- 1 名前: ◆4I3Xd9Qzr. 投稿日:2011/08/21(日) 13:47:34.49 ID:Ucn4y/RF0
- 「死ぬときのことを考えてどうするの」
しぃが真剣な顔で、俺の顔を正面から見る。
「生きるんだよ」
そのまっすぐで、考えてみれば当り前の言葉が俺の目を醒まさせた。
「……そうだな、生きて、帰ろう」
「よろしい!」
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 13:53:55.32 ID:Ucn4y/RF0
ショボン 美布小学校/運動場
初日/13:31:13
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 13:59:00.06 ID:Ucn4y/RF0
- ここは小学校の運動場か。
小ぢんまりとしてはいるが、この村の小学校なら十分なんだろう。
開けっぱなしの門から入ると、運動場に誰かいるのがわかった。
何かを地面に振り下ろしている。
生存者が屍人を倒しているのか?
それとも、化け物が人間を殺しているのか?
前者なら嬉しいが、後者だと面倒になりそうだ。
手に持ったバットを地面に置き、両手で拳銃を構えながら近づく。
(´・ω・`)「動くな」
鋭く声をかける。
高校生ぐらいの、少し幼さを残した顔がこちらを向く。
目から赤い涙を流していない。
生存者だ。
( ・∀・)「あ?何だあん―――」
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 14:03:55.68 ID:Ucn4y/RF0
- 拳銃を見た瞬間、青年が固まる。
(´・ω・`)「ああ、すまんね、君が正常なら撃つつもりはないよ」
構えを解く。
拳銃なんて向けられたらそりゃ固まる。
少し申し訳ないことをした。
(´・ω・`)「脅かすつもりはなかったんだ」
釈明をした瞬間、何かが僕の頭に振り下ろされた。
反射的に頭を屈め、腕でガードしたが鈍い痛みが腕全体に広がる。
呻き声をあげながら後退する。
(;´・ω・)「何を―――」
僕の発言を遮るように、今度は横殴りされる。
流石にこれを食らうわけにはいかず、飛び退く。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 14:07:55.94 ID:Ucn4y/RF0
- (#´・ω・)「動くな!!!」
怒声を上げて銃を構える。
何だって言うんだ、一体。
僕が化け物じゃないことぐらい、こいつも分かってるはずだ。
なのに何故。
( ・∀・)「おっさんよぉ、それ、なんだ?」
(#´・ω・)「あぁ……?
見ればわかるだろう、拳銃だ」
( ・∀・)「拳銃。拳銃。
なあ、拳銃って何だと思う?」
(´・ω・`)「……武器だ。
人を傷つける最強の武器だが、必ずしもそうであるとは限らない」
この拳銃を拾った時の光景が、考えが蘇る。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 14:12:30.22 ID:Ucn4y/RF0
- (#・∀・)「最強の武器に、最強の力に決まってンだろうが!!!」
突然僕に向かってキレ始めた。
(#・∀・)「そんな『力』を持っていながら最強の武器じゃないだと!?
ふざけんな、そいつを俺によこせおっさん!!
俺の方がそいつを上手く使える!!!!」
わけの分からないことを言いながら椅子を振りまわしてくる。
もう一度距離を取り、構える。
それでも青年は雄叫びをあげながら向かってくる。
(´・ω・`)「もう一度言うぞ、動くな」
向けられた拳銃に臆することなく、
青年は僕の静止を無視し、向かってくる。
僕はそれを柔軟に受け止めるだけの余裕は持ち合わせていなかった。
人を殺す引き金は、想像以上に軽かった。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 14:16:39.66 ID:Ucn4y/RF0
- 青年の邪悪に歪んだ顔が倒れていく。
一発で十分だった。
一発で人の一生が終わってしまった。
終わらせてしまった。
不思議と、罪悪感はない。
波のない海のように、心は平静だった。
しかし海面下では様々な感情が渦巻いていた。
僕はうまくそれを隠し、自分を騙した。
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 14:20:17.04 ID:Ucn4y/RF0
- 死体に一瞥もせず、校舎に近づく。
するとばたばたと何かがはためく音が聞こえてきて、
僕は足を止めた。
ぐちゃ、と。
僕の前に、何かが落ちてきた。
僕が足を止めていなかったら、今頃僕が下敷きになっていただろう。
そんなことを呑気に考えられたのもその時だけだった。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 14:25:23.31 ID:Ucn4y/RF0
- (;´・ω・)「…………」
赤く染まる地面、赤く染まる白衣、赤く染まる―――
「それ」が、人だと認識した瞬間、僕の視界は真っ暗になった。
足元がおぼつかなくなり、近くの花壇に四つん這いになる。
そしてこみ上げてくるものを抑えきれず吐き出した。
人を殺しても大丈夫だ、と強がっていても、体と精神は正直だった。
とっくに限界だったらしい。
(;´・ω・)「は、はは、今日は、とんでもない日、だな」
苦笑いしながらそんな言葉を呟いてみる。
毒にも薬にもならない言葉だった。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 14:28:55.64 ID:Ucn4y/RF0
ジョルジュ長岡 映州地域/月刊「H.O.W」支部周辺
初日/14:31:41
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 14:32:58.49 ID:Ucn4y/RF0
- ジョルジュは火のような光を見た。
ミセリや他の化け物と殺し合うこと以外にすることのなかったジョルジュに、
その変化は心動かされる何かがあった。
「何だこれ」
地面にできたクレーターを見て思わず素直な感想が漏れた。
「すげーな、隕石でも落ちてきたかぁ?」
まじまじと眺めていると、彼は薄く光る何かを見つけた。
近づいてみると、それは細い木を束ねた、
手のひらより少し小さい何かだった。
「……なんで光ってんだ?」
用途不明のそれだが、不思議と見過ごすことは出来なかった。
なんとなくポケットに突っ込み、奥の日本家屋へ向かった。
彼の感じた疑問は少し経つと忘れ去られた。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 14:37:00.53 ID:Ucn4y/RF0
クー 南美布/メゾン美布前
初日/15:00:00
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 14:40:28.85 ID:Ucn4y/RF0
- クーがそっとメゾン美布の様子を窺う。
数時間前の嫌な思い出がありありと脳裏に蘇ってくる。
キュートが赤い涙を流しながら立っていたら即刻逃げようと
心の中で決めていた。
そこにいたのは。
「うわあ!」
「うひぃ!!」
「…………」
「…………」
「「…………」」
「「あれ?」」
キュートでも新手でもない、普通の人間だった。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 14:45:18.84 ID:Ucn4y/RF0
- 「なんだ、驚かせてくれるね、君たち」
クーが冷静さを取り戻す。
正確にはクールさを装う。
「くーさん」
青年の背後に隠れていた少女がぴょこんと出てくる。
「って渡辺さんとこの……」
「え、渡辺ちゃん知り合いモナ?」
「うん、上のひと」
「私、203号室、この子、103号室」
「はー。なるほどモナ」
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 14:49:35.19 ID:Ucn4y/RF0
- 「渡辺ちゃんをつれた君は誰だい?」
「僕はモナーですモナ。よろしくお願いしますモナ」
「これはご丁寧に、クーです、よろしく」
こんなおかしな世界でまともに自己紹介するのも
おかしな話だよなぁとクーが心の中で苦笑する。
「どうして渡辺ちゃんと?」
モナーはこのあたりで見ない顔だ。
クリニックや喫茶店で働いていれば嫌でもわかる。
「友達と約束したんですモナ。絶対に守るって」
普段のクーならかっこいいこと言うじゃないと茶々を入れるところだが、
モナーの顔は真剣そのものでとてもそんな空気ではない。
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 14:54:09.28 ID:Ucn4y/RF0
- 「くーさんも来るの?」
「ん?どこにかな?」
「二人で安全なところに行こうって話をしてたんですモナ」
モナーが解説する。
「なら、いいところ知ってるよ、私」
「えっ、マジですかモナ」
「マジ。私が働いてるところなんだけど」
「行きましょうモナ!」
モナーが浮足立つ。
それをクーが制止する。
「ちょっと待ってくれ、私は家に着替えに来たんだ」
自身の泥だらけの服を摘む。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 14:57:44.77 ID:Ucn4y/RF0
内藤ホライゾン 光風地域/ミルナ宅周辺
初日/16:21:55
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 15:01:40.19 ID:Ucn4y/RF0
- 「ブーン、ここなら休めそうだぞ」
ドクオが指しているのは掘っ立て小屋のような、小さな家だ。
「中に誰かいますかお?」
内藤が尋ねると、ドクオが目を閉じ、他人の視界を見始める。
「うおわ!!」
「どうしましたかお!」
「あ、悪い、俺の頭が見えて、後ろに化け物がいるかと思ったらお前だった」
「……まあ、それだけで良かったですお」
「なにやってるんだか」
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 15:05:45.57 ID:Ucn4y/RF0
- 中に入り、物を物色する。
「この部屋の住人は、猟師だったらしい」
「漁師?」
「ブーン、多分それ漢字違うわよ」
「ほれ、猟銃持ってる」
「おーかっこいいお」
物色するはずが、いつの間にか写真評論会になっていた。
そして棚に立てられた写真の一枚を見てツンが驚いた。
「私のおばあちゃん!!」
そう言って指差したのは病院で撮られた、
この家の家主と思われる男性とベッドに入っている女性の写真。
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 15:09:04.59 ID:Ucn4y/RF0
- ツンが写真の裏を見た。
そしてまた驚いた。
「こっ、これ本当にデレおばあちゃんじゃない!!
『丹羽束病院・デレさんと』
って書いてある!!」
ツンがやーん、デレおばあちゃんわっかーい、かわいいーとくるくる回っている。
「ツンちゃん、おばあちゃんはどうしてるの?」
ドクオさんは余計なことを聞く、と
内藤は爆弾を踏んだんじゃないかとドキドキした。
「おばあちゃんは亡くなりました。
そのお墓参りのために今日は……あと、ちゃんづけ止めてください」
「いやぁ、なんか呼び捨てって……ねぇ?」
内藤が、その発想は彼女いない歴=年齢の考え方ですお、と耳打ちする。
ドクオがしょぼくれた。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 15:13:19.38 ID:Ucn4y/RF0
ギコ 光風地域/朽ちた教会内
初日/18:00:00
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 15:17:26.98 ID:Ucn4y/RF0
- 辺りが暗くなってきて段々視界が悪くなり、
逃げ場を求めて入った教会の中には女の子が一人倒れていた。
手が胸の上で組まれているところを見るに、
看取った人がいるらしい。
せめて地面に埋めてあげたいが、生憎スコップを持っておらず、
それすら叶わない。
だからしぃと二人で冥福を祈った。
そもそも、化け物たちを斬り倒している俺が冥福を祈ること自体、
ちゃんちゃらおかしいのかもしれないが。
(*゚ー゚)「まだ高校生くらいなのに……」
(,,゚Д゚)「ああ……酷いもんだな」
体中傷だらけだが、それでもこの少女は微笑んでいるように見える。
……俺も、死ぬときは―――
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 15:21:18.70 ID:Ucn4y/RF0
(#゚ー゚)「ギコ君!!!」
(;゚Д゚)「おうっ!なんだなんだなんか来たかゴルァ!!」
(*゚ー゚)「今何か、馬鹿なこと考えてなかった?」
(,,゚Д゚)「馬鹿なこと?」
(*゚ー゚)「そう。例えば、死ぬときはこの子みたいに笑顔で、とかさ」
(,,゚Д゚)「…………」
はぁ、としぃが大きくため息をつく。
(*゚ー゚)「死ぬときのことを考えてどうするの」
しぃが真剣な顔で、俺の顔を正面から見る。
(*゚ー゚)「生きるんだよ」
そのまっすぐで、考えてみれば当り前の言葉が俺の目を醒まさせた。
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 15:25:34.50 ID:Ucn4y/RF0
- (,,゚Д゚)「……そうだな、生きて、帰ろう」
(*^ー^)「よろしい!」
満面の笑みでしぃが答える。
しぃの手を握って、入り口へと向かう。
扉を閉めなければ、袋小路も同然だ。
(*゚ー゚)「あ、ギコ君」
なんだ、と振り返る。
(,,゚Д゚)「―――え?」
一瞬の出来事だった。
突然すぎて何もできなかった。
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 15:29:43.01 ID:Ucn4y/RF0
ピンク色のポロシャツの男。
並べられた椅子の陰に隠れていたのか。
(*゚ー )「あ……」
しぃの後ろから、何をした?
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 15:33:10.78 ID:Ucn4y/RF0
- 「ヒヒッ!!ひひひひひひ!!みつ、みつけたァ!!」
しぃの心臓の位置からは刃物の先端が飛び出している。
繋いだままの手が、しぃの体が崩れ落ちる。
(,,゚Д゚)「う」
血の残像が、縦に線を描く。
(;゚Д゚)「わ」
ごとり、としぃが倒れる。
(; Д )「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 15:37:30.01 ID:Ucn4y/RF0
- しぃの安否を確かめたい気持ちと目の前の男を殺したい気持ちという
二つの思いがせめぎ合い、結果、体が先に動いた。
(,,;Д;)「わあああああああああああ!!!!」
叫びながら刀を振りかぶる。
その、とびっきりの笑顔を、
苦痛に歪んだ、顔に変えて、
死んで、詫びろ!!
振り下ろしたはずの刀は、何かに止められ、金属音がした。
そして激しい衝撃により、入り口の方へと吹っ飛ばされた。
隠れていたのはあいつ一人だけじゃなかった。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 15:41:17.72 ID:Ucn4y/RF0
- なんとか体を起こし、睨みつける。
黒いフードを被り、黒いコートのような服を着て、顔は真っ白。
まるで闇に生きる人間のような風貌だ。
"闇人"、とでも言えばしっくりくる。
一人がフライパンを持ち、一人は木製バットを持っている。
俺はあいつらにやられたのか。
しぃは倒れている。
ピクリとも動かない。
悔しくて涙が出る。
奥歯を噛みしめる。
頭が痛い。
俺は、何もできないのか。
痛む上半身を庇いながら立ち上がる。
闇人がにやにやと笑いながらこちらへと向かってくる。
その奥で、ピンクのポロシャツは念願叶った顔。
今の俺には逃げることしかできなかった。
心の底から湧きあがる決意と共に、俺は教会を飛び出した。
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 15:45:29.45 ID:Ucn4y/RF0
つー 高岡クリニック/診察室
初日/18:42:02
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 15:49:35.93 ID:Ucn4y/RF0
- 一度、兄者さんと会うために支部へと行った。
でもそこに兄者さんと弟者さんの姿はなくて、
私たちが訪れた時にはなかった大きなクレーターだけがそこにあった。
何が起こったのか、あの二人はどうなったのか、
結局私たちには分からず仕舞いだった。
しぃを探しに行こうかとも思った。
でもミルナさんの体調が悪いのを見て、
本人は構うことはないと強がりを言っていたけれど、
このクリニックで休息をとることにした。
ミルナさんは今、風邪薬を飲んで横になっている。
腕を負傷している私では何もできないし、何の役にも立てない。
それがこんなにも悔しいことなんて―――
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 15:53:34.00 ID:Ucn4y/RF0
陽も落ちてきて、懐中電灯が必要な時間帯がまたやってきた。
椅子に座ってうとうとしていると、
ごんごんとドアを叩く音が聞こえた。
(;゚∀゚)「ひぃっ!?」
思わず懐中電灯を握りしめ、硬直する。
間をおいて、また叩く音がする。
一体、誰が?
屍人だろうか。
でも屍人ならドアノブをがちゃがちゃとやって、
開かないとみると去っていくはず。
そっとドアに近寄って声をかける。
(*゚∀゚)「どちら様で……?」
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 15:57:46.38 ID:Ucn4y/RF0
- 「ああ、すいませんね、開けてくれませんかねー」
人間の声が聞こえてほっとする。
(*゚∀゚)「ミルナさん、ミルナさん。
生存者の方ですよ!」
( ゚д゚)「ん……おお、そうですか」
そう答えて大きく伸びをする。
ばきばきと体中の間接が鳴る。
( ゚д゚)「今開けますよ」
「申し訳ないですねーミルナさん」
あれ、おかしいなと思った時にはもうミルナさんは内鍵を開けていた。
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 16:01:53.89 ID:Ucn4y/RF0
- 「キヒヒヒヒヒッ!」
全身真っ黒、顔だけ白塗りされたその姿はどう見ても
「人間」ではなかった。
(;゚∀゚)「や、闇人……!?」
こんな屍人はあの本には記述されていなかった。
闇に生きる屍人、闇人。
ふっと頭を過った名前だが、その装いからは言いえて妙だった。
(;゚д゚)「なんだお前は!新手か!?」
「ざんねん、でしたァ!」
男性、女性、子ども、老人。
様々な声が一つの言葉から聞こえる。
(;゚∀゚)「なんなのこの声!?」
ミルナさんが猟銃を構えるが、
その銃身を掴まれ、持ちあげられる。
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 16:06:14.01 ID:Ucn4y/RF0
- (;゚д゚)「ぬぐう!!貴様ァ!!」
力比べでは老人のミルナさんに勝ち目はない。
徐々に銃口が闇人の上へとずれていく。。
(;゚∀゚)「み、ミルナさぁん!!」
薬品のビンをひっつかみ、闇人へ投げつける。
効果があるとは思えなかったが、
なんとかしてミルナさんを助けたい気持ちでいっぱいだった。
(;゚д゚)「フン!」
下に力をかけていたミルナさんが、奥へと力を移動させる。
これにより闇人がバランスを崩し、私が投げたビンで足を滑らせた。
(;゚д゚)「占めた!つーさん、逃げるんじゃあ!!」
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 16:10:18.03 ID:Ucn4y/RF0
- (;゚∀゚)「は、はい!ミルナさんも!」
(;゚д゚)「ああ―――」
ミルナさんが転んだ。
私のビンのせいではなく、闇人がその足を掴んでいた。
「にがさなぁい、ミルナさぁん」
にい、と笑った。
(;゚д゚)「このっ!」
バァン、と音がしたが、闇人は銃を構えた時点で既に跳ぶ姿勢をしていて、
易々と銃撃をかわした。
そしてクリニック内へと続くドアの内鍵を開けてしまった。
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 16:14:13.05 ID:Ucn4y/RF0
- (;゚д゚)「ぐぅ、急ぐぞ、つーさん!」
(;゚∀゚)「はいっ!」
廊下を通り、外へ出る。
既に外は闇に包まれ、どこかに屍人がいるんじゃないかと
一瞬走りだすのを躊躇した。
その心配は、杞憂に終わらなかった。
(;゚д゚)「ぬぐお!!」
ミルナさんの声がして振り返ると、
待ち伏せをしていたらしい屍人がミルナさんを金槌で殴っていた。
(;゚∀゚)「ミ、ミルナさん!」
(;゚д゚)「ふん、こいつら、どうも儂とやり合いたいようじゃ!!
先に逃げてくれい!つーさん!
あんたに死なれちゃ、あの人に笑われちまう!!」
戸惑ったけれど、響く発砲音を背に私は走った。
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 16:17:28.19 ID:Ucn4y/RF0
ミルナ 映州地域/高岡クリニック周辺
初日/19:01:53
- 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 16:21:10.15 ID:Ucn4y/RF0
- つーさんは恐らく無事に逃げれた。
後は儂がこいつらを殲滅するだけ。
目の前の屍人に向かって発砲する。
屍人相手に至近距離で外すはずもなく、屍人が悲鳴を上げて地面で丸くなった。
闇人はまだ中から出てこない。
これ幸いとクリニックの壁を利用して、出てくるのを待ち伏せる。
しかしいくら待っても出てこず、幻視を試みる。
明るい施設の中。
きょろきょろとあたりを見渡す。
ふっと暗くなる。
瞼を閉じた。
<みつけた、そこにいるんだネぇ>
再び施設の中。
ばっと目を開ける。
なんだ、今の声は。
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 16:25:27.23 ID:Ucn4y/RF0
- 「みつけた」?「そこにいる」?
焦りと恐怖で混乱しそうだ。
いや、落ちつけ。
冷静に対処するんだ。
そう、あれはハッタリ―――
(;゚д゚)「がっ!!」
頭に鈍い衝撃。
誰かに殴られたと気づいたのは、冷たい地面の感触のおかげだった。
這いつくばって距離を取り、急いで立ち上がる。
そこには闇人が楽しそうな顔をして、フライパンを持って立っていた。
(;゚д゚)「や、やって、くれるじゃねぇか」
- 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 16:29:36.24 ID:Ucn4y/RF0
- 猟銃を構える。
今度は外さない。
引き金にかけた指に力を入れる。
発砲音が木々に反射し、響き渡る。
同時に屍人とは逆に高い声で悲鳴をあげながら闇人が倒れる。
ぶはぁ、と大きく息をつく。
息を止めているのに気がつかなかった。
危ない、戦いとは関係ないことで死ぬところだった。
弾を装填する。
歳を取って、この作業が苦手になってきた。
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 16:34:59.76 ID:Ucn4y/RF0
- すぐにつーさんを追わねば。
だが体は思うように動いてくれない。
傷を負いすぎたか。
それとも儂が老いすぎたか。
いやこんなくだらないことを考えてる場合ではない。
倒した屍人と闇人が復活してしまう。
急がないと。
顔を上げた瞬間、腕に激痛が走った。
殴られたのだ、と今度はすぐに気づいた。
その拍子に猟銃を落としてしまった。
(;゚д゚)「しまっ……!!」
「銃、ちからだァ!」
勢いよく壁に押し付けられる。
- 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 16:38:43.69 ID:Ucn4y/RF0
- どんどん首が締まっていく。
恐ろしい力の強さだ。
(; д゚)「ガッ……!」
苦しい。
こんな老いぼれの力では、この屍人一体どうすることもできない。
「ひひっ、ひっ、都むらよぉ、力だぜぇ……」
つーさん、無事に逃げてくれ。
兄者、つーさんを最期まで守れなんだ、すまん。
でぃさん、デレさん、儂はここまでのようじゃ。
―――ペニサス、
儂はまだそっちには行けそうにもない。
だけど、必ずそっちに行く。
その時は、また、お前が煎れてくれた、茶が飲みたい―――
- 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 16:42:40.26 ID:Ucn4y/RF0
ショボン 喫茶店「バーボンハウス」/居住スペース一階
初日/19:16:13
- 76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 16:46:29.46 ID:Ucn4y/RF0
- 「ふぅ……」
ショボンは神経を擦り減らしていた。
化け物に追われたり、拳銃を拾ったり、
雨が降ったり発狂した人間に襲われたり自殺の現場に出くわしたり。
大学受験の次位に神経を使ったと今日の出来事を振り返る。
目の奥が重く、こめかみを指でつまむ。
彼はまだ30歳になったばかりだが、もう30歳の大台に乗ったとも言える。
親戚や両親から結婚のことを聞かれ、気まずくなる年齢だ。
「もういいよ、この店と結婚するよ……」
ショボンが大きくため息をつき、椅子に深く座り込む。
- 77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 16:51:03.10 ID:Ucn4y/RF0
- 彼の脳裏に浮かぶのは、
カッターシャツに黒い長パンツを履いて彼の喫茶店で働く、
一人の女性の姿。
本当はどこぞの喫茶店のように、ピチピチギャルを雇って
ピチピチのウェイトレス服でも着せようかと思っていた。
だが、まずこの村にピチピチギャルがいなかった。
彼がその計画を挫折せざるを得ないポイントだった。
代わりに雇ったのはピチピチとは言えない年齢の女性だった。
これには彼も悲しんだ。
面接の時の彼女の最初の一言は、「このお店の屋根の色、趣味悪いですね」。
これには彼も怒った。
勢いに任せて不採用にしてやろうかとも考えたが、
バイトを募集しても彼女しか来なかったため、
考えを改めざるを得なかった。
これには彼も切なくなった。
- 78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 16:56:02.45 ID:Ucn4y/RF0
机に拳銃を置いて、残弾を確認する。
六発装填、薬莢は六発。
余裕はあるが、無駄には使えない数だ。
消耗品の銃の他に、健康素振り用に買ったバットが
こんなところで役に立つとは思っていなかった。
化け物が刃物を持っていても、バットで受け止めることができる。
そんな使用法ばかりしているため、既にバットは傷だらけだ。
その時、外から声が聞こえてきた。
それに反応して、拳銃を構える。
ショボンはふと、思い出す。
ドアに鍵をかけていないことを。
- 80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 16:59:54.00 ID:Ucn4y/RF0
クー 北美布/喫茶店「バーボンハウス」周辺
初日/19:32:49
- 83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 17:04:52.44 ID:Ucn4y/RF0
- 雨の中走るのって、すごく青春してるみたいだ。
私の青春時代は……いや、思い出さないでおこう。
(;´∀`)「渡辺ちゃん、大丈夫モナ?」
从'ー'从「うんっ平気っ!」
渡辺ちゃんは元気が有り余ってるのか、
モナー君に手をひかれて、雨にはしゃぐみたいに走っている。
川 ゚ -゚)「見えた見えた。あれだよ、あの趣味の悪い紫色の屋根の店」
懐中電灯で照らす。
(;´∀`)「職場の悪口言ってもいいんですかモナ」
川 ゚ -゚)「いいんだ、あいつのセンスズレてるし」
私はあの屋根の色は認めない。
絶対に色彩センスがおかしい。
もっともこれを言ったら「僕は芸術家肌だから」と逆にドヤ顔をされた。
今思い出しても腹立つ。
- 84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 17:09:20.87 ID:Ucn4y/RF0
- 外観から見るに、まだ他の家のように窓やドアに板が打ちつけられていない。
穴場だ、ここは。
( ´∀`)「でも、どうやって入るんですかモナ?」
川 ゚ -゚)「植木鉢の下に鍵がある」
( ´∀`)「僕の家と同じ隠し場所ですモナ」
从'ー'从「わたしの家はポストー」
鍵の隠し場所はどこも似たり寄ったりみたいだ。
店の入り口ではなく、住居スペースのドアの鍵穴に鍵を入れ、まわす。
手応えがない。
どういうことだ?
鍵は開いていた?
生唾を呑みこみ、ドアを開けてみる。
- 88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 17:13:57.98 ID:Ucn4y/RF0
- その瞬間、懐中電灯の明かりが向けられた。
(´・ω・`)「誰だ!」
(;´∀`)「うひぃ!!」
川;゚ -゚)「あひぃ!!」
从;'ー'从「きゃ!」
(´・ω・`)「……クー?お前、そうか、無事だったか」
川 ゚ -゚)「無事だったけど寿命が縮んだ」
(´・ω・`)「ふん、一度死んで軽口直して少しはクールになってこい」
川 ゚ -゚)「お前こそそのしょぼくれた顔をキリッとしてこい」
( ´∀`)「あの、その方は……」
モナー君がおずおずと聞いてくる。
- 92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 17:19:04.49 ID:Ucn4y/RF0
- 川 ゚ -゚)「ああ、こいつは」
(´・ω・`)「僕はショボンさ。
この喫茶店を経営してる。よろしく」
( ´∀`)「モナーですモナ。
縁あってクーさんと行動していますモナ」
从'ー'从「わたなべです。
えんあって、くーさんと、え〜と?」
川#゚ -゚)「……私に被せて話すの止めてくれないか」
(´・ω・`)「ん〜?聞こえんなぁ」
この男は、いつもどこでも変わらんな。
腹が立つ。
(´・ω・`)「あ、ごめんモナー君、鍵閉めてくれる?」
( ´∀`)「はいモナ」
- 96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 17:24:29.28 ID:Ucn4y/RF0
- モナー君が従順に鍵を閉めに行く。
川 ゚ -゚)「そういえばショボン、鍵閉めてなかったな?」
(´・ω・`)「ああ、ついうっかりね。少し疲れていたのかも」
そう言ったショボンの顔は、確かに疲れがたまっているように見える。
川 ゚ -゚)「……外は雨が降っていた。
タオルで水を拭いて、少し休もうと思ってるんだが」
(´・ω・`)「ああ。いいよ」
川 ゚ -゚)「ついでにショボンも休むとどうだ?」
ショボンが驚いた顔をする。
(´・ω・`)「……てっきり見張りをしろと言われるのかと」
少しでもこいつの心配をした私が馬鹿だったのかもしれない。
- 99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 17:28:35.02 ID:Ucn4y/RF0
ギコ 根谷川上流
初日/22:39:50
- 103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 17:32:38.77 ID:Ucn4y/RF0
- この数時間で闇人も視界を盗み見れる、
そして闇人の視界を長時間見ると、逆探知されるという結論を得た。
闇人を盗み見て、逆探知されてしまうことが数回。
今の俺はもうヘマはしない。
探知される前に場所を把握して、倒す。
さらに、闇人は化け物達を束ねているらしい、ということも結論づけた。
あいつは必ず取り巻きの化け物と現れる。
そしてその取り巻きは、単独の化け物よりも統率のとれた行動をする。
俺は化け物に見つからないよう、懐中電灯はなるべくつけていない。
それにも関わらず、二度ほど闇人に襲われた。
恐らく奴らは夜目が利く。
「闇人」と名付けたのはあながち間違いじゃなかったらしい。
- 107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/08/21(日) 17:35:00.06 ID:Ucn4y/RF0
- ピンクのポロシャツの化け物を探している。
この命を燃やすのは、ただ復讐。
あいつへの復讐。
こんなところで燃やしつくすわけにはいかない。
化け物が懐中電灯片手にうろついている。
音もなく背後に近寄り、背中を縦一直線に斬る。
邪魔だ。
こちらが懐中電灯を点けなくても、化け物が点けていたり、
視界を盗み見ることができるため、強襲は容易い。
加えて、この刀は妙に切れ味がいい。
一閃すればほとんどの化け物を斬り伏せられる。
これを拾ったのは僥倖だろう。
街灯を目指して、通りへと向かう。
まだ、あいつを見つけられていない。
(,, Д )「…………しぃ」
戻る 次へ