xw20
('A`)「東京都の郊外のVIP市で、若い女性が連続して、車に連れ去られ誘拐・監禁された。
捜査本部は必死になって、周辺地域の不審な男の目撃情報や、
被害者たちが過去に交際していた人物などを漁った。
でも、信じられるか?……犯人は女だったんだよ」
(><)「えええええええ、なんです!!」
('A`)「この事件には、当時剛腕で名を轟かせた刑事たちも舌を巻いた。
捜査のプロ中のプロである奴らがだよ。
人間は大人になるにつれて、世の中を歪んだ眼鏡をかけて見るようになる。
それぞれが見る必要性のあるものへ焦点を合わせられるように、ボコボコにしてな。
この眼鏡は、強みであり、同時に弱みでもある。
この事件が世間に示す通り、かけているせいで見落とすものがたくさんあるから。
だから俺達探偵は、その眼鏡を必要なときにかけると同時に、
そいつをはずした偽りなき裸の目で見つめる力も必要なんだ。
そしてこれが単純そうで、一番難解なことなんだ」
(><)「むむむむむむ、なんだか難しくなってきたんです」
- 289 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:40:16 ID:gUL88xw20
('A`)「そうしなければ、ありとあらゆる情報を掴み、
そいつらの選択していくことは、困難な作業になる。
目の前に置かれた真実を見る目を磨くのは、やっぱり経験と自己鍛錬だよ。
現代犯罪史の隅から隅までを暗記したら、大分景色も変わるさ」
最初のリンゴの話で、挑戦意欲に燃えていたワカンナイデスは、
次の話でドクオに水を差され、ブスッとした顔をつくっていた。
(#><)「せっかくやる気になってたのにー、なんです!」
- 290 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:40:50 ID:gUL88xw20
(;'∀`)「すまんすまん」
(#><)「むー」
ピシャーーーーーーーーーーン。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。
(;'A`)「うわ、びっくりした!」
(;><)「うわ、びっくりした!」
突然の雷鳴の轟音と閃光に、二人はドキリとする。
- 291 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:41:12 ID:gUL88xw20
まだ夕方だというのに暗い外を覗くと、一層強くなった雨が窓をたたきつけ、
吹き荒れる風は、それをカタカタと揺らしていた。
事務所の前の道路の脇に植わっている街路樹は、ゆさゆさと左右に激しく揺れる。
('A`)「はぁ……」
(;><)「やっぱり憂鬱なんです……」
グーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
大嵐の喧騒などものともしないワカンナイデスの腹の爆音が、事務所に響き渡る。
(;><)「腹減ったんです……」
- 292 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:41:42 ID:gUL88xw20
('A`)「夕飯どうすっか?」
(><)「それならずっと前に僕が買わされた、非常用の乾パンがあるはずなんです!」
('A`)「あーそれか、ふむふむ」
(><)「?」
('A`)「いやー、あれなんだけどね……」
意味深な沈黙に、ワカンナイデスは疑わしげな顔を向けた。
(><)「どうしたんです、はっきり言ってくれなきゃ分かんないです!」
- 293 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:42:07 ID:gUL88xw20
(;'A`)「……あれ前に、腹減っておやつで食べちゃったんだよねー」
(#><)「えええええええ!ふざけんななんです!僕が汗水流して買ってきたのに、なんです!」
(;'A`)「あーあれだよ!俺じゃなかった!きっと犯人は、猿か鳥か風だ!きっとそうだ!」
(#><)「うっさいんです!今夜の夕食抜きになっちゃうんです!どうしてくれるんです!」
('A`)「悪い悪い、わかったこうしよう。ジャンケンで負けた方が、コンビニまでダッシュ。
勝った方に頼まれたものもついでに買ってくるってのは?」
(#><)「ドクオさんが撒いた種なんです!」
('A`)「ま、そのことなら今夜泊めてやるんだからチャラでよくね?」
(#><)「むぐぐぐぐぐぐぐぐ……。しょうがない」
- 294 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:42:27 ID:gUL88xw20
睨み付け合う二人。
プライドとプライドとがぶつかり合う、
彼らの負けられない戦いの火蓋は切って落とされた。
('A`)(><)「ジャンケン!!!!!」
('A`)「チョキ!!!!!!!!!!!!」
(><)「パー!!!!!!!!!!!!」
('∀`)「しゃ」
(#><)「おのれ外道めえええええええええええええええええええ!!」
('∀`)「じゃ宜しくね」
(#><)「くやしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
('A`)「傘貸すから、ほれ」
- 295 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:42:57 ID:gUL88xw20
*
踏んだり蹴ったりのワカンナイデスは、雨の中やっとの思いで、
嵐が故だろうか、人の少ないコンビニの前に辿り付いた。
傘を差していたと言えど、大嵐。
彼の靴、服、至っては顔や髪の毛まで、びしょ濡れになっていた。
傘立てに乱暴に傘をぶち込み、弁当コーナーの方へずんずん進んでいく。
明らかに機嫌の悪いずぶ濡れの客に、店員、びっくりである。
- 296 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:43:16 ID:gUL88xw20
指定されたから揚げ弁当と、自らのキムチ弁当をレジへと持っていく。
「870円になりまーす」
(><)「受け取れ、なんです!」
ぶっきらぼうな返答だ。
ふとワカンナイデスの視界に、面白いものが飛び込んできた。
『ご自由にお取りください』の沢山のワサビのパックである。
- 297 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:43:35 ID:gUL88xw20
(><)「ひひひ」
(><)「うひひひひひひひひひひひひ」
「お客さん!?大丈夫ですか!?」
いきなり不気味な笑い声を上げる。
それを気に掛ける店員の声など、彼の耳には届いていない。
- 298 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:43:52 ID:gUL88xw20
(><)「そう言えばドクオさん、辛いの苦手だったんです……。
こいつを弁当のご飯の中にしこんで……キィッヒヒヒヒヒヒィィィ!!」
煮えたぎる釜の、謎のスープを掻き回す魔女のような、イヤーな笑い声。
怪しいことこの上なしの独り言を、聞いた店員、ドン引きである。
大量のワサビパックを鷲掴みにして、ニヤニヤ笑みを浮かべながら飛び出していく。
彼の傍若無人な行いの数々に、店員、ドン引きである。
- 299 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:44:35 ID:gUL88xw20
コンビニの屋根の下で、器用にも箸でご飯を摘み上げ、信じられない量のワサビを詰め込む。
華麗なる職人技だ。外見からは、ワサビが詰め込まれていようとは、夢にも思わない出来だ。
(><)「さぁ!善は急げなんです!」
果たしてその諺が、この状況に適当であるかは置いておいて、
彼はこれ以上を想像できない最高の笑顔を浮かべながら、来た道を引き返し始める。
大通りを外れ、小道へと入っていく。
路上の至る所にできた水たまりを避けて、寂しげな住宅街へと入っていく。
- 300 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:45:23 ID:gUL88xw20
雨のせいだろう。歩行者は誰ひとり見えない。
こんな最悪の天気の夜に、徒歩で外出しようなんて輩は、
頭が悪いか、相当の変わり者か、ジャンケンに負けた奴くらいである。
正面から強い風が吹き、傘を持っていかれそうになったが、
なんとか踏ん張るワカンナイデス。
再び前を向きなおすと、そこには一人の人間が立っていた。
( ∵)「……」
道の真ん中で立ち止まっている。
雨宿りするでもなく、傘も差していない。
雨の中、空を見上げて突っ立っているのである。
- 301 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:45:45 ID:gUL88xw20
大雨で視界が悪かったワカンナイデスは、その姿をくっきりとは確認できなかったが、
真っ黒で足まで丈のあるレインコートを身に纏い、そのフードを被っている。
フードの下には、長髪と、その薄気味悪いほど蒼白な顔が見えた。
( ∵)「……」
発展途中のこの寂しい住宅街の家の一件を、じっと見つめている。
しばらくすると、男はそれに飽いたのか、
片足を、ズルッ、ズルッっとびっこして引きずりながら、雨の中ゆっくり離れていった。
(;><)「あの人、一体なにしてたんです……?」
そこからしばらく歩いて、彼はやっと毒田探偵事務所にたどり着いた。
- 302 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:46:19 ID:gUL88xw20
玄関のドアをバタンと開け、倒れ込む勢いで押し入る。
ずぶ濡れの上着を脱いで、Tシャツ一枚になった彼は、玄関の棚に弁当を置く。
('A`)「乙。助かったよ」
(;><)「さっき変な人を見たんです……」
('A`)「え?」
(;><)「黒い死神みたいな見た目の男が、雨の中うろうろしてたんです」
弁当を確認しながら、適当に聞き流していたドクオが、この言葉に妙に食らいついた。
- 303 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:46:46 ID:gUL88xw20
(;'A`)「お、おい!そいつはもしかしてフードを被って、足を引きずって歩いてたか!?」
突然身を乗り出して質問してきたドクオに、ワカンナイデスは戸惑いながら返答した。
(;><)「そうなんです!……それがどうかしたんです!?」
(;'A`)「……まずい。……冷静に聞いてくれ」
(;><)「え?」
- 304 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:47:05 ID:gUL88xw20
(;'A`)「この嵐が止むまでに、この近辺で必ず、殺人が起こる」
(;><)「え!!!!!!!ど、どういうことなんです!???」
今までに見たこともないようなドクオの動揺の様は、ワカンナイデスに恐怖を与えた。
ドクオはせかせかとその場を去ると、レインコートを二つ持ってきて、
片方をワカンナイデスに手渡し、玄関にある長靴を履きながら言った。
(;'A`)「『大嵐』だ。今からは危険が付きまとう!来るかはお前次第だ!
俺は今から、殺人を食い止めてみせる!アレは……この国が生んだ脅威だ!」
- 305 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:47:27 ID:gUL88xw20
OKの返答もせずに、渡されたレインコートを着ながら、再び長靴を履くワカンナイデス。
ドクオの顔を見つめ、決心した様子で言った。
(><)「僕は毒田探偵事務所の偉大なる名探偵、シャーロック・ドクオの助手なんです!
いちいち危険に怯えてたら、ここまでこの座は務まってないんです!」
('∀`)「そりゃごもっとも」
電気をつけっぱなし、扉すら開けっ放しで、二人は台風の夜道に飛び出していく。
走る二人は、水たまりを踏みつけ飛沫を飛ばしながら、男のいた道を向かう。
- 306 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:47:47 ID:gUL88xw20
ピチピチ。
ジャブジャブ。
(;'A`)「そいつはどっちに向かったかわかるか?こっちに来てたか?」
(;><)「ちっ、違うんです!反対方向に歩いてったんです!
それよりあいつは一体……」
(;'A`)「状況を冷静に見つめろ!今、重要なのは『何処で』殺しが起きるのか、だ!」
彼の声は、焦りからか、上ずっていた。
- 307 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:48:04 ID:gUL88xw20
(;><)「……それなら、あの男は道中の一軒家をじっと見つめてたんです!」
(;'A`)「それだ!その場所を覚えてるか?どの家だ?」
(;><)「こっちなんです!」
二人は息を切らして走り、あの不可解な男が付け狙っていた家を目指す。
髪は完全にずぶ濡れで、冷め切った額にへばりつく。
大型台風のもたらした豪雨に、もはやレインコートなど意味を成していなかった。
- 308 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:48:42 ID:gUL88xw20
*
二十分ほど過ぎただろうか。
ドクオはワカンナイデスと別れ、手分けして例の家の周りを探っていた。
降りしきる雨のせいで、視界が悪い。
すでに日が沈んだのも悪条件だ。
- 309 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:49:05 ID:gUL88xw20
塀の周りには誰も見当たらない。
街路樹や電信柱の陰にも、奴の姿は無い。
車庫に停めてある車の裏にも、誰の姿も認められない。
家の中に侵入したか?いや、論外だ。
あいつは証拠を残すことを極端に嫌うのだから。
窓辺に現れた獲物の心臓を打ち抜くのが、奴の全ての事件に共通する手口なのだから。
迫りくる犯行までの時間を意識するたび、焦燥の火がドクオの胸を焦がした。
あいつは本当にどこにいるんだ?
- 310 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:49:32 ID:gUL88xw20
家の正面の道を進み、屋根のあるバス停を横切る。
雨粒が邪魔をして、はっきりと見えない前方。
突然、ドクオの左側から声がした。
( ∵)「……何故俺の邪魔をする?」
- 311 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:50:08 ID:gUL88xw20
バス停に設置されたベンチに、足を開き、手を広げ、がっしりと座る人影。
ドクオが目を向ければ、それは不気味な黒いレインコートをきた、蒼白の男だった。
じっとこちらを見つめている。
こいつは何処かおかしい。
如何なる人間であっても、他人と会話をする時には、声や表情に、
わずかであれ、喜びだとか、怒りだとか、戸惑いだとか、
何らかの感情の色が浮かぶものだ。
この男には、それが欠片も無いのである。
- 312 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:50:32 ID:gUL88xw20
(;'A`)「……いつからそこにいた?」
( ∵)「……さっきから」
(;'A`)「……誰に雇われた?」
( ∵)「……」
口を開かない。
- 313 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:50:54 ID:gUL88xw20
(;'A`)「どうして俺がお前を探っていることが分かった?」
( ∵)「……嵐は俺の味方だ。吹き抜ける風が、全てを伝えてくれる」
座っていたベンチから起き上がり、足を引きずってドクオに近寄る。
その目線を、再びドクオに置いたこの男は、胸から拳銃を取り出した。
その感情の見えない、氷のような顔で彼を見据え、銃口を心臓に向ける。
( ∵)「……雨は良い。お前の血だけではなく、
これから行われる、俺の罪までも洗い流してくれる気がするから」
- 314 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:51:10 ID:gUL88xw20
ドクオは何を思ったか、歯をむき出し、微笑を見せつけた。
(;'∀`)「させるかよ」
( ∵)「……」
ドクオの言葉に、首をひねり、不思議そうな顔で答える男。
その時、彼の背後から突然、ワカンナイデスが飛び出し、彼の銃を持つ手を思い切り掴んだ。
(><)「あちょちょチョチョchochochoおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
- 315 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:51:49 ID:gUL88xw20
*
十分前。
(;'A`)「いいか、手短に説明する!あいつは『大嵐』。殺し屋だ」
(;><)「え!!!????」
(;'A`)「俺も直接会ったことはない。名前も、居場所も、全く不明。だからその異名で呼ばれている。
神出鬼没だが、アンダーグラウンドの情報屋、
マスターショボンによって、あいつの悪名は俺の耳に届いている。
嵐の夜だけに現れて、ターゲットの心臓を打ち抜き、確実に殺す。
あの気味悪い黒いレインコートの、胸ポケットにしまいこんである拳銃でな」
- 316 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:52:41 ID:gUL88xw20
(;><)「どうして嵐の夜だけ!?」
(;'A`)「大雨は全てを洗い去る。血も!銃声も!足跡も!視界も!指紋も!煙も!
だからあいつは毎回必ず、完全犯罪をやってのける!
愉快犯で、殺人という自らのリスキーな挑戦を、ゲーム感覚で楽しんでる酔狂野郎だ。
あいつは普通の殺し屋と違って、ほとんど報酬を求めない。
その代り、殺しの実行は嵐の夜だけ。奴の哲学に沿わない依頼は引き受けない。
だがその自分の能力に対する芸術やこだわりこそが、
奴を殺しの天才にせしめ、裏社会で絶対の信頼を勝ち得ている所以でもある」
(;><)「……とんでもないやつなんです」
- 317 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:53:15 ID:gUL88xw20
(;'A`)「奴は殺しの行われる現場の地形を、長い時間をかけて完全に把握するんだ。
道路の通行人の多さや、マンションのカメラの位置、住人の生活スタイルまでもすべて。
嵐の中あいつの居場所を探すなんて、軍艦に裸で乗り込むようなもんだ。
そこでだ、ワカンナイデス。二重作戦で行こう。
前陣で俺があいつの気を引いてるうちに、現れたあいつを後ろから捕えろ」
(;><)「それじゃドクオさんが危険なんです!」
(;'A`)「大丈夫、信じろって」
- 318 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:53:43 ID:gUL88xw20
*
(><)「捕まえたーなんです!!!!!!!!!!!!」
( ∵)「!」
ワカンナイデスは、飛び出してきた勢いを失わず、男に飛び掛かる。
拳銃を持つその腕を掴み、銃の先を地面に向け、華奢なその体を張り倒そうとする。
決死の瞬間に、彼が驚いたのはこの細い男の腕力である。
足が不自由な人間は、これ程までに腕力を発達させることが出来るのだろうか。
- 319 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:54:39 ID:gUL88xw20
(;><)「ぐぅ……!!!!!!」
ワカンナイデスは男の拳が飛んできた懐に、物凄い衝撃を感じて、地面に崩れ去る。
(;'A`)「おい!ワカンナイデス!……クソが!」
- 320 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:55:02 ID:gUL88xw20
仲間を攻撃されたドクオは、憤り彼に殴りかかろうとするが、突き飛ばされる。
後方によろめき、尻餅をついた彼に、『大嵐』は拳銃を向けた。
(;'A`)「ぐぁ」
- 321 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:55:26 ID:gUL88xw20
(;><)「ま、待つんです!!!!!!」
( ∵)「……さよなら」
引き金は躊躇無く引かれた。
時はまるで、スローモーションの映像の如くゆったりと流れた。
- 322 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:55:48 ID:gUL88xw20
ドンという鈍い銃声が、雨音に飲まれていく。
弾丸は、無情にも、真っ直ぐにドクオの心臓に命中する。
(#><)「ドクオさん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
- 323 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:56:15 ID:gUL88xw20
彼はグッタリと道路のアスファルトの上に倒れ込み、水飛沫が舞い上がる。
苦痛に歪んだ顔に、更に激しくなった雨が打ち付け、頬を伝って流れていく。
彼の哀れな苦悶の顔が、安らかな死顔に変わるまでに、時間はかからなかった。
- 324 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:56:40 ID:gUL88xw20
ワカンナイデスは、ドクオの傍に崩れ落ち、叫び声を上げ続ける。
その彼の脇を、『大嵐』は足を引きづりながら、気怠そうに歩いていく。
( ∵)「……」
- 325 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:56:58 ID:gUL88xw20
邪魔者の排除を成し遂げ、この場を離れようとする男の背中に、言葉が投げられた。
「待てよ」
( ∵)「……」
振り返ると同時に、声の方向に静かに拳銃を突きつける。
銃口が差していたのは、紛れもない、先程彼が殺したはずの男だった。
- 326 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:57:25 ID:gUL88xw20
( ∵)「どうして生きている?」
('A`)「……今日はお前を逃しはしない」
(;><)「ド、ドクオさん!!!!!」
ドクオは、着ていたその大きなレインコートを脱ぎ、道路に叩きつける。
服の中から出てきたのは、重そうな取っ手の無いフライパンだった。
分厚い底には、彼の心臓を貫いているべき弾丸がめり込んでいた。
- 327 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:58:06 ID:gUL88xw20
( ∵)「……道理で俺の好きな心臓を貫く音が聞こえなかった訳だ」
('A`)「お前の事は漏れている。心臓を拳銃でぶち破るという、一貫した手口。
自身のこだわりに執着すれば、それは時として弱みに変わる」
( ∵)「……」
- 328 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:58:30 ID:gUL88xw20
彼を見据える『大嵐』の顔は、悔しさすらも浮かんでいない無表情。
ドクオの顔には、再び拳銃がゆっくりと向けられる。
('A`)「そして情報が正しければ、お前の拳銃の弾倉に込められた弾は一発のみ。
そいつはお前の『覚悟』だ。二発の弾を込めれば、一発目の射撃に甘えが生じる。
もし俺の推測が外れなら、お前の勝ちだ。二発目の弾丸で俺を打ち殺せ」
( ∵)「お前の言う通りだ」
- 329 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:58:53 ID:gUL88xw20
銃を下し、胸ポケットへとしまう。
諦めたかに思えた。
しかし、再度出てきたその手には、鋭利なナイフが握られていた。
彼は、近くにいたワカンナイデスを捕え、喉元にそれを突きつけた。
(;><)「ぁぁぁぁぁぁ・・・・!!」
(;'A`)「そんなものを!!!!!!」
- 330 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:59:21 ID:gUL88xw20
( ∵)「……」
(;'A`)「やめろ!!」
( ∵)「……俺をこの場から逃がせ」
(;'A`)「……約束する。……だから離せ」
ワカンナイデスを開放し、再びその力の無い歩き方で、
よろよろとびっこしながら去っていく。
- 331 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 01:59:43 ID:gUL88xw20
(;'A`)「お前はもう少し、諦め際の良い奴だと思ってたよ」
( ∵)「……今の俺は生きなくてはならない」
(;'A`)「……」
( ∵)「……やがて実現されるべき、偉大な理想のために」
去り際を見送った後、ワカンナイデスがゼェゼェと息を漏らしながら言った。
(;><)「し、死ぬかと思ったんです!ナイフを隠し持ってたなんて」
(;'A`)「……そんなことあり得なかったはずなんだ」
- 332 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 02:00:15 ID:gUL88xw20
*
時刻は、九時五十分。
雨の激しさは緩まったものの、完全な宵闇が不気味に街を包み込んでいた。
悪夢の時は過ぎ去り、二人は探偵事務所へと辿りついた。
タオルで頭を拭きながら、疲れた体をソファに投げ出す。
しばしの間、どちらも口を開こうとはしなかった。
先刻体を襲った恐怖と疲労感が、彼らの話す意欲を削いでいた。
- 333 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 02:00:34 ID:gUL88xw20
暫くそうして沈黙を続けていたドクオが、ポケットから
雨水でシミのできた紙切れを取り出した。
紙切れと睨めっこをした後に、再びため息をついて、ソファに寝転がる。
その様子に、ワカンナイデスは沈黙を破る。
(><)「……それは何なんです?」
('A`)「……『大嵐』と取っ組み合ってる時、盗んだ」
彼の返答は、なんだか驚くまでに元気がなかった。
- 334 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 02:00:53 ID:gUL88xw20
(;><)「え、あの時に……」
ワカンナイデスは、テーブルに置かれたその紙を見つめる。
(;><)「意味不明なんです……」
- 335 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 02:01:09 ID:gUL88xw20
紙切れには、謎の数字とアルファベットの羅列。
_________________
22 9 16 20 15 23 14
17 21 1 12 9 20 25 18 15 1 4
v v G D - E Z
余寒厳しき折、ご自愛願う。
_________________
- 336 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 02:01:43 ID:gUL88xw20
(;><)「これは一体?……何かの落書きなんです?」
('A`)「いいか、さっき言ったように偽りない目で見つめるんだ。
殺し屋のポケットから出てきた紙切れならば、まず何を疑うべきだ?
可能性が高いものから考えていくんだ」
(;><)「……殺す相手の居場所を教えるもの?」
('A`)「その通り。これは確実に『大嵐』に殺しを依頼した男が送ったものだ。
そして見た通り、こいつはサイファー」
(;><)「なんか落書きみたいにごちゃごちゃしてるんです……」
- 337 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 02:02:02 ID:gUL88xw20
('A`)「解読の知識を要求しないため、送る相手に一言教えれば、
誰にでも即座に理解できる古典的な暗号だ。暗号の初歩の初歩。
例えば、最初の数字の配列」
(;><)「え?え?」
('A`)「26以下の連続する数字の羅列は、高い確率でアルファベットを示している。
例えば、この数字の羅列を、Aを1、Bを2という風に、
一つずつ数字に対応させていくと……」
- 338 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 02:02:25 ID:gUL88xw20
ワカンナイデスは取り出した紙に、アルファベットを書き出し、
数字を対応させていく。
(><)「22=V 9=I 16=P 20=T 15=O 23=W 14=N
17=Q 21=U 1=A 12=L 9=I 20=T 25=Y 18=R 15=O 1=A 4=D
VIPTOWN QUALITY ROAD……。
『VIP市クオリティ通り』なんです!」
('A`)「その通り、あの家はその辺りにあるだろ」
- 339 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 02:03:02 ID:gUL88xw20
(><)「じゃ、その下のアルファベットは……?」
('A`)「まずv vっていうのは恐らくvice versa。『その逆に』の意だ。
つまり以下は、対応が逆になるってことだ。だからG D E Zは
アルファベットが数字を指し示す。ここは番地の数字だ」
(;><)「7 4 5 26???」
('A`)「Zはここでは、ZEROだよ。つまり74-50だ」
- 340 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 02:03:21 ID:gUL88xw20
(><)「なるほど!なんです!それじゃ、最後の文は……?
今夏なのに、余寒なんて言っちゃってて意味が分かんないです!」
('A`)「これが一番恐ろしいんだよ」
(><)「え?」
- 341 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 02:03:38 ID:gUL88xw20
('A`)「こいつはつまり、雇い主が大悪党モララーであることを意味する」
(;><)「どういうことなんです!」
('A`)「奴が秘密結社時代から使っていた一種の合言葉だ。
あいつが行動を起こし、それに犯罪が絡むとき、他の人間に理解できない、
かつ受け取るものが、モララーの意図だと確実に悟ることが出来るように使われる」
- 342 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 02:03:58 ID:gUL88xw20
(;><)「秘密結社……。モララー……。
じゃあモララーはしくじった『大嵐』を消すんです?」
('A`)「いや。あの男は、一瞥したところ冷酷無慙の犯罪者だが、
同時に恐ろしく誠実で寛大なところがある。だからそれは無いだろう。
しかし、そういった部分があの男の本当の恐ろしさなんだよ。
あいつの内に眠っているのは、凄まじく自己本位で利己的な動機なのに、
それを悟らせない知恵と才覚を持っている。
その才能を持ちあわせてこそ、奴は今の難攻不落の犯罪社会を形成しているんだ」
(;><)「ぶるぶる……」
- 343 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 02:04:17 ID:gUL88xw20
('A`)「『大嵐』は『やがて実現されるべき、偉大な理想』と言っていた。
今のあいつには、何らかの目的がある。
自らのプライドを捨ててまで逃走を選んだ目的が……・。
その正体は何だか分からないが、裏で糸を引くのはモララーだ。きっと」
(;><)「一体それは何だっていうんです……」
一通り説明を終えたドクオは、ソファに深く腰掛け、
ため息を吐き出しながら、空虚な目で天井を見つめる。
その表情がどうにもやりきれないもので、
ワカンナイデスはその様子をそっと見守っていた。
- 344 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 02:04:47 ID:gUL88xw20
('A`)「……俺は自信を失うよ、本当に」
(;><)「え?」
らしくない彼の鬱々とした発言に、ワカンナイデスは少しばかり動揺する。
('A`)「さっきまで他人に、『目の前の現実を裸の目で見つめろ』なんて説教しておきながら、
その教訓を実行出来ていなかったのは自分自身だった」
(;><)「……」
- 345 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 02:05:07 ID:gUL88xw20
('A`)「盲信する情報の通りに『大嵐』を相手する様は、舞台で踊らされる道化師より滑稽だった。
武器は拳銃一丁、それこそがあの男のこだわり。そんなことを
自分で確証したわけでもないのに信じ切っていた。それこそ歪んだ眼鏡で見つめていたよ。
情報なんて噂が作り上げた虚像でしかない。あの男の生き方は、あの男が決めるものだ」
('A`)「挙句の果てには、長い間、仕事を共にしてきた大切な仲間まで失うところだった」
(;><)「……結果オーライなんです!僕は生きてるし、殺人も食い止められたんです!
ドクオさんにそんなこと言われると、気持ち悪いんです!ははは……」
('A`)「……」
(;><)「……」
- 346 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 02:05:53 ID:gUL88xw20
嵐は依然としてやまない。
夜の闇の中、雨はアスファルトを水浸しにし、風は荒れ狂い木々を揺らす。
その様は、自責の念に捕らわれている今のドクオと非常に似通っていた。
ワカンナイデスは知っていた。
ドクオは名探偵などと呼ばれ、非の打ちどころのない完全無欠の人間だと思われているが、
実際のところ、抑鬱体質と言っても差支えないほど、定期的に塞ぎ込むのだ。
時には事件のことで、時には仲間や人間関係のことで、
時には本人しか知り得ない、精巧で繊細な内部世界のことで。
彼の人生はまるで、自責と禅問答の螺旋階段。
- 347 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 02:06:12 ID:gUL88xw20
しかし同時にワカンナイデスは理解していた。
その探偵としての苦悩が、再び立ち上がったドクオを強くする。
彼はその長い長い繰り返しの末に、今の名探偵と呼ばれる地位に至ったのだから。
嵐は永遠には続かない。
この漆黒の闇夜が明ければ、それは必ず過ぎ去っていく。
そしてその嵐が、雲を全て連れ去っていった次の日には、
淀みなく美しい晴天が顔を出すはずなのである。
- 348 名前:x ◆3C8zs.ICS6 投稿日:2011/07/28(木) 02:06:30 ID:gUL88xw20
FIN.
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