- 2 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 20:13:34.07 ID:D6WGHiOW0
- バーボンハウスの入口の扉を開け、外を歩き出す。
空にはもう直ぐ吹雪になることを予言しているかのような雪雲が不気味に漂っている。
まだ少し混乱しているが、忘れていたことを思い出した。
何故この街に俺が来たのか。
ミセリと俺が既に出会っていたこと。
ブーンのこと。
まずはミセリに話をつける。
そしてブーンを起こす。
ブーンを起こすことは難しいことじゃない。
俺が覚悟をして奪えばいい。
だから、まずは"アレ"を買いに行こうと思う。
第4話 偽りの始まりの話
- 4 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 20:15:32.06 ID:D6WGHiOW0
―― ある雨の日 過去のお話 ――
俺はその頃ちょうど1年だけ勤めた会社からリストラされ、家で転がる毎日を送っていた。
外を見ると真っ黒な空が広がり、大粒の涙が地面に降り注いでいた。
('A`)「ああ、今日も雨か。職安いくのもたりぃ……」
既に人生を投げていた。
ろくに資格もなくて、ほとんど社会経験もない。
あるものといったら20歳という若さと、車と単車の運転免許くらいなものだった。
恋人もいない。
年齢=彼女いない暦も極めれば、むしろいない方が正しいという考えが身についていた。
既に何社も面接にはいったものの、全て落ちた。
やりたいこともよくわからなくて、何でもやる気はあるんだが、いまいち動けなかった。
それでも「早く就職しろ」と両親にせかされ、欝が加速した。
遠くに聞こえる車のエンジン音で、昼間だというのに親が帰ってきたのがわかった。
- 5 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 20:18:20.15 ID:D6WGHiOW0
- 親と……特に父親と顔を合わせるのが嫌で、雨の中単車で職安を目指すことにした。
――祝日だというのに。
メッシュジャケットに袖を通して、フルフェイスのヘルメットをかぶる。
心に余裕がなくて、運転も荒い。
遠くの方から爆発音が聞こえ、雨と火薬の混ざった匂いが漂ってくる。
その日は祭りだった。
雨だというのに道路脇には屋台が並び、
楽しそうな顔をした人々が傘をさして歩道を行きかっていた。
('A`)「チッ……浮かれやがって」
シールド越しにそれらを見て、悪態を吐く。
路面の小さな起伏が、雨の所為で大きく感じた。
マンホールの上を走るとタイヤが滑った。
何度も操作ミスをしながら、目的地を目指す。
雨が服やヘルメットの中に入って、気持ち悪さと涼しさを感じさせていた。
俺は、何のために生きているのかわからなくなっていた。
恋人なしのニート。
その現実は「俺早く死なねぇかなぁ」という考えを頭に植えつけていた。
このまま事故にでもあって"墓地を埋めるもの"の一つにでもなってしまえばいいと思った。
- 6 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 20:20:32.11 ID:D6WGHiOW0
- そして、事故が現実のものとなった。
片側2車線の道路。
左側の車線を走る俺に右側の車線の少し前方を走るトラックが
ウィンカーも出さずに車線変更してきた。
まずいと思って急ブレーキをかけるが、出しすぎていたスピードでタイヤが滑る。
横滑りしながら、地面が段々と近づいてくるのがわかった。
水溜りから跳ね上げられた水しぶきが、ヘルメットのシールドにかかって前がよく見えなくなる。
('A`)(ああ、こりゃ死んだな。親より先に死んですまん)
先ほどの考えと比べて、矛盾とも思えるそれしか頭の中に無かった。
跳ね飛ばされた体は幾度か地面にうちつけられて、
最後に歩道を歩く少女にぶつかって止まった。
少女も俺も地面に頭をぶつけ、そこに横たわっていた。
少女の居る場所には赤い水溜りができており、
振り続ける雨がその色を少しずつ薄めていた。
同時に俺の周りにも同じ色の水溜りができていたのだと思う。
――視界が赤かったからだ。
- 7 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 20:23:27.37 ID:D6WGHiOW0
- 自身で確認できた状態は"体中の骨が折れている程度"だった。
死ぬのには、到底届かなかった。
目を瞑って、もう目覚めなければいいのに。
ただ、巻き込んでしまった少女だけは助かって欲しい。
本当にそれだけが、最初で最後の誰かを想っての神への頼みだった。
そのまま地に浸み込む水のように、意識が闇に浸み込んで行った。
目が覚めると、泣き出しそうな顔をした両親が傍にいた。
医者の話では「信じられない」ということだった。
自分の体よりも巻き込んだ少女のことだけが、心配だった。
('A`)「……」
口の動きがうまくいかなくて声が出しにくい。
医者が言うには「一時的なものですから、明日目が覚めれば喋れるでしょう」とのことだった。
麻酔か何かの影響だろう。
体が痛くてジェスチャーも満足に出来なかった。
- 8 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 20:26:23.85 ID:D6WGHiOW0
- うまく声の出ない口だけで、こちらを見る母親に意思を投げかける。
J( 'ー`)し「なぁに?」
パクパクと魚のようにあける口を母親が読み取る。
J( 'ー`)し「おん……? ……女の子? 事故に巻き込まれた娘のことね?」
なんとか伝わったようだ。
父親からの「大丈夫。頭を数針縫うだけですんだみたいだ」という言葉を聴いて、安心した。
久しぶりに心が休まった気がした。
その報告を聞き、張り詰めていた糸が切れたおかげで、意識が薄れていく。
ガラッという扉の開く音と共に、医者が病室へと入ってきた。
( ・∀・)「ご両親、ちょっと……」
そこで、意識は途切れた。
- 9 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 20:29:32.87 ID:D6WGHiOW0
- 病院での生活が始まった。
その頃から、俺の周りではおかしなことが起こるようになった。
俺の病室へ入ってきた看護士が「何の用事だったっけ?」と言って帰っていく。
同じく医者も「次の処置、なんだっけ?」と危ないことを言ったりした。
つまり、看護士や医者がど忘れをすることが多くなったのだ。
先に退院していた少女は、何度も俺のところへ見舞いに来てくれた。
幸い彼女に傷は残っていないようだった。
巻き込んだ張本人だというのに、彼女は俺に対してかなり友好的で優しかった。
今日は学校で何があっただとか、何で笑って、何で泣いて……。
他愛もない会話をよくしてくれた。
そのとき、お礼とばかりに誰かが見舞いに持ってきたケーキを一緒に食べた。
見た目は凄く甘そうなショートケーキ。
……が、何が材料に使われているのか不明だが、味はものすごく苦かった。
「こんなびっくり商品を見舞いに持ってくるんじゃない」とツッコミたかった。
少女は歪んだ表情をして、目に涙を浮かべていた。
直後に彼女の口から出てきた言葉は「まずい」だった。
- 10 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 20:33:07.28 ID:D6WGHiOW0
- 暇な入院生活において、彼女と話すことが唯一の楽しみだった。
彼女と話すことを楽しみにして、数週間がたった。
ある日、見舞いにきた彼女は「もうここには来れない」と泣き出しそうな顔をして言った。
「ある街にいく」というのだ。
その街は記憶士の街だった。
記憶士の街は当時から有名で、一般人からは恐れられていた。
彼女は「行きたくない」と言って、泣いた。
俺にはそれをどうすることも出来なくて、泣きじゃくる彼女の頭を撫でた。
退院目前だったが俺には、全身にボルトが入っていて、ロボットみたいな動きだったと思う。
動かすと痛みでいちいち止まるという様子が滑稽だったのか、
妙な動きの俺をみて、彼女は笑っていた。
「会うのはこれで最後になるかもしれないけど……またね」
('A`)「ああ、さよなら」
数瞬の間。
「『さよなら』なんかじゃないよ。またね。だよ」
目にたっぷりと涙をためた笑顔を見せる彼女こそが……ミセリだった。
- 12 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 20:37:01.37 ID:D6WGHiOW0
- その後、数日して俺は退院した。
まだ体中にボルトが仕込まれていたが、一人で歩くことも可能だった。
退院後、一番初めにした行動は、ミセリの両親に頭を下げることだった。
ミセリの両親からは「あんな化け物のことを思い出させるな!」という叱責を受け、追い出された。
当時は化け物という言葉が、何をもとにしてのことかはわからなかった。
だが、今推測するとそれは記憶士の力のことなのだろう。
国は記憶士について「名誉ある仕事」としていたが、世間の目は冷たかった。
人は得体の知れないものを見た時、怖がる。
彼女の両親の言い分は、今思えば別におかしなことではなかった。
ミセリの記憶士としての力は、俺との事故によって目覚めたらしかった。
その所為でミセリは、きっと深く傷ついたのだろう。
それでも彼女は俺のことを心から心配してくれていた。
――憎んでくれてよかったというのに。
知り合いのいない街中を歩きながら、人目も気にせずに俺は泣いた。
たった一度の事故の所為で、そこまでいわれてしまう彼女のために。
泣いて泣いて、泣き止んだ時にある男に出会った。
- 13 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 20:41:04.13 ID:D6WGHiOW0
- (´・ω・`)「やあ。君に内定を持ってきたんだが」
内定と言われ、なぜかバカバカしいと思った。
黒いスーツを着こなしたこの男が、怪しくて怪しくて仕方がなかった。
('A`)「詐欺なら、金持ってる奴を相手にしなよ」
それだけ言って、男を避けて家へと帰る道を行く。
体中が軋んで音を鳴らしそうだった。
(´・ω・`)「……記憶士の街のスカウト。といえば判るかな?」
背中越しに男の低音を受け、その台詞でとっさに足を止めた。
記憶士の街。
それだけ聞いて「ミセリにまた会えるかもしれない」という言葉が頭をよぎったのだ。
俺は踵を返して、夕日を背にショボンを見る。
('A`)「詳しく話を聞こう」
ショボンはしてやったりという顔をしてから、直ぐに表裏のなさそうな笑顔に戻った。
- 14 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 20:44:22.97 ID:D6WGHiOW0
- 3行でショボンの説明をまとめると、
お前記憶士
街へ来い
拒否権なし
ということらしかった。
ただ、体が完治するまでは、自由にして良いという条件をつけられた。
内定という言葉、拒否権なし、退院したこのタイミングで来ることなど怪しい点は多々あったが、
それ以上にミセリと再開できるかもしれないという期待が大きかった。
両親にそれらを説明し、またニート生活が始まった。
今度は、陰気に満ちた生活ではなかった。
両親と今までどんなことがあっただとか、小さな頃の話など、懐かしい話をした。
やがて、秋が過ぎ、冬が過ぎ、体中のボルトを抜いて、春になって怪我が完治した。
父親も母親もミセリの両親とは違い、寂しがりながら、それでも喜んで俺を送り出してくれた。
父が涙を流したのを見たのは、そのときが初めてだったかもしれない。
- 15 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 20:47:26.11 ID:D6WGHiOW0
- 記憶士の街での生活が始まった。
街に来て直ぐに今のように記憶士として働くことはなかった。
【記憶処理機関VIP】にて、最短で3年の研修を受ける必要があった。
俺はこの街へ来た理由を見つけるために、死ぬ気で頑張った。
ミセリともう一度会う。
ただ、それだけのために毎日を過ごした。
結局、研修期間は常に上位の成績を残し、3年で研修を終えることが出来た。
そこで割り当てられた家が、ショボンの店【バーボンハウス】の2階であった。
最初のうちは、他人の記憶を消しては泣いてを繰り返し、精神が壊れそうになった。
春が過ぎ、夏が過ぎ、秋も過ぎて、仕事には段々と慣れていった。
そして……
正式な記憶士となって最初の冬、俺はミセリと再会した。
- 16 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 20:50:24.15 ID:D6WGHiOW0
- 居住区4番地のホームで電車を待つ彼女を見つけた。
俺は仕事を終えて、家へ帰る途中だった。
ミセリは白のマフラーを身に着けてはいるものの、冬なのに薄着でとても寒そうに震えていた。
咄嗟の判断で電車を降りる。
最後に彼女に会ってから、既に4年半以上が立っていた。
しかし、見た目は最後に見た時とたいして変わっていなかった。
彼女の震える手を掴むと、驚いたような顔でこっちを向いた。
('A`)「幽霊みたような顔すんな!」
そういって彼女の頭をはたいた。
- 18 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 20:54:36.61 ID:D6WGHiOW0
- ミセリは真っ赤な顔をして、抱きついてきた。
聞くところによると、この街に越してきてから、
友達はできない。
ペットの猫には逃げられる。
などなど、ろくなことがなかったらしい。
ミセリの顔を見ると、ボロボロと涙をこぼしていた。
少し……いや、かなり照れて、俺も顔を真っ赤にして「どうしたもんか」と焦っていたのを思い出す。
ミセリは特にいく場所もなく、街をうろうろしていたらしく、俺の住家へと案内することにした。
道中でミセリが寒そうにしていたので、茶色のコートを買ってあげた。
喜ぶ彼女の顔を見て、両親からどんな言葉を言われて泣いたのだろうかと想像した。
そんな想像の所為で、心が崩れそうになった。
彼女が嫌な思いをしたのも、俺の所為だからだ。
泣き止んだミセリが離れる。
- 19 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 20:57:27.17 ID:D6WGHiOW0
- ミセリは俺を見て、優しい笑みを浮かべてから口を開く。
ミセ*゚ー゚)リ「何でそんな顔してるの?」
考えが顔に完全に出てしまっていたのだろうか。
彼女は俺の顔を人差し指で一直線に指差して笑った。
('A`)「人の顔を指差して笑うなんて失礼な!」
ミセ*゚ー゚)リ「面白い顔してるもん」
('A`)「イケメン捕まえてなにを言っているっ!」
ミセ*゚ー゚)リ「自称イケメンwwwお腹痛いwwww」
そんな会話をしながら、家路を行く。
そこには2人分の雪を踏む音が続いていた。
雪が降るほど寒い冬だというのに、全然寒さなんか感じなかった。
- 21 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 21:00:28.90 ID:D6WGHiOW0
- 駅を越えて、4番目の角を曲がる。
曲がって少し歩くと俺の城(と、いってもショボンの所有物だが)が見えてくる。
ミセ*゚ー゚)リ「凄いとこに住んでるのね。普通、記憶士になって直ぐってアパートじゃない?」
(;'A`)「え? そうなの? でも住んでるっていっても、2階の部屋だけだからアパート並だよ」
カフェ【バーボンハウス】の重い扉を開く。
女連れで帰ってくることに驚きを感じたのか、ショボンがいつも見せない表情をしていた。
(´・ω・`)「……ドクオ、拉致監禁は見逃せないな」
穏やかではない台詞をはくこの男を、投げ飛ばしたくなった。
そんな酷い文言を無視して、温かい飲み物を要求する。
('A`)「ホットコーヒーとホットココアね」
(´・ω・`)「了解」
説明しなくても「なんとなく」で理解してくれるショボンは、友人として楽でいい。
本人は俺のことを莫逆の友などと、恥ずかしい言葉で言っていた。
窓際の席に2人で座る。
外が良く見えるこの席は、バーボンハウス内での俺の指定席だった。
- 22 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 21:04:35.17 ID:D6WGHiOW0
- ミセ*゚ー゚)リ「いい雰囲気のお店ね。外から見た感じ、カフェに見えないけど」
('A`)「その所為で客の入りも……ごらんの有様だよ」
(´;ω;`)「べ、べつにお金のためにやってるんじゃないんだからね!」
いつの間にか近くに来ていたショボンが、泣き出しそうなほど目に涙をためて言った。
テーブルにマグカップが2つ置かれて、コーヒーの香ばしさとココアの甘ったるさが周囲に漂う。
でも、不快な感じはちっともしなかった。
マグカップから半分だけ顔をだしたミセリがこっちを見る。
何かあるんだろうか?
女性に見られるのは慣れていないので、居心地が悪くて単刀直入に聞くことにした。
('A`)「何? 顔に何か付いてる?」
ミセ*゚ー゚)リ「あ、いや、ごめん。なんでもないよ」
('A`)「?」
- 23 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 21:07:15.55 ID:D6WGHiOW0
- その後、飲み物も飲み終わり、ミセリに部屋を見せて雑談をした。
仕事の話だとか、研修中に何があっただとか、俺とショボンの出会いだとか。
最後はまた仕事の話になって、お互いこの街を出て行く"お客さん"のことを考えながら
「記憶を消すのって慣れないね」
と2人して鬱病患者のように沈んでいた。
話が終わると、夕暮れ時になっていた。
夕日のさすその表情が、少しだけ悲しそうだった。
何かあるのだろうか?
そういう興味とも好奇心とも取れる感情を抱いた時に、ミセリは口を開いた。
ミセ*゚ー゚)リ「そろそろ帰ろっかな」
その言葉に反応して、俺は即座に「送るよ」とだけ答えた。
- 25 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 21:10:04.97 ID:D6WGHiOW0
- 「送るのは駅まで」ということに落ち着き、ゆっくりと雪道を2人で歩いた。
不意に、雪のように白い猫が、雪道を歩く俺達の前を横切る。
目を良く凝らさないと、それが猫であるのか判らないほどの白さだった。
猫は「ついてこい」といわんばかりに俺達を誘っていたが、
もうミセリを送り届ける予定の駅についていたので無視した。
ミセ*゚ー゚)リ「あの猫こっち見てるね」
('A`)「明るい時間ならついていくのも面白そうだけど、この時間だと怖いな」
猫はついてこないのが判ったのか、夜の暗闇の中へと消えていった。
ミセリは少し残念そうな表情をしていた。
ミセ*゚ー゚)リ「ね、明日暇なら朝からあの猫探してみない?」
('A`)「ん? この寒いのに元気なもんだ」
ミセ*゚ー゚)リ「いいじゃない。この街に娯楽なんて殆どないんだし。いく? いかない?」
('A`)「……構わんよ」
仕事も終わったばかりで、この後の仕事も当分ないので了承する。
- 26 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 21:13:06.35 ID:D6WGHiOW0
- ミセ*゚ー゚)リ「よかった。それじゃ、デートだからね」
(;'A`)「!?」
ミセリはそれだけ言うと、いつの間にか来ていた小さな電車に飛び乗った。
俺は何を言われたか判らないという表情でもしていたのだろうか、ミセリは笑顔で一杯だった。
それに対して、俺はアホ面で小さく手を振るのが精一杯だった。
電車がゆっくりと動き出し、闇の中へと消えていく。
俺は踵を返して、家へと向かう。
道中、先ほどのミセリの発言を思い出す。
考えても考えても「デートなんてしたことねぇからわかんねぇ」ということに落ち着くのだった。
……
先ほどと同じ位置で、同じように猫が寝転がっている。
暗闇と白い雪以外何も無い空間に、2つの光を発する瞳がひどく不気味に見えた。
- 27 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 21:16:20.04 ID:D6WGHiOW0
- 猫のことは放っておいて、家路を急ぐ。
雪の降るこの時期の夜は、非常に寒い。
できれば暖かい部屋でコーヒーでも飲みながら本でも読んでいたいものだ。
('A`)「さみぃ」
コートのポケットに手を突っ込む。
吐き出す息は、体が寒さになれた所為かもう白くはなかった。
震えながらも歩き出す。
何年たってもこの街の寒さにはなれないものだ。
ミセリと歩いていた時は楽しさで、それを忘れていたのだろう。
一人で歩くこの街は異常に寒い。
さっさと風呂にでもはいって温まりたい。
風呂、布団、風呂、布団。
頭の中はそれらで一杯で「明日着ていく服がない」なんてことも忘れていた。
- 29 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 21:19:26.88 ID:D6WGHiOW0
―― 翌日 ――
暖かい毛布と重たい布団。
布団の重さに押しつぶされることほど、この時期で幸福を感じることは無い。
いつも通り、バーボンハウスの2階の自分のベッドで目を覚ます。
今日はミセリとのデートの日のはずなのだが、
気の利いたセンスの服を一つも持っていないことに気づく。
クローゼットの中にはびっしりと黒いコートがかかっていて、
衣装ケースの中のセーターやTシャツなども黒色ばかりだった。
(;'A`)「なんという黒厨……」
自分自身のことながら、センスのなさに哀れさを感じた。
- 30 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 21:22:44.44 ID:D6WGHiOW0
- 最低限の服装で家を出る。
空には雲ひとつなく、雪の積もった道に陽が差していた。
待ち合わせは昨日ミセリと別れた駅。
雪の溶けかけた道を早足で歩く。
駅まではそれほど遠くないので、すぐについてしまった。
周囲を見渡してみても、ミセリはまだ来ていなかった。
同時に元々の原因の白い猫も見当たらなかった。
……これでは、普通のデートになってしまうのではないか。
そんなことを考えていると、小さな電車が駅に着く。
口笛のように甲高い音を立てた風が、一度だけ吹いて電車の扉が開く。
ミセリが降りてきた。
こちらの顔を見つけて、ミセリはすぐさま表情を明るくして駆け寄ってきた。
ミセ*゚ー゚)リ「おはよう。まった?」
('A`)「おはよう。今ついたとこだ」
軽く朝の挨拶をして、2人で並んで歩き出す。
- 31 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 21:25:34.65 ID:D6WGHiOW0
- 駅を出ると、ミセリは周囲を見渡していた。
猫を探しているのだろう。
ミセ*゚ー゚)リ「いないね」
('A`)「俺も見かけてないな」
ミセ*゚ー゚)リ「じゃ、普通にデートだっ」
それだけいうと、ミセリが俺の腕に絡み付いてくる。
鬱陶しい気もするが、初めての感覚で冬だというのに顔が熱くなる。
(;'A`)「どうする? 俺まだこの街まともに歩いたことないんだが」
ミセ*゚ー゚)リ「この周りのお店でも回ろう」
雑貨屋やアクセサリ屋、服屋、書店にカフェ。
他にもたくさんの店の立ち並ぶこの道路沿いは、確かに時間をつぶすにはうってつけだった。
色々な店を巡った後、貴金属の店に辿りつく。
ガラス張りのショーケースの中にあるペンダントをミセリが見つめていた。
じっと見つめているあたり、欲しいのだろう。
- 33 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 21:28:26.71 ID:D6WGHiOW0
- ('A`)「買おうか?」
気を使ってたずねることにする。
というよりも、男心をくすぐるミセリの行動に流されていたのだと思う。
ミセ*゚ー゚)リ「ん、や。それは恋人同士になってからかな」
(;'A`)「そうかい」
時間はもう夕暮れで、オレンジの光が道路の隅にある白い雪に反射していた。
ふと、外を見ると昨日みた真っ白い猫がいた。
('A`)「お。ミセリ。昨日の猫がいるぞ」
ミセ*゚ー゚)リ「ん? よし、追いかけてみよう!」
ミセリはそういうとすぐさま外へと出て行く。
店員に睨まれていそうだが、そんなことは関係ないとミセリを追った。
白い猫は昨日と同じように、何度も振り向きながら移動していく。
俺達はそれについていく。
ミセ*゚ー゚)リ「どこにつれてってくれるんだろうね?」
('A`)「さぁな」
全く検討もつかなかった。
- 34 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 21:32:09.48 ID:D6WGHiOW0
- 決まってこの時間になって現れる猫。
毎日誰かを誘うように移動するもの。
その先に一体なにが待っているのだろうか。
ただの好奇心でついていくことに、何の疑問も持たなかった。
居住区の1番地。
この街の役場に勤める人間の住む地域である。
猫はどんどん先を行く。
ある大きな洋館の前で猫は歩みを止めた。
この家の飼い猫なのだろうか?
当然のように木箱やタルなどを足場にして窓から中へと入っていく。
('A`)「ミセリ、この家の猫みたいだぞ?」
ミセ*゚ー゚)リ「うーん、面白そうな展開があると思ったのになぁ」
('A`)「残念だったな。こんなオチで」
ミセ*゚ー゚)リ「ま、いいよ。今日は一日楽しかったし」
そういうとミセリは笑顔をこちらへ向ける。
その笑顔に対して、俺は顔を真っ赤にして目を背けることしかできなかった。
- 36 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 21:34:41.24 ID:D6WGHiOW0
- ミセ*゚ー゚)リ「あれ? なにかしら」
('A`)「?」
ミセリが俺の背中の方を指差している。
そこには一枚の紙切れが、落ちていた。
俺はその紙に駆け寄り、拾い上げる。
――――――――――――――――――――
指令書
N市内にて、交通事故を誘発し、記憶士
として目覚める者がいるかを確認しろ。
偽装などはこちらでしておく。
手段は問わない。
VIP所長
――――――――――――――――――――
(;'A`)「こ、これは……」
- 37 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 21:37:24.46 ID:D6WGHiOW0
- 事故を偽装して、国の保有する記憶士の数を増やす。
記憶士としての目覚めは、心身ともにショックを受けた時が一番例が多い。
交通事故はその点について、合理的だ。
ミセ*゚ー゚)リ「なんだったの?」
('A`)「なんでもない。ただの紙切れだった」
そういってミセリに裏側の何もかかれていない面を、ヒラヒラと振るいながら見せる。
ミセリもそれで納得したように、駅の方へ向かって歩き出した。
俺は何も見ていない。
たとえこれが、真実のものであっても、偽者であっても俺の生活は何も変わりない。
そう思い込むことが大切だ。
- 38 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 21:40:10.77 ID:D6WGHiOW0
- 俺が事故にあったことも機関の所為。
ミセリが巻き込まれたことも機関の所為。
ミセリが両親に化け物だといわれたことも機関の所為。
俺たちがこんな街につれてこられたのも、機関の所為。
見てはいけないものを見た。
嫌な感覚が、体中に巡る。
震えていたのがわかったのか、ミセリがこちらを見て疑問符を浮かべていた。
ミセ*゚ー゚)リ「どうしたの? 寒い?」
(;'A`)「なんでもない」
背中に刺さる視線に気づいて、更に冷や汗をかく。
そして、その視線にミセリが気づくことがなければいいと切に願った。
嫌な感覚とは裏腹に、その日、ミセリを駅まで送って何事もなく帰宅することが出来た。
- 40 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 21:43:35.82 ID:D6WGHiOW0
―― 翌日 ――
目を覚ますと、バーボンハウスの2階の自分の部屋だった。
見覚えのある小さな茶色のコートが布団に掛かっていた。
所々濡れた痕やドロの痕があり、汚れていた。
そして、布団とそのコートの間に一枚の紙切れがあることに気づいた。
―――――――――――
何事も、なかった。
―――――――――――
小さな紙切れにはそれだけが書かれていた。
これは昨日拾った紙についての言及。
それについて口外するとミセリに危害が加わる、という脅しだろう。
それ以来、俺はミセリに会うことをやめた。
あれだけ再開を懇願していたのに、再開して二日しかたっていないのに、
この決断ができる自分がいるのがおかしかった。
- 41 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 21:46:13.01 ID:D6WGHiOW0
―― 半年後 ――
それから俺は普通の記憶士として仕事をし、半年がたち夏になった。
その頃から「客から記憶を奪い続けると、体に皹が入る奇病がある」という噂が流れ始めた。
真夏だというのに大雨の降ったある日、ある依頼が俺に飛び込んできた。
依頼内容は【記憶士の記憶を消去】だった。
この依頼は俺個人への依頼ではなく、役場から賞金の掛けられたものであった。
当時から金は腐るほど持っていたのだが、興味本位でその依頼を受けることにした。
そもそも記憶士は一般人には奇異の目で見られるが、
Cランク以上の記憶士は給料などの面で待遇がかなり良い。
そのため集合場所である役場に現れたものは少数であり、
その多くは金に困った低ランクの記憶士ばかりだった。
- 42 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 21:49:04.74 ID:D6WGHiOW0
- (-_-)「――ということで、皆さんにはこれから病院に向かってもらいます」
大理石で敷き詰められた役場のロビーで、職員から仕事の詳細を聞く。
この時点でCランク以下の低ランクの記憶士は「依頼の遂行は不可能」とされ、帰されていた。
職員に連れられて、小さな折り畳み傘を持って病院を目指す。
俺は道中、隣に並ぶ大きな黒い傘を持った男と話をしていた。
('A`)「あの、特Aランクの内藤ホライゾンさんですよね?」
( ^ω^)「そうだお。皆はブーンって呼ぶお!」
('A`)「俺の名前はドクオです。えーっと最近出した本、読んでますよ」
そういって一冊の文庫本をポケットから取り出し、表紙を見せる。
( ^ω^)「読んでくれてありがとうだお!
その本かなり私見が入っているから、そのまま全部は受け入れないでほしいお」
('A`)「はい。――だとか――の件とか、凄く興味深かったです」
( ^ω^)「それは――で――してたときに――だお!」
- 43 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 21:52:32.41 ID:D6WGHiOW0
- 初めて会う相手に声をかけるのには、かなりの勇気がいった。
もっと、おろおろボソボソ喋っていたかもしれない。
ブーンはとても気さくで、ずっとニコヤカな顔で俺の話を聞いてくれた。
本の話を続けていただけなのに、話が弾んでなんだか旧友とでもあったような気分になっていた。
石畳の舗装道路を歩き、幾度目かの角を曲がると病院にたどりついた。
病院のロビーにたどり着くと、職員はこちらに振り向き、口を開く。
(-_-)「えっとそれでは、これから病室へむk( ^ω^)「ちょ!ちょっとまつお!」
(;-_-)「な、なんでしょう?」
( ^ω^)「もう昼だお! 飯にするお!」
ブーンのその発言に反応して、その場にいた人々は病院内の時計を探す。
職員は腕時計を持っていたようで、それに目を落としていた。
(-_-)「なるほど、一理ありますね。飯にしましょう」
( ^ω^)「よかったお!」
(-_-)「それでは1時間後にまたここに集まってください」
- 44 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 21:55:18.57 ID:D6WGHiOW0
- ブーンに誘われて、病院内の喫茶店で、昼食を取った。
会話の時「堅苦しいのがいやだ」という本人からの意向で、敬語を使わなくなっていた。
('A`)「それにしても、病院にいる記憶士って例の奇病なのかな?」
( ^ω^)「僕が呼ばれるってことは、その可能性は高そうだお」
('A`)「ブーンは直接役場に呼ばれたのか?」
( ^ω^)「そうだお。かなりやっかいな仕事だってきいてきたお」
運ばれてきたコーヒーを啜る。
苦いだけのコーヒー、ショボンの淹れるエスプレッソには程遠い。
ブーンも同様に少し曇った表情をしていた。
( ^ω^)「こりゃショボンの淹れるコーヒーのがうまいかもわからんね」
('A`)「! ブーンはショボンを知っているのか?」
( ^ω^)「おっ。僕の親友だお!」
('A`)「俺今ショボンのお店の2階に下宿しているんだよ」
( ^ω^)「おっおっおっ。じゃあ、もしかしたら何度か顔合わせてるかもわからんね」
その後もどうでもよい雑談が続き、いつの間にか集合時間になっていた。
- 45 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 21:58:33.99 ID:D6WGHiOW0
- (-_-)「ちょうど1時間です。では病室に向いましょう」
結局この時間に戻ってきたのは、俺とブーンと他の2人の記憶士だけだった。
職員の後について、奥の棟へと向かう。
独特の臭いと雰囲気――植物人間達のための棟だ。
新しく設置されたエレベーターに乗る。
新品独特の匂い、メッキの施された金属板、指紋もほぼついていない各階のスイッチ。
Bのボタンが職員の手で押され、到着を告げる音が鳴って直ぐに3階へと到着する。
2箇所ある十字路のうち、手前の十字路を左に折れたところで職員がその歩みを止めた。
(-_-)「こちらの部屋です。全員、覚悟をしてください」
('A`)「覚悟っていうのはどういうことですか?」
(-_-)「患者がどのような姿でも驚かないこと、ですかね」
一体どういう状態なのだろう。
噂通り、全身に皹でも入っているのだろうか?
- 46 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 22:01:06.80 ID:D6WGHiOW0
- 職員が病室の引き戸をあける。
病室は大きめの個人部屋で、洗面台やトイレ、さらに見舞いに来た人が泊まるためのベッドもあった。
部屋の中心に置かれた患者用のベッドには、チューブの付いた若い女性が寝ていた。
唯一肌の見える顔には、黒い線が皹割れのように大量にあり、
その銀色の瞳は虚空を見つめ続けていた。
(;^ω^)「これは……」
患者を診たブーンが即座に口を開いた。
幽霊でも見たかのように顔は青ざめ、顔中に汗をかいている。
('A`)「ブーン、ヤバイのか? これ」
(;^ω^)「……ものすごくヤバイお。
うまくやらないとこの娘が目覚めても処理者がこの娘と同じ状態になるお」
もう一度よく女性の顔を見つめる。
真っ黒な線の所為でよく見なければ気づかなかった。
彼女は……
ミセリだ。
- 47 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 22:04:18.39 ID:D6WGHiOW0
- 何があって、彼女がこの状態になったのかもわからない。
俺と同じくこの半年間、記憶士として仕事を続けていたのだろうか。
――だが、そんな推測は意味がない。
寒気が全身を巡り、心身が震える。
目の前で震えるブーンよりも青い顔をしていたかもしれない。
職員がベッドの前まで行くと、こちらを振り向く。
(-_-)「皆さんにはこの娘を起こしてもらいたいのです」
一緒に来ていたブーンと俺以外の二人は「仕事を下りる」といい、病室を出て行った。
(-_-)「あなた方はどうされますか? 同じように怖気づいて帰るのならば止めませんが」
( ^ω^)「……僕が治すお。そのために僕は呼ばれたんだお」
ブーンは自分の胸に手を置き、なるべく語調を変えずに喋る。
俺は何も口を挟まない。
ただ、ミセリの見上げる虚空の先を見つめて、その場に立ち尽くすだけだった。
- 49 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 22:07:31.91 ID:D6WGHiOW0
- 職員に促がされて、一緒に病室を出る。
処理する人の気を逸らさないようにするためらしかった。
数分後に職員が病室を覗くと、倒れているブーンと何もわからないで泣くミセリがいた。
(;'A`)「おい! ブーン!」
( ω )「ショボンに傘、頼むお」
それ以降、ブーンは返事もしなかった。
よく見ると先ほどまでミセリに出来ていた"皹割れらしきもの"が全身に入っていた。
対照的にミセリは体から皹が消えており、赤子のように泣き続けていた。
泣き出したその顔を最後に、視界が暗転した。
- 50 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 22:10:07.47 ID:D6WGHiOW0
- ここからはショボンから聞いた話だが、俺はこの後バーボンハウスまで戻った。
そこで事の顛末をショボンに継げた後、気を失ったという。
次に目覚めた時には俺はここまでの記憶を失っていた。
医者が言うにはショックを受けることが多すぎて、現実から逃げるために忘れてしまったらしい。
全てを忘れたミセリは、ブーンのことを聞いたクーが引き取り、
同じアパートで生活をしていたらしい。
俺はというと、全てを忘れたミセリと違い、生活に最低限の記憶は残っており、
今まで通りとはいかなかったが、普通の記憶士として生活できたらしい。
ただ、記憶士としてのルールに忘れている部分があったので、研修をショボンから受けた。
その研修で言っていた言葉は、ほとんどが耳を通りぬけて、覚えていなかった。
- 51 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 22:13:07.48 ID:D6WGHiOW0
- (´・ω・`)「記憶というのはただの電気だよ。頭の中の電気信号でしかない」
(´・ω・`)「記憶士はただその電気信号を操るだけなんだよ。
人に移したり、消したり、かきかえちゃったりね」
(´・ω・`)「君は色々なことを忘れているよ。
いつか、君が受け入れられるようになったら聞きたいことがあるんだ」
(´・ω・`)「険しい道だが、真実に至る道。
平坦な道だが、真実には決して至らない道。
さて、君はどっちを選ぶんだろうね」
(´・ω・`)「あーそうそう。それからランク分けのルール、覚えてないだろうから教えるよ」
……
(´・ω・`)「今できるのはBランクまでのことだけ、みたいだね」
- 52 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 22:16:10.03 ID:D6WGHiOW0
- これが、俺の忘れていた記憶だ。
この記憶が全て正しいものなのか、
自分にとって都合の良いものに改変されているものかはわからない。
いつからシャキンとショボンの存在を勘違いしていたのかは思い出せていないし、
思い出したものの中に今まで当たり前と思っていたものと比べ、多々矛盾点もある。
ただ、ミセリとは既に出会っていた。
そして、再開することになったのはきっとVIPという機関の所為なのだろう。
ミセリは"お客さん"ではなく、ある目的で俺の記憶を消しにきた記憶士。
あくまで仮説だが、ミセリの目的は……
「俺がブーンを起こす気にならないようにすること」
だろう。
聞いていたはずだ。
クーが「彼はそのままの方が幸せかもしれない」といった場面を。
お客さんとして、ミセリに再会したあの日に。
第4話 終わり
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