- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/05(月) 18:56:03.51 ID:DtiFPGpO0
- 春先のなんやかんや以降、とりたてて持ち上げるような出来事はなく、ブーン達は二年時と同じようなダラダラを満喫していた。中だるみである。
ブーン達の体感的には、始業式からまだ一週間程度しか経っていないような気分でいるらしい。なんとも気の入っていない彼らの脳髄だろうか。
( ^ω^)「……」
しかしながら毎日刺激的な日々を過ごす、というのはなかなか簡単な事では無い。
なぜなら毎日が刺激的でも、その刺激に慣れてしまえばそれはもう刺激とは呼べないのだ。全く人というのは不便なものである。
从 ゚∀从「……」
そう、人間は慣れる生き物なのだ。
慣れというのは恐ろしく、例えば慣れない人間からすればどう見ても奇怪な行動なのに、慣れてしまっている人間からはそれが当然であるかのような顔をする。
ξ゚听)ξ「おい、貴様ら」
説明はもう必要ないだろうか。現在この部屋には、慣れてしまった二人と、未だ慣れていない一人が混在し、その噛み合わない感覚が今まさに軋轢を生もうとしている。
( ^ω^)「あー、なんだお、ツン」
从 ゚∀从「ツン、どうした?」
気の抜けた二人の返事。ツンはブーンに相談があるため彼を部屋に呼んだのだが、何故かハインもついてきた。単純にロビーで出くわしたらしいが。
その点はツンも特に文句は無く、彼らを迎い入れることにしたわけだが、二人はあろうことか、
ξ#゚听)ξ「解らないの!?なんで人の部屋に来るなりハインがブーンに乗っかって一緒に座ってんのよ!!」
ツンの琴線に触れる行動に走ったのだ。
第八話「水とステルスストーカー」
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/05(月) 18:57:18.57 ID:DtiFPGpO0
- ( ^ω^)「仕方ないお。毎回あしらってたらもうなんかこれで安定してしまったんだお」
从*゚∀从「そうそう。ここは俺の特等席だ!なーせんぱーい!」
( ^ω^)「だおだお。ハインは愛でるのにちょうどいい小ささなんだお。よしよし」ナデナデ
恋人でもないのに過剰にいちゃつく二人に湧き上がる殺意。
彼女が喫煙者ならば、この部屋にはすぐに手の届く範囲に灰皿が置かれていただろう。
つまりは彼らの死因は少なくとも撲殺ではなくなる可能性があるわけだ。
そこでツンは机から二つ金属球を握る。
その一つを座っている男の向こう側に投げた。そんな彼女の行動の意図に気付いた男は目を見開く。
( ゜ω゜)「まつお!」
ξ゚ー゚)ξ「ジンギスカン?」
彼女は笑顔で、羊を焼いて食った。
( ω )「ぐあっ!」
金属球はツンを目指しひとりでに動き出す。しかしツンと金属球の直線状には、馬鹿面を下げた男が座っていた。
なんという偶然。彼は不運の星の下に生まれたのだろうか。
ξ゚听)ξ「あら、ごめんなさい。ちょっと能力発動の訓練をしていて」
彼に彼女の声はおそらく聞こえていない。
現在白目が黒目の捜索願いを脳に出そうとしているところで、そんな場合ではないのだ。
从;゚∀从「ぅあ!先輩がぁ!ツンなんてことを!先輩は頭にドロップキック喰らわせても気絶しないのに!」
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/05(月) 18:58:08.23 ID:DtiFPGpO0
- ξ;゚听)ξ「え……?ハイン、地味にとんでもないことしてたのね……」
事件性も見え隠れするハインの発言は捨て置き、とりあえず倒れた男を蹴るツン。
ξ゚听)ξ「起きてよ!あなたに頼みたいことがあるの!」
気絶させるような怒りをもたらした相手なのにもかかわらず頼みごとをする。
これはツンのブーンへの信頼がなす業なのだ。単に厄介事を押し付けたいわけではない。
数回揺すられるように蹴られたブーンはようやく意識を回復した。
( ゜ω゜)「フウゥッ!無事かお僕ゥ!」
そんな発言をする人間は大抵の場合無事ではないと周囲に判断されるだろう。
人によっては異常な金額を請求する黒い名医を紹介するかもしれない。
それだけ彼のテンションは上がっていた。テンションが上がった理由は無い、あるとすれば若気の至り。
いつの時代も若さというエネルギーは、ハンドル操作を誤ると自らの破滅を招くものなのだ。
ξ゚听)ξ「話、していいかな?」
( ^ω^)「バッチ!来いだお!」
両手の袖が邪魔なのか素早く上に突き出し、さらに同じように素早く元に戻す。
そしてプロレスラーのような構えをし、ツンに向き合った。
ξ゚听)ξ「あのね、今日私が帰る時、一緒に帰って欲しいの」
( ^ω^)「なんだそんなことかお。でもなんでだお?」
ξ゚听)ξ「最近ね、なんだか尾けられてる気がするの」
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/05(月) 18:59:23.06 ID:DtiFPGpO0
- ツンはニュー速圏内から少し離れた所でコンビニのバイトをやっているのだが、彼女のバイト終了時間は少し遅い。
さらに活気のあるニュー速を離れた微妙な位置に立地しているため、普段の帰り道ではほとんど人気がない。
しかしツン曰く、最近では彼女がコンビニから帰る途中、誰かがついてきている気配がするという。
それはニュー速に入ると消え、そこから人もちらちら歩いていて、ある程度安全になるらしい。
ξ゚听)ξ「だから……守ってくれない、かなー、って……」
急にとぎれとぎれに言葉を紡ぎ、声も小さくなるツン。
しおらしい彼女を見るのが新鮮に感じたブーンは、いやらしい笑みを浮かべた。
(*^ω^)「ええ?ツン、なんだお?聞こえないお?ドゥフフwwwwwwww」
ξ;゚听)ξ「あの、だからぁ……」
(*^ω^)「ん?んん?」
ξ;凵G)ξ「……一緒に居てよ…………怖いんだもん……」
( ゜ω゜)「……!!」
彼はやられてしまった。ミイラ取りがミイラになった瞬間である。いや少し違うだろうか。
目を潤ませた彼女の声は薄幸の美少女のような弱弱しさをブーンに叩きつけ、彼の持つ保護欲を抉るように掻き立てた。
そんな触れると崩れ去ってしまいそうな彼女の肩を、ブーンは全霊を込めてやさしく、そしてしっかりと抱きしめる。
ξ;凵G)ξ「……ブーン……」ウルウル
( ^ω^)+「大丈夫だお。僕が、君を守るお……」キリッ
以前ツンとクーがやっていた茶番の再現である。
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/05(月) 19:02:29.59 ID:DtiFPGpO0
- こんな冗談も彼らの堅固な信頼関係から成立するわけだ。
暇になったハインはその間部屋の冷蔵庫を漁り、中のコーラを一気飲みした。
从;゚∀从「ぷはっぅえほっ!あ、終わった?」
( ^ω^)「まあとりあえず、バイトが終わる10時前に行くお」
ξ゚听)ξ「わかったわ。ありがとね、ブーン……あとハイン、代金よろしく」
从 ゚∀从「はいはーい」
電子レンジの上に小銭を置きつつ、ブーンの方に駆けてくるハイン。
从*゚∀从「先輩、今日はかふぇ・すい〜つ(笑)に行きましょう!俺食べたいパフェがあるんですよ!」
そして跳びつくのだが、ブーンは回転し軽やかにいなす。
从 ゚∀从「うおっ!」
そしてかわされたハインは頭からベッドに跳び込んだ。
( ^ω^)「それはいいお。行くかお。歩いて行ってダラダラすればいい時間だお!」
ξ゚听)ξ「……まあいいわ。私はこれからバイトだから、悪いけどお願いね」
( ^ω^)「オッケーだおー!」
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/05(月) 19:07:46.91 ID:DtiFPGpO0
- それから中央通りで三人は二つに分かれる。
ξ゚听)ξ「はぁ……」
ため息をつきながら猫背で歩くツン。
―――やっぱりハインに会わせたのは失敗だったかな……。
どういうつもりか知らないけどブーンはくっつくハインを嫌がらないし……。
あ、こうなったら私もスキンシップしようかなあ……。でもさっきみたいに結局遊んじゃうし……。
いや、本気になってああいうのやるのも恥ずかしい。でもなんだかハインに遅れをとってるような……。
あれ、結局どうしたいんだろう。
わからんのう……。
ξ;゚听)ξ「はあぁぁぁぁぁぁ」
溜め息は答えを連れて来てはくれない。
けど今はまだ、私はそれでいい気がする。
なんとなく。
憂鬱気分を吹き飛ばす意味を込め、彼女は仏頂面でスキップし始める。
ξ゚听)ξ「ぬう……いまいち楽しい気分にならない……」
それは猫も逃げ出す程の不自然さであった。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/05(月) 19:12:51.07 ID:DtiFPGpO0
- ( ^ω^)「あ、ドクオだお」
前方を歩く身長差のほとんどない黒い頭と赤い頭を発見するブーン。
(#^ω^)「ドクオぉぉぉぉ!」
助走をつけ、条件反射的にドロップキックをする。
('A`)「ふん」
首のみで回避する。そして襲撃者の着地を狙い、背骨に蹴りを入れる。
( ^ω^)「ぅ、今回は一本取られたお」
背中をさすりながらへらへらする野郎。一緒に居たヒートは呆れ顔である。
ノパ听)「またか!いい加減飽きないの!?」
( ^ω^)「これは宿命なんだお」
('A`)「ちげえだろ。毎回お前が一方的に来てんだろうが」
( ^ω^)「はぁ、ツンが関わらない時のドクオはつまんないお。ハイン、行くお」
从 ゚∀从「ういっーし」
ノハ*゚听)「あ、ハインだ!」
从;゚∀从「わっ!」
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/05(月) 19:18:23.75 ID:DtiFPGpO0
- 赤髪の女が、手前を走る前髪長い女を前のめりになって捕まえる。そのままヒートはハインの首に腕を回した。
ノハ*゚听)「なーなーどこ行くんだ!?」
从 ゚∀从「先輩とかふぇ・すい〜つ(笑)だよ」
ノパ听)「なにぃ!私も行くぞ!いいよなブーン!」
( ^ω^)「もちろんだお」
ノハ*゚听)「いこーぜハイン!」
从*゚∀从「うん!」
本来年下嫌いである彼女がハインになぜ絡んでいくのかと言えば、三週間ほど前の事。
そのころ『ストイック』な自分を模索するハインがヒートに弟子入りしに行ったのだが、どうやらそこで『何か』があったらしい。
それからヒートはハインにちょっかいを出すようになり、いまの行動に繋がってしまうわけだ。
二人は手をつないで先に行ってしまう。残ったのはパッとしない野郎ども。
('A`)「ヒートと糞ゲー買うつもりだったんだが……まあいいか」
( ^ω^)「相変わらずドクオ達は仲良いお」
('A`)「毎回言うが、あいつと俺はお前とジョルジュみたいな関係だぞ」
( ^ω^)「別に何も言ってないしわかってるお。で、ドクオも行くかお?」
('A`)「生憎だが腹は減ってない。まあ、今度組み手でもしようぜ」
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/05(月) 19:23:44.70 ID:DtiFPGpO0
- ( ^ω^)「だお。それじゃ」
('A`)「ああ」
振り返りながら手を振るドクオ。だが誰もその手を見ていないことに彼は気付いていなかった。
晩飯時にデザート中心の喫茶店に入るなど愚の骨頂だとブーンは考えるのだが、この時間でもなかなか客が入っているかふぇ・すい〜つ(笑)。
パフェのような甘々したもので腹を満たすことを考えると胸やけを引き起こしそうになる。しかし彼は甘いものが好物でもあるのだ。
オーダーは既に決まっている。ブーンはブサメンを見てしまった目の保養に二人がじゃれあう様子を眺めることにした。
ノパ听)「ハインは何食べたいんだ?」
从 ゚∀从「俺はマロンパフェにするんだ。おいしい」
ノハ*゚听)「マロンか!おいしいよなきのこ!」
从*゚∀从「うん!モンブランとかも好きなんだ!ヒートは何にするんだ?」
ノパ听)「私はいちごかな?赤いの好き!」
从 ゚∀从「ヒートはなんつーか赤いもんなー、これって地毛?」
ほぼ零距離で話すハインは自分の肩にかかる赤毛をつまんだ。
ノパ听)「ちがうぞー。染めたんだ、かっこいいだろ!」
从 ゚∀从「似合ってる!あ、先輩決まってます?」
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/05(月) 19:29:10.80 ID:DtiFPGpO0
- ( ^ω^)「大丈夫だおー」
それからウエイトレスを呼ぶハイン。この一カ月でブーンは、彼女が意外と他人に気を配れる人間であることを発見していた。
注文を終えると、ヒートがハインの髪を撫でる。
ノパ听)「ハインは染めなくても変わった髪だろ?金持ちの犬みたいだ!」
从 ゚∀从「ありがとヒート。でも小さいときは結構いじられたんだよこれ」
ノハ*゚听)「そーなのか?じゃー私もいじるぞー」
从;゚∀从「うわ!やめてヒート、なんか恥ずかしい!」
髪をわしゃわしゃ弄るヒートは無邪気な顔で、されるがままのハインは困ったような笑顔を見せる。
赤と白のコントラストに映える二人は何とも微笑ましい。
これでもうブーンはお腹一杯、
( ^ω^)「あー腹減ったお」
ということは全然無く、頬杖をつきながら注文の到着を待っていた。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/05(月) 19:34:29.12 ID:DtiFPGpO0
- 川@д@)「おまたせしましたー。ストロベリーチーズケーキパフェのお客様ー」
ノパ听)「はーい」
川@д@)「あなたもメロメロマロンパフェのお客様ー」
从 ゚∀从「俺です」
川@д@)「ダイナマイトオクトパスパフェのお客様ー」
( ^ω^)「はいですお」
川@д@)「モツ鍋パフェのお客様ー」
( ^ω^)「それもですお」
川@д@)「ご注文は以上ですね。んちゃ!」
背の低い眼鏡の店員が去ると、テーブルにはかわいらしいガラス製の容器が二つ。
そしてそこに盛られたものと対応するような二人がいて、反対側に座るブーンを見ていた。
从;゚∀从「なんすかそれ……キモいですよ……」
ハインが指したのはブーンの右側、一般的にパフェに用いられる背の高いグラスから溢れるタコの足だ。
傍らにはクリームが入った容器もある。ところどころ衣がこびりついており、どうやら一度油で揚げられているらしい。
なだらかな曲線を持つグラスが油によってところどころ茶色く濁っていてとても汚い。
(* ^ω^)「ダイナマイトオクトパス、通称タコ盛りだお。カリカリに揚がったタコの足がウマいんだお」
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/05(月) 19:39:46.20 ID:DtiFPGpO0
- 从 ゚∀从「あ……そうすか……」
嬉しそうにタコの足をつまむブーンに彼女は何も言えなかった。
一方ヒートは先程から鍋の方を見ている。それはどう見ても鍋で、パフェでも何でもなかった。
ノパ听)「それ、鍋だよな?」
( ^ω^)「鍋だお」
ノパ听)「ここ、パフェ専門店だよ?百歩譲ってパフェの容器に入ったそっちのタコはいいよ?大いに歓迎だよ。でもそれ鍋。鍋なんだよ?」
( ^ω^)「モツ鍋パフェだお。ヒートも食べるかお?」
ノパ听)「う………パフェの定義は私にはわからないけど……なんか納得いかない!」
そして自分の目の前のパフェをつつく彼女。
ノパ听)「甘い……うん、パフェだ。おいしい……」
从 ゚∀从「俺も食べよ……」
(* ^ω^)「ハフハフ……モツ鍋うめえお……!」
一人暑苦しいものを貪り、二人の少女はパフェを食べさせあったりして喜ぶ。
それらを食べ終わった後もブーンのモツ鍋をつついたりしながら遊んでいた。
( ^ω^)「ちょ、それ昆布じゃなくて僕の……っと、そろそろいい時間かお」
从 ゚∀从「ですね。ヒート、帰る?」
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/05(月) 19:45:04.38 ID:DtiFPGpO0
- ノパ听)「帰るぞー。ハインは私の部屋な!」
从 ゚∀从「うん。じゃあ行こう」
三人は席を立ち、店の前でブーンは一人違う方向へ。
彼女らを送っていくにはツンのコンビニへと向かう事を考えるとかなり遠周りになるため、
最短距離で行くにはこの時点で別れなければならない。
ノパ听)「ハイン、もっとゆっくり帰るぞー」
そもそもヒートがいる時点で送っていくなどという心配はいらない。
彼女はかなりの実力を持っているのだ。オリエンテーションで紹介されるのも当然である。
ブーンはたかだか学年で中の上クラスなので、むしろお荷物とも言えるかもしれない。
从 ゚∀从「ちょっと寒いな。急ごうよ」
ノハ*゚听)「寒いのは手をつなげば解決するぞー!」
手をつなぐ彼女たちの後ろ姿を確認したブーンは身を翻して歩き出した。
ヒートが少々変わった嗜好であることを思い出しながら、ハインを自然に押し付ける方法を思案する。
もっとも今のままなら、ブーンはハインを邪険に扱うことはない。完全にペットのような感覚で接してしまえるのだ。
( ^ω^)「まあ、問題が発生しかけたときに対処すればいいお」
夜風はそれほど強くない。気温はモツ鍋を食べたブーンならば涼しい程度だ。
ちんたら歩いていくと人気も明かりも徐々に減ってゆき、目的の場所に到達。予定時刻より15分ほど早くなった。
週刊漫画誌を手に取り、読み始める。ジョルジュが集める漫画の最新話があったので、あとでさりげなくネタバレしようとブーンは思った。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/05(月) 19:50:46.10 ID:DtiFPGpO0
- ξ゚听)ξ「ブーン、私もうあがれるわ。帰りましょ」
( ^ω^)「おー」
二人で並んで歩くのだが、心なしか普段よりツンが近い。
まだコンビニを出たばかりで例の人の気配はしないのだが、それほどにツンが警戒していることを認識させる。
( ^ω^)「寒くないかお?」
ξ゚听)ξ「え?うん、ちょっとね」
( ^ω^)「そうかお」
ふと、あることを思い出し、側にあるツンの手を握るブーン。一瞬、彼の隣の彼女の肩はびくりとする。
( ^ω^)「これで寒くないお」
言葉を返さない彼女。当然、寒くなくなるから、などといった理由で彼は手を握ったのではない。
不安に身を強張らせる彼女を気遣っての行動だ。
ξ゚听)ξ「……気障ね。似合わないわよ」
やがて冷たく言い放つツンだが、しっかりとブーンの手を握り返していた。
これで少しでも彼女の不安を払拭できたのなら、多少馬鹿にされるのもいいだろう、と思っていた。
ξ゚听)ξ「あ、この辺ね。ここからニュー速までずっとついてくるの」
ツンがいう場所はニュー速から徒歩10分程の所だ。ここからニュー速まで、毎回異様な気配を感じながら帰っていたという。
多少なりともストレスを感じていただろう。なんとも不憫な話である。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/05(月) 19:52:55.74 ID:DtiFPGpO0
- ( ^ω^)「……」
ブーンは警戒を強めた。確かに背後から人の気配がする。しかし軽く振り返ってみてもそこには誰もいない。
一体どこに隠れているのか。舗装された道に隠れるような場所はほとんどない。せいぜい電柱の陰程度だ。
( ^ω^)「今まで姿を見たことはあるのかお?」
ξ゚听)ξ「一度も無いわ。それに一回走って帰ったんだけど、
それでも全然離れてる感じはしなかったの。そこで振り返っても誰もいないし。変な話よ」
( ^ω^)「確かに妙だお。でも危害を加えられていないなら過剰に神経質になることも無いお」
ξ゚听)ξ「いつどうなるかなんてわからないじゃない。用心に越したことは無いでしょ?」
(;^ω^)「じゃあ僕は毎回ツンを迎えに行くのかお……」
ξ゚听)ξ「別にいいわよ。さすがに迷惑だと思うわ」
( ^ω^)「……いや、行くお。ツンは大事な班員だお」
ξ゚听)ξ「はぁ……今日のあなたはホント気障。正直凄く嬉しいけど。ありがとね、ブーン」
弱弱しく笑う彼女は彼の目を見ようとせず、自分の爪先を追いかける。
( ^ω^)「あ、でもなにかおごってくれお!ボディーガード代だお!」
明るく催促をするブーンに、ツンはしっかりと頷いた。
その後は適当な話題をふり合い、特に何事も無く寮に到着する。
そして翌日の講義室。面倒事はこちらで起こった。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/05(月) 19:55:30.55 ID:DtiFPGpO0
- ( ・∀・)「姿の見えない相手か……面白いな」
_
( ゚∀゚)「それ系の能力持ってる奴はしらねーな。探してみるか?」
( ^ω^)「いや、とりあえず僕も一緒にいるから、危害が加わるまでは静観しようかと」
_
( ゚∀゚)「もしお前に対処しきれない問題だったら、後悔するのはツンだろうな」
( ^ω^)「それは……そうかもしれないお」
('A`)「やはりお前にツンちゃんは任せられん!」
河童のような河童がブーンの背中に手をついていた。
( ^ω^)「なんだおドクオ」
(#'A`)「俺もコンビニ帰りのツンちゃんを守らせてもらうぜ。ノーと言えばッ!体を両断するッ!」
イカれた発言である。昨日ブーンと言葉を交わした彼はどこへいってしまったのだろうか。
( ^ω^)「ノーとは言わないお。でもお前の方が危険な気もするお」
彼はツンのことに関するとどうしても気持ちの悪い河童として覚醒してしまう。
以前ジョルジュが聞いたその理由は、ツンがものすごく萌える、というものだった。
甚だ理解に苦しむ理由であるが、彼は意外にも一度としてにツンに危害を加えたことは無い。自他共に認める変態紳士なのだ。
('A`)「安心しろ。ツンちゃんには直接会わない。そのストーカー野郎をストーキングして粉微塵にしてやるよ」
( ^ω^)「ストーカーなのかお?ストーカーよ」
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/05(月) 19:57:37.43 ID:DtiFPGpO0
- _
( ゚∀゚)「そうではない、とは言えねーな。とりあえず、俺は能力のことでも聞き込んでおくかね」
( ・∀・)「どうしても困ったら俺が行ってもいいぞ。そいつの頭ぶっ壊してやる」
やたら物騒なモララーを全員でスルーしたころ、講師が部屋にやってきた。
('A`)「今日は俺がついてくからな!」
どうやら本当に鬱陶しい付属品がついてくるようだ。
キュウリは必要だろうか、とブーンは講義を受けながら思っていた。
昨日のようにコンビニに向かい、昨日のようにツンを待つ。
ドクオには時間と場所を教えたのだが本当に姿を見せる気がないのか、どこにも彼の姿は無い。
ξ゚听)ξ「ブーン、帰りましょうか」
ツンのバイトが終わったようで、申し訳なさげにちょこちょこ歩いてきたツンが本を読むブーンの袖を引っ張る。
そんな彼女に、ドクオが萌えてしまうのも納得してしまいそうになるブーンであった。
( ^ω^)「今日はスーパーサブで後ろからドクオがついてきてるお」
ξ゚听)ξ「そうなの?申し訳ないなあ……あとでお礼言わなきゃ」
( ^ω^)「あいつは好きでやってるだけだお。ツンが」
ξ;゚听)ξ「うう……。でも見返り求めないのよね……あの人もよくわかんない人だわ……」
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/05(月) 19:59:40.14 ID:DtiFPGpO0
- ドクオがツンを好きだというのは恋愛感情のようなものではない。
彼は悪い意味で二次元慣れしてしまっていて、双方向の感情にこだわらないただ見守る愛を持った変態なのだ。
きっかけがあれば簡単に暴走してしまいそうであるが、その場合に被害を受けるのは常にブーンである。
もちろんそんな事実をツンは知らない。知る由もない。
( ^ω^)「結局いい奴なんだお」
ξ゚听)ξ「そうなのかな?ブーンがそう言うなら、そうなんだろうけどね」
会話もそこそこに問題の地点へ到達。やはり後ろに誰かがいるような気配。
( ^ω^)「考えてみればなんでこの地点から後ろに気配を感じるんだお。ここ一本道だお」
そうなのだ。気配を感じる地点からニュー速まで、横道に逸れるような道は無い。周りになにも無い車道が一本だけ走っている。
誰かにすれ違うことももちろんない。どこか不自然さがあるのだ。そのへんに何らかの能力で隠れていると考えるのが妥当である。
ξ;゚听)ξ「きゃぁ!」
( ^ω^)「へ?どうしたお?」
ξ;゚听)ξ「髪!触られた……」
(;^ω^)「な……」
震えるツンの肩を掴むブーン。ついに被害、といってもごく小さなものだが、不可視の何かに触れられる恐怖は彼女にしかわからないだろう。
ましてやここ数日でなんとなく感じていただけのものが、現実感を持って触覚を刺激したのだ。あらこれは怖い。
( ^ω^)「ドクオ!ちょっと来てくれお!」
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/05(月) 20:03:30.14 ID:DtiFPGpO0
- 大声で叫ぶブーンは変態を呼びつける。
彼はかなり遠くに居たのか、駆け足で来ながらもそれなりに時間がかかった。
(;'A`)「どうした!ツンちゃんがグロッキーじゃないか!」
( ^ω^)「僕らとドクオの間には誰もいなかったかお?」
('A`)「少なくとも視認はしていない。なにがあったんだ?」
( ^ω^)「ツンの髪が触られたらしいお」
(#'A`)「なんだと?殺してえ……」
殺意の籠った視線を周囲に投げつけるドクオ。本人は知らないだろうが、実はこの顔は滅茶苦茶怖い。
特にブーンは何度かこの目に本気でビビらされたことがある。
そこで少しだけ、気配が揺らいだ。
( ^ω^)「!!……やっぱり誰かいるお!」
('A`)「ああ、そのようだ。お前はツンちゃんを連れてすぐに帰れ。俺がこいつを殺す。一晩かけても」
なんという気合。ブーンは足取りの重くなったツンを連れ、さっさと帰ることにした。
( ^ω^)「すまんこ、任せるお!ツン、行くお」
('A`)「……」
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/05(月) 20:08:33.31 ID:DtiFPGpO0
- ―――二人がもう見えなくなった。しかし誰かの気配は消えていない。
('A`)「……おい」
見えない誰かに話しかける。当然耳くらいは聞こえてるだろう。
そこでドクオは地面に指をつけ、爪から水を噴射。道路のコンクリートに穴をあけた。
('A`)「見えたか?俺は今からこいつを全方位に撃つ。死にたくないのなら姿を見せろ」
もっとも姿を見せた瞬間に殺すつもりだ。こいつはツンちゃんに触れたのだ。万死に値する。
('A`)「あと二秒だ。出て来い」
気配に変化は無い。ならば。
両手の五指から水を噴射しながら回転する。
たとえかわしても着地の音で場所を特定できる。その時が最期だ、ストーカー野郎。
('A`)「そこか!」
かさり、と道路脇の草が踏みしめられる音がドクオの耳に飛び込んできた。
どうせ相手には傷はつけられないが、水さえかかれば状況は好転する。待ってろクズ。
右手の五指を向ける。しかし水は的に命中することは無く、周辺の土を吹き飛ばすのみ。
それでも確実に足音は聞こえ、それはドクオの背後で止まった。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/05(月) 20:14:37.63 ID:DtiFPGpO0
- ('A`)「舐めやがって」
気配に爪を向けるドクオ。しかしやはり水が対象を穿つことは無い。尚もひたすら足音を追うが、なかなか捉えられない。
('A`)「……」
速すぎる。俺の手先の移動で追い切れないなんて、相当な手練れか?
姿を消すだけの相手ではないらしい。こいつは危険か。
('A`)「ちっ!」
手を振る。
やはり追い切れない。遊ばれてる?何のために。
('A`)「おい、何が目的だ」
周囲に水をばら撒きながら話しかける。
これで隙を見せる相手ではないだろう。もとより返答も期待できない。
水を踏みしめた音。そして気配は再度ドクオの後ろへ。そこで彼の耳に囁くような低い声がした。
「ただの予行演習だ」
('A`)「!」
頭部に衝撃。ドクオはそこで意識を失った。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/05(月) 20:19:42.26 ID:DtiFPGpO0
- ドクオが帰ってきていないことに気付いたブーンは翌朝、ジョギングしながらコンビニへの道を進んでいた。
( ^ω^)「万が一もあり得ないとは思うんだけど……」
ブーンが昨日迷わず逃げ出したのは、ツンのこともあるが、何よりドクオを信頼したからだ。
彼ならば一人でもあの状況で何か成果を得られるはず。そう踏んだ。しかしドクオは朝になっても帰ってこなかった。
一晩かけるとは言っていたが、本当に一晩かかるような長丁場になるはずがない。
( ^ω^)「……」
昨日の場所には誰もいなかった。安心したような、余計不安になるような気分になるブーン。
とりあえずコンビニに行って飲み物でも買うことにし、また駆けだした。
( ^ω^)「って何してんだお……」
コンビニの前で座り込み、肉まんを食べる男にブーンは声をかけた。
彼は目の下に隈ができており、いかにもだるそうな表情である。
('A`)「お、ブーン。ツンちゃんは大丈夫か?」
( ^ω^)「ツンはバイト辞めるそうだお。三週間はまだ辞められないみたいだけど。そもそもなんでバイトなんか……」
('A`)「じゃあ三週間はあいつを殺すチャンスがあるのか?上等だ」
( ^ω^)「顔、見れたのかお?」
('A`)「いや、声だけ聞いた。負けちまったよ」
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/05(月) 20:24:49.40 ID:DtiFPGpO0
- 苦笑するドクオ。彼の口から負けたと聞くのはいつ以来だろうか。
彼の力の性質上、本気で戦うことがそもそも少ないので、抑えられたとしても基本的に負けを認めないのだ。
あの気配は一体何なのか、ブーンにそれを知る手立ては無い。
( ^ω^)「……」
('A`)「ま、帰ろうぜ。今日こそヒートと糞ゲーを買ってやる」
( ^ω^)「ドクオ」
('A`)「なんだ?」
( ^ω^)「わかった情報を教えてくれお」
単純な好奇心だ。
ドクオに負けを認めさせる相手がどんな奴なのか、興味がある。
出来れば手合わせしたいとも思ってしまうのは彼の悲しい性分である。
('A`)「……おう」
ドクオがブーンらが去ったあとの出来事を話すと、二人は寮へ帰った。
今日は休日である。
第八話「水とステルスストーカー」・終わり
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