('A`)ドクオは奪うようです

53 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 22:18:27.98 ID:D6WGHiOW0
目に見えるもの全てが、現実かどうか。
その現実はもしかしたら「お前が見ている」と"思わされている幻"かもしれないぞ。

実は俺たちは、何かの体内に出来たウィルスかもしれないぞ。
実は俺たちは、作り物の箱庭の住人かもしれないぞ。
宇宙なんて、高次元の世界の地図上に示された最果てかもしれないぞ。

どこまでが真実か、どこまでが幻か、お前は現実が理解できているか?

常識を疑え。
夢を夢と切り捨てるな。
幻を幻と一蹴するな。

信頼している現実が、全て空想の物だとしたらお前はどうする?

俺は作られたその世界を抜け出して、自由になりたい。

第5話 真実のマッド・クリスマス

54 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 22:21:37.40 ID:D6WGHiOW0
昔のことを思い出しながら歩いていたら猛吹雪になっていた。

寒すぎて体中の感覚が無いように感じる。
指先や体中の痛みを無視して、雪を振り払い小さな店の中へと入る。

急激な温度の変化に、体が軋む。
あいにく心臓は強いほうなので、心不全にはならない……と思う。

从 ゚∀从「いらっさい。ドクオじゃないかい。こんな猛吹雪の中、ご苦労なことで」

以前、俺がマジキチ店員と呼んでいた店員だ。

ハインは記憶士の研修卒業時の同期だ。
もっとも、ハインは合計5年間研修を受けていたから、ある意味先輩ともいえる。
少し前まで知り合いとも思っていなかったし、そもそもこの店に来ることもそんなに無かった。

それでもハインは俺を覚えていたようだ。

まずは目の前にあるカウンター兼ショーケースとなっているガラスケースの中から、目的のものを探す。

……無い。

56 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 22:24:46.95 ID:D6WGHiOW0
店の角、明かりに照らされたガラスケースに、型落ちのアクセサリが集まっていた。
中のアクセサリやケースが明かりに反射して、輝いて見えた。

从 ゚∀从「おいおい、それは俺が去年作った奴だぞ?」

('A`)「探している奴があるんだ。――なんだが」

从 ゚∀从「あぁ、ありゃあ、俺の処女作だ。
        出来が悪いからもう店からは撤去しちまったよ」

(#'A`)「なにぃ!? じゃ、ねぇっていうのか!」

撤去した。という言葉に反応して、語調が強くなる。

どんな店であっても店員相手にここまで強く言うことは、今まで一度も無かった。
冷静さを欠いている。
無意識のうちにハインの胸倉を掴んでいた手を放し、息を整える。

从;゚∀从「ケホッケホッ。お、おちつけよ! 持ってくるからちょっと待ってろ」

('A`)「金はある! いくらだ!」

ハインは俺の言葉を無視して、店の奥へと進む。

从 ゚∀从「全く、いつも冷静なドクオがあんな剣幕になるとは……まさか女か」

57 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 22:28:09.83 ID:D6WGHiOW0
窓の外を見る。
吹雪は未だ止んでいない。

感覚の無い手を見つめて、どうしたもんかと思案をめぐらせる。
店内のエアコンのおかげで、凍りかけていた髪や服の一部が溶けて水を滴らせる。
肩幅程度の水溜りが出来たところで、ハインが奥から戻ってきた。

从;゚∀从「ほらよ! 代金はいらねぇ!」

('A`)「お断りだ!」

そういって、凍りかかった手持ちの金全部を財布ごと投げつける。
投げつけた財布は、"運よく"ハインの顔に直撃して、床に落ちた。

从メ-∀从「イデェ!」

ハインが悲鳴を上げている間に踵を返し、店を出る。
背中越しに手だけ振っておいたが、きっと気づかなかっただろう。
寒さを我慢して復路を歩き出す。

从メ゚∀从「……どっかいくみてぇだぞ。やめろよ、そういうの」

58 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 22:31:29.42 ID:D6WGHiOW0
飛んでくる雪を払いのけ、積もった雪を踏み込み、バーボンハウスの軒先にたどり着く。
感覚の無い手で重たい金属の扉を開ける。
来客を告げるベルの音で、カウンターにいるショボンがこちらを向いた。

(´・ω・`)「ウホッ水も滴る……氷もかたまる良い男」

(('A`))「寒い」

ショボンが鍋にお湯と水を用意して、こちらへ持ってくる。
そのまま、俺の目の前にその鍋を置いた。

(´・ω・`)「手、つっこみなよ。湯気が出てるほうがお湯だから先にそっちね。
        交互にいれるといいよ。ちくちくするかもだけど」

ショボンのいう通り、お湯の溜まった鍋に手を突っ込むと、ものすごくチクチクした。
血が巡る感覚なのだろうか。

('A`)「ショボン、さんきゅな」

(´・ω・`)「そう思うなら、ブーンを起こしてくれよ。お風呂、入れてくるから待ってて」

エスプレッソを目の前のテーブルにおいて、店の奥の方へショボンが消えていった。

('A`)(ショボン、ブーンは起こしてやるからもう少しだけ待っててくれよ)

59 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 22:34:34.34 ID:D6WGHiOW0
(´・ω・`)「風呂沸いたよ。それからそれ凍傷だから一応病院いくんだよ?」

そういって、奥の方からショボンが戻ってくる。

('A`)「ああ、入ってくる。……病院は用事があるから、そのときについでに診てもらうよ」

「ああ」か「うん」か聞き取れなかったが、肯定の意らしき返事が聞こえた。
それを聞き流して、風呂へと向かう。

何度か試してみるが、凍り付いている服が脱げず、そのまま浴槽へ飛び込む。
全身に熱が巡り、のぼせた時のように一瞬意識が飛びそうになる。

ゆっくり浸かっているのもいいが、今はまだ、やることがある。
よく考えたらさっき買ってポケットに入れっぱなしのものもずぶ濡れだ。
着替えて店舗スペースへ戻る。

(´・ω・`)「おや、早いね。ゆっくり浸かるんじゃなかったの?」

('A`)「用事を思い出したんだよ」

ミセリに話をつけなければならない。

「やっぱり、真実には辿りつけなかったようだね」

背中の方から、そんな声が聞こえた気がした。

62 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 22:38:40.89 ID:D6WGHiOW0
壊れそうな悲鳴を上げる木製の階段を踏みしめる。
部屋の中を見渡す。

中には……誰もいない。

('A`)「ミセリ?」

ショボンの話ではここにいるはずなのだ。
隠れるような場所もクローゼットの中か、ベッドの下くらいしかない。

その場を探してみるが……やはりいない。

緊張の糸が切れて、ベッドに倒れこむ。
フカフカな布団が、俺を沈み込ませる。
仰向けに寝返りをして、両手を広げて十字を作る。

ずっとミセリに貸していた所為か、女性特有の良い香りが部屋の中に充満していた。
匂いに気をとられていると異常なまでの眠気が襲ってきた。

ダメだ……意識が飛ぶ……。

「――丈夫か?」
「――てしまうかも――ね」

以前夢の中で聞こえた高音と低音。
一体なんだ?

64 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 22:41:17.71 ID:D6WGHiOW0
謎の声がしたあと、目を開くと研究所のような場面があった。
目を上へ上げるとマンホールのような丸い蓋。
そのわきから見えた天井には、鉄骨が無造作に走っていた。

( ・∀・)「形式番号D9-Oか。これで、ブーンさんが目を覚ませばいいんだけど」

白衣を着た男が、盤を片手に何かを書き込んでいる。
周囲を見渡すと、水の中に居るのか、気泡が次々と浮いていた。

(;・∀・)「ちょッ! 動いたッ! D9-Oが動いたよ!」

白衣を着た男が焦ったように大声を上げる。
その声に反応してか、助手らしき小柄な白衣が近づいてくる。

「どうしたモララー!」

近づいてきたその顔には、見覚えがある。
俺がさっきまで探していた顔だ。
その口元にはタバコがくわえられており、俺の探していた人物とは違う気がする。
口調もどこかやさぐれていて、いつものように優しさは無い。

だが顔は、額に大きな傷痕さえあれど……


ミセリそのものだった。

65 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 22:44:34.91 ID:D6WGHiOW0
(;・∀・)「目あいてるよッ!」

白衣の男が盤を投げ出し、俺の足元を指差して助手に指令を出す。

「チッ。もっかい寝かすぞ」

ミセリの顔をした女が、俺の入っている管の根元にある機械を操作する。
機械の上にのった灰皿に、タバコの燃えカスがたくさん盛られていた。

除夜の鐘のような音が頭に鳴り響く。

何が起こっている。

わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない
わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない
わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない
不明不明不明不明不明不明不明不明不明不明不明不明不明不明不明不明
不明不明不明不明不明不明不明不明不明不明不明不明不明不明不明不明
理解理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理理理r

そこで、テレビが消えるかのように、目の前が真っ暗になった。

「エラー――ったよ。」

66 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 22:47:00.83 ID:D6WGHiOW0
再度目を覚ますと、今度は研究所らしき所ではなかった。
自分自身の部屋、バーボンハウスの2階だ。

ベッドの傍らにはショボンが暗い表情で立っていた。

(´・ω・`)「おはよう。良い夢は見れたかい?」

(;'A`)「最悪の夢だ。俺が試験管の化け物にいれられていた。
     で、そこにミセリと同じ顔をした人がいたんだよ!」

(´・ω・`)「……夢、と思うよね。普通」

含みを持ったその小さなショボンの声に惹かれた。

('A`)「夢じゃないのかッ!? でも俺はここにいるッ!」

ショボンの腕を乱暴に掴みとる。
暖かいショボンの体温を感じることが出来る。
間違いなく、俺はここにいる。

(´・ω・`)「そうだね。それは確かだよ。でもここは、この【箱庭】は……作られたものだ」

ショボンが俺の手を振りほどき、淡々とした口調で言った。

68 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 22:50:06.64 ID:D6WGHiOW0
(´・ω・`)「【記憶を操作できる】こんな能力、現実的に考えて、あると思うかい?」

何を言っているっ……!
これはいつもの冗談だろ?

「ひっかかったね。ドクオ。裏も見なきゃ」

っていつもの言い回しをしてくれるんだろう?
そんな、俺の考えを完全に無視して、ショボンが続ける。

(´・ω・`)「"あるわけがない"よね。百歩譲って、居たとしてもこんなに数が居るわけが無い」

(;'A`)「どういうことだよ」

(´・ω・`)「よく考えて見みなよ。君は何度か骨折するレベルの怪我をしているはずだよ?
        なのに、一度だってそのために病院にいってないでしょう?」

痛いは痛かった。
でもそれほどの痛さのものは一度も無かった。

本当にそうか?
確かに痛いのは思い出した時と実際に怪我をした直後だけだった。
その痛さも、直ぐに消えていった。
おかしいといえばおかしいし、違うといえば違う。

71 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 22:53:10.20 ID:D6WGHiOW0
(´・ω・`)「じゃ、客は? 記憶を消された客はどこへ行ったんだい?」

それは、街の門の外だ。

(´・ω・`)「君は街の門の外へでたことがあるのかい? 一度だって無いだろう?」

確かに、一度も出たことは無かった。
だが、大灯台から見たので、街の外に山などの風景があることは知っている。

(´・ω・`)「確かに一面は見える。じゃその外は? どうやって君はここに来た?」

言われてみれば、昔住んでいた街からこの街までの道中の記憶は無い。
ただ、大陸の北の方にある街、として認識していた。

(´・ω・`)「いいかい? 今まで現実だと思っていたこの街。それは幻なんだ。
        こんな街、現実の世界のどこにも存在しない。
        何故、車が入ってこれない? 何故、街を囲う塀と門がある?
        何故、記憶士の力が軍事転用されていない?」

わからない、さっぱりわからない。

(´・ω・`)「わからないだろう? 今まで君はそのことを一度も疑問に思わなかった。
        何で僕は君が頭で思っていることと会話している?
        今君はこの質問をされても何も答えられないだろう?
        今から、君にこの【幻の箱庭】の真実を告げるよ」

74 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 22:56:13.04 ID:D6WGHiOW0
(´・ω・`)「まず、この世界の住人は3種類いる。
        一つは【昏睡状態の人】。彼らは【お客さん】としてこの街にやってくる。
        もう一つは【導く人】。多分君がさっき夢で見た人たちのことだね。
        そして最後。【ブーンの細胞を使って実験台にされた人】。
      彼らはこの街では――【記憶士】と呼ばれている」

わけがわからない。
ブーンは一体何者だ?

(´・ω・`)「ブーンこそが、現実世界に唯一存在している【記憶士】さ」

またも頭の中で考えていることを読み取られる。

(´・ω・`)「ちなみに、僕の存在は2つめ。導く人。
        「Aランク記憶士だ」って言ったけどさ。フリをしていただけなんだよね。
        ドクオは一度だって僕が記憶の処理をしている場面を見ちゃいないだろう?」

確かにそうだ。
俺は一度だって誰かが記憶を処理している場面を見ちゃいない。

75 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 22:57:26.43 ID:D6WGHiOW0
新しい情報の多さに頭が混乱する。
その中で握った拳の中の異物を感じとり、浮かんだ疑問を投げかける。

('A`)「ミセリは夢の中……いや、現実ならあの助手か。彼女は何者だ」

(´・ω・`)「ミセリは、一応僕と同じ……なんだけど、この世界でのミセリは自動操縦状態。
        モララーがお遊びで「可愛いでしょ?」とかいいながら作った人格だ。

        本人は「こんなの私じゃねーよっ!」と全力で否定していたけどね。
        後、僕も現実世界で忙しい時に、自動操縦だったりするんだよね」

自動操縦……ね。
ショボンの言葉をそのまま全て信じると、ますますこっちの世界が作り物だと思える。
だが、俺の想いはどうなる?

ショボンに目線をやるが、ショボンは何も答えてくれない。

77 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 23:00:41.54 ID:D6WGHiOW0
(´・ω・`)「良いかな? じゃ、続きいくね。
        僕らの目的は前に言ったと思うけれど【ブーンを起こすこと】なんだ。
      現実世界ではアルファベットと数字で羅列された名前がついているんだけど、
      僕らは愛着もこめて【箱庭計画】と呼んでいる」

ショボンの話の腰を折るのはやめて、とりあえず全てをきくように心掛ける。
姿勢を正し、"幻のベッド"の上に腰掛け直す。

(´・ω・`)「【箱庭】――この世界は、ブーンの脳とリンクしている。
        この世界でブーンを起こすと、現実世界でのブーンも起きる。
        彼を起こしてしまえば、君もお役御免。現実の世界に戻ることができるだろうね」

ブーンを起こすと、現実世界でのブーンも起きる。
おかしいぞ?
俺はこの【箱庭】で起きているブーンと出会ったことがあるぞ?

そんな疑問を頭の中に浮かべていると、ショボンが自身の胸の前で腕を組んで再度口を開く。

(´・ω・`)「起きているブーンと出会ったよね? あれはミセリと同じ。自動操縦さ。
        正確には起きていた時のブーンの性格をトレースした物なんだけどね。
        眠ってからは現実のブーンの人格が入っている。
        ちなみに、ミセリについても現実の性格をトレースしているから、
        現実の彼女もこの世界のミセリみたいな側面を持っているよ」

その"ちなんだ"ショボンの発言が、俺にとって「もうどうでもよいこと」にしか聞こえなかった。

79 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 23:03:43.29 ID:D6WGHiOW0
(´・ω・`)「この世界は、君のため――細胞を移した素体No.【D9-O】のための世界。
        この世界で起こるほとんどのことが、君に都合がよくなるように出来ているんだ。
        全ての事柄が君を成長させてブーンから記憶を奪えるレベルまで押し上げるためのものさ」

……

その後もショボンの話が続いていった。
話が始まった時は、まだ夜の深い時間ではなかったというのに、
ショボンが一通り話し終わる頃には、日付も変わりクリスマスとなっていた。

まったく、狂ったクリスマスプレゼントだ。
こんな真実があるなんて、思ってもみなかった。

ショボンに言われ続けていた言葉を今更ながら思い返す。

「今、目の前にある現実から、まず疑ってみなよ」

いつからおかしかったのか、判らなかった。
全てが自然で、普通に生活をしていて、ちぐはぐなことが無かったのだ。

だから俺は「この世界が現実だ」と、ひとかけらも疑いはしなかった。
いや、正確にはちぐはぐであったのかもしれない。

これはヒントを出されていたにも関わらず、
目の前のそれが現実だと疑うことが無かったツケだ。

80 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 23:07:33.18 ID:D6WGHiOW0
ショボンの話をかいつまんで話すと、

この街は【幻の箱庭】と呼ばれる現実に存在しない世界。
この世界は、街とその周囲の景色しか存在しない。

そしてこの世界はブーンの脳とリンクしている。
そのためこの街でブーンの記憶を処理すると、
現実の世界のブーンの記憶を処理することができる。

ブーンは現実の世界の記憶士。
世界中に一人しか存在しない重要人物。

俺はブーンの細胞を埋め込まれたことで、
幻の中で記憶を操作できる存在【箱庭の記憶士】となったらしい。

【箱庭】は、素体一人一人のために作られるため、
一つの箱庭の中に記憶士は一人しかいない。

この箱庭で俺が記憶士として仕事をしていたように、
別の箱庭では、例えばアクセサリ屋のハインが記憶士として仕事をこなしながら、
ブーンを起こすために迷走しているらしい。

83 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 23:10:30.56 ID:D6WGHiOW0
現実世界の俺は、先日思い出した記憶の中にあった【バイク事故】で昏睡状態に陥り、
両親の許可も取って、実験用として引き取られ、今は巨大な試験管の中に入っているらしい。
つまり、事故を起こし、病院で目覚めたところからの記憶は【全て幻】ということだった。

研究所で与えられた名前はD9-O。
奇しくも俺の名であるドクオと同じ読み方ができる形式番号だった。

現実世界へと帰ってくることのできた【箱庭の記憶士】は今まで一人も居らず、
そのため、ブーンを起こして現実へ帰ったとき、どんなことが起こるのかはわからない。

俺が今まで記憶士として、仕事をした時の【お客さん】は、
交通事故、自殺の失敗、その他諸々の理由で昏睡状態に陥った人々らしい。

彼らはブーンを起こすという最終目的のため、
箱庭の記憶士を成長させるためのモルモットなのだという。

箱庭の中で記憶を消された【お客さん】達は、現実でも記憶を消されて目覚めるらしい。

84 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 23:13:24.75 ID:D6WGHiOW0
そして、VIPという機関は現実の世界にも存在し、
その機関が俺にこんな幻を見せているらしい。

ショボンも、ミセリも、クーも、ツンも、あの白衣の男――モララーも、
現実の世界に存在する、機関の研究員なのだという。

さらに研究員たちは、自由にこちらの世界へ干渉できるらしい。

自動操縦時のショボンたちの行動は、一本のストーリーに沿っており、
そのために箱庭内のおかしな設定も真実として語っていたらしい。

ちなみに、居住区1番地の洋館へ行ったとき拾った紙切れは、
ストーリー上の存在で意味は無いらしい。

現実世界では意図的に交通事故を増やしてはいないし、
そんな非人道的なことはしないということだった。

こうしてモルモットになっている俺がいる以上、
どこまで信用できるものなのかわからないのだけれど。

……どちらにせよ、迷惑な話だ。
あれ一つで人がどれだけ恐怖していたのかわからないのだろうか。

87 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 23:16:57.26 ID:D6WGHiOW0
この世界で俺が感じたこと、
苦しかったことや楽しかったこと、
悲しかったこと。

――全て、幻の中のできごとなのだ。

借り物の力で、他人の記憶を奪い取り、悪役気取り。
中二男子のような自己陶酔。

まさに滑稽という言葉がよく似合う。

目の前に立つショボンが、再度口を開く。

(´・ω・`)「さて、真実も大体理解できたかな? なにか質問があればいってみなよ。
        君の信じる人、物、なんでも良い。それに誓って、嘘は吐かない」

腐るほどある。

確かにある。

自分ひとりで抱えきれないほどの疑問がある。

88 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 23:19:37.32 ID:D6WGHiOW0
だが、聞く事は四つだけ。

('A`)「四つある。まず一つはどうでもいい事。残り三つは大事なことだ。
    ……どうでもいいことから話そう。俺の指先にできた皹割れだ。
    こいつは眠っているブーンやミセリにも出来ていた。一体なんだ?」

(´・ω・`)「それは箱庭内のバグだね。
        現実世界に影響はないし、大した意味はないよ」

意味はない、か。
ワリとどうでもよいことだが、荒巻爺さんを処理した時から気になっていた。
疑問が一つ解消された、というわけだ。

一呼吸置いて、右手の指を2本立ててブイサインを作る。

('A`)「二つ目だ。こいつは重要だから聞き逃さないように頼む。
    ……
    事故でミセリを巻き込んだことは現実か?」

――聞くまでも無い。

89 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 23:22:06.47 ID:D6WGHiOW0
夢の……いや、現実の世界のミセリ。
その性格、表情は「やさぐれた」という言葉がよく似合う。

彼女の額の大きな傷。
あれを見れば、答えなんて聞かなくてもわかっていた。

ショボンは一瞬目を逸らし、虚空をみて、再度俺の瞳だけを見た。
全てを見透かしたような瞳で、それでいて悲しそうに、ゆっくりと口を開く。

(´・ω・`)「それは現実だ。彼女が大学一年生の時に、君が事故に巻き込んだ。
        怪我が治った後、彼女は大学を中退して、僕らの研究所に助手として入った。
        彼女はそのことを恨んではいないし、君に何かをしてもらおうとも思っていないよ」

その言葉が、俺の心を抉る。
額への大きな傷。
その傷が、どれだけ彼女を苦しめていたのか。




――なんとしても現実の世界に戻らなければいけない理由が出来てしまった。

91 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 23:24:30.31 ID:D6WGHiOW0
更に一呼吸置いてから、右手の指を3本立てる。

('A`)「俺が現実の世界に戻るにはどうすればいい?」 

(´・ω・`)「ブーンを起こす。これに尽きるね。
      期限も定められているから、悠長なことをしていられない」

若干腑に落ちない。
先ほどみた夢では一度起きた俺を眠らせるということをした。
では目覚めさせることも簡単にできるのではないか。

これは研究所の意思を通すための嘘なのではないか、と変なかんぐりをしてしまう。
ショボンの言葉が何度も頭によぎるからだ。




――裏もみないと、いけないよ。

93 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 23:28:17.13 ID:D6WGHiOW0
('A`)「最後の質問」

(´・ω・`)「どうぞ」

唇をかみ締める。
ショボンの瞳をまっすぐに見つめる。
別にこいつが、恋愛感情的に好きで見ているわけではない。

('A`)「何故、俺に真実を話す。今になって何故? 最初から言えばよかったのに」

(´・ω・`)「今になって話すのは何故か。
        今日は君が破棄されるかどうかの最後の日。
      ここで全部話して「ブーンを起こす」という行動をしてほしいからさ。

      実は取り決めで、最後の日しか話してはいけないというものがあってね。
      今までヒントを出すのも厳しかったんだよね」

そこで言葉を区切る。
ショボンへの目線を逸らさずに、続きが聞けるまで待つ。
……やがて、観念したようにショボンが口を開いた。

(´・ω・`)「僕はブーンの友人だからね。研究所の意思よりも、彼の言葉を優先しているんだ。
        【一人でも多くの記憶士を救ってほしい】。彼の願いだ。
      最も、この言葉を話したのは箱庭の中のブーンなんだけどね。
        それから、これが一番大きな理由なんだけどさ……」

ショボンが一度目を瞑り、口と一緒にそのつぶらな瞳を開く。

98 名前:猿ってた ◆MaKenzNFU.[>>94 あとがきにて] 投稿日:2009/12/24(木) 23:38:20.33 ID:D6WGHiOW0




                  「君は、僕の友達だからね」




100 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 23:41:54.61 ID:D6WGHiOW0
('A`)「ああ、くっせぇ。臭すぎて……涙が出てくるわっ!」

2人して、"幻の部屋"で大声を上げて笑う。
腹が痛くなるほどに。

ああ、ここが、この世界が、幻であるなんてどうでも良いほどに。

狂ったように笑った後、どちらからとも無く真顔に戻る。

('A`)「質問は終わりだ。ショボンには【狂ったプレゼント】貰ったからな。
    俺もプレゼントをくれてやるよ。ブーンを起こしに行くッ!」

(´・ω・`)「ああ、期待してるよ。戻ってきたら、杯を交わそう」

('A`)「そうだな。きつい奴を頼む! 頭が吹っ飛びそうになるやつをよォッ!」

それだけ大声でつげ、階段を駆け下りる。

握った手の中にある物。
渡す相手を見失ってしまったそれ。
現実の世界に戻ったら、彼女に渡さなきゃいけない。

たとえ彼女が何のことかわからなくても、そういう決意を持つことが大切だ。

101 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 23:44:11.60 ID:D6WGHiOW0
入口の扉を開け、走る。
何よりも早く、月の明かりよりも早く、駆ける。

今朝、狂ったように振った猛吹雪も、最早消え去っていた。
周りの建物は消え去り、"幻のカフェ"から"幻の病院"までの一直線の道。
それしかそこに存在していなかった。

さすが、俺に都合の良い箱庭だ。
一直線にすれば、病院までの距離はそれほど無い。

300mか、400mか、それくらいの距離だ。
病院の入口のガラス戸が、俺が走り抜ける時にタイミングよく自動ドアのように開く。
そのまま奥の棟まで駆け、階段を駆け上る。

2階……3階……4階……5階。

もう数瞬もすれば、内藤ホライゾンの病室の前だ。
白い廊下を蹴飛ばし、扉の前までたどり着く。
重いその引き戸の取っ手に手をかける。

103 名前: ◆MaKenzNFU. 投稿日:2009/12/24(木) 23:46:51.45 ID:D6WGHiOW0
扉を開いたそこには、先日"幻のツン"の座っていた位置に"幻のクー"が座っていた。
クーはブーンの手を握っている。

川 ゚ -゚)「ドクオ、いきなり扉を開けるのは失礼だぞ! それに、こんな夜更けに何をしに来た?」

(#'A`)「病院ですることは一つだッ! 治しに来てやったんだよッ! お医者さんがなぁッ!」

そんな怒号を上げる。
一瞬何を言われたのかわからない顔をしたクーが、俺の目の前に立って、両手を広げる。

「彼を起こさせはしない!」

そういう彼女の決意なのだろう。

だが……っ!

それも幻……っ!

左手一本で彼女を払いのけ、ブーンの額に右手を伸ばす。
この世界で最後の処理。

その掌からこぼれる光は、今まで見たことも無い、太陽よりも明るい光だった。



第5話 終わり。


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