川 ゚ -゚) 少女は戦争犬と駆け抜けるようです

3 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 21:05:20.31 ID:WjflNR8h0

あの男の話をしよう。


そう、あの戦争犬の話だ。

戦争犬はどのようにして戦ってきたのか、
トソンが何故あの男にあそこまで肩入れするのかがこれで分かるだろう。

だが、あの男の口からそれが語られることはない。
しかし、私は過去の彼の姿をしらない。


7年前、私と別れたあの少年はどうなったのか。


それを私に教えてくれる者はもういない。


だからこの物語は、彼女の口から語られる。

4 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 21:07:21.88 ID:WjflNR8h0




       川 ゚ -゚) 少女は戦争犬と駆け抜けるようです


      
         第11話 戦争犬不在の一日 前篇

6 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 21:09:31.73 ID:WjflNR8h0

******

6月3日 2000―――ウプスレッド基地鬱田タケシの士官室。


(゚、゚トソン 「少佐の失踪から二日が経ちましたが、まだ手がかりすら掴めておりません」

失踪した少佐の副官であるトソンは、不満げに呟いた。
部屋の主であるドクオは不在で、代わりに彼の部下三名がこの部屋に集まっていた。

<_プー゚)フ「まぁ、仕方ないだろ。俺達だけでやれることなんて限られている。
         だからよ、今は目の前の仕事だけを片づけてこうぜ。
         少佐の仕事もお前がやる羽目になってんだ。少しは―――」

(゚、゚トソン 「曹長、少佐は今拷問を受け、苦痛を与えられているのかもしれないのですよ?
      命を握られ、今まさに奪われようとしているのかもしれない。
      私たちが一刻も早く少佐を発見し、救出しなければ、彼は殺されてしまうかもしれない」

/ ,' 3 「少佐は貴重な情報源じゃよ。そう易々と殺されるようなことはあるまいて。
     あの男が口を割るようなタマでもあるまいし、割らぬ限り奴は生かされ続ける」

落ち着いた、諭すような口調で荒巻が言う。


(゚、゚#トソン 「だから! 早く救出しないといけないんじゃないですか!!」

<_プー゚)フ「トソン、落ち着けよ。たしかにそうだが、
         アイツなら脱出の一度や二度こなしてみせるだろうよ」

8 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 21:11:28.71 ID:WjflNR8h0

(゚、゚トソン 「希望的観測にしかすぎませんね」

/ ,' 3 「じゃが、あの男の捜索でお前は身を滅ぼしかけている。
     もう休みなさい。アレからトソンちゃんは眠っていないじゃろ?」

(゚、゚トソン 「少佐の救出は最優先事項です。休息など二の次です。
      それに、睡眠ならとっていますのでご心配なく」

言葉とは裏腹に、トソンの目の下には大きな隈が出来てしまっていた。
睡眠はたしかにとってはいたが、二、三時間とごく僅かな睡眠しかとっていないのを察していた二人は、
そのことは言及せずに、焦るトソンを宥める事に努めていく。


/ ,' 3 「トソンちゃん、一カ月後にはニーソクへの侵攻作戦が迫っている。
     ウォードッグ隊も参加する作戦じゃ。
     最悪、少佐抜きでトソンちゃんが指揮を執ることもありえるんじゃ」

(゚、゚トソン 「分かっています。ですが、彼がいなくては私達の大義は果たせません」

<_プー゚)フ「アイツがいなくても果たせるさ、そんなもの」

(゚、゚#トソン 「エクスト君!!」

エクストの一言は、トソンの逆鱗に触れるには充分な言葉だった。
烈火のごとく怒りだす彼女を制して彼は続けて行く。

<_プー゚)フ「大義はアイツ一人の物だった。だが真実を伝えられ、
         アイツの下に俺達が集まってからはもう、一人の物なんかじゃない。
         アイツの大義はもはや、俺達みんなの物だ」

9 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 21:13:38.71 ID:WjflNR8h0

<_プー゚)フ「だとすりゃ、俺達だけでも大義は果たせる。俺達の大義をな。
         最悪のパターンだが、俺達がアイツの遺志を継げばいい」

(゚、゚#トソン 「少佐はまだ―――!」

<_プー゚)フ「どこに根拠がある?」

(゚、゚#トソン 「それは……」

<_プー゚)フ「生死不明。死体は残っていないが、生きている保証も無い。
         だったら、俺達だけでなんとかするしかねーだろ。
         トソン、この部隊をお前の物にしろ。少佐もきっとそれを望んでる」


(゚、゚;トソン 「馬鹿なことは言わないでください。少佐は―――」


『私は、多分軍に残る』


( A●) 『そして国の為に忠を尽くすと?』

『えぇ……出来れば、ドクオ少佐に残っていただき、お供をしたい気もするのですが』

( A●) 『銃を捨て切れなかった時は、な。でもお前の方が指揮官向きだ。
     いずれ俺の下では無く、もっと上を目指せるさ。俺なんかよりよっぽど立派な軍人になれるよ』

否定の言葉を繰り出そうとしていたトソンは、
そこで、ある時の会話を思い出した。

13 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 21:17:05.13 ID:WjflNR8h0

あの時の彼の言葉は、トソンを後押しするものであり、
間違いなく一人の軍人として彼女を認めているからこそ放たれたものだ。

脳裏に、ドクオの声のまま蘇った言葉に、トソンは息をのむ。

( 、 トソン 「……ッ!」

<_プー゚)フ「望んでいるさ。どこの馬の骨ともわからねぇ職業軍人共より、
        アイツの戦い方を、背を見てきたお前に率いられる方が少佐もみんなも納得する」

(゚、゚トソン 「少佐は、死にません」

/ ,' 3 「あぁ、そうじゃ。あの小僧っ子はそんな簡単には死なん。
     何せあの方の弟子じゃぞ? じゃが、今はここにはいない。
     そしてそう簡単に戻って来られるような状況でもないんじゃろう」

/ ,' 3 「今はやるべきことをやるべきじゃ。少佐もきっとそうする」

(゚、゚トソン 「少佐は、少佐なら絶対に仲間を見捨てるような真似はしません」

/ ,' 3 「トソンちゃん、あの男を買いかぶりすぎじゃよ。
     少佐はこれを好機と見て、あえて捜索するじゃろう。
     行方不明者を発見できれば"奴ら"の手掛かりを掴めるかもしれん」

(゚、゚トソン 「えぇ」

/ ,' 3 「じゃが自分を滅ぼすような真似はしない。
     自分を見失い本来の目的を忘れては、果たせる物も果たせない。
     冷徹にして同志には情を忘れぬ。あの男がどういう判断を下すか、あの男になったつもりで考えてみよ」

15 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 21:21:09.66 ID:WjflNR8h0

(゚、゚トソン 「……」

<_プー゚)フ「一旦冷静になれってこった。今日はもう休め、トソン」

(゚、゚トソン 「……私は」

/ ,' 3 「?」

(゚、゚トソン 「私は、諦めきれません。私はまだ、あの人の左足にもなれてはいません。
      襲われた時、義足でなければ助かっていたかもしれないのです。
      だから私には彼を助ける義務がある……いえ」


( 、 トソン 「ドクオ君を、私は助けたい」

<_プー゚)フ「……俺達も、同じ気持ちだ」


( 、 トソン 「私のせいです。あの時私が―――」

身寄りのない少女が訓練を受け銃を握り、熱砂を乗せた風の吹くあの場所に――――


新兵となり初めて戦場に立った時のことが、
瞼を閉じたトソンの目にあの時の砂漠の熱さと砂の匂い、
そして痛みと恐怖と共に蘇ってきた。


――――18歳の少尉に率いられた部隊が、初めて打ち立てた伝説の記憶が。

16 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 21:23:13.28 ID:WjflNR8h0

******

1971年 4月21日 1420―――スカイプ砂漠北西部、ニューソク軍駐留地。


チューボー基地で訓練を受けた私達、戦災孤児は兵士となり、
パーソクへの侵攻部隊の応援部隊として派遣されることになった。

輸送車の中で揺られ続け2時間が経過し、
スカイプ砂漠北西部にあるニューソク軍のキャンプに到着。
デザートタイガーの迷彩服を身に纏った私達は、見事に砂と溶け込んでおり、
このまま身を伏せれば高いカモフラージュ効果を発揮するだろう。

キャンプには侵攻部隊が揃っており、大隊がここで待機している。
その内の中隊が出撃の用意をしているようで、装甲車から降りた私達の部隊に、
ここの指揮官らしき士官が寄って来た。

( ^^ω) 「よくやってきてくれた。私は、は瀬川マルタスニム少佐だ。
      これから私が中隊を率いて出撃する。
      早速ですまないが、君の部隊もこれに加わってほしい」

少尉は姿勢よく敬礼をしてそれを承服すると、
マルタスニム少佐に引き連れられ、テントの中でブリーフィングを受けに行く。

(゚、゚;トソン (え、もう出撃? それ引き受けちゃうんですか?)

あまりにも急すぎる命令に戸惑ってしまう。
初めての実戦が早まり、思わぬ命令に固めていた覚悟がグラついてしまうようで。

19 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 21:25:17.96 ID:WjflNR8h0

不安だった。

これから自分が銃を手に取り、敵の命を奪い、
奪われる駆け引きがこれから行われようとしている。

この砂漠で命を落としてしまうかもしれない。

急な出撃命令に動揺したのは私だけではないようで、
戦場の不条理に馴染みの無い、私のような新兵達は顔を翳らせていた。

が、

<_プー゚)フ「まっ、そんな心配しなくてもいいさ。俺達は戦闘民族ニューソク人だぜ?
       俺達ほど鍛え抜かれた兵士はどの国にもいない。AAも二機ついてるんだ、大丈夫だよ」

同じ所属であるエクスト君が、場にそぐわぬほど落ち着いた笑顔で、
私の肩をそっと叩いて励ましてくれた。

三ヶ国大戦で家族も家も失った戦争孤児として軍に引き取られ、
そのまま兵士に志願した仲間である彼が、こうも平静を保っていられるのは不思議だったが、
目を見ればその動揺が少し垣間見えてしまう。


戦火に植えつけられた恐怖を彼もまた味わっているのだ。


だというのに、気遣ってくれるエクスト君の気丈さは私には真似できるものではなく、
彼がとてつもなく大きな存在に感じられ、少し頼ってみたくなってしまう気もした。

21 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 21:27:19.52 ID:WjflNR8h0

……彼も同じ新兵だというのに、そんな気持ちになってしまうとは。

これが、女性の弱さだというのだろうか。

境遇も年齢も同じ。違うのは性別くらい。

女ながらに戦うことを選んだのは他ならぬ自分だ。
その覚悟が揺らいでしまったことを恥じていると、
この部隊を率いる隊長が戻ってきて、隊員達を集めだした。

召集に従い、隊長である少尉の前に私達が立つと、

('A●) 「これより我々はマルタスニム少佐の指揮する部隊に加わり、
     ここから10kmほど先にあるパーソク軍の補給拠点を攻める」

海賊のような黒いアイパッチをした青年が作戦を説明し始めた。

たった一つの黒の瞳孔が隊員達を一人一人捉えていき、鋭い眼光がやがて私に向けられる。

感情の籠らぬ、何を考えているかわからない瞳は、
無機質さと不気味さを醸し出しており、少尉が同じ人間だとは思えなかった。

皆どこか作戦開始直前だと知るとそわそわし始めたのに、
砂漠の暑さすら感じていないかの如くこの人は涼しい顔をしているのだ。

不気味という他ないだろう。

なにせ私達と歳が大して変わらぬというのに、そんな顔をしていられるのだから。

22 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 21:29:20.15 ID:WjflNR8h0

兵士になった時、私は彼が鬱田タケシと名乗っているの知り、
更に少尉となっていたことに驚きを隠す事ができなかった。

戦災孤児として共に過ごしていたのに、名を偽り少尉として振舞うドクオ君が不思議で仕方がない。


……彼は、一体どのような道を進んだと言うのだろうか?

そして、何があったのだろうか?


寡黙だったあの少年は、今や指揮官として私達に説明を続けていく。

('A●) 「敵戦力は中隊規模で、おそらく120名程。拠点は小さな物だが、
     7.62mm機関銃を3丁搭載した装甲戦闘車両が五輌、ビッカースMBTが三輌だ。
     近日中に侵攻作戦を開始する予定なのか、戦力が集まりつつあるとの情報を入手し」

('A●) 「今回、我々が襲撃することになった。こちらの戦力は中隊+我が部隊で154名だ。
     M2ブラッドレー歩兵戦闘車が四輌にM113A2装甲兵員輸送車両が八輌」

('A●) 「それと喜べ、皆の知っての通り。
     ニューソクが作り出した最強の陸戦兵器NT−2"ザイル"二足歩行戦車までもが付いてくる。
     よほどのヘマをしない限り、まず負けることはありえんだろう」

淡々と、それでいて気楽な口調で語る彼の心境が読めない。

ほんの少し前までは一緒に食堂でごはんを食べていたはずの少年から、
それでも微かに覗ける物があるとすれば、"必ず勝利できる"という自信だけだ。

26 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 21:31:31.59 ID:WjflNR8h0

('A●) 「そんなわけで、到着したばかりで悪いが装甲車に乗り込んでくれ。進軍する」

「解散」と一言付け加えると荒巻さんが隊員達を先導していき、
少尉はすたすたと装甲車の運転席へ乗り込んでいった。

途中、彼が私の横を通りすぎていき、


(゚、゚トソン 「あ、あの」

('A●) 「ん?」

思わず、声をかけてしまった。


(゚、゚;トソン 「……」


あ、と思った。

何故声をかけたのか自分でも分からなかったのだ。


('A●) 「……?」

少尉が不思議そうな顔で見詰めてくる。

30 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 21:33:55.47 ID:WjflNR8h0

(゚、゚;トソン 「え、えぇと……ドクオ君?」

自然と名前が口から出てきてしまい、
階級のことを思い返してどう詫びればいいのだろうかと考えていると、

(-A●) 「ふ……」

少尉は、ドクオ君は少しだけ頬を緩ませ、私の肩を軽く叩いて口を開いた。


('A●) 「少尉、な? 二等兵。後で説明するから、今は任務に集中してくれ」

(゚、゚;トソン 「はい……申し訳ありません」

('A●) 「心配するな、勝てるから。お前達を俺が勝たせてみせる」

もう一度肩を叩いて笑みを見せると、彼はそのまま行ってしまった。
「勝てる」と口にする少尉の言葉は重みが無く、とても信頼できるものではなかったが、
何故か先程まで感じていた緊張は薄まり、身が軽くなったような気がした。

"鬱田タケシ"の絶対的な自信が私の不安を、揉み消してしまったかのようだ。

装甲車に乗り込んでいくエクスト君の後を追い、私もまた戦場へ向かっていく。


若き少尉と、チューボー基地に所属する、家族とも呼べる30名の兵士達と共に。

31 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 21:36:04.86 ID:WjflNR8h0

******

私の所属する部隊を加えた中隊はパーソク軍拠点へ向かって進み続けた。


風が強くなり始め、砂塵が舞って視界を覆っていく。

さらさらと装甲車の装甲板が叩かれて、
車内と言う無機質な空間から、砂漠にいるのだと実感させられた。

音色というにはお粗末なそれに耳を傾ける兵士達は、目をギラつかせながら、
まだか、まだかと自分の出番に待ち焦がれているようだった。
私達新兵には戦闘前に平静を保つことなど出来なかった。


<_プー゚)フ「……」

装甲車に乗り込むまでやけにおしゃべりだったエクスト君も、今では黙りこくっていた。
彼もまた、作戦行動中の緊張感を味わっているのだろう。

/ ,' 3 「エクスト、そう気を重くするな。口にアロンアルファでも付けられたのか?」

だが、中でも荒巻さんのような実戦経験者は、私達新兵を宥める余裕を持っており、
こうしてエクスト君を宥めてくれている。

<_プー゚)フ「違うよ、荒巻じいちゃん。俺は……普通だよ」

/ ,' 3 「まぁまぁ、誰しも初めては緊張するモノじゃよ。
     童貞卒業の時にも緊張したじゃろ?」

33 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 21:38:27.04 ID:WjflNR8h0

<_;プー゚)フ「いや……まぁ……」

/ ,' 3 「それと同じじゃよ。慣れればどうということはない。
     戦場では生きるか死ぬかしかないが、
     そんな物は結果にしかすぎん。あまり考え込んではいかんよ。
     深く考えすぎ、いざ動けないようではその時に死ぬ」

……まぁ、その例えはどうかと思いますが。

一理あるな、とは賛同できる。

というか、エクスト君早いなぁ……。


<_プー゚)フ「爺ちゃんも初体験は緊張したのか?」

/ ,' 3 「あぁ、緊張のあまりアナルに入れてしまった。一生の不覚じゃわい。
     夜眠る時、いつも後悔する。何故ワシは肛門なんぞで卒業してしまったのかと……」

<_プー゚)フ「うわぁ……」

……そっちの意味ではないと思ったのですがね。

男の人って、いくつになってもバカ。

下品な話には呆れるが、強張っていた身が楽になり、気が少しは紛れたようだ。
ある程度の脱力感という物は必要だろう。

これがわざとだとしたら、年の功という他あるまい。

34 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 21:41:08.33 ID:WjflNR8h0

二人がその後30分くらい下ネタトークを続けているのに本気で呆れ、
手持無沙汰になり銃を点検し始めた頃には、装甲車は停止した。

('A●) 「降りろ、戦闘準備だ。命令があるまで待機」

運転席から少尉の声が聞こえると、古参兵達はスイッチが押されたように立ち上がり、
私達新兵は僅かに遅れながらもそれに従い、外へと出て行く。

('A●) 「……」

強風に吹きすさぶ砂に顔をしかめた少尉は、既に降車していた。
怪訝そうな顔をする彼は誰かを探しているようだ。


( ^^ω) 「ホマホマホマホマ、これだけの戦力。あの程度の拠点を落とすには過剰だったかね?」

兵士達を見渡し、笑い声で副官へ語るマルタスニム少佐を見つけると、少尉はそっと近づき、


('A●) 「少佐、お言葉ですが砂塵で視界が悪く、
     これでは敵の待ち伏せにあってしまうと対処が遅れてしまいます。
     最悪、全滅することもありえるでしょう」

('A●) 「偵察隊を出すか、一度後退しましょう。ここは敵拠点と距離が―――」

( ^^ω) 「視界が悪いのはあちらにとっても同じだよ。
      ならばこのまま一気に攻め込み、敵拠点を急襲すべきだ」

36 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 21:43:02.97 ID:WjflNR8h0

('A●) 「しかしそれでは罠が―――」

(#^^ω) 「鬱田少尉、君は『兵は神速を尊ぶ』という言葉を知っているかね?
       戦争には迅速な行動が求められるのだ。こうしている間にも時間は浪費され、
       それだけ敵に発見される可能性が上がっていく」

('A●) 「知ってはいますが―――」

(#^^ω) 「少尉、貴様は上官に意見するというのかね?
       尉官が佐官に意見するとはとんでもない者もいたものだ。
       貴様の浅知恵のせいで指揮に乱れが出るやもしれぬのだぞ?」

('A●) 「……申し訳ございません、自分の思い上がりでした。何卒、寛大な処置を」

まくし立てる少佐に、少尉は頭を下げると淡々と謝罪する。

いかにも事務的な口調ではあるが、これ以上会話する時間すらも惜しいとでもいうように、
マルタスニム少佐は踵を返して、副官に指示を出していく。

(゚、゚トソン (別に、少尉は間違ったことを言っているとは思えませんがね)

周囲を見渡すも、砂塵により遮られた視界。
進軍する上でそれはとてつもない不安要素だ。

遠方を見渡そうにも、はっきりとした風景が見えず、
人影が見えたとしても気付くことができないのではないか。

相手にとってもそれは同じだが、この大所帯が移動していれば発見することはそう難しくはないだろう。

37 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 21:45:19.50 ID:WjflNR8h0

……だが、一体これはどちらが正しいのだろうか?

(゚、゚トソン 「荒巻さん」

/ ,' 3 「ん?」

(゚、゚トソン 「先程の少尉と少佐の会話、どう思います?」

/ ,' 3 「少尉が悪いのう。上官に意見するなど、もっての他じゃ」

(゚、゚トソン 「ではやはり、少佐の言のほうが―――」

/ ,' 3 「いや、それとこれとはまた別じゃ」

(゚、゚;トソン 「え?」

/ ,' 3 「じゃがのう、仮にこれから行う作戦が"誤った判断によって行われた"と言われたら、
     ワシらはほれ、不安になるじゃろう? それでは任務に支障をきたす」

(゚、゚;トソン 「えぇ、まぁ……」

/ ,' 3 「じゃからワシはなんとも言えん。今のは少尉が悪い。
     どちらにも正しさがあるんじゃが、慎重ではあるの、少尉は」

(゚、゚トソン 「では少尉は間違ってはいないのですね?」

/ ,' 3 「なんじゃ、少尉が正しいと思いたいのか?」

(゚、゚;トソン 「いえ、別にそういうわけでは……」

39 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 21:47:38.75 ID:WjflNR8h0

/ ,' 3 「後で少尉に想いを言ってやるとよい。あんな小僧を信頼出来る部下がいるなど、
     あいつ自信も思ってはいないじゃろうからな。喜ぶぞ、きっと?」

(゚、゚;トソン 「そう、ですかね……」

話題の本人が視線を移した私の目に映る。


('A●) 「……」

眉間に皺を寄せた彼は装甲車の降ろされたハッチの腰を落ちつけ、


('A●)y━

懐からタバコを取り出してライターの蓋を開く。
火打石に指を添えるとそれを擦ろうとするが、

<_プー゚)フ白


すっと差し出された、エクスト君のライターが先にタバコに火をあてた。


(−A●)y━〜〜3 ふぅー

咥えたフィルターを吸い込み、酸素の送りこまれたタバコが発火する。
燃え上がった葉の煙が狼煙のように宙へと登っていき、吐きだされていく。

40 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 21:49:50.27 ID:WjflNR8h0

……私にとっても、彼は信頼に足る人物であるのだろうか?

それはまだわからないことではあったが、タバコを吹かしながら談笑する二人を見ていると、
少なくともエクスト君にとっては、ドクオ君は信頼できる存在なのだろう。

ドクオ君……いや、少尉はヘッドセットに突然耳を傾けると、
眼光を鋭くして私達を見渡した。

そして、

('A●)━~~ 「諸君、出番だ。俺達は前衛だ、AAと連携して進軍する」

タバコを咥えたまま配置を語る。

気楽な口調で言う彼だが、表情は砂漠の真っ只中だというのに氷のように冷たい。


('A●)━~~ 「視界が悪いから、うっかり踏みつぶされるんじゃないぞ?」


冗談めかした言葉で締めくくると、隊列を組むよう命じる。

そのアンバランスさがやけに恐ろしく、前を行く少尉の背中はやけに頼もしい。


紫煙をくゆらせ、M16A4の感触を確かめながら一歩ずつ踏み締めてゆく、
砂塵など意にも介さない、堂々とした小隊長の姿。

二機のAAが先行して、彼と私達は続いていく。

43 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 21:51:51.26 ID:WjflNR8h0

AAの両脇と後部に付き従い、その背後に装甲車と戦車、そして他の部隊が続いていった。

歩兵戦闘車4輌に装甲車8輌とAA二機、154名の兵士達の大行進。
敵が発見すれば、目をひん剥く程の規模である。
この砂塵がこちらに優位に働いているような気がしてきた。


デザート迷彩に身を包み、砂と一体化した私達をどうやって見つけるというのだろうか?
敵に優越感を感じ始めてきたが、油断せずに周囲を見渡し索敵する。

同じく、エクスト君や荒巻さんも警戒しているようだ。


しかし、敵の姿が見えることは無い。

そのまま30分近く歩き続けた。
敵の拠点まではあと3kmほど。
ここまで見てきた物は砂と丘くらいのものだった。

AAは、急に速度を上げて更に先へと進んでいく。

追従しようと走ろうとして足を振りあげたが、


('A●) 『各位、そのまま。少佐のお達しだ、AAは先行させる』


各無線兵(私を含む)に少尉の指示が届き、部隊はそのままのペースで進軍を続けた。

44 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 21:53:52.46 ID:WjflNR8h0

AAは私達より1km程先を行くも、二足歩行する鉄の巨体のシルエットは、
砂と塵に阻まれた視界でも見て取ることが出来る。


が、突如としてその鉄の獣は砂原へとダイブしていった。

軽い地響きが耳朶を揺らし、足が震えて行く。
目の前では砂が噴水の如く吹き上がって、AAは機体を黄とも茶ともつかない色で汚す。

……え、何が起きたの?


故障したのかな?


(#'A●) 「各位、戦闘準備! 敵がいるぞ!!」

気楽な思考を吹き飛ばす少尉の怒声。


訓練で備え付けられた戦闘のスイッチが押されると、M16のストックを肩に当て、
瞬時にセレクターをSAFEからAUTOに切り替え、何時でも発砲できる体勢に整えると、
銃身を左右に振るって敵を探した。

……敵!? 何処に!?

思考が遅れて追いつき、少尉の方をちらりと窺うと、
彼はM16に取りつけたホロサイトを覗きこんでAAの周辺180度を見渡していた。

47 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 21:56:37.57 ID:WjflNR8h0

フォアグリップでしっかりと固定された銃身は、ブレを最小限に抑えて正確に敵を撃ち抜くことだろう。

そのまま部隊が前進していくと、

('A●) 「ッ!」

少尉のM16が火を吹き、遅れて私はその方角を向く。
すると、10人の兵士の姿が見え、ワイヤーを持っていた彼らは次々と銃弾に倒れて行き、
残った者達がそれを放り投げて撤退していく。


……潜伏し、あのワイヤーでAAを転倒させたの!?

無事であったAAが逃走する彼らを捉え、機銃を放とうとするが、


(゚、゚;トソン 「ッ!?」

AAの胴体は火球に呑み込まれ、ロケット弾が2発3発と殺到し、
続けざまに大量の爆薬を浴びた機体は、炎を抱きながらあまりにも呆気なく転倒していった。

破片が散らばっていき、またしてもAAが砂原に散っていく。

/ ,' 3 「9時の方角! 丘の斜面じゃ!!」

後方の窪みに伏せ狙撃銃を構えていた荒巻さんが叫ぶ。
砂漠での戦闘用に迷彩を施されたレミントンM700。
備えられた光学照準器を覗きこんだ彼の言う通り、9時を向く。

50 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 21:58:41.38 ID:WjflNR8h0

砂塵のせいで発見は難しかったが、微かにロケットランチャーらしき物を持つ人影を発見。

それよりも早く、丘から逃げ去ろうとした人影の一つが倒れる。
間を置かずしてもう一人が倒れるが、ぶす、と音がたった。

(゚、゚トソン 「?」

音が気になり首を振ってみると、すぐ傍に立っていた味方が、
私の肩にもたれかかってきていて、
顔に穿たれた黄と赤の混じり合った液体が迷彩服を汚した。


表情は銃を構えていた時とは変わらぬまま。


脳を撃ち抜かれた彼は苦しむ間もなくこの世を去ったがため、
死んだと実感することが出来ず、未だに引き金に指をかけたままだった。


(゚、゚;トソン 「あ……」


あまりにも前触れのない死が突きつけられ、
「お前もこうなるぞ」と半開きになった彼の口が語る。

私には叫ぶことも出来ず、ただ死体を振り払い、身を低くして銃を構えるだけだ。

51 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 22:01:04.80 ID:WjflNR8h0

(#'A●) 『〜〜〜〜!!』

少尉が何事かをヘッドセットに向けて叫んでいる。


銃声が響く。

それも、大量に。


その中に砲声が混じり、微かに戦車のエンジン音まで聞こえてきた。


何時の間にか、私達は囲まれてしまっていたようだ。

迷彩の施された戦車や兵士達が、丘や砂の中から現れ、
攻撃の音と共にこちらに進んでくる。


次々に味方が倒れて血をぶちまけた。
応戦するも視界が悪く、なかなか弾が当たらない。

銃声がやけに虚しい。

だが、砂塵は敵にとっても厄介なようで、思ったよりこちら側の損害は少ない。


でも、いずれは私も――――。

52 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 22:03:25.11 ID:WjflNR8h0

(#'A●) 「後退しろ!!」


―――引き金に指をかけたまま、あの死体の仲間になる。


少尉の張り上げられた声が、耳を通り過ぎて行った。

指示どおり後ろへと下がっていこうとするも、
私の行動は明らかにみんなより遅れていた。

慌てて走る。

頑丈なブーツが砂を蹴り、少尉達の後に追いすがる。


私達の背後にいた部隊が見えてくるが、彼らもまた強烈な銃火を浴びせられているようだった。
歩兵戦闘車両の機関銃が火を噴いていたが、その傍にいた兵士達の多くは倒れている。


部隊を見渡してみると既に何輌もの車両が破壊されているようで、
戦力的に有利であったニューソクが、叩きのめされていた。

これだけの的の数だ。

さぞや狙い易いことだろう。

53 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 22:05:26.23 ID:WjflNR8h0

(゚、゚;トソン 「くっ……」

冷たい刃が喉元に押し当てられた。

そんな感じがした。

先制攻撃によって混乱した部隊に、追い打ちをかける敵。
私達は追い立てられ、砂嵐により成す術も無くやられていく。

あぁ……何て甘い考えだったんだ。


砂塵によって視界を奪われるのは、相手も同じことだと?
そんなことを考えていたのはどこの馬鹿だと言うのか。

今、その愚かしさを身を以って、命を以って私達が痛感している。


(#'A●) 『――――ッ!!』

走り続け、戦闘による緊張もあって息も絶え絶えになった私の目に、少尉が映った。

彼はまた何かを叫んでいる。

冷徹な目に、怒りの炎を宿して。

銃声にも負けぬ怒声を上げながら彼もまた銃声を響かせた。
M16の銃口が向く先には敵がおり、倒れていく。

55 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 22:07:26.80 ID:WjflNR8h0

この砂嵐の中でよくもそこまで正確な射撃が出来るものだ。

私も負けじと弾丸を放つと、まぐれだろうがロケットランチャーを構えた人影にあたった。
血飛沫のようなものが噴きだしたから、きっと人間だったのだろう。
今や死体になっていることだろうが。

だが、これでようやく初めての戦果をあげることが出来た。

おめでとう、トソン二等兵。
君は祖国を護る為に戦い、そしてこの瞬間から人殺しの仲間入りを果たした。
祖国の為にももっと戦果をあげよう。

覚悟を決め、一呼吸を置く。

みんなを追う足を止め、その場で片膝をついて銃を構えた。


索敵。―――――M16を振るう。

発見。―――――視界に人影が入り込む。

照準。―――――照準機の十字線に敵を合わせる。

攻撃。―――――ファイア。発砲音が耳を打つ。

排除。―――――標的が倒れ込む。血飛沫。


その工程を何度もくりかえしていく。

56 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 22:10:42.92 ID:WjflNR8h0

現在、敵兵を8名殺害。
9人目を発見して、私の体温に温められた引き金を引いた。

カチン。

弾丸は発射されずもう一度引くが、カチンと金属音が響くのみ。
弾薬が切れたのだ。

すぐさまマガジンを取り出し、腰のポーチから弾薬の詰まったマガジンを込めていくが、

(゚、゚トソン 「……?」

衝撃が右肩を抜けて行き、思わず仰向けに倒れ込んでしまう。
M16は目の前に放りだされ、拾おうとして手を伸ばすが激痛が伴った。

(゚、゚;トソン 「あ、あぁ……」

左手で肩に触れた。

掌にはべたつく赤い液体がこびりついていて、鉄の臭いが鼻腔を満たしていく。
迷彩服の右肩は今や真っ赤に染まりあがり、そこには灼熱があった。
痛みも感じるが、とにかく熱い。

熱で痛覚が鈍ってしまったのではないのだろうか?

身を起こして血まみれの左手で銃を取ろうとすると、今度は両足に衝撃。
そして、肉を穿つ生々しい音。

銃を手に取ることは出来ず、再び私は倒れて行く。

59 名前: ◆K8iifs2jk6 投稿日:2011/12/25(日) 22:12:47.42 ID:WjflNR8h0

空が見えそうだったが、砂によって視界は阻まれる。

(゚、゚トソン 「……」

不思議と、晴れやかな気分だった。

敵を倒さねば、倒さねばと頭が一杯になっていたが、今や何もない。
死の際というのは、こういうモノなのだろうか?

右を見れば死体。左を見ても死体。

きっと、彼らも同じ感覚を得たに違いない。

だが、死体達の中には私のように傷を負い、まだ息のある者もいた。
「今、どんな気持ちなのですか?」と尋ねたくなる。
死を受け入れている自分がいるが、一人で逝くのは寂しく、
どうせならこの感覚を共有しているのか確かめてみたかった。


……誰かと同じ気持ちになれているというだけで、死の恐怖が和らぎそうだったから。


『撤退だ! 撤退しろ!! 全部隊撤退!!』

遅すぎる撤退命令がマルタスニムから下され、熱い雫が頬をつたっていく。


潤んだ視界に映ったのは、外国人――――黒い肌をしたパーソク兵の顔だった。


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