( ^ω^)は船に乗るようです

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 00:43:46.88 ID:toizhU7A0
Piece:A-1

ニダー・チョープェルィーは『ニューソク』の中でも指導者、ロマネスクに次ぐ地位を持つ幹部だった。

<ヽ`∀´>「ウリの耳がいかれてしまったのだと、そう思うニダ」

彼等が居るのは、『VIPヘヴンズヴェル号』の対極の位置にある『VIPファイナルディスティネーション』号。
テロリスト達が行動拠点として選んだのは、実質的な船長室がそこにあることと、体感アトラクションが多く小部屋が多いことが理由だった。
ニダーはそんな中、指導者の模倣なのか、部下達に背を向け、憂鬱そうに溜息をつく。

<ヽ`∀´>「イレギュラーは常に起こるもの、それは理解しているニダ。だが」

くるりと振り向いたその表情には、憤怒。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 00:44:30.42 ID:toizhU7A0
<ヽ`∀´>「制圧の為に『VIPヘヴンズヴェル号』に向わせた人員は、何名だったニダか? ビロード」

( ><)「三百五十名なんです」

答えるのは、一番前に立つのは戦闘部隊のリーダー、実質3の発言権を持つ男、ビロード・ワクァトゥネだった。

<ヽ`∀´>「そして、言われたとおり任務をこなし、帰ってきたのは何名ニダ?」

( ><)「二百九十六名なんです」

つまり、五十四人は任務に失敗したという事だ。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 00:45:57.41 ID:toizhU7A0

<ヽ`∀´>「では、戻ってこなかった者のうち、死亡が確認されたのは何名ニダ?」

( ><)「……十八名なんです」

十八名、これが異常な数字だと言うのは、すぐわかる。

彼等は適切な装備を適切に使いこなし、戦闘を行えるプロの集団なのだ。
ましてこの船を襲撃した人数は、総勢六百名を数える。
一般客が宿泊している『VIPヘヴンズヴェル号』からこの『VIPファイナルディスティネーション号』にくるには途中の『VIPキューブ号』『VIPSOW号』を経由せねばならない。
なので彼等を閉じ込めると言う意味もあって、『VIPヘヴンズヴェル号』と他の二船を繋ぐ通路に人員を配置し、封鎖して、中の人質達の抵抗の気力を奪う作戦を行った。
通信妨害装置も八台を使い、助けを呼べない状況も作り上げた。

中にいるのは有名人著名人もおり、当然護衛もついていたはずだが、それにしてもこれだけの人数が任務に失敗し、これだけの死者が出るはずはないのだ。
『何か』が起こっている、ニダーはそれを確信し、指示を出した。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/10/16(金) 00:47:11.59 ID:toizhU7A0

<ヽ`∀´>「ビロード、お前の直属部隊『電気鼠』を動かすニダ」

その一言に、一瞬ビロードの身体が硬直する。
だが、すぐに元に戻る、そこにあるのは、忠実な兵士の顔。

( ><)「……了解したんです」

ビロード・ワクァトゥネ直属部隊『電気鼠』。
それが動くのは、より多くの死者が出る、と言う意味だったが。

<ヽ`∀´>「偉大なる指導者の理想に為に」

『偉大なる指導者の理想の為に!』

それを気にする物は、彼等の中には誰も居ない。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 00:49:55.41 ID:toizhU7A0


( ^ω^)は船に乗るようです 第三話
 〜『戦闘開始、そして』



7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 00:51:09.62 ID:toizhU7A0
『VIPヘヴンズヴェル号 階層説明』

上から順番にこういう感じになってると思いねぇ。


5――――――????
4――――――????
3――――――客室(30××号室)・その他
2――――――客室(20××号室)・その他
1――――――連絡口、他船への移動通路、上陸用の橋収容空間等
B1――――――飲食フロア(『赤カブトステーキハウス』『新鮮サラダ館 〜曙』)等
B2――――――巨大スパ『アンダーグラウンド』、卓球・ビリヤード等の娯楽施設等
B3――――――貨物室等
B4――――――最下層

※各階層に移動用の階段がいくつか設けてあるが、貨物室へ向うには1Fから従業員通路を通らねばならない。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 00:53:19.60 ID:toizhU7A0
Piece:1-1

脱衣所で、浴場から上がってきた人達に何があったか説明するのに、しばらく時間がかかった。
先ほどの放送は嘘ではなく、本当にテロリストが乗り込んできた事。

半信半疑そうではあったが、床に散らばる銃弾やサブマシンガンを見れば信じざるをえないだろう。
むしろどうやってその危機を突破したかの方に興味をもたれたが、それに関してツンは苦笑いせざるをえなかった。

「この小さな女の子はその身体に武器を満載に搭載したサイボーグなんです」

なんていえるわけが無い。
とりあえず客室に戻るのは危険だと判断し、服を着て脱衣所で様子を見るか、まだ湯に使ってもらうかは自己判断という事になった。

ξ゚听)ξ「ん……でも私達はどうする?」

ノパ听)「クーねーちゃんと合流した方がいい気がすんなー、ブーンにーちゃんの事心配だろ?」

ξ゚听)ξ「べ、別に心配なんか……」

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 00:54:28.18 ID:toizhU7A0
ノパ听)「心配だろ?」

ずいっ

ξ゚听)ξ「だ、だから別に……」

ノパ听)「心配だろ?」

ずいずいっ

ξ゚听)ξ「わ、私はアイツのことなんか……」

ノパ听)「心配だろ?」

ずいずいずいっ

ξ///)ξ「…………うん」

ノパ听)「よし、んじゃいこう!」

押し切られてしまった。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/10/16(金) 00:56:16.58 ID:toizhU7A0
張り切って腕をぶんぶん回すヒート。
その肩に手を置いて、ツンは言った。

ξ゚听)ξ「でもその前に」

ノパ听)「前に?」

ξ゚听)ξ「着替えましょう」

銃弾でぼろぼろになったヒートのパジャマは、色々と危険だった。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 00:57:42.22 ID:toizhU7A0
武器類を使えないかとヒートがチェックしたが、どうやら磁性を帯びてしまったらしく銃器類は無理らしい。
なので壁となるヒートが前に出て、ツンがそれを追いかける形で進む。
とりあえず連絡を取ろうと携帯電話を探したが、部屋に置いてきてしまったようで、手元にはなかった。

ξ゚听)ξ「……大丈夫かしら」

ノパ听)「クーねーちゃんもいるし平気じゃねーかなぁ」

特に危機感なさげに言うヒート。

ξ゚听)ξ(……うーん)

ツンはその後姿を見ながら、先ほど見た光景を胸の中で噛み砕く。
有線ロケットパンチに火炎放射器。
周囲の金属を強引にひきつけられるほどの磁場の形成。
人間には到底出来ない芸当を見て、実際人間でないところを確認しても、ツンはヒートをそこまで恐ろしいとは思わなかった。

ノパ听)「ま、大船に乗ったつもりでいてくれ!」

ξ゚听)ξ「その大船が今まさしく乗っ取られてるんだけどね……」

それもまた洒落にならない気がして、ツンは溜息をついた。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 00:58:55.15 ID:toizhU7A0
ノパ听)「ところでさ」

黙っているのも退屈だからなのか、ヒートが唐突に声を上げた。
うるさくするのはどうだろうか、とも思ったが、何しろ目の前の女の子は埒外に強い。
ツンはまあいいか、と思って聞き返した。

ξ゚听)ξ「ん?」

ノパ听)「ツンねーちゃんとブーンにーちゃんってやっぱ付き合ってんの?」

ξ゚听)ξ「ぶほっ!」

唾液が気管にはいって、むせた。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:00:11.30 ID:toizhU7A0
ノパ听)「? どったの?」

ξ゚听)ξ「な、何をいきなり……」

ノパ听)「だーってさ、高校生の男女二人が泊りがけで旅行なんだぜ?」

ξ゚听)ξ「そ、そういうんじゃなくて……いく相手が居なかっただけっていうか……」

ノパ听)「え、俺とクーねーちゃんはツンねーちゃん達が付き合ってるもんだと思ってたのに」

平然と、客観的にその事実を考えると顔が赤くなってしまうのを押さえられない。
ツンは照れを誤魔化すように、脊髄反射で叫んでいた。

ξ ///)ξ「だからアイツとはタダの幼馴染なんだってばー!」

きゃいきゃいと姦しく歩く二人の周囲に、幸いテロリストは居なかった。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/10/16(金) 01:01:42.44 ID:toizhU7A0
それから一分程度歩き、曲がればすぐそこには客室へ続く、上階層へと向う階段がある突き当たりへと到着した。
だが、そこに踏み込む前に、、ヒートは足を止めた。

ノパ听)「誰か居る」

小声で、後ろで釣られて動きを止めたツンに言う。

ξ゚听)ξ「え……誰?」

ノパ听)「わかんない、でも一人だ」

ξ゚听)ξ「……何でわかるの?」

ノパ听)「熱源センサー」

ξ゚听)ξ「便利ねそれ」

ヒートは手で『そこで待ってろ』と制し、拳を構えてじり、と近寄る。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:03:53.09 ID:toizhU7A0
パ听)(距離20、熱源1、武装不明)

彼女の脳にインプットされている計算ソフトが、さまざまな環境データを元に現状に対する最善の策をはじき出そうとしていた。

ノパ听)(熱源がテロリストである可能性、48%……無視できる確率じゃない)

それでも彼女が48%と言う可能性をたたき出したのは、熱源が一つだった為だ。
テロリスト達、いや、多少なりとも訓練を受けていて、この規模で襲ってきているなら、必ずと言っていいほど集団で行動を行うはずだ。
最低でも二人程度のチームを組んでいると見ていい。ならば、個人で動いている人間はテロリストの一味では無い可能性が高い。

ノパ听)(だが一方で……)

この状況の中、歩き回る一般人というのも、おかしい存在だ。
相手もまたこちらに気がついてはいる事は、ヒートが動きを止めた時、熱源も止まった事で察する事ができた。
だが、出てこない。
理由あって単独行動している敵だとも限らない、故に彼女が出した結論は。

ノパ听)(死なない程度に……先制攻撃!)

そう判断し、踵のブースターを点火した。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:05:12.71 ID:toizhU7A0
ξ゚听)ξ「ってちょ!?」

キィィィィン、と高い音が鳴り響く。

ノパ听)「よし、行くぜえええ!」

ξ゚听)ξ「駄目! やめなさい!」

慌てて真横に飛びのいた、ツンの静止は既に遅い。
次の瞬間、爆音と爆風に身体を叩かれ、同時にヒートの身体がものっそい速度で突っ込んだ。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:06:23.14 ID:toizhU7A0
Piece:1-2

/ ,' 3「…………」

自室から、とりあえず自分の荷物がある貨物室を目指す事にしたアラマキは下へ下へと向う最中であった。

「」  「」「」「」   「」 「」 「」

何人もの武装したテロリストの背後を、まるで空気の様にすり抜けていく。
途中、いくつかの死体を見て、思わず頭に血が上りかけたが、それをすれば自分の正体は露見するだろう、じっと息を潜めた。

/ ,' 3「……爆弾かい」

2001号室を通り過ぎて、階段を下ろうとした先に、細いワイヤーがはってあった。
接触した瞬間、侵入者を速やかに排除する爆弾だ。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:07:05.63 ID:toizhU7A0
/ ,' 3「通ろうとすれば爆破……か、ふうむ、この仕組みなら……、周囲を破壊せずに人間だけを吹き飛ばせるのう」

それを冷静に検分しながら、ゆっくりと解体を始める。
ものの数分でトラップは無力化され、物騒じゃ物騒じゃ、と呟かれる声と共に、残骸は隅にのけられた。

人々の感情がぐるぐると渦巻き、悲鳴と恐怖が支配する空間は、アラマキにとって実に都合のいい物だった。
彼の気配を断つ技術と、気取られずに移動する技術は他に混沌の要素があればあるほど良く通用する。
実際、銃を持ち、あたりを警戒するテロリストの真後ろを通っても、気がつかれない程だ。
流石に正面に出るわけには行かないが、目立つ様相にもかかわらずその技術は、驚異的の一言に尽きる。
否、その隠密術こそが彼を怪盗として確立している物の一つなのだ。

こつこつと刻まれる足音は、環境音と同化していて気取られない。

「…………!」

/ ,' 3「……」

階段を下りる最中にいた見張りは、丁寧に無力化していく。
相手がテロリストは基本的に二人一組で行動しているようだったが、スペースの都合から階段の踊り場には一人ずつの配置らしい。
その程度ならば、気取られずに眠らせていくのはたやすい事だった。

三階層ほど降りて、合計五人のテロリストの意識と装備を破壊して、彼はそこに降りた。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:08:58.07 ID:toizhU7A0

階段の続きは無いが、まだこの船には下がある。
このフロアにさらに下る階段があるのだろうと判断し、アラマキは歩みを進めようとして。

「――とは――――じみ――!」

/ ,' 3(…………誰じゃ?)

足を止めた。
若い娘の声、だった気がする。
曖昧なのは、こちらが認識した瞬間、相手もまた行動を止めたからだ。

/ ,' 3(まさかワシの存在を気取られている……いや、そんな訳がない)

自分の隠密術に絶対の自信を持っていた彼は、その可能性を否定しようとした。
だが、背中にちりちりとしたものを感じる。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:11:59.48 ID:toizhU7A0
「ってちょ!?」

今度ははっきりと聞こえた、年頃の少女の声。
同時に、キィィィィン、と高い音が鳴り響く。

/ ,' 3(なんじゃこの音……)

記憶の中に該当する音は存在する、している事はしているが。

/ ,' 3(ジェットエンジン? んなわけが――!)

「よし、行くぜえええ!」

「駄目! やめなさい!」

次の瞬間、アラマキは爆音に鼓膜を叩かれた。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:13:06.32 ID:toizhU7A0
/ ,' 3「うおおおお!?」

階段の向こうから音速に近い速度で突入してくる少女の姿
百戦錬磨の怪盗といえど、驚かない方が無理だった。
突っ込んできながらも、少女は口を開いてこちらに言葉を向けてきた。

ノパ听)「お前誰だああああぁぁぁぁああああああ!」

思わず「お前が誰だ!」と問い返そうとしたが。

ノパ听)「――――ぁぁぁぁあああああああああ!?」

しかしそのまま階段に向って突っ込んで行ってしまった。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:13:49.55 ID:toizhU7A0
Piece:1-3

当然の事ながら、その膨大な運動エネルギーを停止させるには同等のエネルギーが必要である。
出力は十分だったが、ヒートは肝心のブレーキに必要な距離は算出しなかったようだ。

ξ゚听)ξ「きゃああああああああああああ!」

単に階段が崩壊しただけでは終わらず、四隻の船を繋げたこの巨大な『VIP号』自体が大きく揺れる程の振動。
揺れは数秒間続き、やがて収まった。

ξ゚听)ξ「ロ、ロ」

頭を抱えて絶叫するツン。


ξ゚听)ξ「ロケット見た時点で絶対こうなると思ったのにー!?」


ノパ听)「いってぇええええ!」

その声に反応するかの様に、もはや瓦礫と化した階段の中から起き上がり、雄たけびを上げる少女。

ノパ听)「畜生、高度なトラップにひかかっちまった!」

どうやら傷一つ無いようだった。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:15:24.91 ID:toizhU7A0
/ ,' 3「……何なんじゃお前等」

耳を押さえながら、アラマキはなんとかそれを口に出した。
ツンが慌てて駆け寄ると、そこに居たのは紳士風の男である。
わーん、と声を上げて、ぺこぺこと頭を下げる以外する行為はなかった。

ξ゚听)ξ「えーっと、その、迷惑かけてごめんなさい! お怪我はありませんか!」

/ ,' 3「いやむしろそっちのお嬢ちゃんが大丈夫かと……」

ノパ听)「全然平気ー!」

だが服は再度ぼろぼろである。

ξ゚听)ξ「テンションあげてないで、ヒートちゃんも謝るの!」

ノパ听)「ごめんじいちゃん! てっきりテロリストの一味かと思った!」

/ ,' 3「いや、ワシもそう思っとったから警戒してたんじゃが……なぁ」

未だ先ほどの光景を理解出来ないのか、あるいは脳が理解を拒んだのか、うーんと唸る。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:18:24.64 ID:toizhU7A0
/ ,' 3(飛ん……でおったよなぁ……)

バネを使った跳躍か、それにしたってそんなもんどこにあるのか。
そもそも足からは赤い尾を引いていた気がする、など平静を装いつつもぐるぐると思考を回していた。

ξ゚听)ξ「えーっと……あの」

/ ,' 3「お、おお! すまんすまん、ちっと考え事を」

ξ゚听)ξ「いえ、気持ちはわかるしなんかもう気にしない方がいいと思います」

/ ,' 3「苦労しとるんじゃのう……」

ノパ听)「参ったな……俺の正義のオーラにじーちゃんメロメロって感じ?」

/ ,' 3「ポーズをキメながら拳をこっち向けるのやめてほしいんだけどのぅ」

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:19:52.30 ID:toizhU7A0
ぱんぱんと埃(とボロキレになったパジャマ)を掃いながら、ヒートは言った。

ノパ听)「んでやけに格好いい服装のじーちゃん、何やってんだこんな所で」

/ ,' 3「どっちかというとこっちの台詞なんじゃが何やってんじゃお嬢ちゃん」

ノパ听)「質問に質問で返すなああああああああああああ!」

/ ,' 3「ちょ、すまん! 悪かったからそこは押すな! で、出る!」

ノパ听)「何が!」

/ ,' 3「内臓じゃああああああ!」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:21:04.98 ID:toizhU7A0

ξ゚听)ξ「ヒートちゃん、いい? 落ち着いて」

ノパ听)「はっ、俺としたことがつい感情的に」

とりあえず(いろんな意味で危険ではあるが)テロリストではない、ということは確かのようだ。
アラマキはそう判断して、一礼した。

/ ,' 3「ワシは一人でこの船に乗ったんじゃがのう……銃を持った連中に襲われてここまで逃げて来たんじゃが」

多少無理があるかもしれないが、紳士的な様相ではあるし、ツンは信じたようでうんうんと頷いた。

ξ゚听)ξ「災難でしたね……」

ノパ听)「俺達は上に行ってねーちゃん達と合流するんだー」

ξ゚听)ξ「どうやって?」

ツンの視線の先。
瓦礫が散らばる元階段は、ツンの二倍ぐらいの高さがあった。
ジャンプして手を頑張って伸ばしても、少なくともツンは上りきれないだろう。
何かを踏み台にするにしても、瓦礫の破片は不安定すぎる。


34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:22:25.27 ID:toizhU7A0
ノパ听)「大丈夫、俺が担いで上ってやるよ! 早くブーンにーちゃんに会いたいだろ!」

/ ,' 3「…………」

ヒートの言葉を聞いて、アラマキは口を噤んだ。
客室のある階層は、死体と悲鳴の阿鼻叫喚だった。
その中に彼らの身内が居ない保証はない、むしろ、いて当然だろう。
物理的に問題がある感じの少女ではあるが、アラマキはそれをあっさり告げてやれる人間ではなかった。

/ ,' 3「あ、あー、この上じゃがの、登っても無駄じゃと思うぞ」

ノパ听)「……は? 何でだよ」

む、とするその顔に、勤めて冷静に返す。

/ ,' 3「ワシが降りてくる最中シャッターがガンガン下りてきたからのう、戻るのは無理じゃろう」

ノパ听)「ぶち壊していけばいいじゃん」

当然の様に言うヒートだが、アラマキは首を振り。

/ ,' 3「それやったらテロリストが大挙してくるぞい」

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:24:30.51 ID:toizhU7A0

ノパ听)「だったらぶち倒していく!」

ξ゚听)ξ「や、それはちょっと……」

確かにできそうだけど、という言葉を飲み込み、アラマキが続ける。

/ ,' 3「それで相手が自棄になって自爆でもしたらどうするんじゃ? 船は沈むぞ」

ノパ听)「う……」

ヒートがどれだけ人間の枠組みから外れている性能を持っているとはいえ、限度がある。
背にツンが居る程度なら問題なく守れるが、船に乗っている全員は無理だ。

/ ,' 3「無難に、おとなしくしとる事、じゃな」

テロリスト達の目的は不明だが、人質は必要なはずだ、そうでなければ最初から半分などと言わずに全員殺していることだろう。

ノパ听)「う、うーん……」

ξ゚听)ξ「おじいさんのいう事も一理あるし……うん、そうね、安全な場所でおとなしくしてた方がいいかも」

/ ,' 3「それに、さっきの轟音じゃ。すぐに誰かが来るじゃろう、あんまりうかうかしてられんぞい」

ヒートと比較して遥かに常識人であるツンは、年上であるアラマキにそう言われ焦った顔をした。

/ ,' 3「じゃあワシはこれで」

二人の少女を脇に先に進もうとして。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:27:10.98 ID:toizhU7A0
ノパ听)「えい」

腕を掴まれた。

/ ,' 3「……なにすんじゃい」

ノパ听)「何いってんんだじーちゃん!」

割と全力でその手を振りほどこうとするが、ヒートの腕もまたぴくりとも動かない。

ノパ听)「じーちゃんだって危ないんだから、一緒にここを離れておとなしくしてよう!」

/ ,' 3「…………はっ!」

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:28:12.11 ID:toizhU7A0
Piece:0-1

( ´_ゝ`)「はぁ、はぁ……」

(´<_` )「危ないところだったな……」

ぜぇぜぇと息を荒げているのは、スーツ姿の二人の男だった。
顔は似ているが、ショボンとシャキンの様に完全に同じ造形をしていると言うわけではない。
誰が見ても兄弟である事はわかるが、少なくとも一卵性の双子ではないようだ。

( ´_ゝ`)「なんだったんだあいつらは……」

(´<_` )「テロリストだろう……」

テロリスト襲撃時に彼らが居た、パスタハウス『ミッシェル』は、客足が非常に少なかった。
一般客は彼らを含めて三人だったし、ウェイトレスも一人だけだ。

彼らは、職場では流石兄弟と呼ばれている。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:29:16.85 ID:toizhU7A0
放送があった直後、兄者、顔が右を向いてる方は多少首を傾げたが、特に細かい事は気にせずトイレへ行っていた。
弟者、左を向いている方はその隙にと言わんばかりに、机の下に隠れ兄の皿に乗っていた明太子パスタを貪っていた。
もう一人の客は机に突っ伏してぐうすかと寝ており、そもそも放送に気がついていなかった。
そんな状態なので店員は厨房の奥へ引っ込んで適当にサボっており、放送を聴いたのも厨房での事だろう。

そのタイミングで、一番あっけに取られたのはテロリストだ。
銃を持った三人組がざ、とパスタハウス『ミッシェル』に入った時点で、その場に居るのは寝ているおっさん一人だけ。
そして『一人の場合は殺さない』という条件があった為に、彼らは即座に撤退していった。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:31:06.99 ID:toizhU7A0
トイレに入るのが後数秒遅れていたら、兄者が撃たれていてもおかしくなかったし、弟者が机の下に居なければやはり撃たれていただろう。
要するに、非常に運がよかったのだ。
調理施設などに襲撃を行ったテロリスト達は、細かい部分を見て回らず、大雑把にその場に居る人間だけを攻撃していた事も幸いした。

ただし、銃を持った男達を、直接目視した弟者は、さすがに硬直していた。
パスタの皿を取り落とさなかったのは、幸運と言うほかないだろう。

( ´_ゝ`)「とりあえず姐さんと合流するか」

(´<_` )「ああ、それがいい」

彼らが姐さんと仰ぐ女性は、確か肉を食いたいとの事で、同じフロアにある『赤カブトステーキハウス』に行ったはずだった。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:31:52.60 ID:toizhU7A0
( ´_ゝ`)「一応携帯で……む」

(´<_` )「どうした兄者」

( ´_ゝ`)「携帯が使えん」

(´<_` )「何?」

弟者が自分の携帯電話を確認すると、確かにそこには圏外の表示があった。

( ´_ゝ`)「電波妨害がかかってるか……ちぃ」

(´<_` )「どうする? 連絡が取れない以上は……」

( ´_ゝ`)「……危険だな」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:32:35.43 ID:toizhU7A0
彼女の方向音痴具合ときたら、それはもう沖縄に行こうとして実際に北海道についたことがあるぐらい致命的な物だ。
ぶっちゃけ、彼らは無事に『赤カブトステーキハウス』についているとはまったくもって思って居なかった。

( ´_ゝ`)「この場合、姐さんならどうするか」

(´<_` )「恐らくテロリストと一悶着起こして、華麗にぶっ倒すだろう」

( ´_ゝ`)「そして、部屋に戻って、とりあえず装備を整えてから敵陣に殴りこみにいくだろうな」

(´<_` )「つまり」

( ´_ゝ`)「姐さんは」


( ´_ゝ`)『下にいる』(´<_` )


上に向おうとしたらそうなるはずだ、と判断し。

( ´_ゝ`)「ここで待とうか」

(´<_` )「ああ、姐さんが暴れ始めたら俺らも気がつくだろうしな」

店内に引きこもる道を選び、とりあえず何事かと出てきたウェイトレスに追加のパスタを注文した。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:34:14.11 ID:toizhU7A0
Piece:2-1

( ^ω^)「何がどうなってんだお……」

川 ゚ -゚)「うーむ……」

警戒しながら階段へと向い、ブーンとクーが見たのは倒れているテロリストだった。
装備はご丁寧に無力化され、サブマシンガン等は組み立て不可能なほどにバラバラにされている。

クーが前衛、ブーンが後衛という配置で進んでいた。
三階分、階段を下ることになる為、最低それぐらいは戦闘になるだろう、とクーは予測したのだが。

川 ゚ -゚)「誰がやったんだ、これを……」

実際、テロリストの意識が残ってたらそうなっていただろう。
しかし、まるで二人の行く為の道を作っているの様に、階段の踊り場毎に同じような光景があった。

( ^ω^)「プロの暗殺者がたまたま船に乗り込んでたりして……」

川 ゚ -゚)「その割には、死んでないな」

何か使える物はないか、とごそごそ気絶している男達の身体をまさぐりながら、クーが言う。
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:38:29.21 ID:toizhU7A0


川 ゚ -゚)「無線も……駄目か、コードが切られている」

( ^ω^)「なんか執拗だお」

床に転がっている人間を見れば、最初こそ警戒したものの、それが何度か繰り返されると、段々心に余裕も出てくる。
完全に尖っていた神経も、気がつけばどこかほぐれていた。

川 ゚ -゚)「ブーン」

( ^ω^)「お?」

ブーンの内心を見抜いたのか、クーは目も向けずに言う。

川 ゚ -゚)「油断だけはするな、先ほどの爆音も気になる」

二人が部屋を出て早々、船がぐらりと傾くぐらいの衝撃が、轟音と共に船を襲った。
それが余計、彼らに警戒を抱かせる一因となっていたのだが、人間の心は平静を求めたがる。
どれだけの緊張状態にあっても、安心できる要素がいくつか出てくると、とたんに緩んでしまうのだ。
クーはそれを注意しているのだろう。

川 ゚ -゚)「私はヒートとは違う、死なないが、死なないだけだ」

( ^ω^)「……すまんお」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:37:28.58 ID:toizhU7A0
手に持つサブマシンガンの重みも、改めて意識すればそれは「ずっしり」と来た。

川 ゚ -゚)「わかってくれたならいい」

そう言って、再び歩き出す。
足音を立てないよう、慎重に、手すりを掴んでゆっくりと。

( ^ω^)「…………」

……ただの人間。
これほど自分の出自を呪った事は無い。
中学生だった頃、実は光の勇者で異世界から来た(ry)だったりしたら、この場面でどれほど役に立つだろう。
いや、そんなものでなくていい、幼い頃から裏の世界で育ってきたプロだとか、実は伝説の剣豪の子孫で隠された才能があるとか。
化物だらけのこの船の中、ブーンはそんな想像をした。

その時、耳につけていた無線からざざ、と音がした。


46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:39:30.58 ID:toizhU7A0
『――ちらショボン、聞こえるか、ブーン!』

( ^ω^)「何!? どうしたんだお!」

聞こえてくるのは、焦りきったショボンの声だった。

『逃がした、いや、シャキンがやられた……!』

荒い息遣いと、苦しそうなうめき声。
何も起こってないと解釈する方が、無理がある。

( ^ω^)「ショボン! 何が――」

『だから、吸血鬼を――』


『吸血鬼を逃がしてしまった!』


47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:40:53.94 ID:toizhU7A0
川 ゚ -゚)「――ブーン!」

( ^ω^)

( ^ω^ )

自分より下の位置にいるクーの声で、ブーンはそこにいる存在に気がついた。

('A`)「――――――」

濃い霧が真横にあり、それが何なのか認識する前に、ブーンの目の前で霧は男の姿をとった。
それが何なのか、言うまでもない。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:42:41.68 ID:toizhU7A0
( ^ω^)「――――きゅ、うけつ、き……!?」

クーが階段を駆け上がろうとしているが、その前に、

('A`)「……男か、だが……」

ず、と暗い音を纏って、五指を伸ばしてくる。

('A`)「栄養補給には十分か……」

色素の薄い指が、眼前に迫る。
触れた瞬間、それが死を意味するものだと、ブーンも理解できた。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:43:55.12 ID:toizhU7A0
( ゚ω゚)「う、わあああああああああああああああ!」

撃った。
何も考えずに撃った。
目の前の異形に向けて、サブマシンガンの引き金を引いた。

ぱらららららららららら、と音が響いて、しかし吸血鬼の身体は霧散するだけだ。

('A`)「…………」

霧に銃弾が通用するわけが無い。
これが化物。これが吸血鬼。
テロリストなんて目じゃない、現実を超えた幻想の恐怖。

その指がブーンの喉に触れ、思わずぎゅっと目を閉じる。
次の瞬間、即座に血を吸い尽くされ、枯れたミイラとなるだろう。

('A`)「……!?」

だが、その時は来なかった。
代わりに、すさまじい光量が、その空間を覆いつくした。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:45:50.92 ID:toizhU7A0
川 ゚ -゚)「ぐあっ!」

目を閉じていたブーンですら、網膜が焼けたかと思うほどの、強い光。
恐らくそれを直接見たのであろう、クーの短い悲鳴と、ごろごろと階段から転げ落ちる音が聞こえた。

身体がずさ、としりもちをつく。
力が入らない状態で、ブーンはゆっくりと目を開けた。

「……まったく」

そこに居たのは、見覚えのない男だった。

( ・∀・)「大丈夫かね、君達」

白衣を着た男だ。
右手には黒いトランク、左手には二世代前のデスクトップPCのような形状のライトを持っている。
明りはついていないが、それで照らしたのだろう、ぐらいの察しはつく。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:46:59.40 ID:toizhU7A0
( ・∀・)「命と視力、どっちが大事かと聞かれたら……まぁ命だろう」

倒れこんで、目元を押さえているクー。
実際に網膜をやられたのかもしれない。

( ・∀・)「吸血鬼は……今の光量ならそうだな、結構な距離まで吹っ飛んだか。太陽光でないと滅びんと言うのは厄介だな」

事情を把握している。
何者だ、という疑問は、既にブーンの口から漏れていた。

( ^ω^)「あ、貴方は……」

( ・∀・)「俺か? 俺は……」

がたん、とライトを置いて、無表情に手を差し出してきた。

( ・∀・)「医者だ」

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:48:15.48 ID:toizhU7A0
Piece:2-2

/ ,' 3「わ、ワシには行かねばならんところがあるんじゃあ!」

ノパ听)「なーんでーだーよー! あーぶーなーいーだーろー!」

ξ゚听)ξ「さーわーがーなーいーのー!」

うるさい。
テロリストでなくても何があったのかと見に来るレベルの騒音っぷりだ。

幸い人気が無いのは、アラマキがそういうルートを選んでいるおかげだろう。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:49:15.11 ID:toizhU7A0
ノパ听)「大体何処に行くんだよ! 上には戻れないんだろ!」

ξ゚听)ξ「そうですよ、ご自分で言ったんじゃないですか」

/ ,' 3「……あー、そのじゃな」

ぽりぽりと頬を掻いて、特に小さな娘っ子に目を向ける。

/ ,' 3(こいつがついてきたら棺桶を破壊されかねない……!)

それが今のアラマキの最大の不安だった。
テロリスト達の目的が、吸血鬼の柩である可能性は十二分にある。
何せ本物なのだから。

そしてそれを奪取されるのは怪盗である、盗み出した本人であるアラマキにとって耐え難い屈辱なのだ。


57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:50:32.20 ID:toizhU7A0
/ ,' 3「貨物室に、ちょっとな……」

用事がね、あるの、と可愛く言って見る。
ちらりと視線を送るとツンはドン引きしておりヒートは面白そうな目で見ていた。

ノパ听)「かもつしつ? 何それ新しい食べ物?」

ξ゚听)ξ「いや、荷物を運んでるお部屋の事だけど……この船そんなのあるんですか?」

/ ,' 3「この規模で貨物室がないわけ無かろう。そもそもこの船の建造目的が体のいい密輸じゃからのう」

ξ゚听)ξ「……へ?」

/ ,' 3「あ」

口を滑らせちゃった。と言うアラマキの顔。
唐突に告げられた事実に呆然としているツンの顔。
密輸ってなんか甘そうだなぁという感じのヒートの顔。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:51:31.42 ID:toizhU7A0
ξ゚听)ξ「え、え、そ、そうなんですか!?」

/ ,' 3「違う違う違うほんの冗談、お茶目な老人の小粋なジョークじゃ☆」

ξ゚听)ξ「誤魔化せると思うなよジジイ!」

/ ,' 3「ひいいいい! 待て! シルクハットは取らないで! 見えちゃう! ワシの頂点見えちゃう!」

ノパ听)「なんだよ、ハゲなの気にしてたのかよ」

/ ,' 3「見えとるの!?」

前代未聞の怪盗、アラマキの秘密が今明らかに。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:52:46.94 ID:toizhU7A0
/ ,' 3「ま、まぁそれは置いといてだな!」

ごほんと咳払いをし、仕切りなおす。

/ ,' 3「貨物室にな、あるんじゃよ……」

ノパ听)「何が? ヅラ?」

/ ,' 3「そっから離れとくれ」

シルクハットを一層深く被り。

/ ,' 3「……死んだ妻のな、形見があるんじゃ」

大嘘をぶっこいた。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:54:58.07 ID:toizhU7A0
/ ,' 3「船に乗る際、『それは船内に持ち込めません』といわれてのう……、到着したら渡してくれるというんで船員に預けたんじゃが……」

ξ゚听)ξ「……」

/ ,' 3「今こんな状況じゃ、テロリスト共が貨物室で暴れてるとも限らん、老い先短い身じゃ……どうか、どうかワシを行かせておくれ」

ノパ听)「……」

/ ,' 3「アレがないとどっちにしろワシは生きて行けん……」

瞳に静かな涙を携え、アラマキは背を向ける。


/ ,' 3「じゃが君達はまだ若い、どうノパ听)「感動したあああああああああああああああああああ!」


/ ,' 3「声でけえええええええええええしかもまだ最中!」

ノパ听)「何だ、そういう事なら速く言えよ!」

破顔一笑。

ノパ听)「俺が手伝ってやるからさ!」

/ ,' 3「ぜってぇぇええ言うとおもったんじゃあそれえええええええ」

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:55:41.27 ID:toizhU7A0
/ ,' 3「だって危ないよ? テロリストいるかもしれないよ? マジ怖いよ?」

ノパ听)「なーに俺がいれば大丈夫大丈夫」

ξ゚听)ξ「私はできればお爺さんも一緒にどこかに隠れてた方がいいと思うんだけど……」

唯一、ただの一般人であるツンの、心からの素直な意見であったが、それが聞き入れられる気配は皆無だった。

/ ,' 3「……はぁぁぁ」

どうしたものか、と頭を抱えながら、男湯の暖簾を通り過ぎて到着したのは、ヒートが破壊した階段から等間隔に置かれていた階段の一つ。
やはり下る階段はなく、どうやら貨物室へは普通に階段を下るだけではたどり着けないようだった。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:57:22.52 ID:toizhU7A0
/ ,' 3「……一旦、上まで送ろう」

ξ゚听)ξ「え?」

/ ,' 3「お主等、はっきり言って迷惑じゃ」

きっぱりと言い切るアラマキ。

/ ,' 3「ワシは単独で行動したい、お主等と一緒にいると迷惑しかかからんわい」

ξ゚听)ξ「……ごめんなさい」

実際に迷惑をかけている(のは八割がたヒートだが)ツンは、申し訳なさそうに頭を下げた。

/ ,' 3「いや、非常事態だし気持ちはわからんでもないがの……」

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:58:19.98 ID:toizhU7A0
ノパ听)「むきー! 馬鹿にすんなってー!」

納得行かない様子のヒートが地団駄を踏むと、アラマキは静かな声で言う。

/ ,' 3「ワシは大人で、お主等は子供じゃ」

ノパ听)「大人は偉いのかよー!」

/ ,' 3「偉い」

当然の様に告げられる言葉。

/ ,' 3「そして偉いという事は責任が伴うという事じゃ。お主等に何かあった時、責任はワシが負う事になる」

ノパ听)「う……」

言われている意味はなんとなくわかるのだろう、ヒートは口を噤んだ。

/ ,' 3「お主等が死んで悲しむ人間もいるじゃろう、言い方は悪いが……ワシはその責任を取りたくはないわい」

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 01:59:04.61 ID:toizhU7A0
ノパ听)「……うー」

ヒートはちらりとツンを見た。
自分ひとりなら大丈夫だと言う自信はあるのだろう。
ツンを守る自信もあるのだろう。
だが万が一の事態が無いとは言い切れない。

/ ,' 3「わかっとくれ。とりあえず上に行こう。人が多いところにいれば少しは安全じゃろうて」

ξ゚听)ξ「……はい」

ノパ听)「……うー」

階段を上りだすアラマキと、ついていく二人。
そして上りきった時

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 02:01:09.17 ID:toizhU7A0
Piece:2-3

(´・ω・`)「見つけたぞ、ドクオ」

邂逅は一瞬だった。
戦闘開始は即座だった。
ドクオのいる2015号室に踏み込んだ瞬間、シャキンは即座に手元の杭を金槌で殴りつけ、ドクオへと飛ばしていた。

('A`)「…………」

だが、ドクオもまた荒事に慣れている吸血鬼だ。
即座に身体を反転させ、それを回避する。

壁を穿った音が響いた。

('A`)「……なんだ、お前等もいたのか」

(´・ω・`)「よく言う、気がついていた癖に」

二人が持つ杭は純銀製だ、その鈍い輝きは吸血鬼が霧になっても逃さない。
そう、相手がどんな人間の攻撃でも身体を霧と化し、絶対の防御を誇る吸血鬼でも例外はある。
銀の武器はたとえ霧の身でも、貫き抉る事ができるのだ。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 02:03:09.46 ID:toizhU7A0
ドクオは四角形の部屋の中にいて、入り口には攻撃者が立っている。
防御手段が意味を成さず、外にも逃げることのできない。
まさに、吸血鬼殺しの檻。

(`・ω・´)「長かったぜ……ドクオォ!」

シャキンが金槌と、新たな杭を取り出して飛び掛る。
最前線に立つのはシャキン、その後方から攻撃を加えるのはショボン。
この単純な役割は、この状況で実に効果的に役割を果たした。

('A`)「……」

なにせ船室は狭い、入り口を押さえられ、近接戦闘を挑まれれば回避の範囲はおのずと限られる。

(`・ω・´)「追い詰めたぜ……オラァ!」

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 02:03:59.23 ID:toizhU7A0

ドクオも隅には行かぬよう丁寧に立ち回るが、徐々に身体を掠め始める杭にダメージを負って行く。
一撃必殺、相手に触れれば吸血を行えるが、その行為中は身体を動かす事ができない。
その間にショボンに心臓を射抜かれたらおしまいだ、故にドクオは正面から攻撃することもできなかった。

吸血鬼狩りの圧倒的な優勢。

(´・ω・`)「攻勢にでて正解だったみたいだね、今日がお前の命日だ」

ショボンの放つ杭は止まらない。
太いそれが壁に穴を開け、コンクリートを散らし、激しい音を立てる。
その様子を横目で眺めて、ドクオは口を開いた。

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 02:04:58.23 ID:toizhU7A0
('A`)「……貴様等」

あくまで冷静、淡々とした口調で、血液の通っていない唇が言葉を紡ぐ。

(`・ω・´)「何だ!」

('A`)「何故俺を狙う?」

(´・ω・`)「……どういう意味だい?」

('A`)「そのままの意味だ、お前等が吸血鬼狩りに身をやつしている理由は知らんが」

シャキンの攻撃をあしらいながら続ける。

('A`)「俺はお前等個人に何かをした記憶は一度たりともない」

ぴた、とシャキンとショボンの動きが止まった。
表情が一瞬でなくなり、戦闘意欲に満ちていた瞳から何かが消えた。
その隙を見逃すドクオではない、否。


('A`)「まして俺がお前達の妹の血を吸った事などと言う些細な理由で追いかけてきている訳ではあるまい?」


74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 02:05:43.16 ID:toizhU7A0
それは完全なる挑発。
彼らの連携を一瞬でも断ち切る為、動揺を誘う為の一言。
ドクオ抜き手による一撃は間違いなく、シャキンの胸元めがけて放たれた。
鋭く尖った爪を持つ、青白い腕を尖らせて。

(` ω ´)「――――――」

その攻撃はドクオの狙い通り、心臓の部位に命中した。
シャキンの体が吹き飛ばされ、壁にぶつかりバウンドする。

('A`)「―――がっ!」

同時に、ドクオが抜き手を放った右手を押さえた。

(´ ω `)「よく、わかったよ」

ショボンは腕を押さえる吸血鬼に向けて、杭を構える。
無表情のその顔にある、目だけは。

(` ω ´)「テメェだけは……」

ぐら、と体を揺らしながら、シャキンもまた体を起こす。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 02:08:04.23 ID:toizhU7A0
からり、と音を立ててこぼれるのは、ドクオが狙うであろう自らの心臓を庇うように構えていた銀の杭。

('A`)「……ちぃ」

吸血鬼の圧倒的な膂力を持って、自ら銀の杭に腕を突きたてた形となったドクオは、血液の流れないまま骨と肉の砕けた右手を押さえ、一歩後退した。

(´・ω・`)「生かしておくわけには、いかない」

言葉と共に飛んできた杭が、ドクオの体を掠めて後方の壁へとまた突き刺さる。

(´・ω・`)「大丈夫かい?」

(`・ω・´)「……ちとつらい」

銀が吸血鬼の力を相殺したとはいえ、衝撃はそのまま胸骨に伝わっていた。
恐らく折れているであろうその部位を抑えながら、よろよろとシャキンが立ち上がる。

(`・ω・´)「だが、目の前にこいつがいて……寝てるわけにゃいかねぇだろ……」

その様子を見て、シャキンは杭と金槌を構えなおした。
既に無数の杭が壁に突き立って、幾多の皹を走らせている。
ドクオは傷ついた腕を気にするように撫でながら、呟いた。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 02:09:39.61 ID:toizhU7A0


('A`)「……多少過小評価していたようだな」

(´・ω・`)「すぐにそんな評価を考える頭もなくなる」

('A`)「いや、そうでもない」

ふら、と、傷ついた男が縋る様に、あまりに自然な動作で、ドクオは壁にもたれかかった。

('A`)「ただ今日はまだ月光を浴びていなかったんでな」

(´・ω・`)「!」

('A`)「それにもうすぐ約束の時間だ、貴様等との戯れはもう終わりだ」

が、と吸血鬼の足が、皹の走る壁に蹴りを入れた。
耐久力を失っていた壁はがらがらと崩れ、その向こう側を映し出した。

部屋の向こう側はベランダのようなテラスもない。
暗い海と、無数の星。
そして浮かぶ、丸い月。

('A`)「それに――夜の眷属を前にこんなところで戦うのは、無粋と言う物だろう」

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 02:08:58.39 ID:toizhU7A0
ショボンが慌てて杭を放った時、もうドクオはそこにいなかった。
体を崩れた壁の向こうへ乗り出し。

(`・ω・´)「しま……っ!」

その身を霧へと変えた。

(´・ω・`)「待て!」

夜の闇に溶けたその体は、もはや視認できない。
明りのあった室内とは違う、完全なる気体と化したドクオの、どこに杭を放てばいいのかわからない。

(`・ω・´)「にげ……られ、た……?」

愕然とした表情で、シャキンが呟く。

(´・ω・`)「……追い詰めた、筈だったのに」

からん、と金槌を落とし、膝を突く。

(´・ω・`)「……ここまで来て……これじゃどこに逃げたか……」

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 02:10:32.37 ID:toizhU7A0
次の瞬間。

一陣の風が、構えていた二人の間を通り過ぎた。

(´・ω・`)「……なっ!」

二人が自分で言った言葉。
吸血鬼は流れる水の上で力を使うことが出来ない。

ならば、表に出て霧になったまま逃げるという事はありえない。
風は、霧のドクオそのものだった。
そのまま眼に見える靄がものすごい速度で、扉をくぐり部屋を出て行く。

(`・ω・´)「やべぇ、あっちは……!」

霧は部屋を出て左に曲がった。
その方向に待つ物は。

(´・ω・`)「ブーン達が……!」

あの道の先には階段を下るしかない。
そして吸血鬼が向う先は最下層の貨物室だろう。

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 02:12:24.25 ID:toizhU7A0
Piece:3-1

( ´_ゝ`)「おい」

(´<_` )「あれは――」

いくらなまこパスタをずるずると啜っていた流石兄弟は、パスタハウス『ミッシェル』の窓から信じられない物を見た。

/ ,' 3
ξ゚听)ξ
ノパ听)

階段から上がってくるのは、老人と少女二人。
そして彼らは、老人に非常に見覚えがあった。

( ´_ゝ`)『あ、アラマキイイイイイイイイイイイ!?』(´<_` )

大声で叫んだ後慌てて顔を伏せ、流石兄弟は顔を見合わせた。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 02:13:23.40 ID:toizhU7A0
(;´_ゝ`)「おいどうする弟者、今姐さんはいないぞ!」

(´<_`;)「つか本当にのってやがったよあのじじいマジねーよ何やってんだ」

(;´_ゝ`)「み、見なかったことにしようか」

(´<_`;)「いや、そういうわけにもいくまい」

(;´_ゝ`)「な、何故だ弟者」

(´<_`;)「もしアラマキを目の前に何もしなかったと姐さんにばれてみろ」


(;´_ゝ`)「…………」
(´<_`;)「…………」


( ´_ゝ`)「アラマキイイイイイイイイイイイイ!」

(´<_` )「覚悟オオオオオオオオオオオオオオ!」

パスタハウス『ミッシェル』から、馬鹿二人が飛び出した。

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 02:17:29.86 ID:toizhU7A0
Piece:3-2

聞き覚えのある声を聞いた。
アラマキがそちらに目を向けると、走ってくる男達がいた。

/ ,' 3「…………!?」

( ´_ゝ`)「そこをおおおおお!」

(´<_` )「うごくなああああ!」

じゃき、とリボルバーを取り出して、アラマキに向けて突きつける。

ξ゚听)ξ「え、何!?」

ノパ听)「お、ぶっとばしていいのか?」

動揺するツンと、その前に立ち腕をぶんぶん回すヒート。
そして肝心のアラマキは動くなといわれたにも関わらず、盛大な汗を流しながらきょろきょろと首を振り

/ ,' 3「……なんじゃ馬鹿刑事二人だけか」

安心したように溜息をついた。

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 02:19:26.85 ID:toizhU7A0
( ´_ゝ`)「おいなんだそのリアクション」

(´<_` )「姐さんがいないからってお前!」

/ ,' 3「だってその銃もどうせ麻酔銃じゃろ?」

(´<_` )「見抜かれてるぞ兄者!」

( ´_ゝ`)「マジで!?」

/ ,' 3「ハインの嬢ちゃんがお前等に本物もたせるとは思わんしのう」


84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 02:20:11.70 ID:toizhU7A0
そのやり取りを見て、ツンはあのー、と申し訳なさげに手を上げ。

ξ゚听)ξ「お知り合いですか?」

/ ,' 3「あー、仕事の都合でちょっとのう……」

( ´_ゝ`)「そうだ! 二人とも離れなさい! そこは危険だ!」

(´<_` )「その老人は国際指名手配犯、コードネーム怪盗アラマキだ!」


ξ゚听)ξ「…………」
ノパ听)「…………」

ツンとヒートは顔を見合わせ、一度アラマキをみて、もう一度顔を見合わせ。

ξ゚听)ξノパ听)『ええええええええええええええええええええ!?』

叫んだ。

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 02:58:07.57 ID:toizhU7A0
さるったごめん。

/ ,' 3「ばれてもうたか……」

( ´_ゝ`)「むしろなんでばれなかったんだ」

(´<_` )「いつもテレビとかに移る時は白いタキシードだからなぁ」

今のアラマキは同じデザインのそれを黒くしている。
確かに抱く印象は違うのだろう。

ノハ*゚听)「すげーすげー本物!? サイン頂戴サイン!」

そしてヒートは未だかつてないテンションで飛び跳ね始めた。

( ´_ゝ`)「おい女子達が非常に夢中だぞ」

(´<_` )「騙されるなー! そいつは凶悪な犯罪者だぞー!」

ぎゃあぎゃあと騒ぐ兄弟を見て、アラマキはふと思いついた。

/ ,' 3(……そうだ、いい事を考え付いたぞい)

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 03:00:28.71 ID:toizhU7A0
彼は近くにいたヒートとツンを抱き寄せ、腕で動きを封じてから高らかに声を上げた。

/ ,' 3「取引といこう!」

( ´_ゝ`)「何!?」

(´<_` )「人質だと……見損なったぞアラマキィ!」

ξ゚听)ξ「え、人質? あれ?」

ノパ听)「わー、わーわーわーわーわー!」

アラマキにがっちりと抱きかかえられた二人のテンションは困惑と興奮の二種類だったが、抵抗はなかった。

/ ,' 3「この二人を無事に帰してほしかったら……」

( ´_ゝ`)「ほしかったら……?」

(´<_` )「ゴクッ……」

/ ,' 3「頼むからハインの嬢ちゃんにワシがここにいるの言わないで」

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 03:01:36.95 ID:toizhU7A0
( ´_ゝ`)「えー」

(´<_` )「いや言わないと俺達が殺されるしな……」

/ ,' 3「頼む、なんなら出会わなかったことにしてくれるだけでもいい、逃げ切るから、お願い」

( ´_ゝ`)「相談タイム」

/ ,' 3「OK」

ξ゚听)ξ「いいんだ……」

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 03:03:24.93 ID:toizhU7A0
( ´_ゝ`)「どうする弟者」

(´<_` )「しかしそれで人質が戻ってくるなら儲け物じゃないか?」

( ´_ゝ`)「いやだがアラマキを目の前にして逃がすというのも……」

(´<_` )「姐さんの事だから上手い事言えば誤魔化せるって」

( ´_ゝ`)「だがしかし……」

(´<_` )「ぶっちゃけ俺達だけだとアラマキに勝てなくね?」

( ´_ゝ`)「…………」

(´<_` )「姐さんが居ないと俺ら秒殺だろ」

( ´_ゝ`)「…………」

(´<_` )「意地張っても仕方ないって、相手からの申し出なんだ、誤魔化す方法はいくらでも――」

ひそひそと会話を続ける二人に

ノパ听)「お前等誰に銃向けてんだぁー!」

( ´_ゝ`)「え?」

しゅぽん、という音と共に、何かが飛んできた。

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 03:04:58.66 ID:toizhU7A0
我が目を疑ったのはアラマキだろう。
拘束している少女の両手首が勢いよく射出され、飛んでいったのだから。

( ´_ゝ`)「ぐはぁああああああああ!」

(´<_` )「ぐあああああああああ!」

ヒートの放った有線ロケットパンチが顔面に突き刺さり、やたら格好いい叫び声と共に吹っ飛んだ。
回転を加えながら綺麗にパスタハウス『ミッシェル』の窓をぶち破って、激しい音と共に壁の向こうへ見えなくなった。

ノパ听)「まったくアラマキに銃を向けるなんてふてえ奴等だぜ」

しゅるるる、とケーブルを巻いて手首を元の位置に戻す。
ついでにドリル宜しく何度か高速回転させてからいい感じに頷いた。

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 03:06:14.18 ID:toizhU7A0
ノパ听)「さ、早く貨物室へ行けよアラマキ!」

/ ,' 3「タンマ」

ノパ听)「お、どうした? 大丈夫敵性は俺が排除したぜ! あ、大丈夫邪魔しないからちゃんと俺上に戻るよ」

/ ,' 3「いやこの際それはおいといてワシとお話しよう」

ノハ*゚听)「え、マジで、やったあ!」

ξ゚听)ξ「どこから突っ込んでいいのかわからない……!」

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 03:10:35.14 ID:toizhU7A0
/ ,' 3「さっきのロケットといい……なんじゃお主の体は」

ノパ听)「え、俺サイボーグだけど言ってなかったっけ」

/ ,' 3「聞いとらんわ!」

ξ゚听)ξ「ごめんなさい色々事情が複雑で……」

ノパ听)「まぁ細かい事は気にすんなよ」

/ ,' 3「気になりすぎて仕事に手がつかんのじゃが……お主、名前は?」

ノパ听)「俺? 素直ヒートだけど。 あ、サイン書いてくれるんだな? ちょっと待ってマジックマジック」

/ ,' 3「素直……ああ」

マジックを探し始めたヒートは放っておいて、アラマキは納得したように頷き、呟いた。

107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 03:12:25.20 ID:toizhU7A0
/ ,' 3「シュールの嬢ちゃんか……成程のう」

ノパ听)「?」

/ ,' 3「いやいいんじゃ、サインじゃったな。後で書いてやるわい」

ノハ*゚听)「マジで!」

/ ,' 3「ただし」

ξ゚听)ξ「え!?」

話についていけてなかったツンを改めて抱き寄せ、言った。

/ ,' 3「この場を切り抜けられたら、の話じゃがの」

ξ゚听)ξ「え……どういう意味――」


ツンが言い終えるその前に、何もない天井からナイフを構えた男が降ってきた。

109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 03:13:38.06 ID:toizhU7A0
|゚ノ ^∀^)「イエァ!」

飛びのくと、先ほどまでツンがいた空間を鋭い刃が切り裂く。

ξ゚听)ξ「――――っ!」

ツンの体を引き寄せ、相手の攻撃の軌道から外しながら、アラマキは舌打ちした。
、、、、、、、、、、、、、、、、、、 、、、、、、、、、、、、、、、、
誰かがいるのは最初からわかっていたが、まさか上から来るとは思わなかったのだ。

|゚ノ ^∀^)「へぇ、今のを避けやがるか」

他のテロリスト達と同じ格好をしていたが、首から上は晒していた。
背中には金属製のランドセルのような物を背負っているが、動きは身軽そのものだ。

見える顔は、にこにこと笑んでいた。
張り付いた笑顔と言うのはこういうものを言うのだろう。
確かに笑ってはいるが、それは喜びや楽しみでそうなっているわけではない。
ただの記号、仮面ですらない笑顔。

110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 03:15:34.29 ID:toizhU7A0
ノパ听)「…………」

ヒートもまた呆然としていた。
男の出現に驚いたのではない。
それ以前からこの場にいたであろう、その存在がレーダーで知覚できなかった事。
そして目の前にいるにも関わらず、いまだレーダーに引っかかっていない事に驚いていた。

ノパ听)「こいつ……なんかおかしい」

|゚ノ ^∀^)「ハァ、成程、お前等か、イレギュラーは」

ぐるり、と首を回し、柄が妙に太く丸く、刃も分厚く平たい以上に野太い錐の様になっている、、奇妙な形状のナイフを手元でもてあそびながら告げた。

|゚ノ ^∀^)「ニューソクが攻撃型特殊部隊、電気鼠の特攻隊長レモナ様だ」

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 03:16:45.06 ID:toizhU7A0
/ ,' 3「…………」

ξ゚听)ξ「…………」

ノパ听)「…………」

|゚ノ ^∀^)「…………」

ξ゚听)ξ「テロ……リストの方ですよね?」

|゚ノ ^∀^)「そうだよ?」

ξ゚听)ξ「所属とか名前とか言っちゃっていいんですか……?」

|゚ノ ^∀^)「あ、大丈夫大丈夫、うちがニューソクだって事は割れてるしさ、それに」

言葉の前に、アラマキが割り込む。

/ ,' 3「どうせ皆殺しにするから口上ぐらいは格好良く、かの?」

|゚ノ ^∀^)「だぁーいせぇーいかぁーい!」

ぱちぱちと手を叩くレモナは、まるで無邪気に遊んでいるようだった。

118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/10/16(金) 03:25:10.34 ID:toizhU7A0
|゚ノ ^∀^)「だからさっさと我等が偉大なる指導者の為に死んでくれねっかなー、マジ困ってんだわイレギュラー」

登場からずっと軽い調子だが、身のこなしはいつでも戦闘にはいれるだろう。
アラマキはそれを見て取り、どうしたものかと考える。
こちらは非戦闘要員がいる、アラマキにとって必ずしも守らなくてはならない人物では無いが。

/ ,' 3(責任、かの)

少女達に告げた台詞を思い出す、大人としての責任。
なんとか戦わないですむ選択肢を模索できるなら、それが一番いい。
そのためのきっかけの一言として、アラマキは口を開いた。

/ ,' 3「……ワシはお前等の邪魔をすrノパ听)「ふざけんなあああああああ!」


/ ,' 3



120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/10/16(金) 03:26:43.03 ID:toizhU7A0
ノパ听)「俺の! 正義の! 心と! 魂が! テロリストなんぞ許すもんか!」

ξ゚听)ξ「ヒートちゃん落ち着いて!」

ツンの静止など全く聞かず、ヒートは続ける。

ノパ听)「お前等の薄っぺらい野望なんて打ち砕いてやる! なぜならお前達が悪だからだ!」

完全にスイッチが入っていた。
もう誰も止められなかった。

ノパ听)「覚悟しろ……今からお前は倒される、俺とこのアラマキにな!」

/ ,' 3「ワシも!?」

122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 03:27:39.55 ID:toizhU7A0
|゚ノ ^∀^)「……へぇー」

口上を聞き終えると、笑顔はあくまで笑顔のまま。
瞬間、ナイフを握りこみ、レモナが動いた。


|゚ノ ^∀^)「じゃあやってみろや糞ガキ」


じざざざざ、とノイズの音がする。
次の瞬間起こった出来事は、ヒートの人知を超えた感覚を持ってしても捕らえられなかった。

|゚ノ ^∀^)

|゚ノ ^∀

|゚ノ

ノパ听)「!」
/ ,' 3「む!」
ξ゚听)ξ「ええ!?」

そう。
その姿が完全に消失し、透明になったのだ。

124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 03:29:04.35 ID:toizhU7A0
ノパ听)「ちっ――」

即座に知覚を戦闘用に切りかえる。
情報収集モードを起動。
索敵開始、周囲にある生体反応は四つ――

ノパ听)(四つ?)

自分を除外し数える、ツン、アラマキ、伸びてるはずの流石兄弟。
指すが兄弟を吹っ飛ばした店内の奥は索敵範囲外なので、外敵はいない――

ノパ听)(そんな訳は……逃げた?)

通常起動時とは違う、完全なる調査モードだ。
最大まで観測領域を広げれば、分子単位での判別も可能な状態で、全く相手の気配を感じられない。
ヒートは疑問を抱く。

ノパ听)(俺のレーダーから逃れられる――訳が無い、そう、仕組みを知ってるわけじゃあるまいし)

敵は周囲にいない、と言う判断を、ヒートの頭脳は下した。

ノパ听)(近くにいないなら安全……かな、ツンねーちゃんをまず安全な場所に移動させなガッ!)

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 03:30:45.18 ID:toizhU7A0
そこまでヒートが思考したのは、時間にすればわずか一秒。
たったその間に、彼女の首に金属が突き立てられていた。

/ ,' 3「何!?」

怪盗であるアラマキですら見抜けない、隠密行動。

|゚ノ

|゚ノ ^

|゚ノ ^∀

|゚ノ ^∀^)「……ハッ!」

姿を現したレモナは、さらに手元のナイフに何かの動作を加える。

ノハノ゚听听))

先に、ヒートの体が大きく揺れた。
そして、爆音が鳴り響いた。

127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 03:32:53.23 ID:toizhU7A0
ξ゚听)ξ「ヒートちゃん!」

みれば、完全なる金属である少女の首根っこに、完全にナイフが突き立っていた。
音の発生源もそれらしい、刃と柄の間からしゅう、と白い煙が上がっている。

/ ,' 3「寄るな!」

アラマキが飛び出しながら一喝をくわえると、ツンが思わず身をすくめた。
牽制でステッキを振るうと、レモナは一歩飛びずさり、笑う。

|゚ノ ^∀^)「ひゃはははははは! なんだおい正義の魂ってなんだよぉー!」

ξ゚听)ξ「ヒ、ヒート、ちゃん?」

少女は動かない。
ナイフが突き立っていた部分からは、ぱちぱちと火花のような物が走っていた。

ξ゚听)ξ「あ、アンタ、何したのよ!」

|゚ノ ^∀^)「知りたい? 説明して欲しい? ひゃはははははは!」

張り付いたような笑顔は、ただの狂気の笑みに変わっていた。
これこそがこの男の本性なのだろう、楽しそうにナイフを回し。

|゚ノ ^∀^)「このナイフは手元の操作でナイフを高速振動・電磁バネで射出する特別製なんだよォ!」

そんなものを近距離で喰らえばどうなるか。
                                             、 、 、 、 、 、 、 、 、 
|゚ノ ^∀^)「そいつがシュール製のサイボーグだってぐらい知ってんだよ! それの攻略のために作られた武器だからな!」

130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 03:34:07.43 ID:toizhU7A0
ξ゚听)ξ「な、何ですって! どういうことよ! 待ちなさいよ!」

|゚ノ ^∀^)「誰が待つかバーカ!」

|゚ノ ^∀

|゚ノ ^

|゚ノ


ξ゚听)ξ「また……!」

/ ,' 3「ちぃ……」

人間が動くという動作は、少なからず察知できる物だ。
それをさせない技術に特化しているアラマキだからこそ、わかる。
この相手は異常だ。
自分が、加えてサイボーグ――精密機械であるというヒートですら察知できない移動術。
くわえて透明化、姿も気配も確認できない完全なる隠密。

/ ,' 3(じゃが……)

瞬間。
アラマキはちく、と首に何かが刺さる感覚を覚えた。
一秒の十分の一以下の時間、それで十分だった。

131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 03:34:54.51 ID:toizhU7A0


      、 、 、 、
同時に、レモナが吹っ飛んだ。




134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/10/16(金) 03:37:47.11 ID:toizhU7A0
|゚ノ ^∀^)「!?」

顎を突き上げられ、思い切り転がったレモナは起き上がらない。
恐らく脳を激しく揺らされたのだろう、しかし笑顔は崩さず、呻くように言う。

|゚ノ ^∀^)「ふ、ふざけるな! 何で俺の居場所が――」
                      、 、
/ ,' 3「見えない、気配を気取れない程度で何をえばっとるのか知らんがのう」

アラマキはそのレモナの顎を捉え、突き飛ばしたステッキをくるりと回し。

/ ,' 3「お主の武器はその馬鹿げたナイフじゃが、攻撃の際は必ず相手に触れる必要がある」

ならば話は簡単だ。

137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 03:39:04.10 ID:toizhU7A0
/ ,' 3「ワシの肉体に触れた瞬間に攻撃すれば透明になった相手は間違いなくそこにいる、それだけの事じゃ」

|゚ノ ^∀^)「だ、だからってお前を狙うとは――」

/ ,' 3「いや、お主はワシを狙うよ」

理由は単純明快。

/ ,' 3「お前は自分の成功を相手に聞かせてそれを誇りたがる人種のようじゃったからの」

相手の味方を奪い、恐怖を与え、絶望させるならば。

/ ,' 3「ワシより若い娘を残すじゃろう、それだけじゃよ」

139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 03:40:48.26 ID:toizhU7A0
|゚ノ ^∀^)「――――!」

完全に図星なのか、がく、と体を引きつらせる。

ξ゚听)ξ「ヒートちゃん、大丈夫――」

その様子をみて決着がついたと判断したのか、ツンは再度倒れたヒートに駆け寄ろうとした。
やれやれ、と息を吐き、レモナを拘束しようとアラマキが一歩踏み出す。

|゚ノ ^∀^)

だが、その前にレモナは動いた。
野太いナイフの先端を、倒れたまま、今正に背を向けているツンへと向けた。

141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/16(金) 03:41:35.86 ID:toizhU7A0
/ ,' 3「――嬢ちゃん!」

ξ゚听)ξ「……え?」

かちり、と音がする。
レモナは言っていた。
自ら宣言していた。


これは「高速振動・電磁バネで射出する特別製」のナイフだと。


アラマキは気がつくべきだった。
レモナが接近戦を挑んできたのは、『それしかできない』訳ではなく、油断と驕りの表れだったのだと。
その宣言どおり、通常のスペツナズナイフとは一線を引いた、電磁式の超強力バネにより弾丸に匹敵する速度で、錐状のナイフが打ち出された。

〜To Be Continued…


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