- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/05(土) 22:54:37.73 ID:2VHZLb5Z0
生まれて初めての野球観戦は5歳の時。
今は亡き祖父に連れられて観に行ったヴィッパ―ズ戦だった。
( ・ω・)(暇だなぁ・・・・・・)
当時、野球のやの字も知らなかった俺にとって、それは退屈以外の何物でもなかった。
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/05(土) 22:57:26.45 ID:2VHZLb5Z0
「流石ぁーーーーー!! 」
周りの大人たちが一斉に声を張り上げる。
酔っぱらっいのおじさんも、若い女の人も、一様に楽しくて仕方がないという顔をしている。
自分には何がそんなに楽しいのかまったくわからない。
( ・ω・)(眠い・・・・・・)
時計の針はとっくの昔に9時を指しており、いつもなら床に就いている時間だ。
「もう帰ろうよ」 そう祖父に切り出そうとした、その時 ―――――― 。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/05(土) 22:59:32.65 ID:2VHZLb5Z0
- ―――――― ワアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!
(;・ω・)「!!? 」
衝撃波のような大きな歓声が響く。
驚いて思わず座席から転げ落ちそうになる。
上空を見上げると、ボールが高々と舞い上がっていた。
( ・ω・)「・・・・・・」
えも言われぬ美しい放物線を描いて、そのボールは場外へ消えていった。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/05(土) 23:02:56.79 ID:2VHZLb5Z0
( ´_ゝ`)
打った選手は堂々とした姿でダイアモンドを一周していた。
その姿は、当時憧れていた戦隊ヒーローの非ではなかった。
(*・ω・)「かっこいい・・・・・・」
自分の夢が一瞬にして決まった瞬間だった。
いつか自分も、あの選手と同じグラウンドに立ちたい、負けないような大きなHRを打ちたい。そう思った。
やがて、その夢は叶い、同じチームでプレーすることができた。
その選手が引退してコーチ、監督となっても志を共にした。
そして ―――――
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/05(土) 23:08:40.48 ID:2VHZLb5Z0
――――― その人から直接構想外を言い渡された。
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/05(土) 23:09:30.44 ID:2VHZLb5Z0
( ФωФ)優勝請負人のようです 第五話【ダメ助っ人と天才打者】 前編
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/05(土) 23:10:52.41 ID:2VHZLb5Z0
( ФωФ)(あれから35年以上は経つのか……)
早いもので明日は開幕戦。今日は全体練習が行われている。
奇しくも相手は古巣・ヴィッパ―ズ。
昨日、監督から「3番ファースト」でのスタメン出場を告げられた。
(ヽ'ω`)「おはようございますお……」
(;ФωФ)「ど、どうしたんだお前!」
乾いた雑巾のようになっているのはファルコンズ期待の和製大砲・内藤。
弱冠24歳にして今年からチームの4番を任せられる事になっている。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/05(土) 23:12:18.27 ID:2VHZLb5Z0
(ヽ'ω`)「開幕4番で行くって言われてから……緊張で全然眠れなくて……食事も喉を通らなかったんですお」
(;ФωФ)「おいおい大丈夫か?」
(ヽ'ω`)「大丈夫ですお……とりあえず向こうでランニングしてきますお……」
そう言って外野フェンス沿いに向かう内藤の足取りは重く、今にも倒れそうだ。
4番がこれでは先が思いやられる。
_、_
( ,_ノ` )「全く……先が思いやられるな」
( ФωФ)「渋澤さん……」
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/05(土) 23:13:54.98 ID:2VHZLb5Z0
_、_
( ,_ノ` )
渋澤 奉紀 24年目42歳 右投左打 外野手
昨季成績 52試 .250 0本 13点 0盗
通算成績 2120試 .302 295本 1089点 68盗
タイトル ベストナイン4回 ゴールデングラブ4回
渋澤さんはファルコンズ一筋24年目の大打者であり、選手の中ではただ一人の先輩である。
足の故障で近年は代打専任だが、その打撃技術は健在で昨季は4度の決勝打を放った。
無論ファンからは老若男女問わず絶大な人気を得ている。
_、_
( ,_ノ` )「あんなメンタルじゃ頼りにならん。お前が4番打った方がいいんじゃないの?」
( ФωФ)「何言ってんですか。4番はあいつしかいません」
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/05(土) 23:15:39.04 ID:2VHZLb5Z0
(ヽ゚ω゚)イッチニーサンシー
_、_
( ,_ノ` )「……そうか?」
(;ФωФ)「……」
ランニングをしている内藤の姿は24歳の若手選手のそれとは思えない。
生気が無く、覇気が全く感じられない。
いくらなんでも緊張しすぎだ。
_、_
( ,_ノ` )「暫くは下位で伸び伸び打たせた方がいいと思うんだが……」
ストレッチをしながら渋澤さんが呟いた。
内藤の若さを考えると正論なのだが、他にいないのだから仕方ない。
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/05(土) 23:17:10.49 ID:2VHZLb5Z0
- _、_
( ,_ノ` )「去年は最高に頼れる4番がいたっけなぁ……」
( ФωФ)「ビコーズの事ですか」
去年まで4番を務めていたビコーズは2年連続3割40本塁打100打点と、文句のつけようが無い成績を残した。
しかし、あっけなく交渉が決裂し、3年12億プラス出来高という好待遇でヴィッパ―ズに引き抜かれた。
_、_
( ,_ノ` )「酷えもんだ……その代わりが「アレ」なんだから」
(ヽ<○><○>)「……」
アレ↑
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/05(土) 23:19:13.12 ID:2VHZLb5Z0
「アレ」ことメキシカンリーグ本塁打王・テマスはオープン戦で.169 2本 2点と絶不調。
両リーグ断トツ一位の36三振を喫しており、ノイローゼ気味となっている。
(;ФωФ)「あいつもあいつで重傷ですね……」
_、_
( ,_ノ` )「昨日は誰もいない壁に向かって話しかけていたらしいぞ
(;ФωФ)「うっわー・・・・・・そりゃまた何とも・・・・・・」
(ヽ<○><○>)「・・・・・・」
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/05(土) 23:22:08.94 ID:2VHZLb5Z0
テマスは練習をするでもなく、ずっとベンチに座り込んだまま動かない。
まるで抜け殻のようだ。ここ3日はバットを握ってすらいないらしい。
周囲からのアドバイスや期待がかなり重荷になっているようだ。
_、_
( ,_ノ` )「当たれば飛ぶといっても当たらなきゃ本末転倒だよな」
( ФωФ)「全くです。あの穴だらけのフォームは結局直りませんでした」
_、_
( ,_ノ` )「そもそもセサルやテレーロが活躍するようなリーグ出身だしな」
(;ФωФ)「期待するだけ無駄だったのかも……」
(ヽ<○><○>)「・・・・・・」
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/05(土) 23:24:28.03 ID:2VHZLb5Z0
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「テマス・・・・・・ダイジョウブカイ?」
キバーラ・マリントン 2年目32歳 右投右打 投手
昨季成績 30試 13勝11敗 防2.42
見るに見かねてテマスに駆け寄ったのは、来日二年目のマリントン。
昨季は総崩れ状態の先発投手陣の中にあって孤軍奮闘し、13勝を挙げた。
(ヽ<○><○>)「キバーラ……」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「カンガエスギハヨクナイヨ?」
背中を叩いてテマスを励ます。
マリントンはチームの外国人で唯一の2年目。
外国人選手のまとめ役・相談役として期待されており、本人もそれを自覚している。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/05(土) 23:26:43.37 ID:2VHZLb5Z0
(#<●><●>)「ホットイテクダサイ! 」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「……」
しかしマリントンの気遣いは届かない。
(;ФωФ)「おいおい……そりゃねえだろ」
_、_
( ,_ノ` )「なんて言ったんだ?」
( ФωФ)「『ほっといて下さい』……だそうです」
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/05(土) 23:29:01.12 ID:2VHZLb5Z0
(#<●><●>)「アンタミタイナエリートニ!! ボクノキモチガワカッテタマルカ!!」
テマスはそう叫ぶと、早々に練習を切り上げてベンチ裏に下がってしまった。
それを止める者はいない。
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「……」
( ノAヽ)「キニスルナ」
呆然と立ち尽くすマリントン。
3A時代にもチームメイトだったノーネが慰める。
;;;;| ,'っノVi ,ココつ「アア……ワカッテルサ」
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/05(土) 23:31:30.62 ID:2VHZLb5Z0
――――― ベンチ裏
(#<●><●>)「クソッ!ナンデボクガコンナメニアワナクチャイケナインダ!!」
(#<●><●>)「メジャーデホームランウッタコトモアルノニ!!」
※テマスMLB通算成績(1年)
18試合 .095 1本 3点 25三振
(´・c_・`;)「テマス、落ち着いて……」
原田通訳(36) 通訳歴13年
(#<●><●>)「シャラップ!!」
(´・c_・`;)(こいつ早くクビになんねえかな……)
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/05(土) 23:35:05.33 ID:2VHZLb5Z0
(;ФωФ)「困ったもんですね……」
_、_
( ,_ノ` )「俺らに出来ることはない。あいつがどう考えるかだ」
_、_
( ,_ノ` )「それに、ここで這い上がれないようじゃ……所詮それまでの奴だったって事だ」
( ФωФ)「……同感です」
厳しい事を言い放っているが、この人は性格が悪いわけではない。
このチームを心の底から愛しているからこそ、厳しい言葉が出てしまうのだ。
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/05(土) 23:39:16.38 ID:2VHZLb5Z0
( ФωФ)(それにしても……この人と同じチームになるとはな)
歳は一つしか変わらず、同じ左打ちでプレースタイルにも大した違いはない。
向こうはどうだったか知らないが、俺は若いころからこの人を意識していた。
( ФωФ)「……渋澤さん」
_、_
( ,_ノ` )「なんだ?」
( ФωФ)「高校の時のアレ、覚えてます?」
しかし、渋澤さんを意識していた理由はそれだけではない―――― 。
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/05(土) 23:41:38.24 ID:2VHZLb5Z0
―――― 俺は高校時代、投手を務めていた。。
元々は内野手希望だったのだが、同期に投手がおらず、済し崩し的に投手を任され、これがハマった。
そして2年生ながら4番でエースの大役を担い、夏の甲子園に出場。
初戦で対戦相手になったのは渋澤さんが主将を務める高校だった。
[;`_´]「くっ! 」
「ストライク!!バッターアウト!!」
( ФωФ)(よし!)
俺は8回まで被安打3、失点0と好投。
1点リードで迎えた9回も先頭打者の出塁こそ許したが、その後を2者連続三振に打ち取っていた。
そして迎えた最後の打者。相手ベンチが選手の交代を告げる。
『南実工業高校、選手の交代をお知らせします。 7番藤村君に代わりまして ―――― 』
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/05(土) 23:43:57.68 ID:2VHZLb5Z0
『渋澤君。バッターは、渋澤君。背番号8』
_、_
( ,_ノ` )
――――――― ウオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
相手チームの応援席から大歓声が上がる。
当時からプロ入り間違いなしと言われていた渋澤さんはこの日、右足の違和感が原因でベンチだったらしい。
すぐさまタイムがかかり、マウンドに輪が出来た。
(・ ε ・)「バックには俺らがついてる」
|6↓6|「あと一人だ。気負わずいけ」
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/05(土) 23:45:30.13 ID:2VHZLb5Z0
(・ ̄‥ ̄)「暴投になってもいい。思いっきり腕を振るんだ」
( ФωФ)「はい! 」
先輩たちが次々に声を掛けてくる。
全員が俺を信じてくれていた。
そしてマウンドの輪は解かれ、渋澤さんとの勝負が始まった。
(;ФωФ)「……」
_、_
( ,_ノ` )
打席に入る渋澤さんは、とても高校生とは思えない威圧感を醸し出していた。
今思えば俺はその雰囲気に完全に呑まれていたのだろう。
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/05(土) 23:48:12.68 ID:2VHZLb5Z0
( ФωФ)(落ち着け俺……自分を信じろ)
深呼吸をして投球動作に入る。
自分で言うのも何だが、当時の俺はコントロールに絶対の自信があった。
コーナーワークを駆使すれば絶対に打ち取る事ができると信じていた。
( ФωФ)(際どいコースついていけば大丈夫だろ……)
24年経った今でも、この日の渋澤さんへの配球が鮮明に思い出せる。
まず初球は内角ぎりぎりのストレート。
_、_
( ,_ノ` )「……」
決まってストライク。
1ミリ足りともバットが動かなかった。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/05(土) 23:50:47.35 ID:2VHZLb5Z0
続いての2球目は真ん中低めのストレート。
これも同様に見逃してストライク。
(;ФωФ)(変だな……)
カウントは2ストライクノーボールで、有利なのは俺のはずなのに、全くそんな気がしない。
まるで追い込まれているのは自分のように感じた。
_、_
( ,_ノ` )「……はぁ……」
_、_
( ,_ノ` )「タイムお願いします」
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/05/05(土) 23:52:40.77 ID:2VHZLb5Z0
タイムを審判に告げて、渋澤さんは打席を外した。
打席の横で何か呟きながら素振りをしている。
(;ФωФ)(……?)
_、_
( ,_ノ` )ブツブツ……
(;・ ̄‥ ̄)(怖え……なんだこいつ)
今の溜息は一体何なのか。
『お前の球など打つ気にもなれない』とでも言いたげだった。
不気味だ。何か得体のしれない化け物と戦っている気分だ。
(・ ̄‥ ̄)(いけるぞ杉浦。次で決めよう)
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/05(土) 23:55:29.71 ID:2VHZLb5Z0
出されたサインは三球勝負。
しかし首を縦に振る事ができない。
(;ФωФ)(……一球外させて下さい)
(;・ ̄‥ ̄)(……わかった)
野球をしていて恐怖を感じたことは、後にも先にもこれだけだった。
_、_
( ,_ノ` )「……」
渋澤さんが打席に戻り、試合が再開される。
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/05/05(土) 23:58:55.74 ID:2VHZLb5Z0
キャッチャーの石原先輩が腰をあげてミットを構える。
コースは外角高め。
( ФωФ)(ここで間を置いて……次で勝負だ)
投球モーションに入り、第3球を投じる。
ストライクゾーンの遥か上。明らかなボール球。
_、_
( ,_ノ` )
(;ФωФ)(……え?)
その瞬間、我が目を疑った ――――― 。
【続く】
戻る 次へ