( ^ω^)あしたの空のようです

2 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/03/10(水) 03:04:52.10 ID:SNNJXNqW0











インタールード 人間の約束,










                      
3 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/03/10(水) 03:06:25.59 ID:SNNJXNqW0




あの男と関係を持ちはじめてから、もうだいぶ経っただろう。

しょうがないことなんだ、と自分に言い聞かせてみても、
世の無常感に打ちひしがれて、やはり、涙をこぼした気がする。

たとえ父の上司だとしても、あの男には殺意しか抱けない。
しかし、あの男がいなくなれば、家庭は完全に崩壊するに違いない。
決壊を食い止めているのは自分自身なのだろう。

そう思うと、今日もきた汚らわしい誘いのメールを、むげに断れなくなるのだった。


外では強気に振舞っている自分が本当に他人のように思えてくる。
近頃は友達からも本気で心配されている。気がついたらいつも俯いている。
気まずさから疎遠になった恋人からは、もうずっと連絡が来ていない。


苦しいけれど、あの屋敷へ行くしかない。
今の自分に出来ることはそれだけなんだ。
そう言い聞かせながら、マンションから出ていった。


                
4 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/03/10(水) 03:08:14.43 ID:SNNJXNqW0
悪趣味な豪邸に到着し、作り笑顔をしながらチャイムを鳴らす。
玄関から出てきたのは、予想通りにあの男だった、あのオッサンだった。


(`・ω・´)「やァア……今日も綺麗だねぇ」

ねっとりした眼で私の身体を撫でまわすと、いつもどおりの言葉を吐いた。

('、`*川「そうですかぁ?」

ああ、自分で言っていて鳥肌が立つのを感じる。なに、この猫撫で声は。
生理的に無理だと身体が拒否反応をしめしている。
しかし理性が、この男の元に行け、行かねばと告げているのだ。

『家族のためだ、これは仕事、仕事、仕事……シゴトナンダカラ』

念仏のように頭の中で唱えながら、屋敷の中へ入っていった。
相変わらず、たばこ臭く、それで薄気味悪い内装だった。
階段を上がって二階へ行くと、たちまち気持ちがズンと沈んだ。

「シゴト、シゴト、シゴト……」

吐き気が込み上げてくるのを、顔に出さないように我慢しながら廊下を渡っていく。
一歩一歩渡るごとに、気持ちが底なし沼に沈んでいくように感じた。

                   
5 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/03/10(水) 03:09:34.82 ID:SNNJXNqW0
廊下の途中で二つの部屋の前を通っていった。
ひとつは、日本有数のバカ息子であろうショボンの部屋だった。
単位が取れずに留年確定し、そのまま引きこもって、今はネット廃人になっているらしい。

もう一つの部屋は、しぃのものだった。
行方が分からなくなってから、もう何年も経っている。
彼女のことを考えるたび、焦燥感めいたものがざわめき立った。

同時に、
仕事だといってしぃの父親と関係をもつ、自分の現状の虚しさも浮き彫りになる。
自分の父親の上司と関係を持つという汚らわしさにも嫌悪した。

('、`*川「………」

すでにシャキンは自室に入った。いつものガウン姿だから、シャワーはとうに済ませている。

きりきり痛む心を抱えながら、シャキンの部屋に入っていった。……


・・ ・・・

           
6 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/03/10(水) 03:10:58.05 ID:SNNJXNqW0
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・

ペニサスがシャキンの愛人となり、まゆ山家の跡取りのショボンは社会から逃げ出した。
2003年は、まゆ山家の腐敗が着実に進行していくのが見て取れる年でもあった。

その一方、しぃを巡って対立し、友情関係を破棄したブーンとドクオは、
いまだ学生の身分であったが、立ち振る舞いはいっさい違っていた。

進学した高校も別々だが、たとえばブーンなどは、中学のときとほとんど変わらない、
むしろしぃの一件で暗くなったほどで、女性関係などは噂にもならないくらいだったのに、
いっぽうでドクオは、女性関係も含めて、荒れに荒れていた。
腕っ節も度胸も鍛えられ、上級生や教師からは腫れもののように扱われている。

ドクオとブーンの離別の原因など知るものはもとより居ない。
周囲は目を見合わせて、二人が仲直りするのをそっと待っていたが、
進学先も別で、生き方まで真反対になってしまった以上、もう諦念しか抱いていない。


それはペニサスも同様で、自分の弟が、この先、内藤君と仲直りするのは不可能だと悟っていた。

なにが原因でこんな歪みが発生したのか。
それは当事者いがい、誰も知ることはなかった。

             
7 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/03/10(水) 03:12:55.96 ID:SNNJXNqW0
・・ ・・・

( 、*川「……逃げよっかな……」

耐えに耐えてきたが、もう、限界だった。
そつなく大学を卒業し、それなりの上場企業に就職したのに、わずか二週間で退社をすると、
まゆ山家から逃げるために、その町を離れ、繁華街で嬢として働くことにしたのだった。


 喧噪は心地よかった。
そこでのしがらみもまた、面倒くさくはあるものの、使命感なんてものとは無縁なものだった。
粘つくような、今までの暗い暮らしよりははるかにましだし、なにより、
個人個人のエゴイズムの競い合いみたいなその風潮には、ゲーム的な楽しさすら感じられた。

ペニサスには絶えずパトロンがつき、まゆ山家から貰った多大な金銭も控えてい、
生活にはまったく不自由しなかった。

医師免許は持っていないくせに、御雇いの医師を使ってのボッタクリ美容整形で
荒稼ぎしている、老舗病院の四代目にはよくデートにも誘われたし、
いまだ残る原野商法で御高齢を騙し続けている悪徳不動産業の社長には、
店の移りかえの後処理を全面的にサポートしてもらった。

需要と供給の明確な世界での渡世は、ひとたび味わえば病みつきになるような楽しさ
があって、ペニサスもそれの中毒になりかけたのだが、あの娘との突然の再会が、
強烈に自分の生き方に疑問を抱かせた。

8 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/03/10(水) 03:14:46.12 ID:SNNJXNqW0
それだけではなかった。
その出会いから連鎖的に出来事が介入し、ついには起きた、

れいの襲撃事件などは、
ペニサスの心情にまったくの影響を与え、ついにお水からの脱却を決意させるほどであった。

そうして、逃げるように暮らしを転々とし、ペニサスが落ち着いたのは
リゾート計画も完璧に頓挫した、あのさびれたラウンジであった。

裏社会で再会したあの娘……しぃの、かねてからの夢であった
喫茶店のお勤めを実現させるべく、ラウンジの地主や実力者たちに何度も頭を下げ、ついに店を借りられた。

ひとけのない町での営業なだけあって、売上げはまるで芳しくなかったが、
そんなことは二人にとってどうでもよいことであった。
金など要らないのだ、ただ、老後のように穏やかな環境が愛しかった。


・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・

それから二年以上の月日が流れ、西暦は2008を指してから、もう半分を過ぎようとしていた。
髪をなでる風が、永い冬を予感させる、11月のころに、その男は入店をしたのだった。
 
          
9 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/03/10(水) 03:16:17.18 ID:SNNJXNqW0
男は内藤ホライゾンといった。
いまはならず者に成り果てたドクオの、唯一無地の親友だった男である。

ここに来た経緯はそれとなく知っている。意外な手紙に誘われたのだろう。
人のよさそうな顔をしているが、暗い影をせおった雰囲気を感じさせた。

男は、運ばれたコーヒーに手をつけながら、ぽつぽつと自分の過去を語っていった。


春頃に、まゆ山ショボンの運転する車に撥ねられ、
その際、しぃを翻弄するような示談を結んだこと。

親友のドクオにも、その示談のことは言わず、しぃで遊びまわしていたこと。

しぃがついに嫌気をさして、家出をしてしまったこと。そして、後悔を覚えたこと。

わずかな手がかりを頼りに、ラウンジに乗り込んだこと。

そこにドクオが現れ、制裁を加えられたこと、絶交したこと、涙を流したこと……。


決して饒舌でないその男は、それでも要点を外すことなく言葉を紡いでいった。


      
10 名前: ◆tOPTGOuTpU 投稿日:2010/03/10(水) 03:17:17.47 ID:SNNJXNqW0
・・ ・・・

('、`*川「……なるほどね」

過去をすべて聞き終えて、ペニサスは小さく声をあげた。
ウェイトレスなので作業は片づけなくてはならない、洗い終わった灰皿を
棚に戻すついでに、ブーンの隣にもそれを置いた。

( ^ω^)「ア……どうも」

ブーンは無言で煙草に火をつけると、申し訳なさそうに紫煙を肺にふくんだ。

ペニサスは扉の方に目を走らせ、今日の客入りは滅法少ないだろうという予想を立てると、
事務室でパンの残取をしている、しぃに声をかけた。
今では中学時代の面影もない、派手な格好のしぃをブーンに会わせるために。

これでも、繁華街で出会ったときに比べればよっぽど落ち着いたのだが、
ブーンがみれば仰天、少なくとも意外には感じるであろう容姿だった。

しぃは振り返ってコクンと頷くと、ゆっくりした足取りで店内へ向かっていった。

バッシング用の濡れタオルを流水にあてながら、ペニサスは二人の再会を見守ることにした。……


                          (インタールード 終)


戻る 次へ

inserted by FC2 system